キツネの女王

わんころ餅

文字の大きさ
上 下
15 / 108

優秀な子がおったのじゃ

しおりを挟む
 書庫から戻ったふくは風の魔法で三つの丸太を切り刻み、火の魔法で木材を燃やし、灰へと変えていく。
 積もった灰を土の魔法で耕し、見た目は畑へと変わっていく。
 ふくは土を手に取り、首を横に振る。

「ぼるふ!仕留めた獲物を持ってくるのじゃ!」

 ヴォルフはふくに言われるがまま周辺でネズミ族を脅かしていた魔獣を持ってくる。
 死体の損傷はほとんどなく、喉笛を一撃で嚙み切ったことにより葬っているのが分かる。
 そして腐らないように程よく凍らせてあった。

「もっといる?」

「……この大きさでもよいじゃろう。氷の魔法を解いてくれんか?」

「良いけど、魔獣を植えても魔獣は生えてはこないよ?」

「そんなことくらい知っておるわ!こいつを燃やして油と灰で肥料の代わりにするのじゃ。荒っぽいがこのような方法しかないのじゃ。」

 ふくの考えはヴォルフやネズミ族には殆ど理解されず、説明するのも面倒だと考え、実践する。
 結局ネズミ族が生き残るにはふくの真似をし、実行するしかないということである。

「『燃えよ』」

 一言詠唱するだけで魔獣の死体はメラメラと燃え上がる。どうやら火力が足りず、煙が多く、中途半端な火力と取り除かなかった血や内臓、老廃物があたりに刺激臭をまき散らす。
 死体は血抜きなどの工程を経れば食用肉になるのだが、雑だと臭いがひどいものだとふくは感じる。
 ふくはもう少し魔力を込めようと力を入れようとすると、ヴォルフが近くに来る。

「ふく。風の魔法も使えるんだから複合魔法にしてしまえばいいんじゃないの?」

「……【樹木】だけじゃなく、【灼熱】まで使えるのですか……!?」

「俺のつがいだよ?これくらいできるさ!」

「ぼるふ、わしはそこまでやったことはないのじゃが……。まあ良い、やってみるとしようかの」

 ふくは今発動している【火】の魔法を破棄し、ヴォルフの言う通り火と風を組み合わせていくことにしてみたが、どうにも難しい。
 お互いが相乗する相性とはいえ、魔法を組み合わせるのは非常に難しい。
 【樹木】を完成させることができたふくはそこからヒントが得られないか考えてみる。

(そういえば風の魔力と土の魔力、火の魔力を組み合わせて作ったはずじゃ。元素魔法の物によって組み合わせる数は決まっておると見た方が良いじゃろうな……)

 ふくは火の魔力と風の魔力を掌に出し、引っ付けてみたが非常に不安定で使えるようなものではなかった。
 ただ風を起こすだけでは足りないようであり、科学知識が発展していないふくにとっては非常に困難なものであった。
 すると一人のネズミ族の女の子が歩いてくる。

「ふ、ふく……様。風の魔法は空気にある『酸素』というものを取り出すことができます……。それはとても燃えやすい性質があるので、ご参考になれば……。」

「む、お主はこの空気の中身を知っていると申すか?」

 そう訊ねるとネズミ族の女の子は恐る恐る頷く。
 それを見たふくは嬉しそうな笑みを浮かべ、女の子の頭をくしゃくしゃとなでる。
 ふくの表情を見た女の子は曇った空が晴れるような笑顔に切り替わり、非常に可愛らしいものだった。

「愛いやつよのう。お主の名は何というのじゃ?」

「わ、わたしはまだ成人してないので、名前は持っていないのです……」

「そういうしきたりなのかの?」

「い、いえ……。その……ヴォルフ様の決められたことですので……」

 ふくはヴォルフのことをキッと睨みつける。
 話を聞かずに上の空だったヴォルフは突然睨みつけられ、慌てた表情をする。

「なぜ成人せぬと名をやらんのじゃ?」

「だ、だってそれまで生きているのが珍しいし……。名前を付けても覚えられないし、すぐに死んじゃうし……」

 ヴォルフの言っていることはもっともなのだろう。
 チュータローは今日まで生き延びているということから名前を与えられたがチュータロー以外のネズミ族で名前を与えられた者はいないと思えた。
 ふくは口に手を当てて少し考えると女の子の前に座る。

「お主は小麦と名乗るがよい」
 
「コムギ……?ですか?」

「そうじゃ、麦は強い作物での、お主のように芯を持った子に丁度良い名じゃ」

 コムギはふくの前に跪き、首を垂れる。
 あまりにもかしこまった様子であったため、ふくは辞めさせようとしたが、コムギの意思は固く、辞めさせることができなかった。

「ふく様、わたくしコムギは一生あなたにお仕えすることを望みます。この願いを聞き入れてくれませんか?」

「……一生なんて言うでない。時々でよいのじゃ。ではコムギよお前に一つ命令をする。このネズミ族の長となり、名を与え、栄えさせるのじゃ。それが叶うよう、わしはお前に知恵を貸そう。これでよいな?」

「あ、ありがたきお言葉です……!えっと……その前に、空気のお話でしたね。」

 ふくは思い出したかのようにポンと手を打ち、コムギの話を聞く体勢になる。
 そんなことをしなくても例の書庫に行けば何でも知ることができるのだが、国を統べるものとして民の話を聞くことが非常に重要であると知っていたため、書庫に行かず、コムギの話を聞くことにしたのだった。
 嬉しそうに説明するコムギを見てふくは癒されるが、内容がちんぷんかんぷんだったのは内緒である。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

後悔はなんだった?

木嶋うめ香
恋愛
目が覚めたら私は、妙な懐かしさを感じる部屋にいた。 「お嬢様、目を覚まされたのですねっ!」 怠い体を起こそうとしたのに力が上手く入らない。 何とか顔を動かそうとした瞬間、大きな声が部屋に響いた。 お嬢様? 私がそう呼ばれていたのは、遥か昔の筈。 結婚前、スフィール侯爵令嬢と呼ばれていた頃だ。 私はスフィール侯爵の長女として生まれ、亡くなった兄の代わりに婿をとりスフィール侯爵夫人となった。 その筈なのにどうしてあなたは私をお嬢様と呼ぶの? 疑問に感じながら、声の主を見ればそれは記憶よりもだいぶ若い侍女だった。 主人公三歳から始まりますので、恋愛話になるまで少し時間があります。

私は、忠告を致しましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。  ロマーヌ様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ?

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

プリンセスクロッサー勇と王王姫纏いて魔王軍に挑む

兵郎桜花
ファンタジー
勇者になってもてたい少年イサミは王城を救ったことをきっかけに伝説の勇者と言われ姫とまぐわう運命を辿ると言われ魔王軍と戦うことになる。姫アステリアと隣国の王女クリム、幼馴染貴族のリンネや騎士学校の先輩エルハと婚約し彼女達王女の力を鎧として纏う。王になりたい少年王我は世界を支配することでよりよい世界を作ろうとする。そんな時殺戮を望む壊羅と戦うことになる。

ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ
ファンタジー
とある乙女ゲームの世界で目覚めたのは、原作を知らない一人の少女。 産まれた時点で本来あるべき道筋を外れてしまっていた彼女は、知らない世界でどう生き抜くのか。 母の愛情、突然の別れ、事故からの死亡扱いで目覚めた場所はゴミ捨て場、 捨てる神あれば拾う神あり? 人の温かさに触れて成長する少女に再び訪れる試練。 そして、本来のヒロインが現れない世界ではどんな未来が訪れるのか。 主人公が7歳になる頃までは平和、ホノボノが続きます。 ダークファンタジーになる予定でしたが、主人公ヴィオの天真爛漫キャラに ダーク要素は少なめとなっております。 同作品を『小説を読もう』『カクヨム』でも配信中。カクヨム先行となっております。 追いつくまで しばらくの間 0時、12時の一日2話更新予定 作者 非常に豆腐マインドですので、悪意あるコメントは削除しますので悪しからず。

処理中です...