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優秀な子がおったのじゃ
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書庫から戻ったふくは風の魔法で三つの丸太を切り刻み、火の魔法で木材を燃やし、灰へと変えていく。
積もった灰を土の魔法で耕し、見た目は畑へと変わっていく。
ふくは土を手に取り、首を横に振る。
「ぼるふ!仕留めた獲物を持ってくるのじゃ!」
ヴォルフはふくに言われるがまま周辺でネズミ族を脅かしていた魔獣を持ってくる。
死体の損傷はほとんどなく、喉笛を一撃で嚙み切ったことにより葬っているのが分かる。
そして腐らないように程よく凍らせてあった。
「もっといる?」
「……この大きさでもよいじゃろう。氷の魔法を解いてくれんか?」
「良いけど、魔獣を植えても魔獣は生えてはこないよ?」
「そんなことくらい知っておるわ!こいつを燃やして油と灰で肥料の代わりにするのじゃ。荒っぽいがこのような方法しかないのじゃ。」
ふくの考えはヴォルフやネズミ族には殆ど理解されず、説明するのも面倒だと考え、実践する。
結局ネズミ族が生き残るにはふくの真似をし、実行するしかないということである。
「『燃えよ』」
一言詠唱するだけで魔獣の死体はメラメラと燃え上がる。どうやら火力が足りず、煙が多く、中途半端な火力と取り除かなかった血や内臓、老廃物があたりに刺激臭をまき散らす。
死体は血抜きなどの工程を経れば食用肉になるのだが、雑だと臭いがひどいものだとふくは感じる。
ふくはもう少し魔力を込めようと力を入れようとすると、ヴォルフが近くに来る。
「ふく。風の魔法も使えるんだから複合魔法にしてしまえばいいんじゃないの?」
「……【樹木】だけじゃなく、【灼熱】まで使えるのですか……!?」
「俺のつがいだよ?これくらいできるさ!」
「ぼるふ、わしはそこまでやったことはないのじゃが……。まあ良い、やってみるとしようかの」
ふくは今発動している【火】の魔法を破棄し、ヴォルフの言う通り火と風を組み合わせていくことにしてみたが、どうにも難しい。
お互いが相乗する相性とはいえ、魔法を組み合わせるのは非常に難しい。
【樹木】を完成させることができたふくはそこからヒントが得られないか考えてみる。
(そういえば風の魔力と土の魔力、火の魔力を組み合わせて作ったはずじゃ。元素魔法の物によって組み合わせる数は決まっておると見た方が良いじゃろうな……)
ふくは火の魔力と風の魔力を掌に出し、引っ付けてみたが非常に不安定で使えるようなものではなかった。
ただ風を起こすだけでは足りないようであり、科学知識が発展していないふくにとっては非常に困難なものであった。
すると一人のネズミ族の女の子が歩いてくる。
「ふ、ふく……様。風の魔法は空気にある『酸素』というものを取り出すことができます……。それはとても燃えやすい性質があるので、ご参考になれば……。」
「む、お主はこの空気の中身を知っていると申すか?」
そう訊ねるとネズミ族の女の子は恐る恐る頷く。
それを見たふくは嬉しそうな笑みを浮かべ、女の子の頭をくしゃくしゃとなでる。
ふくの表情を見た女の子は曇った空が晴れるような笑顔に切り替わり、非常に可愛らしいものだった。
「愛いやつよのう。お主の名は何というのじゃ?」
「わ、わたしはまだ成人してないので、名前は持っていないのです……」
「そういうしきたりなのかの?」
「い、いえ……。その……ヴォルフ様の決められたことですので……」
ふくはヴォルフのことをキッと睨みつける。
話を聞かずに上の空だったヴォルフは突然睨みつけられ、慌てた表情をする。
「なぜ成人せぬと名をやらんのじゃ?」
「だ、だってそれまで生きているのが珍しいし……。名前を付けても覚えられないし、すぐに死んじゃうし……」
ヴォルフの言っていることはもっともなのだろう。
チュータローは今日まで生き延びているということから名前を与えられたがチュータロー以外のネズミ族で名前を与えられた者はいないと思えた。
ふくは口に手を当てて少し考えると女の子の前に座る。
「お主は小麦と名乗るがよい」
「コムギ……?ですか?」
「そうじゃ、麦は強い作物での、お主のように芯を持った子に丁度良い名じゃ」
コムギはふくの前に跪き、首を垂れる。
あまりにもかしこまった様子であったため、ふくは辞めさせようとしたが、コムギの意思は固く、辞めさせることができなかった。
「ふく様、わたくしコムギは一生あなたにお仕えすることを望みます。この願いを聞き入れてくれませんか?」
「……一生なんて言うでない。時々でよいのじゃ。ではコムギよお前に一つ命令をする。このネズミ族の長となり、名を与え、栄えさせるのじゃ。それが叶うよう、わしはお前に知恵を貸そう。これでよいな?」
「あ、ありがたきお言葉です……!えっと……その前に、空気のお話でしたね。」
ふくは思い出したかのようにポンと手を打ち、コムギの話を聞く体勢になる。
そんなことをしなくても例の書庫に行けば何でも知ることができるのだが、国を統べるものとして民の話を聞くことが非常に重要であると知っていたため、書庫に行かず、コムギの話を聞くことにしたのだった。
嬉しそうに説明するコムギを見てふくは癒されるが、内容がちんぷんかんぷんだったのは内緒である。
積もった灰を土の魔法で耕し、見た目は畑へと変わっていく。
ふくは土を手に取り、首を横に振る。
「ぼるふ!仕留めた獲物を持ってくるのじゃ!」
ヴォルフはふくに言われるがまま周辺でネズミ族を脅かしていた魔獣を持ってくる。
死体の損傷はほとんどなく、喉笛を一撃で嚙み切ったことにより葬っているのが分かる。
そして腐らないように程よく凍らせてあった。
「もっといる?」
「……この大きさでもよいじゃろう。氷の魔法を解いてくれんか?」
「良いけど、魔獣を植えても魔獣は生えてはこないよ?」
「そんなことくらい知っておるわ!こいつを燃やして油と灰で肥料の代わりにするのじゃ。荒っぽいがこのような方法しかないのじゃ。」
ふくの考えはヴォルフやネズミ族には殆ど理解されず、説明するのも面倒だと考え、実践する。
結局ネズミ族が生き残るにはふくの真似をし、実行するしかないということである。
「『燃えよ』」
一言詠唱するだけで魔獣の死体はメラメラと燃え上がる。どうやら火力が足りず、煙が多く、中途半端な火力と取り除かなかった血や内臓、老廃物があたりに刺激臭をまき散らす。
死体は血抜きなどの工程を経れば食用肉になるのだが、雑だと臭いがひどいものだとふくは感じる。
ふくはもう少し魔力を込めようと力を入れようとすると、ヴォルフが近くに来る。
「ふく。風の魔法も使えるんだから複合魔法にしてしまえばいいんじゃないの?」
「……【樹木】だけじゃなく、【灼熱】まで使えるのですか……!?」
「俺のつがいだよ?これくらいできるさ!」
「ぼるふ、わしはそこまでやったことはないのじゃが……。まあ良い、やってみるとしようかの」
ふくは今発動している【火】の魔法を破棄し、ヴォルフの言う通り火と風を組み合わせていくことにしてみたが、どうにも難しい。
お互いが相乗する相性とはいえ、魔法を組み合わせるのは非常に難しい。
【樹木】を完成させることができたふくはそこからヒントが得られないか考えてみる。
(そういえば風の魔力と土の魔力、火の魔力を組み合わせて作ったはずじゃ。元素魔法の物によって組み合わせる数は決まっておると見た方が良いじゃろうな……)
ふくは火の魔力と風の魔力を掌に出し、引っ付けてみたが非常に不安定で使えるようなものではなかった。
ただ風を起こすだけでは足りないようであり、科学知識が発展していないふくにとっては非常に困難なものであった。
すると一人のネズミ族の女の子が歩いてくる。
「ふ、ふく……様。風の魔法は空気にある『酸素』というものを取り出すことができます……。それはとても燃えやすい性質があるので、ご参考になれば……。」
「む、お主はこの空気の中身を知っていると申すか?」
そう訊ねるとネズミ族の女の子は恐る恐る頷く。
それを見たふくは嬉しそうな笑みを浮かべ、女の子の頭をくしゃくしゃとなでる。
ふくの表情を見た女の子は曇った空が晴れるような笑顔に切り替わり、非常に可愛らしいものだった。
「愛いやつよのう。お主の名は何というのじゃ?」
「わ、わたしはまだ成人してないので、名前は持っていないのです……」
「そういうしきたりなのかの?」
「い、いえ……。その……ヴォルフ様の決められたことですので……」
ふくはヴォルフのことをキッと睨みつける。
話を聞かずに上の空だったヴォルフは突然睨みつけられ、慌てた表情をする。
「なぜ成人せぬと名をやらんのじゃ?」
「だ、だってそれまで生きているのが珍しいし……。名前を付けても覚えられないし、すぐに死んじゃうし……」
ヴォルフの言っていることはもっともなのだろう。
チュータローは今日まで生き延びているということから名前を与えられたがチュータロー以外のネズミ族で名前を与えられた者はいないと思えた。
ふくは口に手を当てて少し考えると女の子の前に座る。
「お主は小麦と名乗るがよい」
「コムギ……?ですか?」
「そうじゃ、麦は強い作物での、お主のように芯を持った子に丁度良い名じゃ」
コムギはふくの前に跪き、首を垂れる。
あまりにもかしこまった様子であったため、ふくは辞めさせようとしたが、コムギの意思は固く、辞めさせることができなかった。
「ふく様、わたくしコムギは一生あなたにお仕えすることを望みます。この願いを聞き入れてくれませんか?」
「……一生なんて言うでない。時々でよいのじゃ。ではコムギよお前に一つ命令をする。このネズミ族の長となり、名を与え、栄えさせるのじゃ。それが叶うよう、わしはお前に知恵を貸そう。これでよいな?」
「あ、ありがたきお言葉です……!えっと……その前に、空気のお話でしたね。」
ふくは思い出したかのようにポンと手を打ち、コムギの話を聞く体勢になる。
そんなことをしなくても例の書庫に行けば何でも知ることができるのだが、国を統べるものとして民の話を聞くことが非常に重要であると知っていたため、書庫に行かず、コムギの話を聞くことにしたのだった。
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