キツネの女王

わんころ餅

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夜になったのじゃ

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 結局干し肉にしていた肉以外を全て食べきったふくとヴォルフは満足そうに巣の寝床に転がる。
 硬い地面の上で眠ることはさすがに難しく、上半身をヴォルフに預けていた。
 満足している中、ふくは思い出したかのように口を開く。

「おまえはわしの世界の何が知りたいのじゃ?」

「うーん……ふくが今までしてきたことを知りたい……かな?どうせ地上の事情なんて知っても闘いの世の中だろうし」

「そうじゃの。わしの居た国『日本』でも争いが絶えんかったの。わしは天皇になった息子を使って政治を行っておったのじゃ。そこでわしのしておることに不満を持った者がわしを島流しの刑にしたんじゃ。それで島に行く途中でここへ迷い込んだというわけじゃ」

「ふぅん。ふくは国民のこと見てきたの?」

「そりゃあ当然じゃろう。国民のことを蔑ろにすると内乱が起こるからな。せっかく地位が高くなったのに失脚しては意味がないだろう?」

「逆らうやつは殺さないの?」

 ヴォルフの発言にふくはピクリと体を震わせ、考え込む。
 考えていると村の門番たちの顔が思い浮かぶ。
 
「もしや、お前は今までに民を殺したことがあるのか?」

 自信満々にヴォルフは頷くと、ふくは大きなため息を吐き、右手で目を覆う。
 なぜがっかりしているのか理解ができずにキョロキョロしていると、ふくはヴォルフの尻を叩く。

「お前のそのやり方が村のニンゲンを怒らせたのじゃろうて。これだけ拗れてしまうとお前が謝ったところで、その首を差し出せと言われるじゃろう」

「じゃ、じゃあどうすればいいのさ!?ふつうは神に逆らわないでしょ……」

 ふくは頭ごなしに否定をすることもできるが、それでは解決にならないと多い、腕を組んで考え込む。
 何かを思いついたのか、ヴォルフの顔を見ると難しそうに考えている姿が目に入る。
 そんな姿がふくの母性本能を刺激されたのかヴォルフの上に跨る。
 
「ぼるふよ。お前はわしに調伏されるのじゃ。それなら村の者達も納得するじゃろうて」

「調伏って何?」

「悪しき者を倒し、その者を改心させることじゃ」

「ふくにできるの?」

「演じるだけでよいのじゃ。何もわしらで争いなんかせんでもよい。まぁ、それはまた今度にしようかの。昨日の今日じゃ警戒されておるじゃろうし……。わしはまだまだこの世界を歩いて回りたいからの」
 
「そっか。ゆっくり一緒に旅ができて嬉しいよ!」

 ふくと一緒に過ごせると知り、嬉しくなり尻尾を振っていると、すうっと周りが暗闇に包まれる。
 ふくはヴォルフから降り、先ほどと同じように上半身をヴォルフに預け、寝転がる。
 
「さて、そろそろ寝るとしようかの。おやすみなのじゃ」

「おやすみ、ふく」

 しばらくすると寝息を立て始めたふくを見て、ふふんっと笑う。
 彼は基本的に眠ることがない。
 それは神であることが由来しているが、使い切ることがない程の魔力量を誇っており、睡眠時間は魔力で変換していた。
 今日初めて、ヴォルフは眠りに就いた。


 ふくは目を覚ますとヴォルフの四つ足にしっかりとホールドされた状態で、お互いが向き合っている状態であった。
 すやすやと眠るヴォルフを見て、大量の体毛に覆われた胸に顔をうずめ、大きく息を吸い込む。

「こやつ、風呂にも入っておらんのに日干しされた布団のようなニオイがするの!?神にもなれば風呂はいらないものなのか……。む?……ふふっ。神といえど立派なものをもっておるよの。……そろそろ起きるかのう、腹も減ったし……よいこらせっと」

 まだ暗闇に包まれている洞窟は肌寒く、木の棒を集め、焚火をあげる。
 暖をとっていると寝起きでしょぼしょぼ顔のヴォルフがふくの隣に座る。

「目を覚ましたか。お前も干し肉を食べるかの?」

「うん、食べる~……」

 狐の獣人になったことで顎が強くなり、牙もついたため、干し肉の硬さなどものともしなかった。
 ヴォルフにとっては一口サイズの為ぺろりと平らげる。
 そのおかげで保存食は全て無くなり、二人は顔を合わせる。

「まあ、食べればなくなるわの。さてと……ぼるふよ、そろそろ次の場所へ向かうとしよう」

「また背中に乗る?」

「何を言っておる。この世界を練り歩くのにお前の背中に乗っては意味がないじゃろう。わしの隣で歩いて魔獣が出たら仕留めるのじゃ」

「村に行かないの?」

 ヴォルフはそう訊ねるが、表情は不安で一杯な様子であった。
 ふくはヴォルフの頭をくしゃくしゃと撫でるとニコリと笑う。

「昨日も言ったではないか。今は別に村に行く予定などありゃあせん。お前が魔法を教えてくれるのじゃから別に頼る必要もないじゃろうて。それにわしは今、探検をする方が一番興味あるのじゃ。じゃからそんな不安そうな顔をするでない」

「ホントに!?よかったぁ~。もうふくと一緒にいられなくなるかと思ってたけど、まだまだ一緒に居られて嬉しいっ!ふく大好きっ!」

「な、なんじゃ!?いきなり……気色悪いの」

「え、酷い……!?」

 ふくは準備をして移動しようとしたが、そもそも準備するものがないことに気が付き、巣の外へ出る。
 じわじわと周囲が明るくなりはじめ、背伸びをするとヴォルフもそれに倣って前脚を突き出して体を伸ばす。
 手ごろな木の枝を手に取り、ビシッと方角を指す。

「ぼるふよ、あっちの方角を目指して歩くのじゃ!」

「うん!行こう!」

 一人と一匹は巣を手放し、歩き始めた。
 ふくたちはまだ知らないが、一匹の異形の怪物が地底世界に現れたのだった。
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