7 / 108
詠唱とは……
しおりを挟む
魔獣の肉を食べ終え、ふくはスヤスヤとヴォルフの背中で眠っていた。
そんな彼女を起こさないようにゆっくりと巣へと戻る。
到着すると空気が変わったのが分かり、ふくは目を覚ます。
「巣へ戻ったのか……?」
「うん、眠れた?」
「おかげさまでの。……やはり、生肉はわしに合わん。調理法を考えたいものじゃな。」
「また肉でも獲ってこようか?」
「そうじゃの、知恵を貸してもらえなければ、やってみるしかないからの。ぼるふよ、獲ってくるのじゃ。」
ヴォルフは姿を消し、一人になると巣の整理をする。
とはいえ、生活するのに最低限のものしか置いておらず、食事をした形跡もない。
本当に眠るための巣である。
寝床と思われるところに座り、自分の胸を持ち上げる。
「あやつらは乳が大きいと言っておったの……。やはり人間の頃に大きいとこの姿になっても大きいままじゃの……。バカにされてしまうから嫌いじゃ……。」
ふくのいた時代では巨乳は侮辱の対象にされやすく、胸を「さらし」などで巻き付けて小さく見せるということまでされていた。
要は栄養が頭にいっていないや乳牛のようでのんびり屋であるとバカにされがちであるからだ。
エビデンスこそないが、皮肉としてそのような価値観に囲まれていた為、ふくは自身の胸の大きさに不満を抱えていた。
そのような事をしているとヴォルフが獲物を咥えて戻ってくる。
「戻ってきたよー。どうしたの胸なんか触って?」
「む、帰ってきたのか。ぼるふよ、お前はわしの胸は大きくてはしたないと思うか?」
そう訊ねられたヴォルフはふくの胸をジィっと見る。
いろいろな角度から嘗め回すように眺めていると、だんだん恥ずかしくなってきたのかプルプルと震え始める。
そんなふくに気づかずに無言で見続けていると、谷間にマズルを突っ込む。
「な……何をするんじゃっ!?助平犬っ!!」
ふくの怒声と共に平手打ちがヴォルフの右頬に炸裂した。
胸を隠し、牙をむき出しにしてヴォルフに威嚇する。
ヴォルフは目や眉が垂れ、到底神とは思えないだらしない顔になっていた。
「いやぁ~……。これが乳袋というものかぁ~……。すごくいい感触だったよ!」
「……お前は……乳が大きくても馬鹿にせんのか……?」
「なんで?頭の良し悪しに大きさなんて関係ないと思うけど?オレはふくの乳は柔らかくて大きいから好きだよ?」
「……変態犬。」
ふくはそう言って背を向ける。
怒っているような彼女だったが、尻尾が立ち、耳が垂れ下がっているので嬉しくて照れているのだとわかり、ヴォルフは「ふふんっ♪」と笑う。
ふくは思い出したかのようにヴォルフに振り返る。
「肉は獲ってきたのかの?」
「もちろん。巣には入らないから外に置いているけど。」
「うむ。それでは小さく切るとしよう。」
巣の外に出ると昨日ふくが食べたであろう魔獣が転がっていた。
その魔獣を見て一度ニオイを嗅いでみるが、やはりケモノ臭い。
見た目はシカのような感じではあるのだが、禍々しい角をしており、体毛は緑色をしてあまり美味しくなさそうである。
いつまでもニオイを気にしてはいられないため、肉の切断に集中する。
「詠唱が面倒じゃの。理解さえしておればよいのじゃろう……?『押し固めた大気の刃よ、肉を切り刻め。』……まあ、だめじゃろうて。」
ふくはダメもとで詠唱を簡単にしたが、特に変化は起きず、発動ができていないと認識した。
正式な詠唱を行うため、精神統一をしようとすると、ヴォルフの鼻息が荒くなる。
「ふく?魔法は発動できているからもう切らなくていいよ?」
「何を言っておる?発動すらせんかったのじゃよ?ほれ、切れて……おるの……。あの時みたいに目に見えるほどの刃ではなかったのじゃが……。」
「ああ、あれはね魔力の込めすぎだよ。寧ろ今のが丁度いい切れ味だから、安定して撃てるようになると戦いにも使えるんじゃないかな。」
「戦いには使うことはできないじゃろう。詠唱が長すぎて、近くに寄られたら何もできんのじゃ。せめて、こう手の動きと共に『風よ。』で発動できればの。」
人差し指を立てて横一文字に振り払うと風の刃がヴォルフに直撃した。
「ぼるふ!?大丈夫か!?」
「ち……ちびった……。」
「汚いの。」
「し、しょうがないじゃん!いきなり飛んでくるんだから!しかもガードしないと死ぬヤツだったんだから……。」
「そ、それはすまない。(がーどとはなんじゃ……?)……しかし、なぜ今ので発動できたのじゃ……?」
「風を使うことと、頭の中で目的を理解していたからじゃない?」
ふくはヴォルフの答えを聴き口に手を当てて考える。
魔法は目的とやり方を正しく伝えると使用できる。
それを明確化するために詠唱というものが必要となる。
詠唱はある程度簡単にすることができるのは分かったが、やはり目的とやり方を明確化しているため発動ができる。
今回は風しか呼んでおらず、頭の中でこうなればいいとしか思っていなかった。
そしてふくは一つの答えにたどり着く。
「ぼるふの言っていた『いめーじ』というものではないか?」
「うん。オレは詠唱なんかいらないからね。イメージでモノを凍らせているからね。」
そう、最初からヴォルフは無詠唱で魔法を発動しており、最初の説明でも「イメージ」で説明していた。
それを理解したふくは呆れた様子で腕を組んでため息をついたのだった。
そんな彼女を起こさないようにゆっくりと巣へと戻る。
到着すると空気が変わったのが分かり、ふくは目を覚ます。
「巣へ戻ったのか……?」
「うん、眠れた?」
「おかげさまでの。……やはり、生肉はわしに合わん。調理法を考えたいものじゃな。」
「また肉でも獲ってこようか?」
「そうじゃの、知恵を貸してもらえなければ、やってみるしかないからの。ぼるふよ、獲ってくるのじゃ。」
ヴォルフは姿を消し、一人になると巣の整理をする。
とはいえ、生活するのに最低限のものしか置いておらず、食事をした形跡もない。
本当に眠るための巣である。
寝床と思われるところに座り、自分の胸を持ち上げる。
「あやつらは乳が大きいと言っておったの……。やはり人間の頃に大きいとこの姿になっても大きいままじゃの……。バカにされてしまうから嫌いじゃ……。」
ふくのいた時代では巨乳は侮辱の対象にされやすく、胸を「さらし」などで巻き付けて小さく見せるということまでされていた。
要は栄養が頭にいっていないや乳牛のようでのんびり屋であるとバカにされがちであるからだ。
エビデンスこそないが、皮肉としてそのような価値観に囲まれていた為、ふくは自身の胸の大きさに不満を抱えていた。
そのような事をしているとヴォルフが獲物を咥えて戻ってくる。
「戻ってきたよー。どうしたの胸なんか触って?」
「む、帰ってきたのか。ぼるふよ、お前はわしの胸は大きくてはしたないと思うか?」
そう訊ねられたヴォルフはふくの胸をジィっと見る。
いろいろな角度から嘗め回すように眺めていると、だんだん恥ずかしくなってきたのかプルプルと震え始める。
そんなふくに気づかずに無言で見続けていると、谷間にマズルを突っ込む。
「な……何をするんじゃっ!?助平犬っ!!」
ふくの怒声と共に平手打ちがヴォルフの右頬に炸裂した。
胸を隠し、牙をむき出しにしてヴォルフに威嚇する。
ヴォルフは目や眉が垂れ、到底神とは思えないだらしない顔になっていた。
「いやぁ~……。これが乳袋というものかぁ~……。すごくいい感触だったよ!」
「……お前は……乳が大きくても馬鹿にせんのか……?」
「なんで?頭の良し悪しに大きさなんて関係ないと思うけど?オレはふくの乳は柔らかくて大きいから好きだよ?」
「……変態犬。」
ふくはそう言って背を向ける。
怒っているような彼女だったが、尻尾が立ち、耳が垂れ下がっているので嬉しくて照れているのだとわかり、ヴォルフは「ふふんっ♪」と笑う。
ふくは思い出したかのようにヴォルフに振り返る。
「肉は獲ってきたのかの?」
「もちろん。巣には入らないから外に置いているけど。」
「うむ。それでは小さく切るとしよう。」
巣の外に出ると昨日ふくが食べたであろう魔獣が転がっていた。
その魔獣を見て一度ニオイを嗅いでみるが、やはりケモノ臭い。
見た目はシカのような感じではあるのだが、禍々しい角をしており、体毛は緑色をしてあまり美味しくなさそうである。
いつまでもニオイを気にしてはいられないため、肉の切断に集中する。
「詠唱が面倒じゃの。理解さえしておればよいのじゃろう……?『押し固めた大気の刃よ、肉を切り刻め。』……まあ、だめじゃろうて。」
ふくはダメもとで詠唱を簡単にしたが、特に変化は起きず、発動ができていないと認識した。
正式な詠唱を行うため、精神統一をしようとすると、ヴォルフの鼻息が荒くなる。
「ふく?魔法は発動できているからもう切らなくていいよ?」
「何を言っておる?発動すらせんかったのじゃよ?ほれ、切れて……おるの……。あの時みたいに目に見えるほどの刃ではなかったのじゃが……。」
「ああ、あれはね魔力の込めすぎだよ。寧ろ今のが丁度いい切れ味だから、安定して撃てるようになると戦いにも使えるんじゃないかな。」
「戦いには使うことはできないじゃろう。詠唱が長すぎて、近くに寄られたら何もできんのじゃ。せめて、こう手の動きと共に『風よ。』で発動できればの。」
人差し指を立てて横一文字に振り払うと風の刃がヴォルフに直撃した。
「ぼるふ!?大丈夫か!?」
「ち……ちびった……。」
「汚いの。」
「し、しょうがないじゃん!いきなり飛んでくるんだから!しかもガードしないと死ぬヤツだったんだから……。」
「そ、それはすまない。(がーどとはなんじゃ……?)……しかし、なぜ今ので発動できたのじゃ……?」
「風を使うことと、頭の中で目的を理解していたからじゃない?」
ふくはヴォルフの答えを聴き口に手を当てて考える。
魔法は目的とやり方を正しく伝えると使用できる。
それを明確化するために詠唱というものが必要となる。
詠唱はある程度簡単にすることができるのは分かったが、やはり目的とやり方を明確化しているため発動ができる。
今回は風しか呼んでおらず、頭の中でこうなればいいとしか思っていなかった。
そしてふくは一つの答えにたどり着く。
「ぼるふの言っていた『いめーじ』というものではないか?」
「うん。オレは詠唱なんかいらないからね。イメージでモノを凍らせているからね。」
そう、最初からヴォルフは無詠唱で魔法を発動しており、最初の説明でも「イメージ」で説明していた。
それを理解したふくは呆れた様子で腕を組んでため息をついたのだった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄したら『悪役令嬢』から『事故物件令嬢』になりました
Mimi
ファンタジー
私エヴァンジェリンには、幼い頃に決められた婚約者がいる。
男女間の愛はなかったけれど、幼馴染みとしての情はあったのに。
卒業パーティーの2日前。
私を呼び出した婚約者の隣には
彼の『真実の愛のお相手』がいて、
私は彼からパートナーにはならない、と宣言された。
彼は私にサプライズをあげる、なんて言うけれど、それはきっと私を悪役令嬢にした婚約破棄ね。
わかりました!
いつまでも夢を見たい貴方に、昨今流行りのざまぁを
かまして見せましょう!
そして……その結果。
何故、私が事故物件に認定されてしまうの!
※本人の恋愛的心情があまり無いので、恋愛ではなくファンタジーカテにしております。
チートな能力などは出現しません。
他サイトにて公開中
どうぞよろしくお願い致します!

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。
異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。
せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。
そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。
これは天啓か。
俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

ワイルドロード ~獣としての道~
Waff
ファンタジー
獣人が住み発展を続けている「ディール」と呼ばれる世界に人間界で小学四年生妹の「牙崎エミリ」と住んでいた高校三年生の「牙崎太狼」がとある事故がきっかけで転生してしまう。
しかしそれはただの転生ではなく、大切な記憶が抜け落ちてしまい、さらに太狼は銀色の体毛を持つ狼の獣人になってしまっていた。
人間の姿に戻り、「大切なモノ」と再会するために摩訶不思議な獣人の道を生きるファンタジー。
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。
結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください
シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。
国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。
溺愛する女性がいるとの噂も!
それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。
それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから!
そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー
最後まで書きあがっていますので、随時更新します。
表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

底辺ジョブ【清掃師】で人類史上最強~俺はドワーフ娘たちに鍛えてもらって超強力な掃除スキルを習得する~
名無し
ファンタジー
この世界では、誰もが十歳になると天啓を得て様々なジョブが与えられる。
十六歳の少年アルファは、天啓を受けてからずっと【清掃師】という収集品を拾う以外に能がないジョブカーストの最底辺であった。
あるとき彼はパーティーの一員として迷宮山へ向かうが、味方の嫌がらせを受けて特殊な自然現象に巻き込まれてしまう。
山麓のボロ小屋で目覚めた彼は、ハンマーを持った少女たちに囲まれていた。
いずれも伝説のドワーフ一族で、最高の鍛冶師でもある彼女らの指示に従うことでアルファの清掃能力は精錬され、超絶スキル【一掃】を得る。それは自分の痛みであったり相手のパワーや能力であったりと、目に見えないものまで払うことができる神スキルだった。
最強となったアルファは、人類未踏峰の山々へと挑むことになる。
女神様の使い、5歳からやってます
めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。
「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」
女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに?
優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕!
基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。
戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。
お昼寝カフェ【BAKU】へようこそ!~夢喰いバクと社畜は美少女アイドルの悪夢を見る~
保月ミヒル
キャラ文芸
人生諦め気味のアラサー営業マン・遠原昭博は、ある日不思議なお昼寝カフェに迷い混む。
迎えてくれたのは、眼鏡をかけた独特の雰囲気の青年――カフェの店長・夢見獏だった。
ゆるふわおっとりなその青年の正体は、なんと悪夢を食べる妖怪のバクだった。
昭博はひょんなことから夢見とダッグを組むことになり、客として来店した人気アイドルの悪夢の中に入ることに……!?
夢という誰にも見せない空間の中で、人々は悩み、試練に立ち向かい、成長する。
ハートフルサイコダイブコメディです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる