4 / 108
肉を切るのじゃ
しおりを挟む
ヴォルフが「ヒュウー……」と息を吐くと、一瞬で姿が消えた。
そうかと思うと、再び姿を現す。
口元には魔獣と思われる肉塊が咥えられており、文字通り引きちぎってきたのだと分かる。
何かされたことも気づいていない牛の姿をした大きな魔獣はヴォルフから逃げようとした瞬間、首から血しぶきを上げて倒れる。
仲間が殺されたことに気が付いた仲間の魔獣たちは一目散に逃げだし、ヴォルフは追いかけようと力を入れると、尻をバシンと叩かれる。
「むやみな殺生をするでない。あまり狩りすぎると食えなくなってしまう。」
「創造神に頼めばいいんじゃないの?」
「馬鹿者!そのようなことにならぬよう考えて消費するのじゃ。お前も要らぬ借りは作りとうないじゃろうて。……むぅ。」
「そんなの気にしないのに……。……考え込んでどうしたの?」
「こんな巨大なものどうやって食べればよいのかのぅ……。」
「決まってるじゃない!生肉だよ?オレにはよくわからないけど、生き物には肉が必要なんだろ?そのまま食べればいいじゃないか?」
自信満々にそう答えるヴォルフをよそに、ふくは魔獣に触れながら考える。
水を出した時もそうだが、この世界には魔法というものがある。
ふくはなんとかそれを再現できないか考える。
(飲み水を出した時はどのように思ったかの……。おそらく魔力というものを糧に湧き出すものではないじゃろう。何か……何かきっかけがあるはずじゃ……。)
ふくはその辺に転がっている木の棒が目に入り、拾う。
へそのあたりで魔力を練り上げ、それを木の棒へ纏わりつかせようとするが、自分と木の棒では構造が違うため、魔力は流れない。
人間時代に魔力というものは存在しないため、力技で魔力を昂らせて木の棒へと注ごうとするが拒まれる。
溜めた魔力が頭に到達した瞬間、ふくは目の前が暗転した。
脳に過負荷を与えたことによる気絶だった。
突然倒れたふくにヴォルフは慌てたのは言うまでもない。
§
目を開けるとそこは書庫だった。
先ほどまでいた洞窟のような空間ではなく、きちんと建物の中にいるようだったが、自分の国のような構造物ではなく、石を積まれたような建物だった。
ふくは書庫の中から外を眺めるが、霧に覆われているのか、すべてが白い世界となっていた。
ヴォルフの姿は見えず、体は狐の姿をしたままである。
「わしは……。魔獣をどう捌こうか考えて、力を入れたまでは覚えとるのじゃが……。」
そう呟きながら本に手をかけようとすると、頭の上に一冊の本が墜落した。
かなりの衝撃で、一瞬あの世が見えたと思ったが、ケガもしていないのか痛みもすぐに引く。
そして、落ちてきた本を睨みつけると、【斬撃】と書かれたページが開かれていた。
それを拾い上げ、文章を読んでみる。
「何々……。ものに刃物で切るような効果を与える魔法……。棒状のものに魔法を付与させると効果が出る……。それができたら悩んではおらん。しかしこの本は面白いの……。ほかの魔法とやらは……開かんの……。この項だけは開くのじゃ?」
ふくは唯一開くページを開けると、『詠唱について』とかかれたページであった。
「詠唱とは魔法に目的を与えさせるものであり、明確に指示をすることで魔力は魔法となる……。……飲み水を欲したときは、のどが渇いておったから必死じゃったが……ただの飲み水じゃ魔法にはならんはずじゃ……。それにわしは詠唱しとらん。あのアホ犬の言う通り思っただけなのじゃが、それでも詠唱と同じようなことになるみたいじゃの。試しにやって――」
ふくは魔法を発動してみようと試みた瞬間、再び視界が暗転するのだった。
§
ふくは目を覚ますと非常に柔らかい物の上で眠っていたようであり、体の痛みはなかった。
起き上がると、銀色の毛の塊がふくの視界を遮って再び倒される。
「クソ犬!わしは起きたのじゃ!離れるのじゃ!」
大きな声で叫ぶと、バタバタと足を動かしてヴォルフは起き上がる。
周りを確認し、ふくを視界に入れると心配そうな顔でにおいを嗅ぎに来る。
ふくはなぜ心配されているのかわからず腰に手を当てていると、安心したようにヴォルフは口を開く。
「ふく、よかった。突然倒れるからびっくりしたよ?」
「……?わしは気をどこかへやっておったのか?む、それよりもわしは思いついたことを試したいのじゃ。」
ヴォルフのことを気にも留めず、木の棒を拾う。
先ほどの書庫で見たものを再現するように集中する。
(確か、魔力に目的を与えるのじゃな……。この魔力を物を切る目的を与える……。そうじゃな……刀を想像すると丁度良いかの?これを木の棒に纏わせる……。)
「上手くいってるみたいだね。」
「分かるのか?」
ヴォルフは自信満々に頷く。
この世界にずっと住み着いているというヴォルフのいうことは、ふくの中ではそれなりに信用できる。
それは、魔法にだけ限られたものだが。
斃れている魔獣に向かって、そうっと木の棒を当てる。
しかし斬ることはできなかった。
強く当てても、のこぎりのように押し切り、引き切りをしても刃が通らない。
魔法を解き、その場に胡坐をかいて座り込む。
その後ろ姿を見ただけで機嫌が悪くなっているのはヴォルフでもわかる。
そんな彼女に、恐る恐る口を開く。
「物を切る魔法で斬れないなら、風の刃で斬ってみたらいいんじゃないかな……?たぶん付与魔法じゃ限界あるんだろうし、元素の魔法なら力はもっと籠められる……はず。」
ヴォルフがそう告げると二人の間で沈黙が起こるのであった。
そうかと思うと、再び姿を現す。
口元には魔獣と思われる肉塊が咥えられており、文字通り引きちぎってきたのだと分かる。
何かされたことも気づいていない牛の姿をした大きな魔獣はヴォルフから逃げようとした瞬間、首から血しぶきを上げて倒れる。
仲間が殺されたことに気が付いた仲間の魔獣たちは一目散に逃げだし、ヴォルフは追いかけようと力を入れると、尻をバシンと叩かれる。
「むやみな殺生をするでない。あまり狩りすぎると食えなくなってしまう。」
「創造神に頼めばいいんじゃないの?」
「馬鹿者!そのようなことにならぬよう考えて消費するのじゃ。お前も要らぬ借りは作りとうないじゃろうて。……むぅ。」
「そんなの気にしないのに……。……考え込んでどうしたの?」
「こんな巨大なものどうやって食べればよいのかのぅ……。」
「決まってるじゃない!生肉だよ?オレにはよくわからないけど、生き物には肉が必要なんだろ?そのまま食べればいいじゃないか?」
自信満々にそう答えるヴォルフをよそに、ふくは魔獣に触れながら考える。
水を出した時もそうだが、この世界には魔法というものがある。
ふくはなんとかそれを再現できないか考える。
(飲み水を出した時はどのように思ったかの……。おそらく魔力というものを糧に湧き出すものではないじゃろう。何か……何かきっかけがあるはずじゃ……。)
ふくはその辺に転がっている木の棒が目に入り、拾う。
へそのあたりで魔力を練り上げ、それを木の棒へ纏わりつかせようとするが、自分と木の棒では構造が違うため、魔力は流れない。
人間時代に魔力というものは存在しないため、力技で魔力を昂らせて木の棒へと注ごうとするが拒まれる。
溜めた魔力が頭に到達した瞬間、ふくは目の前が暗転した。
脳に過負荷を与えたことによる気絶だった。
突然倒れたふくにヴォルフは慌てたのは言うまでもない。
§
目を開けるとそこは書庫だった。
先ほどまでいた洞窟のような空間ではなく、きちんと建物の中にいるようだったが、自分の国のような構造物ではなく、石を積まれたような建物だった。
ふくは書庫の中から外を眺めるが、霧に覆われているのか、すべてが白い世界となっていた。
ヴォルフの姿は見えず、体は狐の姿をしたままである。
「わしは……。魔獣をどう捌こうか考えて、力を入れたまでは覚えとるのじゃが……。」
そう呟きながら本に手をかけようとすると、頭の上に一冊の本が墜落した。
かなりの衝撃で、一瞬あの世が見えたと思ったが、ケガもしていないのか痛みもすぐに引く。
そして、落ちてきた本を睨みつけると、【斬撃】と書かれたページが開かれていた。
それを拾い上げ、文章を読んでみる。
「何々……。ものに刃物で切るような効果を与える魔法……。棒状のものに魔法を付与させると効果が出る……。それができたら悩んではおらん。しかしこの本は面白いの……。ほかの魔法とやらは……開かんの……。この項だけは開くのじゃ?」
ふくは唯一開くページを開けると、『詠唱について』とかかれたページであった。
「詠唱とは魔法に目的を与えさせるものであり、明確に指示をすることで魔力は魔法となる……。……飲み水を欲したときは、のどが渇いておったから必死じゃったが……ただの飲み水じゃ魔法にはならんはずじゃ……。それにわしは詠唱しとらん。あのアホ犬の言う通り思っただけなのじゃが、それでも詠唱と同じようなことになるみたいじゃの。試しにやって――」
ふくは魔法を発動してみようと試みた瞬間、再び視界が暗転するのだった。
§
ふくは目を覚ますと非常に柔らかい物の上で眠っていたようであり、体の痛みはなかった。
起き上がると、銀色の毛の塊がふくの視界を遮って再び倒される。
「クソ犬!わしは起きたのじゃ!離れるのじゃ!」
大きな声で叫ぶと、バタバタと足を動かしてヴォルフは起き上がる。
周りを確認し、ふくを視界に入れると心配そうな顔でにおいを嗅ぎに来る。
ふくはなぜ心配されているのかわからず腰に手を当てていると、安心したようにヴォルフは口を開く。
「ふく、よかった。突然倒れるからびっくりしたよ?」
「……?わしは気をどこかへやっておったのか?む、それよりもわしは思いついたことを試したいのじゃ。」
ヴォルフのことを気にも留めず、木の棒を拾う。
先ほどの書庫で見たものを再現するように集中する。
(確か、魔力に目的を与えるのじゃな……。この魔力を物を切る目的を与える……。そうじゃな……刀を想像すると丁度良いかの?これを木の棒に纏わせる……。)
「上手くいってるみたいだね。」
「分かるのか?」
ヴォルフは自信満々に頷く。
この世界にずっと住み着いているというヴォルフのいうことは、ふくの中ではそれなりに信用できる。
それは、魔法にだけ限られたものだが。
斃れている魔獣に向かって、そうっと木の棒を当てる。
しかし斬ることはできなかった。
強く当てても、のこぎりのように押し切り、引き切りをしても刃が通らない。
魔法を解き、その場に胡坐をかいて座り込む。
その後ろ姿を見ただけで機嫌が悪くなっているのはヴォルフでもわかる。
そんな彼女に、恐る恐る口を開く。
「物を切る魔法で斬れないなら、風の刃で斬ってみたらいいんじゃないかな……?たぶん付与魔法じゃ限界あるんだろうし、元素の魔法なら力はもっと籠められる……はず。」
ヴォルフがそう告げると二人の間で沈黙が起こるのであった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
虚無の統括者 〜両親を殺された俺は復讐の為、最強の配下と組織の主になる〜
サメ狐
ファンタジー
———力を手にした少年は女性達を救い、最強の組織を作ります!
魔力———それは全ての種族に宿り、魔法という最強の力を手に出来る力
魔力が高ければ高い程、魔法の威力も上がる
そして、この世界には強さを示すSSS、SS、S、A、B、C、D、E、Fの9つのランクが存在する
全世界総人口1000万人の中でSSSランクはたったの5人
そんな彼らを世界は”選ばれし者”と名付けた
何故、SSSランクの5人は頂きに上り詰めることが出来たのか?
それは、魔力の最高峰クラス
———可視化できる魔力———を唯一持つ者だからである
最強無敗の力を秘め、各国の最終戦力とまで称されている5人の魔法、魔力
SSランクやSランクが束になろうとたった一人のSSSランクに敵わない
絶対的な力と象徴こそがSSSランクの所以。故に選ばれし者と何千年も呼ばれ、代変わりをしてきた
———そんな魔法が存在する世界に生まれた少年———レオン
彼はどこにでもいる普通の少年だった‥‥
しかし、レオンの両親が目の前で亡き者にされ、彼の人生が大きく変わり‥‥
憎悪と憎しみで彼の中に眠っていた”ある魔力”が現れる
復讐に明け暮れる日々を過ごし、数年経った頃
レオンは再び宿敵と遭遇し、レオンの”最強の魔法”で両親の敵を討つ
そこで囚われていた”ある少女”と出会い、レオンは決心する事になる
『もう誰も悲しまない世界を‥‥俺のような者を創らない世界を‥‥』
そしてレオンは少女を最初の仲間に加え、ある組織と対立する為に自らの組織を結成する
その組織とは、数年後に世界の大罪人と呼ばれ、世界から軍から追われる最悪の組織へと名を轟かせる
大切な人を守ろうとすればする程に、人々から恨まれ憎まれる負の連鎖
最強の力を手に入れたレオンは正体を隠し、最強の配下達を連れて世界の裏で暗躍する
誰も悲しまない世界を夢見て‥‥‥レオンは世界を相手にその力を奮うのだった。
恐縮ながら少しでも観てもらえると嬉しいです
なろう様カクヨム様にも投稿していますのでよろしくお願いします
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる