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本編
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「全く、こんなことされる程の恨みって何なんだろうな。心当たりはないんだろ?」
「……ああ、特には」
ディルクが人を食べていたことは、誰にも知られてない筈だ。家に帰ってきてからは、魔物の心臓で満足してくれている。外には出ないでくれと頼んで家に居てもらっているから、あれ以降は噂も止んでいた。
「俺も」
キースはそう言いかけてから、何故か黙り込んでしまった。どうしたのかと問う前に、思いついたように続ける。
「女の恨みは山ほど買ってるが……今回のコレと関係あると思うか?」
思わず呆れた目を向けると、キースは肩を竦めた。まさか、貴族の令嬢を口説いて恨みを買った訳じゃないだろうな。それが視線からも感じられたのか、キースはおどけたように笑って見せる。
「おいおい、男の性って奴だ。そんな目で見んなよ」
「……どうして、その悪癖だけは治らないんだろうな」
仲間想いの良い男だというのに、キースは女癖が酷すぎる。未だに、そこだけは苦手だ。
キースは僅かに顔を俯けると呟くように言った。
「……治してくれそうな相手は、お前のもんになっちまっただろ」
けれど、その音は小さ過ぎて耳に届くまでには至らない。聞き直そうとキースの方に顔を向けると、彼はへらりと取り成すように笑った。
「何でもねぇよ。ほら、早く行こうぜ」
追及を振り払うように、キースは足を速めてしまう。それに少し違和感を覚えたものの、拒むような背を見て飲み込んだ。そして、その後に続こうと足を踏み出し、ゾッと怖気が背を撫でた。
「――ッ!」
培った経験が、その正体を知る前に体を突き動かす。俺は咄嗟にキースの首を腕で引っ掻けるようして、横に飛び退いた。ぐっ、と喉が詰まるような音が聞こえるが、そのまま壁に叩きつける。
「お前、いきなり何す」
咄嗟のことで手加減が出来なかった。そのせいで強く肺を圧迫してしまったのか、キースは目尻に涙を浮かべて咳き込んだ。そして、文句を言おうと口を開くが、それを掻き消すように轟音が響き渡る。後ろ髪を撫でていった巨大な氷柱は、凄まじい勢いのまま背を通過していった。触れたわけではないのに、風圧で項がひりつく様な気がする。
追撃を逃れるために振り返り、氷柱が向かってきたであろう方角に向けて身体を直す。その先に、黒い影が伸びるのが見えた。
「兄さんを探してたら、先にこっちが見つかるとはね」
殺傷を目的とした魔法を放ったとは思えないにこやかさで、男は笑った。
青みがかった銀髪と蒼の瞳には見覚えがある。確か、ディルクの弟だ。紹介されたこともあるから間違いない。本来なら挨拶くらいはするべきだが、流石に攻撃魔法を向けられた後で警戒を解くことは出来なかった。剣を構え、その先をジークベルトの眉間に合わせるようにして持ち上げる。
「……久しぶりだな。ところで、どうして攻撃してきたのか聞いてもいいか」
「兄気取りで気安い口を聞かないでくれる? あんたの声を聞く度に耳が腐り落ちそうなんだよね」
ジークベルトは俺の問いかけを斬り捨てると、敵意を越えて殺意を滾らせた眼差しを向けてくる。
「……あんたさえ殺せば、いい加減に諦めがつくだろ」
悪意を煮詰めたような暗い瞳を細めるようにして、ジークベルトは嗤った。それは笑みと称するには随分と不格好で、どちらかといえば泣き顔に近いものだ。
「あんたさえ居なければ、兄さんは家を出ていくなんて言わなかったんだ」
「そうか、ギルドに指示した貴族と言うのはお前だな」
「ああ、そうだよ。手足の一本くらいは取ってくれると思ったのに、本当に役に立たない連中だったな」
ジークベルトは吐き捨てるように言った後、ちらりと横目で後方を見る。それに合わせて、路地には幾つもの影が伸びた。
「アイザック、俺も……って、うわ!? くそっ、追い付いてきやがった……!」
キースが助太刀しようとしてくれるが、背後からの攻撃を跳ね返すことで精一杯のようだ。背には冒険者の類が迫ってきていて、向かいはジークベルトとその部下たちによって塞がれている。突破しない事には進めそうにない。ディルクの弟とは言え、道を塞ぐなら退けざるを得ない。早く迎えに行ってやらないと、その焦りが胸を埋め尽くす。
じりっ、と足裏を擦るようにして前進する。ジークベルトも此方への殺意を隠すこともなく、腰から剣を抜き放った。長く輝く刀身が露わになると同時に、一気に距離が詰められる。
「薄汚い妾腹が、何で兄さんに手を出したんだよ!!」
「ッ!!」
ガキンッ、と剣戟の音が響く。顔の間近で刃を交じらせながらも、ジークベルトは奥歯を鳴らすような怒りの形相で叫んだ。
その蔑みを聞いたのは、随分と久しい。学園の生徒は由緒正しい貴族の家柄の者が殆どで、アイザックのような平民の出はいなかった。父は家族に露見することを恐れて名義を変えて援助していたから、口性が無い連中は面白おかしく囃し立てアイザックを妾腹ではないかと辺りを付けた。間違いではない。母は、相手に家庭があるのを知りつつも関係を受け入れた。とても褒められるようなことではないし、その母から産まれたのが自分だということも事実だ。どれだけ嫌がった所で、変えられることではない。
それでも、その全てを知った上で、ディルクはアイザックの想いを受け入れてくれた。打ち明けたときは汚いと謗られるかもしれないと思っていたが、ディルクは変わらずに親愛を一杯に詰め込んで笑い掛けてくれた。それが、どれだけ嬉しかったかディルクは知らないのだろう。
彼が甘やかに紫の瞳を細める度に、頬を淡く染める度に、どうしようもなく愛しさが込み上げてくるのが抑えられなかった。傍に居たい、離したくない。自分の何処に隠れていたのかと思えるほど甘ったるい感情が暴れ回り、どうしていいのか分からなくなるくらいだった。
産まれが何だ。ディルクを大切にしたいと思った気持ちは、あの頃から一つも変わっていない。
「……確かに、俺は褒められた出じゃない」
「わかっているなら」
「それでも、ディルクのことだけは譲れない。道を開けないというなら、押し通らせてもらうまでだ」
もう、手遅れにはなりたくない。
ジークベルトは怒りと憎しみに顔を歪めて、一切の躊躇なく剣を振り上げてくる。その間も周りの部下が放った魔法が迫り、薄く皮膚を裂いていった。勝負事が常に一対一とは限らないので文句を付けるつもりはないが、それほどまでに恨まれる理由に思い至らない。
相手が殺す気でくる以上、こちらも本気を出さなければならないのは分かっている。けれど、ディルクの弟を殺すわけにもいかず、中々決定打を見い出せない。
「余裕ぶりやがって……! 本気で来いよ!!」
「……くっ」
それは相手にも伝わってしまっているのか、ジークベルトは屈辱に唇を噛んでいる。しかし、殺すわけにも行かないが、背にはキースもいるのだ。みすみすと仲間を殺されるわけにはいかない。それなら多少の怪我は負わせてでも、先に行くしかないだろう。そう考えて腕に力を込め直した時、間近でジークベルトが唇を裂くようにして嗤った。
「……兄さんのことは、もう抱いたの?」
あまりに場違いな質問に、時間が止まったような気さえした。ジークベルトは、目を丸くするアイザックを嘲笑うかのように目を細める。
「具合はどうだった? 俺のお古だけど」
予想していなかった言葉に呆けてしまい、脇腹から血が噴き出す。辛うじて刺されることは避けたが、放たれた氷柱が皮膚を掠めたらしい。しかし、痛みよりも何よりも、じわじわと込み上げてくる怒りの熱に視界が赤く染まるような気がした。
帰ってきたディルクは傷だらけだった。全身に残る鬱血痕も噛み跡も、あまりに痛々しかった。本人はあまり気にしてないようだったが、薬を塗ろうと服を脱がせるたびに露わになる痛々しい傷跡に胸がひどく痛んだものだ。どうして、こうなる前に助けてやれなかったんだろうか。やるせない気持ちになったものだが、その相手が目の前にいるというのだ。爪が皮膚に食い込むほどに束を強く握りしめる。ディルクの弟だということも頭から抜け落ちて、ただただ男へと憎悪が息を詰まらせた。
「あいつ、傷だらけだったんだ……その全部、お前がやったのか」
「……そうだよ。全部、俺のせいだ」
ジークベルトは僅かに間を置いた後に頷いた。それを見た瞬間に、躊躇いが吹き飛ぶ。心臓を裂いてしまうかと思えるほどの強い憎悪に、体が勝手に動いていた。
重なった剣を持ち上げるようにして弾き、間髪入れずに振り下ろす。けれど、ジークベルトが飛び退いたせいで、剣先が頬を掠める程度の傷しか与えられなかった。白い頬に、赤い一線が走っただけだ。思わず舌を打ち、追撃するために深く踏み込む。視界が怒りで赤く染まるのを自覚しつつ、抑えられないままジークベルトの頭上に剣を振り下ろした。ジークベルトは咄嗟に剣を構えて防いだが、重たい衝撃を真上から受けて顔を歪める。
あの日の傷だらけのディルクと、赤く染まった馬車の光景が蘇る。もう、あんな思いはしたくない。ディルクに痛い思いなんてさせたくない。その為には、目の前の男は此処で消し去るべきだ。怒りと焦燥と、叫びたくなるような苦しさに思考がままならなくなる。その中で、より一層に燃えるような感情に突き動かされるまま、唇が無意識の内に言葉を吐き出していた。
「殺してやる……!」
ジークベルトは大きく目を見開いた後、嘲るように目を細めた。
「やってみろよ」
同じくらい殺意の籠もった刃が、音を立ててぶつかった。
「……ああ、特には」
ディルクが人を食べていたことは、誰にも知られてない筈だ。家に帰ってきてからは、魔物の心臓で満足してくれている。外には出ないでくれと頼んで家に居てもらっているから、あれ以降は噂も止んでいた。
「俺も」
キースはそう言いかけてから、何故か黙り込んでしまった。どうしたのかと問う前に、思いついたように続ける。
「女の恨みは山ほど買ってるが……今回のコレと関係あると思うか?」
思わず呆れた目を向けると、キースは肩を竦めた。まさか、貴族の令嬢を口説いて恨みを買った訳じゃないだろうな。それが視線からも感じられたのか、キースはおどけたように笑って見せる。
「おいおい、男の性って奴だ。そんな目で見んなよ」
「……どうして、その悪癖だけは治らないんだろうな」
仲間想いの良い男だというのに、キースは女癖が酷すぎる。未だに、そこだけは苦手だ。
キースは僅かに顔を俯けると呟くように言った。
「……治してくれそうな相手は、お前のもんになっちまっただろ」
けれど、その音は小さ過ぎて耳に届くまでには至らない。聞き直そうとキースの方に顔を向けると、彼はへらりと取り成すように笑った。
「何でもねぇよ。ほら、早く行こうぜ」
追及を振り払うように、キースは足を速めてしまう。それに少し違和感を覚えたものの、拒むような背を見て飲み込んだ。そして、その後に続こうと足を踏み出し、ゾッと怖気が背を撫でた。
「――ッ!」
培った経験が、その正体を知る前に体を突き動かす。俺は咄嗟にキースの首を腕で引っ掻けるようして、横に飛び退いた。ぐっ、と喉が詰まるような音が聞こえるが、そのまま壁に叩きつける。
「お前、いきなり何す」
咄嗟のことで手加減が出来なかった。そのせいで強く肺を圧迫してしまったのか、キースは目尻に涙を浮かべて咳き込んだ。そして、文句を言おうと口を開くが、それを掻き消すように轟音が響き渡る。後ろ髪を撫でていった巨大な氷柱は、凄まじい勢いのまま背を通過していった。触れたわけではないのに、風圧で項がひりつく様な気がする。
追撃を逃れるために振り返り、氷柱が向かってきたであろう方角に向けて身体を直す。その先に、黒い影が伸びるのが見えた。
「兄さんを探してたら、先にこっちが見つかるとはね」
殺傷を目的とした魔法を放ったとは思えないにこやかさで、男は笑った。
青みがかった銀髪と蒼の瞳には見覚えがある。確か、ディルクの弟だ。紹介されたこともあるから間違いない。本来なら挨拶くらいはするべきだが、流石に攻撃魔法を向けられた後で警戒を解くことは出来なかった。剣を構え、その先をジークベルトの眉間に合わせるようにして持ち上げる。
「……久しぶりだな。ところで、どうして攻撃してきたのか聞いてもいいか」
「兄気取りで気安い口を聞かないでくれる? あんたの声を聞く度に耳が腐り落ちそうなんだよね」
ジークベルトは俺の問いかけを斬り捨てると、敵意を越えて殺意を滾らせた眼差しを向けてくる。
「……あんたさえ殺せば、いい加減に諦めがつくだろ」
悪意を煮詰めたような暗い瞳を細めるようにして、ジークベルトは嗤った。それは笑みと称するには随分と不格好で、どちらかといえば泣き顔に近いものだ。
「あんたさえ居なければ、兄さんは家を出ていくなんて言わなかったんだ」
「そうか、ギルドに指示した貴族と言うのはお前だな」
「ああ、そうだよ。手足の一本くらいは取ってくれると思ったのに、本当に役に立たない連中だったな」
ジークベルトは吐き捨てるように言った後、ちらりと横目で後方を見る。それに合わせて、路地には幾つもの影が伸びた。
「アイザック、俺も……って、うわ!? くそっ、追い付いてきやがった……!」
キースが助太刀しようとしてくれるが、背後からの攻撃を跳ね返すことで精一杯のようだ。背には冒険者の類が迫ってきていて、向かいはジークベルトとその部下たちによって塞がれている。突破しない事には進めそうにない。ディルクの弟とは言え、道を塞ぐなら退けざるを得ない。早く迎えに行ってやらないと、その焦りが胸を埋め尽くす。
じりっ、と足裏を擦るようにして前進する。ジークベルトも此方への殺意を隠すこともなく、腰から剣を抜き放った。長く輝く刀身が露わになると同時に、一気に距離が詰められる。
「薄汚い妾腹が、何で兄さんに手を出したんだよ!!」
「ッ!!」
ガキンッ、と剣戟の音が響く。顔の間近で刃を交じらせながらも、ジークベルトは奥歯を鳴らすような怒りの形相で叫んだ。
その蔑みを聞いたのは、随分と久しい。学園の生徒は由緒正しい貴族の家柄の者が殆どで、アイザックのような平民の出はいなかった。父は家族に露見することを恐れて名義を変えて援助していたから、口性が無い連中は面白おかしく囃し立てアイザックを妾腹ではないかと辺りを付けた。間違いではない。母は、相手に家庭があるのを知りつつも関係を受け入れた。とても褒められるようなことではないし、その母から産まれたのが自分だということも事実だ。どれだけ嫌がった所で、変えられることではない。
それでも、その全てを知った上で、ディルクはアイザックの想いを受け入れてくれた。打ち明けたときは汚いと謗られるかもしれないと思っていたが、ディルクは変わらずに親愛を一杯に詰め込んで笑い掛けてくれた。それが、どれだけ嬉しかったかディルクは知らないのだろう。
彼が甘やかに紫の瞳を細める度に、頬を淡く染める度に、どうしようもなく愛しさが込み上げてくるのが抑えられなかった。傍に居たい、離したくない。自分の何処に隠れていたのかと思えるほど甘ったるい感情が暴れ回り、どうしていいのか分からなくなるくらいだった。
産まれが何だ。ディルクを大切にしたいと思った気持ちは、あの頃から一つも変わっていない。
「……確かに、俺は褒められた出じゃない」
「わかっているなら」
「それでも、ディルクのことだけは譲れない。道を開けないというなら、押し通らせてもらうまでだ」
もう、手遅れにはなりたくない。
ジークベルトは怒りと憎しみに顔を歪めて、一切の躊躇なく剣を振り上げてくる。その間も周りの部下が放った魔法が迫り、薄く皮膚を裂いていった。勝負事が常に一対一とは限らないので文句を付けるつもりはないが、それほどまでに恨まれる理由に思い至らない。
相手が殺す気でくる以上、こちらも本気を出さなければならないのは分かっている。けれど、ディルクの弟を殺すわけにもいかず、中々決定打を見い出せない。
「余裕ぶりやがって……! 本気で来いよ!!」
「……くっ」
それは相手にも伝わってしまっているのか、ジークベルトは屈辱に唇を噛んでいる。しかし、殺すわけにも行かないが、背にはキースもいるのだ。みすみすと仲間を殺されるわけにはいかない。それなら多少の怪我は負わせてでも、先に行くしかないだろう。そう考えて腕に力を込め直した時、間近でジークベルトが唇を裂くようにして嗤った。
「……兄さんのことは、もう抱いたの?」
あまりに場違いな質問に、時間が止まったような気さえした。ジークベルトは、目を丸くするアイザックを嘲笑うかのように目を細める。
「具合はどうだった? 俺のお古だけど」
予想していなかった言葉に呆けてしまい、脇腹から血が噴き出す。辛うじて刺されることは避けたが、放たれた氷柱が皮膚を掠めたらしい。しかし、痛みよりも何よりも、じわじわと込み上げてくる怒りの熱に視界が赤く染まるような気がした。
帰ってきたディルクは傷だらけだった。全身に残る鬱血痕も噛み跡も、あまりに痛々しかった。本人はあまり気にしてないようだったが、薬を塗ろうと服を脱がせるたびに露わになる痛々しい傷跡に胸がひどく痛んだものだ。どうして、こうなる前に助けてやれなかったんだろうか。やるせない気持ちになったものだが、その相手が目の前にいるというのだ。爪が皮膚に食い込むほどに束を強く握りしめる。ディルクの弟だということも頭から抜け落ちて、ただただ男へと憎悪が息を詰まらせた。
「あいつ、傷だらけだったんだ……その全部、お前がやったのか」
「……そうだよ。全部、俺のせいだ」
ジークベルトは僅かに間を置いた後に頷いた。それを見た瞬間に、躊躇いが吹き飛ぶ。心臓を裂いてしまうかと思えるほどの強い憎悪に、体が勝手に動いていた。
重なった剣を持ち上げるようにして弾き、間髪入れずに振り下ろす。けれど、ジークベルトが飛び退いたせいで、剣先が頬を掠める程度の傷しか与えられなかった。白い頬に、赤い一線が走っただけだ。思わず舌を打ち、追撃するために深く踏み込む。視界が怒りで赤く染まるのを自覚しつつ、抑えられないままジークベルトの頭上に剣を振り下ろした。ジークベルトは咄嗟に剣を構えて防いだが、重たい衝撃を真上から受けて顔を歪める。
あの日の傷だらけのディルクと、赤く染まった馬車の光景が蘇る。もう、あんな思いはしたくない。ディルクに痛い思いなんてさせたくない。その為には、目の前の男は此処で消し去るべきだ。怒りと焦燥と、叫びたくなるような苦しさに思考がままならなくなる。その中で、より一層に燃えるような感情に突き動かされるまま、唇が無意識の内に言葉を吐き出していた。
「殺してやる……!」
ジークベルトは大きく目を見開いた後、嘲るように目を細めた。
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同じくらい殺意の籠もった刃が、音を立ててぶつかった。
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