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22※
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初めて穴に指を入れられたときは本当に嫌で、グレンの腹を蹴っ飛ばしたり頬を殴ったりと、自分でも驚くほど抵抗したのを覚えている。結局は縛り上げられて、舌で穴を解されて指をねじ込まれた。
「嫌だっ、止めてくれ! 俺に触るなっ!!」
前を擦られて達するのは、まだ我慢できる。でも、後ろを弄られるだけで感じてしまうのは嫌だった。今更かもしれないが、それだけは許してほしいと叫ぶ。足を振り上げて抵抗するが、グレンは足まで縛り上げて、執拗に後孔を嬲った。
指が腹の中を掻き混ぜる。舌が腫れた胸の突起を押し潰した。それだけで腰が重くなり、唇を噛み締める。ん、ん、と漏れる呻きすら嫌で、目を固く瞑った。
「唇が傷つきますよ」
下唇を食んだあと、グレンの舌が侵入してくる。もう耐えられなかった。好き勝手にされる自分も、どうにもできない現状も。だから、鬱屈とした感情を叩きつけるように、深く差し込まれたグレンの舌を噛み切ったのだ。
「っぐ」
流石に予想していなかったのか。蕩けた瞳を驚きに見開かせ、グレンは跳ね起きるようにして顔を上げる。びちゃびちゃと音を立ててシーツに吐き出すと、白い布が一気に赤く染まった。突発的にした事で何の心構えもなかった為、遅れて震えが襲ってくる。
「あ、ぐ、グレン。ごめ、なさ……っ」
夥しいほどの出血を前にして、鼓動が早くなる。解放されたかったとはいえ、殺すつもりなんてなかったのだ。ガチガチと歯を鳴らしながら震える声で謝罪する。けれど、俺の動揺を他所に、グレンの対処は早かった。彼は唇を手の甲で拭うと、そのまま自分に回復をかけて治してしまった。
「……流石に驚きました。全くお転婆どころの騒ぎじゃありませんよ」
そのまま何事もなかったかのように唇を押し付けられて、舌を吸われる。舌を噛みきられた後で平気でキスしてくることが信じられない。怯えて縮こまった舌を、指で摘まれた。びくっと肩を跳ねさせると、グレンは目を細めるようにして笑った。
「舌を噛み切る程度では殺せませんよ。私を本当に殺したいのであれば、喉を一突きしたほうがいい」
眦が熱くなり、じわりじわりと視界が滲んでいく。涙腺が決壊したらしく、ぼたぼたと両目から馬鹿らしいほど溢れてきた。
「……もう、いやだ。こわいんだよ、お前……」
「暴れなければ、痛いことなんてしませんよ。ほら、口を開けて。気持ちがいいことをしましょう」
それが嫌だと言っているのが何故わからないんだ。尻を弄られて善がるなんて、精神的に心臓を殴られているようできつい。逆らったらグレンが怖い。とにかく、この行為を止めたい。色んな感情がごちゃまぜになって、怖くて。
「蓮」
砂糖をまぶした様な甘い声。それが、簡単に冷たくなる瞬間を知っている。首を切り裂く一瞬は、未だに目に焼き付いていた。
俺は震える舌を伸ばして、グレンのキスを受け入れた。
ちゅ、ちゅ、と顔中に唇が触れる。まだ辛うじて挿れられてはいないが、いつの間にか穴には三本も指が入るようになってしまった。熱いものが後孔にぴたりと押し当てられている。グレンはそこに擦りつけるように時々腰を動かした。はっ、と熱い息が頬に掛かり、緊張に身体が強張る。
「このまま挿れたら痛いですかね」
「もう何でもいい……」
こんな適当な客間で行為に及んだら誰かに見られそうだなと思いはしたが、グレンとの関係は知れ渡っているそうなので今更だ。思わず自嘲の笑みが溢れる。
気持ちがいいことよりも、痛みの方がまだ耐えれる。だから、適当にぶち込んで腰振って終わらせてくれ。そんな投げやりな気持ちで大人しくしていると、後孔から熱が引いた。どのみち何をされようと、今の俺は何処にも行けない。
強引に手を掴まれて、床に座らされる。グレンはソファに座ると、足の間に俺を置くようにした。目の前には、完勃ちの性器がある。……とてつもなく嫌な予感しかしない。
「舐めてください」
「っ」
一瞬、殺意が湧いた。元の世界では考えたこともない罵詈雑言が、一気に喉元まで込み上げてくる。けれど、それを口にしたところで、止めてはくれないのはこれまでの事からも分かりきっていた。
全て飲み込んで亀頭にキスすると、途端にぬるりとしたものが唇に触れる。驚いて離すと、先端から溢れた液が糸を引いた。ひ、と喉の奥で悲鳴が上がる。
「蓮?」
「……なん、でもない……」
もうどうにでもなれ。やけくそ気味に心中で叫び、ぎゅっと瞼を締めたまま亀頭に唇を当てた。早くイかせて、さっさと終らせたい一心で奉仕する。
「っ、手も使ってください」
言われるまま両掌を陰茎に沿わせると、歓喜するようにびくりと震えるのがわかる。やり方なんて分からないから、キャンディを舐める子供のように舌を動かすと、グレンの息が荒くなるのが伝わってきた。自慰すらあまりしたことがないから、他人のものなんて余計に勝手がわからない。拙い動きだろうに、触れた熱は喜びを表すようにビクビクと跳ねている。
後頭部に手が回され、うなじを指先で擽られる。グレンの癖なのか。情事の度に触れられるので、擦られると、ぶるりと身を震わせるような熱が足元から這い上がってきてしまう。腹の奥がきゅんと締まり、尻穴が強請るようにひくつくのを自覚して視界が滲んだ。
「もっと深くまで咥えてください」
「……ん」
恐る恐る口を開き、更に深く咥えこむ。おずおずと舌を這わせると、苦いようなしょっぱいような、吐き気を催す臭いが強くなった。凡そ、口に入れていいものではない味がする。
「ん゛んっ、ぅ」
味を意識しないようにしつつ、頬をすぼめて何とか頭を前後させる。けれど、先端から滲み出る先走りが舌に触れるたびに、口にしているものを嫌でも自覚して気が遠くなった。男の排泄器官をしゃぶっているのだと、改めて考えるとこのまま気絶したい気分になる。でも、人間は意外と頑丈らしく、それだけの事では気は飛ばせないらしい。こんなに、最悪な気分だっていうのに。
「く……っ」
「かはっ、はっ……はぁっ……ぁ?」
軽く髪を引かれて、ビキビキと固くなった性器を吐き出すように口から出した。その瞬間に、顔に熱いものが掛かる。咄嗟に瞼を閉じたお陰で目には入らなかったが、訳がわからずぽけっと唇を半開きにしたまま固まってしまう。なんだか顔が、べたべたする。
「蓮、蓮……っ」
腕を引かれて、抱き寄せられた。濡れた感触が掌で広げられる。唯でさえべたべたの顔が、余計に汚れていく。思わず眉を寄せるが、グレンは気にせず俺にキスをした。
「私のものだ」
支配欲を満たしたいのだとしても、これはない。これなら、慣らさずにぶち込まれたほうが気が楽だ。頼むから終わらせてくれと口にしようとして飲み込む。この言い方だと気分が乗らないのか、余計な行為を間に挟んでくる。流石に、またしゃぶらされたりしたら嫌だ。
グレンの胸を押しやって、壁に向かい合うようにして俯せになる。四つん這いの姿勢のまま、自ら腰を上げた。腕に顔を押し付けて、唇を噛み締める。
「蓮、これでは顔が見えません」
「ん……」
背中を熱い掌が滑っていく。その感覚にすら、腰が震えてしまうのが腹立たしい。
「もういいから早く」
嬲るように触れられるのは耐えられない。これ以上おかしくなる前に終わりが欲しくて、自分から震える足を広げる。
息を飲む音がして、漸く後孔に熱が押し当てられる。つぷりと先端が肉を割り開き、俺の中に押し入ってきた。指とは比較にならない熱量に、腕に歯を立てて悲鳴を噛み殺す。
「ぅ……んん……ッ」
「っ、熱いですね……」
慎重に押し入ってくる熱が、それでも確かな質量を持って俺を征服する。焼きごてを突っ込まれたみたいに熱くて、腹が焼かれそうだ。全部入ったのかと少しだけ気が緩んだとき、腰が浮くほど叩きつけられて視界がぶれる。
「ぅあ゛ッ!?」
「あと、少しですから……」
まだ全部ではなかったらしい。嘘だろ、腹が破れる。もう充分に苦しいのに、グレンは容赦なく俺を串刺しにしようと腰を押し付けてくる。その度に内蔵を押し上げるような圧迫感と、限界まで開かれた尻穴からぴりぴりとした痛みを感じた。けれど、それを上回る快感を確かに感じてしまい、ぎゅっと瞼を閉じる。グレンに揺さぶられながらも、自分の性器が痛いほど張り詰めているのが分かって唇を噛んだ。腰が、重い。それが信じられなくて、更に腕に顔を埋める。
「ッ――~~……!!」
ずぷんっと根本まで入ったと同時に、諸々の思考が吹っ飛んだ。火花が散ったように視界がチカチカと瞬いて、全身から力が抜ける。ひどく身体が怠い。まるで、射精後の倦怠感のようで、思考が疑問符に埋め尽くされる。何だ今の。きゅうきゅうとグレンの物を締め付けるように腸壁が蠢き、その硬さと熱を嫌でも教えてくる。
「っ、挿れただけで達したのですか。すごく締まりましたよ」
「……う、そ」
「嘘じゃありませんよ……ほら」
腹を撫でられると、ぬるりと粘り気の帯びた感触があった。見せつけるように、態と俺の眼前まで濡れた指を持ってくる。それで唇を撫でられた。恐る恐る舌先で唇を舐めると、生臭さが鼻を突く。
自然と涙が出てきた。俺は異世界にきて、何をしているんだろう。言われるまま魔族を殺し、今やグレンに股を開いている。……本当に、何をしているのだろう。
ぼたぼたと溢れた涙が、床の色を変えていく。それでも、ぐっと腰を押し付けられると甘い鳴き声を上げてしまう。それが一層、俺の精神を擦り潰した。
ずっ、ずっと腸壁を擦られて、その度に甘い痺れが背を震わせる。散々、指で慣らされた前立腺はグレンの性器で抉られる度に、喜んで快楽を貪った。俺の意思とは関係なく、グレンに抱かれることを身体は悦んでいる。それが分かるから、余計に苦しくなった。
「んッ、ぁ……っくぅぅ……っ」
腕に顔を押し付けて、それだけが縁だとばかりに歯を立てる。ぱちゅっぱちゅっと、響く水音が耳障りだ。
終われ、終われ、早く終われ。それだけを考えて、瞼を硬く閉じる。
ふいにグレンの熱い息が、俺の肩口に触れる。ごりゅっと奥を抉られて、声にならない媚声が漏れた。
「声、なんで抑えるんですか?」
「んっ、んぅ」
「気持ちがいいでしょう? 私も凄く気持ちがいい……蓮の中は熱くて、ずるずるで、堪らない……っ」
「あっ、ああっ……やぁ……も、やめ……ぅ゛……っ」
指が、固く閉ざした唇を割り開く。達したばかりで過敏になっている奥を、無遠慮に穿たれると声が殺せない。声を抑えようと力を込めると、尻を締めつけたらしく、短く息が上がった。揺さぶりが激しくなり、肌と肌をぶつける音が大きくなる。
「顔が見たいです……蓮、こっちを向いて」
「やぁっ、あ、ああっ」
肩を掴まれて、ひっくり返される。内に埋まった性器が良いところを引っ掻いて腰が跳ねた。抵抗しようにも、身体は骨がなくなったみたいにぐずぐずで碌に動きもしない。
それでもグレンの顔は見たくなかった。咄嗟に顔を横に向けるが顎を掴まれて、向きを戻される。それならと瞼を瞑れば、頬を熱く弾力のあるものが這う。嫌だと首を振るが、離してくれる気配はない。
「見てください。貴方を抱いているのは私だ。今から奥まで、私のものになるんですよ」
「ぁっ、ぅあッ! ひっ、あ!」
恥骨がぶつかるほど、強く腰を打ち付けられる。限界が近いのだろう。グレンの顔から余裕がなくなっていくのがわかった。
腹の奥で、張り詰めていくのを感じて息を呑む。射精の気配を悟り、ぎゅっと目を閉じた。グレンの息がますます荒くなり、ばちゅっと一際大きな音を立てて最奥を押し上げる。
嫌だ、何かが来る。来てしまう。それを止める術は思いつかず、先端からぴゅるっと精液が溢れてグレンの腹を濡らした。
「あっ、あぁ………ぅ」
行き止まりで、びくびくと跳ねる感覚がある。跳ねるたびに熱い精液が送り込まれ、腹に溜まっていくのが分かった。じわりと腹の奥に精液が染み込んでいくのを感じ、内側から汚されていくような感覚に陥る。
「ぁ、あ……くぅ……ぅ」
眼球が痛くなり、頬が濡れていく。最奥を征服され、俺は男として終わったことを突きつけられた気がした。
涙や唾液、掛けられた精液でべたべたになった顔に、グレンは愛おしそうに唇を寄せてくる。衝動的に殴り飛ばしたくなるが、倦怠感のせいで動けない。
「もっと汚くなってください。誰もが目を逸らすほど穢れてほしい」
顔はどろどろに汚されているし、後孔からは注がれた精液が溢れ出して床を濡らしている。こんなの誰が見たって、汚いと言うだろう。手だって、見えないだけで真っ赤だ。もう、どうしたって元には戻れない。
泣きたいような気持ちで、薄く目を開ける。唇を押しつけられて、舌先を吸われた。恋人同士のような甘いキスに、自然と眉が寄る。こいつは俺を、自分の何だと思っているのか。
「汚いものは綺麗にはなれない。……だから、貴方が私のところまで来てください。罪悪感すら感じなくなるほどに、もっと汚くなればいい」
グレンは俺の足を担ぐようにして、律動を再開させた。指先を絡められ、手を握るようにして腰を押しつけられる。突き上げられる度に中に出された精液が掻き混ぜられて、ぐぽぐぽといやらしく響いた。耳を塞いでしまいたいくらいだが、手を握られているのでそれも叶わない。
「ひぅっ、あ、ふぁ……んんっ」
「蓮っ、蓮……っ」
唇を舐められ、舌を出せと言われる。俺は何もかも面倒臭くなってきて、大人しく舌を出した。舌を擦り合わせながら繋いだ手に力を込めてやると、腹に収まった性器が大きくなったのを感じる。
早く終わりたい。これ以上、長引いたら本当に頭がおかしくなる。それだけでした行動だったのだが、グレンの顔が溶けそうなほどの幸福に満ちた。
「っああ、全て私のものだ」
腰の動きが早くなり、繋がれた手に力がこもる。射精が近いのだろうと分かって、屈辱に眉を寄せた。
奥で熱が爆ぜる。腹の奥にじわりと広がる温かさに涙しながら、俺は全てを遮断するために瞼を下ろした。
「嫌だっ、止めてくれ! 俺に触るなっ!!」
前を擦られて達するのは、まだ我慢できる。でも、後ろを弄られるだけで感じてしまうのは嫌だった。今更かもしれないが、それだけは許してほしいと叫ぶ。足を振り上げて抵抗するが、グレンは足まで縛り上げて、執拗に後孔を嬲った。
指が腹の中を掻き混ぜる。舌が腫れた胸の突起を押し潰した。それだけで腰が重くなり、唇を噛み締める。ん、ん、と漏れる呻きすら嫌で、目を固く瞑った。
「唇が傷つきますよ」
下唇を食んだあと、グレンの舌が侵入してくる。もう耐えられなかった。好き勝手にされる自分も、どうにもできない現状も。だから、鬱屈とした感情を叩きつけるように、深く差し込まれたグレンの舌を噛み切ったのだ。
「っぐ」
流石に予想していなかったのか。蕩けた瞳を驚きに見開かせ、グレンは跳ね起きるようにして顔を上げる。びちゃびちゃと音を立ててシーツに吐き出すと、白い布が一気に赤く染まった。突発的にした事で何の心構えもなかった為、遅れて震えが襲ってくる。
「あ、ぐ、グレン。ごめ、なさ……っ」
夥しいほどの出血を前にして、鼓動が早くなる。解放されたかったとはいえ、殺すつもりなんてなかったのだ。ガチガチと歯を鳴らしながら震える声で謝罪する。けれど、俺の動揺を他所に、グレンの対処は早かった。彼は唇を手の甲で拭うと、そのまま自分に回復をかけて治してしまった。
「……流石に驚きました。全くお転婆どころの騒ぎじゃありませんよ」
そのまま何事もなかったかのように唇を押し付けられて、舌を吸われる。舌を噛みきられた後で平気でキスしてくることが信じられない。怯えて縮こまった舌を、指で摘まれた。びくっと肩を跳ねさせると、グレンは目を細めるようにして笑った。
「舌を噛み切る程度では殺せませんよ。私を本当に殺したいのであれば、喉を一突きしたほうがいい」
眦が熱くなり、じわりじわりと視界が滲んでいく。涙腺が決壊したらしく、ぼたぼたと両目から馬鹿らしいほど溢れてきた。
「……もう、いやだ。こわいんだよ、お前……」
「暴れなければ、痛いことなんてしませんよ。ほら、口を開けて。気持ちがいいことをしましょう」
それが嫌だと言っているのが何故わからないんだ。尻を弄られて善がるなんて、精神的に心臓を殴られているようできつい。逆らったらグレンが怖い。とにかく、この行為を止めたい。色んな感情がごちゃまぜになって、怖くて。
「蓮」
砂糖をまぶした様な甘い声。それが、簡単に冷たくなる瞬間を知っている。首を切り裂く一瞬は、未だに目に焼き付いていた。
俺は震える舌を伸ばして、グレンのキスを受け入れた。
ちゅ、ちゅ、と顔中に唇が触れる。まだ辛うじて挿れられてはいないが、いつの間にか穴には三本も指が入るようになってしまった。熱いものが後孔にぴたりと押し当てられている。グレンはそこに擦りつけるように時々腰を動かした。はっ、と熱い息が頬に掛かり、緊張に身体が強張る。
「このまま挿れたら痛いですかね」
「もう何でもいい……」
こんな適当な客間で行為に及んだら誰かに見られそうだなと思いはしたが、グレンとの関係は知れ渡っているそうなので今更だ。思わず自嘲の笑みが溢れる。
気持ちがいいことよりも、痛みの方がまだ耐えれる。だから、適当にぶち込んで腰振って終わらせてくれ。そんな投げやりな気持ちで大人しくしていると、後孔から熱が引いた。どのみち何をされようと、今の俺は何処にも行けない。
強引に手を掴まれて、床に座らされる。グレンはソファに座ると、足の間に俺を置くようにした。目の前には、完勃ちの性器がある。……とてつもなく嫌な予感しかしない。
「舐めてください」
「っ」
一瞬、殺意が湧いた。元の世界では考えたこともない罵詈雑言が、一気に喉元まで込み上げてくる。けれど、それを口にしたところで、止めてはくれないのはこれまでの事からも分かりきっていた。
全て飲み込んで亀頭にキスすると、途端にぬるりとしたものが唇に触れる。驚いて離すと、先端から溢れた液が糸を引いた。ひ、と喉の奥で悲鳴が上がる。
「蓮?」
「……なん、でもない……」
もうどうにでもなれ。やけくそ気味に心中で叫び、ぎゅっと瞼を締めたまま亀頭に唇を当てた。早くイかせて、さっさと終らせたい一心で奉仕する。
「っ、手も使ってください」
言われるまま両掌を陰茎に沿わせると、歓喜するようにびくりと震えるのがわかる。やり方なんて分からないから、キャンディを舐める子供のように舌を動かすと、グレンの息が荒くなるのが伝わってきた。自慰すらあまりしたことがないから、他人のものなんて余計に勝手がわからない。拙い動きだろうに、触れた熱は喜びを表すようにビクビクと跳ねている。
後頭部に手が回され、うなじを指先で擽られる。グレンの癖なのか。情事の度に触れられるので、擦られると、ぶるりと身を震わせるような熱が足元から這い上がってきてしまう。腹の奥がきゅんと締まり、尻穴が強請るようにひくつくのを自覚して視界が滲んだ。
「もっと深くまで咥えてください」
「……ん」
恐る恐る口を開き、更に深く咥えこむ。おずおずと舌を這わせると、苦いようなしょっぱいような、吐き気を催す臭いが強くなった。凡そ、口に入れていいものではない味がする。
「ん゛んっ、ぅ」
味を意識しないようにしつつ、頬をすぼめて何とか頭を前後させる。けれど、先端から滲み出る先走りが舌に触れるたびに、口にしているものを嫌でも自覚して気が遠くなった。男の排泄器官をしゃぶっているのだと、改めて考えるとこのまま気絶したい気分になる。でも、人間は意外と頑丈らしく、それだけの事では気は飛ばせないらしい。こんなに、最悪な気分だっていうのに。
「く……っ」
「かはっ、はっ……はぁっ……ぁ?」
軽く髪を引かれて、ビキビキと固くなった性器を吐き出すように口から出した。その瞬間に、顔に熱いものが掛かる。咄嗟に瞼を閉じたお陰で目には入らなかったが、訳がわからずぽけっと唇を半開きにしたまま固まってしまう。なんだか顔が、べたべたする。
「蓮、蓮……っ」
腕を引かれて、抱き寄せられた。濡れた感触が掌で広げられる。唯でさえべたべたの顔が、余計に汚れていく。思わず眉を寄せるが、グレンは気にせず俺にキスをした。
「私のものだ」
支配欲を満たしたいのだとしても、これはない。これなら、慣らさずにぶち込まれたほうが気が楽だ。頼むから終わらせてくれと口にしようとして飲み込む。この言い方だと気分が乗らないのか、余計な行為を間に挟んでくる。流石に、またしゃぶらされたりしたら嫌だ。
グレンの胸を押しやって、壁に向かい合うようにして俯せになる。四つん這いの姿勢のまま、自ら腰を上げた。腕に顔を押し付けて、唇を噛み締める。
「蓮、これでは顔が見えません」
「ん……」
背中を熱い掌が滑っていく。その感覚にすら、腰が震えてしまうのが腹立たしい。
「もういいから早く」
嬲るように触れられるのは耐えられない。これ以上おかしくなる前に終わりが欲しくて、自分から震える足を広げる。
息を飲む音がして、漸く後孔に熱が押し当てられる。つぷりと先端が肉を割り開き、俺の中に押し入ってきた。指とは比較にならない熱量に、腕に歯を立てて悲鳴を噛み殺す。
「ぅ……んん……ッ」
「っ、熱いですね……」
慎重に押し入ってくる熱が、それでも確かな質量を持って俺を征服する。焼きごてを突っ込まれたみたいに熱くて、腹が焼かれそうだ。全部入ったのかと少しだけ気が緩んだとき、腰が浮くほど叩きつけられて視界がぶれる。
「ぅあ゛ッ!?」
「あと、少しですから……」
まだ全部ではなかったらしい。嘘だろ、腹が破れる。もう充分に苦しいのに、グレンは容赦なく俺を串刺しにしようと腰を押し付けてくる。その度に内蔵を押し上げるような圧迫感と、限界まで開かれた尻穴からぴりぴりとした痛みを感じた。けれど、それを上回る快感を確かに感じてしまい、ぎゅっと瞼を閉じる。グレンに揺さぶられながらも、自分の性器が痛いほど張り詰めているのが分かって唇を噛んだ。腰が、重い。それが信じられなくて、更に腕に顔を埋める。
「ッ――~~……!!」
ずぷんっと根本まで入ったと同時に、諸々の思考が吹っ飛んだ。火花が散ったように視界がチカチカと瞬いて、全身から力が抜ける。ひどく身体が怠い。まるで、射精後の倦怠感のようで、思考が疑問符に埋め尽くされる。何だ今の。きゅうきゅうとグレンの物を締め付けるように腸壁が蠢き、その硬さと熱を嫌でも教えてくる。
「っ、挿れただけで達したのですか。すごく締まりましたよ」
「……う、そ」
「嘘じゃありませんよ……ほら」
腹を撫でられると、ぬるりと粘り気の帯びた感触があった。見せつけるように、態と俺の眼前まで濡れた指を持ってくる。それで唇を撫でられた。恐る恐る舌先で唇を舐めると、生臭さが鼻を突く。
自然と涙が出てきた。俺は異世界にきて、何をしているんだろう。言われるまま魔族を殺し、今やグレンに股を開いている。……本当に、何をしているのだろう。
ぼたぼたと溢れた涙が、床の色を変えていく。それでも、ぐっと腰を押し付けられると甘い鳴き声を上げてしまう。それが一層、俺の精神を擦り潰した。
ずっ、ずっと腸壁を擦られて、その度に甘い痺れが背を震わせる。散々、指で慣らされた前立腺はグレンの性器で抉られる度に、喜んで快楽を貪った。俺の意思とは関係なく、グレンに抱かれることを身体は悦んでいる。それが分かるから、余計に苦しくなった。
「んッ、ぁ……っくぅぅ……っ」
腕に顔を押し付けて、それだけが縁だとばかりに歯を立てる。ぱちゅっぱちゅっと、響く水音が耳障りだ。
終われ、終われ、早く終われ。それだけを考えて、瞼を硬く閉じる。
ふいにグレンの熱い息が、俺の肩口に触れる。ごりゅっと奥を抉られて、声にならない媚声が漏れた。
「声、なんで抑えるんですか?」
「んっ、んぅ」
「気持ちがいいでしょう? 私も凄く気持ちがいい……蓮の中は熱くて、ずるずるで、堪らない……っ」
「あっ、ああっ……やぁ……も、やめ……ぅ゛……っ」
指が、固く閉ざした唇を割り開く。達したばかりで過敏になっている奥を、無遠慮に穿たれると声が殺せない。声を抑えようと力を込めると、尻を締めつけたらしく、短く息が上がった。揺さぶりが激しくなり、肌と肌をぶつける音が大きくなる。
「顔が見たいです……蓮、こっちを向いて」
「やぁっ、あ、ああっ」
肩を掴まれて、ひっくり返される。内に埋まった性器が良いところを引っ掻いて腰が跳ねた。抵抗しようにも、身体は骨がなくなったみたいにぐずぐずで碌に動きもしない。
それでもグレンの顔は見たくなかった。咄嗟に顔を横に向けるが顎を掴まれて、向きを戻される。それならと瞼を瞑れば、頬を熱く弾力のあるものが這う。嫌だと首を振るが、離してくれる気配はない。
「見てください。貴方を抱いているのは私だ。今から奥まで、私のものになるんですよ」
「ぁっ、ぅあッ! ひっ、あ!」
恥骨がぶつかるほど、強く腰を打ち付けられる。限界が近いのだろう。グレンの顔から余裕がなくなっていくのがわかった。
腹の奥で、張り詰めていくのを感じて息を呑む。射精の気配を悟り、ぎゅっと目を閉じた。グレンの息がますます荒くなり、ばちゅっと一際大きな音を立てて最奥を押し上げる。
嫌だ、何かが来る。来てしまう。それを止める術は思いつかず、先端からぴゅるっと精液が溢れてグレンの腹を濡らした。
「あっ、あぁ………ぅ」
行き止まりで、びくびくと跳ねる感覚がある。跳ねるたびに熱い精液が送り込まれ、腹に溜まっていくのが分かった。じわりと腹の奥に精液が染み込んでいくのを感じ、内側から汚されていくような感覚に陥る。
「ぁ、あ……くぅ……ぅ」
眼球が痛くなり、頬が濡れていく。最奥を征服され、俺は男として終わったことを突きつけられた気がした。
涙や唾液、掛けられた精液でべたべたになった顔に、グレンは愛おしそうに唇を寄せてくる。衝動的に殴り飛ばしたくなるが、倦怠感のせいで動けない。
「もっと汚くなってください。誰もが目を逸らすほど穢れてほしい」
顔はどろどろに汚されているし、後孔からは注がれた精液が溢れ出して床を濡らしている。こんなの誰が見たって、汚いと言うだろう。手だって、見えないだけで真っ赤だ。もう、どうしたって元には戻れない。
泣きたいような気持ちで、薄く目を開ける。唇を押しつけられて、舌先を吸われた。恋人同士のような甘いキスに、自然と眉が寄る。こいつは俺を、自分の何だと思っているのか。
「汚いものは綺麗にはなれない。……だから、貴方が私のところまで来てください。罪悪感すら感じなくなるほどに、もっと汚くなればいい」
グレンは俺の足を担ぐようにして、律動を再開させた。指先を絡められ、手を握るようにして腰を押しつけられる。突き上げられる度に中に出された精液が掻き混ぜられて、ぐぽぐぽといやらしく響いた。耳を塞いでしまいたいくらいだが、手を握られているのでそれも叶わない。
「ひぅっ、あ、ふぁ……んんっ」
「蓮っ、蓮……っ」
唇を舐められ、舌を出せと言われる。俺は何もかも面倒臭くなってきて、大人しく舌を出した。舌を擦り合わせながら繋いだ手に力を込めてやると、腹に収まった性器が大きくなったのを感じる。
早く終わりたい。これ以上、長引いたら本当に頭がおかしくなる。それだけでした行動だったのだが、グレンの顔が溶けそうなほどの幸福に満ちた。
「っああ、全て私のものだ」
腰の動きが早くなり、繋がれた手に力がこもる。射精が近いのだろうと分かって、屈辱に眉を寄せた。
奥で熱が爆ぜる。腹の奥にじわりと広がる温かさに涙しながら、俺は全てを遮断するために瞼を下ろした。
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異世界転移(転生)したワタルが現地の魔術師ユーグと恋人になって、致しているお話です。9割性描写です。※自サイトからの転載です。サイトにこの二人が付き合うまでが置いてありますが、こちら単独でご覧頂けます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
秘めやかな愛に守られて【目覚めたらそこは獣人国の男色用遊郭でした】
カミヤルイ
BL
目覚めたら、そこは獣人が住む異世界の遊郭だった──
十五歳のときに獣人世界に転移した毬也は、男色向け遊郭で下働きとして生活している。
下働き仲間で猫獣人の月華は転移した毬也を最初に見つけ、救ってくれた恩人で、獣人国では「ケダモノ」と呼ばれてつまはじき者である毬也のそばを離れず、いつも守ってくれる。
猫族だからかスキンシップは他人が呆れるほど密で独占欲も感じるが、家族の愛に飢えていた毬也は嬉しく、このまま変わらず一緒にいたいと思っていた。
だが年月が過ぎ、月華にも毬也にも男娼になる日がやってきて、二人の関係性に変化が生じ────
独占欲が強いこっそり見守り獣人×純情な異世界転移少年の初恋を貫く物語。
表紙は「事故番の夫は僕を愛さない」に続いて、天宮叶さんです。
@amamiyakyo0217
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