夜明けには程遠い【完結】

米派

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無骨な手を取り、固い甲に額を当てた。本来なら神聖とも呼べる儀式の筈だが、粘つくような視線が全てを無にしている。薄く目を開けて相手の顔を伺うと、熱の籠もった視線が唇に注がれているがわかった。肌を焼かれそうな熱から目を逸らして、軽く一礼してからお決まりの台詞を吐く。相手への気遣いと鼓舞を含めた言葉だが、きちんと届いているのかは怪しいところだ。

今まで気にしたこともなかったが、グレンと擬似行為を繰り返すうちに、周りの視線に違和感を覚え始めた。

元の世界では感じたことのない視線が、兵士の何人かから向けられている。あちらでも女性から似たようなものを向けられたことはあったが、肌を舐めるような類のものではなかった。

兵士が、俺の手を取る。俺とて小柄ではないが、戦うことを生業としている男の手と比べると華奢に見えた。男として情けなく思うが、今はそんなことよりも手の甲に掛かる熱に意識が持っていかれてしまう。兵士は俺の手を握ると、震える唇を押しつけてきた。

「勇者様……」

何かを乞うような響きを無視して、兵士の手に自らの手を重ね合わせる。祝福を、とだけ返すと兵士は嬉しそうとも残念そうとも取れる表情を浮かべた。

兵士が部屋を出ていくのを見送ってから、俺もグレンの部屋に行かなければと重たい足を踏み出す。扉に手をかけて廊下に出ようと顔を上げると、赤い瞳とぶつかった。え? と音にする前に肩を掴まれて、そのまま部屋に押し込まれる。

「なんで、ここに……」

グレンは俺の言葉を無視し、手首を痛いほどの力で掴んだまま見下ろしてくる。大きな音がして、肩が跳ねた。錠の掛かる音だ。遅れて理解した途端、自分でも馬鹿だと思うが背中を向けて逃げようとした。けれど、腹に回った腕に動きを阻まれる。

うなじに噛みつかれて、口からは甘い吐息が漏れた。口を押さえて声を飲み込むが、腰を撫でられると我慢できない。短く漏れてしまった声に、グレンが舌を打つのが分かった。

「男に触られて興奮したんですか」
「ちが、う」

怒られる筋合いはない筈なのだが、グレンの声には隠しきれない苛立ちが色濃く浮かんでいる。いつからだ。グレンが俺に向けていたのは歪ながらも友愛だったはずだ。そこに性欲なんて含まれてはいなかったのに。

「でも、反応しています」

つつっ、と撫でられて息が詰まる。太腿を滑り落ちていく布の感触に、心臓がどくどくと激しく脈打った。それが期待によるものだとは思いたくないが、自身のものを見たら否定することは出来なかった。露わになった性器はふるりと震えて、先端からとろとろと蜜を滴らしている。カッと発火すると思うほど頬が熱くなった。

「……随分と厭らしくなりましたね」
「は、ぁ……っ」

誰のせいだ。悪態が全て喘ぎ声になるのが、また腹が立つ。肩の傷口を舌先で抉られて、ぶるりと背を震わせた。

「壁に手を付いてください」

腹を支えるように回された腕が、促すようにくっと持ち上げられる。震える足に力を込めて壁に爪を立てると、性器に手が沿わされた。ぬちゃぬちゃと音を立てて、手が前後する。

「ぁ、あぅ、ふっ、ぁ……っう」

耳の裏側を、熱い舌が這う。ゾクゾクとした痺れを感じて膝を震わせると、性器の先端を強めに握られる。とぷっと溢れ出した精液を手に絡めると、グレンは指を後ろへと持っていった。尻の形を確かめるように撫でられて息が上がる。

「ん……っ」

グレンの指が後孔に沿わされた。それは縁をなぞるように動いたあと、つぷりと内部に侵入してくる。んっ、と異物感に耐えきれず声を上げると、宥めるようにうなじを甘く食まれた。どうせするのなら、もっと手酷くしてほしい。触れてくる手が妙に優しく思えて、背がむず痒くなる。こいつの大事な何かになったような、馬鹿なことが過ぎってしまう。

「ん、ぅ……ぁ、ああ……っ」

指が中を掻き混ぜては入口部分まで引かれて、ぐちゅっと音を立てて押し込まれる。もどかしい感覚に自然と腰が揺れた。これも気持ちがいいが、もっと強烈な刺激が欲しい。ゆらゆらと腰を揺らして、気持ちがいい場所を探る。グレンはもう指を動かしてはいない。俺の背や肩に歯を立てて、抉るような痛みを与えてくる。それでも腰が止まらない。みっともない、痛い、でも気持ちがいい。口の端を涎が伝う。腰を突き出すような姿は、まるで獣だ。

「はっ、はは……そんなにここ弄られるの好きですか?」
「ぅあ!?」

不意にグレンの指が、ぐっとある一点を押し上げた。ビリビリとした快感が爪先から頭の天辺まで駆け抜けて、腰と言わず全身が痙攣する。

「あ…っ、ん、んん……っ」

腹側にある小さな膨らみを優しく擦られたり、叩かれたりすると、堪えきれない喘ぎが唇から漏れた。初めは違和感しかなかった筈なのに、最近では指を突っ込まれただけで期待に腰が震えてしまう。
立っていることすらままならなくなり、ずりずりと壁を引っ掻くようにして床に膝をついた。

「あぅ……っ」

指が引き抜かれて、そんなつもりもないのに惜しむような声が漏れた。奥が疼いて、中途半端な熱が腹の底で燻ぶっているのがわかる。

「蓮……」
「んぐっ」

顎を掴まれて、唇を食べられる。尻に擦りつけられる熱が、俺の肌を焼いてしまいそうだ。口からも下からも、ぐちゅぐちゅと阿呆みたいな音が響く。

グレンの息が荒くなるのがわかる。腰を掴む手に力が籠もって、ぶるりと震えた。背中に熱い飛沫が掛かる。なんなら髪にも付いたかもしれない。

「はぁっ、はっ、ぐれん……」

名前を呼ぶと、押さえつけているのか撫でているのか分からない手が下りてきた。くしゃくしゃと俺の髪を撫ぜたあと、腕を掴んで引っくり返してくる。

そのまま、また後孔に指を突っ込んできた。一気に三本も捩じ込まれて、背をしならせる。指がばらばらに中を刺激すると、視界がバチバチと弾ける様な感覚に襲われた。

「あ、っくぅぅ……ッ」

指がごりごりとしこりを擦る。腹がきゅぅぅと切なく鳴って、グレンの指を締め付けるのが自分でもわかった。爪先にまで力が籠もって、ぴんと伸びる。イきそう。そう思うのに、直前で指が引き抜かれた。

「ここに、欲しくはありませんか?」

お前が、の間違いだろ。そう言ってやりたいが、息が弾んで言葉にならない。

グレンも普段は冷ややかな面持ちを赤く染めて、触れた掌は汗ばんでいる。男二人で汗だくになって何をやってるんだ、と冷静な部分が囁くが、奥が疼くのはどうしようもない。散々、指で弄られた前立腺はもっと強い刺激を求めて腰を震わせてくる。欲しい、もっと太くて固いもので気持ちいい所を擦ってほしい。でも、それをグレンに強請るのは嫌だ。

「……要ら、ない」
「本当に?」

真っ赤になった突起に歯を立てられて、ぞくぞくする。ぷくりと膨れた先端を舌で遊ばれると、痛みに似た痺れが身体を震わせた。視界が涙で滲む。どうにも出来ない疼きに身を震わせて「ぐれん」と名前を呼ぶが、その音は妙に舌っ足らずで気持ちが悪い。自分で自分の声に吐き気すら覚えるが、グレンは赤い瞳を甘く蕩けさせた。

「ほら、舌を出して。キスをしましょう」
「んぶ、ぁ、ふっ」

舌をがぶりと噛まれて、治りかけていた傷口から血が滲む。舌先で歯を突かれて、グレンの意図を察して眉を寄せる。歯先に触れる柔らかな感触には中々慣れない。固く瞼を閉じたまま、ぐっと歯を立てると口内の鉄臭さが増した。

唇が離れると、赤黒い糸が俺とグレンを繋げる。それはぷつっと切れて、滴が俺の胸に落ちた。

「加減が上手くなりましたね」

褒めるように頬を撫でられるが、別に上手くなりたくはなかった。




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