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幕間7※
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セックスは暴力だ。それを俺に教えたのはハインツだった。口に生臭い性器をねじ込まれ、押さえつけられて好き勝手に揺さぶられた。血の滑りを借りて最奥を押し上げられた時の激痛と屈辱は、未だに覚えている。
「あ゛っ、がぁ……かはっ、んぐ……ッ」
ぐっ、ぐっと腰を押し付けられる度に、下肢からはギチギチと縄を締めるような音がする。両側から力任せに引っ張られているような気になるほど、押し入ってくる熱は強烈だった。まるで、灼熱の棒で内側から腹を焼かれているみたいだ。
圧迫感と痛みと、セックスの最中にあるのはそれだけだった。媚びるのは上手くなかったし、いつだって早く終わるのを願いながら固く瞼を閉じていた。
無理やり開かれた身体は悲鳴を上げ、拷問機に掛けられているみたいだ。股裂きとか言うのが異国の国にあった気がするが、まさにそれだ。ただ痛いだけの時間。
教会に引き取られた当初は、みんな同じ扱いだった。けれど、魔力を持たない俺は次第に遠ざけられ、友達だと思っていた奴は気づけば一人も残っていなかった。仕方がないことだ。みんな綺麗なままなのに、俺だけどんどん汚れていく。きっと、その汚さが皆は耐えきれなくなったのだろう。頭では理解していても、憎しみが湧いた。楽しそうに笑う彼らを見るたび、全て壊れてしまえと願っていた。だからきっと、これは仕方がないことだ。友達の不幸を願う俺は醜い。そんな人間に、幸せなんて訪れるわけもない。
揺さぶられながら、痛みから気を反らすために考え事をしていると腰を掴まれた。奥を抉られて、腹の中が熱くなる。ハインツは緩く腰を揺らして一滴まで俺の中に放つと、ずるりと性器を引き抜いた。これで三回目だ。流石に、今日はこれで終わりだろうか。
終わりの安堵から息をつくと、前髪を乱暴に掴まれた。痛みに顔を歪めながらも、不快感からハインツを強く睨みつける。
「……お前は、本当に折れないな」
娼館に配属された者の中には、予め尻を解して痛みを和らげたり、客の望みに添うことで対応を緩和させたりする奴もいるらしい。それが悪いとは言わないが、俺はする気にはなれなかった。自分勝手に押しつけてくる行為を受け入れるようで嫌だったし、何より此処に来る奴らへの嫌悪感が拭えず、相変わらず痛いばかりのセックスをしている。多分、前者の方が賢い生き方なんだろう。変な自尊心を未だに抱えている俺が馬鹿なのだと分かっていても、それでもまだ捨てられないでいる。
「ヴィクター……お前の目は綺麗だ。どんな痛みを与えようが、初めて会ったときから変わらない」
顎を捕まれ、不快感から振り払った。けれど、直ぐに押さえつけられて無理に唇を割り開かれる。熱い舌に口内を蹂躙されるのは、只々不快でしかなかった。
「もう一度しようか。私の可愛いヴィクター……」
誰が貴様のものだ。そう悪態を付いてやりたかったが、言葉を発すると喜ばせるだけだと分かっているので口を噤む。傷口を抉るように腰を揺らされ、俺は苦痛に呻いた。
鏡の前に立ち、自分の身体を見下ろす。肌には赤が散りばめられ、いわゆる所有痕が至る所につけられていた。今日の客は、俺が初めての遊び相手だったらしく、ベッドに寝転がっているだけの俺を揺さぶって幸せそうだった。どれだけ中を刺激されても感じられない俺からしたら、必死になって腰を振る男が若干哀れにも見えたが相手は満足したらしい。気持ちよく中に出してから、キスをして部屋を出ていった。
また来るとは言っていたが、恐らくそのうち飽きるだろう。俺よりも良くしてくれる奴は、此処には沢山いる。それよりも、と鏡に向き直り、深く溜息をついた。
「……不味いな」
ハインツは、他の客の後だと余計に酷い抱き方をする。吐くほど深く喉奥を犯してきたり、慣らさずぶち込んできたり色々だか辛い事に変わりはない。好かれるような事はしていないし、さっさと飽きれば良いのに、初めの日からずっと俺を指名してくる。
「ヴィクター」
聞き慣れた声が背を打ち、諦観と共に振り返る。ハインツは俺の裸を見るなり一瞬だけ動きを止めたが、直ぐに扉を踏み越えてきた。爪が食い込むほど強く肩を掴まれて、痛みに眉を寄せる。
またか。うんざりしつつもハインツを見ると、青褪めた顔が近くにあって少し驚いた。
「誰だ……誰がこんな……」
赤い痕を辿る指先が震えていた。今まで、これほど所有痕を付けてくる奴は居なかったから驚いたのだろうか。それにしても反応が大袈裟な気もする。
今までに見たことがないほど動揺している様子に、思いついてしまったことがあった。ほんの出来心だった。少しくらい普段の意趣返しがしてやりたかっただけだ。どのみち、今より悪い方になんて転がりようもない。俺は、ハインツを馬鹿にするように意識的に口の端を持ち上げた。
「気持ちよかった」
「……何だと?」
普段、呻き声しか発しない俺が喋ったものだから、ハインツは目を丸くした。そうして瞳孔を開いたまま、奇妙に口元に笑みを刻んで俺を見る。歪に引き攣った唇の端が、ハインツの苛立ちを伝えてきた。
ああ、少し気分がいい。
「彼とのセックス、凄い気持ちがよかった」
「……っ!」
ハインツは拳を振り上げた。痛みを覚悟して腕で顔を庇うが、いつまで経っても衝撃は襲ってこない。そろそろと目を開けると、泣きそうな顔をしたハインツがいて面食らう。ハインツは握った拳を震わせたものの、振り下ろすこともなく項垂れて出ていってしまった。
「……何なんだ?」
その日は久々に誰の相手もしなくて良かったので、尻も痛くなくて幸せな気持ちで眠りについた。ハインツも来なくなり、無駄に痛い思いをすることも少なくなって安堵していた。
しかし、やっと飽きてくれたのかと思っていたのに、ハインツは突然また俺の元へと通い出した。けれど、痛みを覚悟していたのに、ハインツの態度は真逆のものへと変わっていて酷く驚いたものだ。
「ヴィクター、気持ちいいかい?」
何なんだ、これは。ぱちゅっ、ぱちゅっと結合部分から、濡れた音が響く。充分に解された後孔は痛みを感じなかったが、快感を拾う事もなかった。何せ、初体験の時の痛みが強烈すぎて、相手が誰であろうとセックス自体が気持ちよくない。多分、快感よりも緊張や恐怖が上回るせいだろう。特に返すこともなく静かに見つめると、ハインツはくしゃりと顔を歪めた。
「はっ、はは……答えたくないか……。そう、だよな……」
ハインツは掠れた声で呟くと、唇を重ねてきた。
「……誰にも邪魔はさせない。引き取りを反対する奴はもういないからね。私と一緒に暮らそう」
揺さぶられながら、俺は漸く自分の失策を悟る。あの時の意趣返しが、こんな形で帰ってくるとは思いもしていなかった。
ハインツは息を荒くしながら、俺の腰を掴んで繋がりを深くさせる。そして、上から叩きつけるように押し付けてきた。濁った音が響いて、内蔵が突き上げられる。んぐっ、と色気のない声が押し出されて、圧迫感に眉を寄せた。
「君は、私の伴侶になるんだ。ここでは使えないが、屋敷に催淫剤を用意してある。あんな男より、いっぱい気持ちよくしてやるからね」
限界まで張り詰めた性器が腹の中で跳ねて、熱い飛沫が奥に叩きつけられる。ハインツは目を細めると、優しく俺の頬を撫でた。
「……初めからこうしておけば良かった。無理にでも物にしていれば良かったんだ」
俺は、こいつの物になるのか。胸を満たしたのは幸福感ではなく諦観だ。この世の幸福を手にしたように笑うハインツと反比例して、俺の気分は沈むばかりだった。
俺はずっと、他人に依存しなければ生きてはいけないのだろうか。伸ばした手の先にあるのは無機質な天井だけだ。俺は、此処から飛び立てない。目の前にある現実は、冷たく俺を苛んだ。
「あ゛っ、がぁ……かはっ、んぐ……ッ」
ぐっ、ぐっと腰を押し付けられる度に、下肢からはギチギチと縄を締めるような音がする。両側から力任せに引っ張られているような気になるほど、押し入ってくる熱は強烈だった。まるで、灼熱の棒で内側から腹を焼かれているみたいだ。
圧迫感と痛みと、セックスの最中にあるのはそれだけだった。媚びるのは上手くなかったし、いつだって早く終わるのを願いながら固く瞼を閉じていた。
無理やり開かれた身体は悲鳴を上げ、拷問機に掛けられているみたいだ。股裂きとか言うのが異国の国にあった気がするが、まさにそれだ。ただ痛いだけの時間。
教会に引き取られた当初は、みんな同じ扱いだった。けれど、魔力を持たない俺は次第に遠ざけられ、友達だと思っていた奴は気づけば一人も残っていなかった。仕方がないことだ。みんな綺麗なままなのに、俺だけどんどん汚れていく。きっと、その汚さが皆は耐えきれなくなったのだろう。頭では理解していても、憎しみが湧いた。楽しそうに笑う彼らを見るたび、全て壊れてしまえと願っていた。だからきっと、これは仕方がないことだ。友達の不幸を願う俺は醜い。そんな人間に、幸せなんて訪れるわけもない。
揺さぶられながら、痛みから気を反らすために考え事をしていると腰を掴まれた。奥を抉られて、腹の中が熱くなる。ハインツは緩く腰を揺らして一滴まで俺の中に放つと、ずるりと性器を引き抜いた。これで三回目だ。流石に、今日はこれで終わりだろうか。
終わりの安堵から息をつくと、前髪を乱暴に掴まれた。痛みに顔を歪めながらも、不快感からハインツを強く睨みつける。
「……お前は、本当に折れないな」
娼館に配属された者の中には、予め尻を解して痛みを和らげたり、客の望みに添うことで対応を緩和させたりする奴もいるらしい。それが悪いとは言わないが、俺はする気にはなれなかった。自分勝手に押しつけてくる行為を受け入れるようで嫌だったし、何より此処に来る奴らへの嫌悪感が拭えず、相変わらず痛いばかりのセックスをしている。多分、前者の方が賢い生き方なんだろう。変な自尊心を未だに抱えている俺が馬鹿なのだと分かっていても、それでもまだ捨てられないでいる。
「ヴィクター……お前の目は綺麗だ。どんな痛みを与えようが、初めて会ったときから変わらない」
顎を捕まれ、不快感から振り払った。けれど、直ぐに押さえつけられて無理に唇を割り開かれる。熱い舌に口内を蹂躙されるのは、只々不快でしかなかった。
「もう一度しようか。私の可愛いヴィクター……」
誰が貴様のものだ。そう悪態を付いてやりたかったが、言葉を発すると喜ばせるだけだと分かっているので口を噤む。傷口を抉るように腰を揺らされ、俺は苦痛に呻いた。
鏡の前に立ち、自分の身体を見下ろす。肌には赤が散りばめられ、いわゆる所有痕が至る所につけられていた。今日の客は、俺が初めての遊び相手だったらしく、ベッドに寝転がっているだけの俺を揺さぶって幸せそうだった。どれだけ中を刺激されても感じられない俺からしたら、必死になって腰を振る男が若干哀れにも見えたが相手は満足したらしい。気持ちよく中に出してから、キスをして部屋を出ていった。
また来るとは言っていたが、恐らくそのうち飽きるだろう。俺よりも良くしてくれる奴は、此処には沢山いる。それよりも、と鏡に向き直り、深く溜息をついた。
「……不味いな」
ハインツは、他の客の後だと余計に酷い抱き方をする。吐くほど深く喉奥を犯してきたり、慣らさずぶち込んできたり色々だか辛い事に変わりはない。好かれるような事はしていないし、さっさと飽きれば良いのに、初めの日からずっと俺を指名してくる。
「ヴィクター」
聞き慣れた声が背を打ち、諦観と共に振り返る。ハインツは俺の裸を見るなり一瞬だけ動きを止めたが、直ぐに扉を踏み越えてきた。爪が食い込むほど強く肩を掴まれて、痛みに眉を寄せる。
またか。うんざりしつつもハインツを見ると、青褪めた顔が近くにあって少し驚いた。
「誰だ……誰がこんな……」
赤い痕を辿る指先が震えていた。今まで、これほど所有痕を付けてくる奴は居なかったから驚いたのだろうか。それにしても反応が大袈裟な気もする。
今までに見たことがないほど動揺している様子に、思いついてしまったことがあった。ほんの出来心だった。少しくらい普段の意趣返しがしてやりたかっただけだ。どのみち、今より悪い方になんて転がりようもない。俺は、ハインツを馬鹿にするように意識的に口の端を持ち上げた。
「気持ちよかった」
「……何だと?」
普段、呻き声しか発しない俺が喋ったものだから、ハインツは目を丸くした。そうして瞳孔を開いたまま、奇妙に口元に笑みを刻んで俺を見る。歪に引き攣った唇の端が、ハインツの苛立ちを伝えてきた。
ああ、少し気分がいい。
「彼とのセックス、凄い気持ちがよかった」
「……っ!」
ハインツは拳を振り上げた。痛みを覚悟して腕で顔を庇うが、いつまで経っても衝撃は襲ってこない。そろそろと目を開けると、泣きそうな顔をしたハインツがいて面食らう。ハインツは握った拳を震わせたものの、振り下ろすこともなく項垂れて出ていってしまった。
「……何なんだ?」
その日は久々に誰の相手もしなくて良かったので、尻も痛くなくて幸せな気持ちで眠りについた。ハインツも来なくなり、無駄に痛い思いをすることも少なくなって安堵していた。
しかし、やっと飽きてくれたのかと思っていたのに、ハインツは突然また俺の元へと通い出した。けれど、痛みを覚悟していたのに、ハインツの態度は真逆のものへと変わっていて酷く驚いたものだ。
「ヴィクター、気持ちいいかい?」
何なんだ、これは。ぱちゅっ、ぱちゅっと結合部分から、濡れた音が響く。充分に解された後孔は痛みを感じなかったが、快感を拾う事もなかった。何せ、初体験の時の痛みが強烈すぎて、相手が誰であろうとセックス自体が気持ちよくない。多分、快感よりも緊張や恐怖が上回るせいだろう。特に返すこともなく静かに見つめると、ハインツはくしゃりと顔を歪めた。
「はっ、はは……答えたくないか……。そう、だよな……」
ハインツは掠れた声で呟くと、唇を重ねてきた。
「……誰にも邪魔はさせない。引き取りを反対する奴はもういないからね。私と一緒に暮らそう」
揺さぶられながら、俺は漸く自分の失策を悟る。あの時の意趣返しが、こんな形で帰ってくるとは思いもしていなかった。
ハインツは息を荒くしながら、俺の腰を掴んで繋がりを深くさせる。そして、上から叩きつけるように押し付けてきた。濁った音が響いて、内蔵が突き上げられる。んぐっ、と色気のない声が押し出されて、圧迫感に眉を寄せた。
「君は、私の伴侶になるんだ。ここでは使えないが、屋敷に催淫剤を用意してある。あんな男より、いっぱい気持ちよくしてやるからね」
限界まで張り詰めた性器が腹の中で跳ねて、熱い飛沫が奥に叩きつけられる。ハインツは目を細めると、優しく俺の頬を撫でた。
「……初めからこうしておけば良かった。無理にでも物にしていれば良かったんだ」
俺は、こいつの物になるのか。胸を満たしたのは幸福感ではなく諦観だ。この世の幸福を手にしたように笑うハインツと反比例して、俺の気分は沈むばかりだった。
俺はずっと、他人に依存しなければ生きてはいけないのだろうか。伸ばした手の先にあるのは無機質な天井だけだ。俺は、此処から飛び立てない。目の前にある現実は、冷たく俺を苛んだ。
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