60 / 74
三章
「黄金のエリクサー」その④
しおりを挟む「デケーー、あの黒いドラゴン、十メートル以上あるぞ」
「主様、あれは黒い炎を吐く黒炎竜です」
「それって強い奴なの?」
「野生なら五メートル程の大きさで群れでいるので面倒ですが、あれは魔造なので一体なら脅威ではありません」
「ターンしてこっちに向かってきてるけど、任せていいのかな」
「はい。問題ありません」
流石アイリスさん。激強クリーチャーにしか見えないドラゴンが相手でも眉一つ動かさず無表情の余裕っぷり。どこまでも頼りになるぜ。
アイリスがロックオンするように黒炎竜を見上げた時、右手の辺りがピカッと光る。すると手には鞘から抜き放たれた剣が握られていた。
まるでアニメに出てくる派手な聖剣のようで、素人冒険者でも魔力の強さが理解できる。とにかく存在感が半端ねぇよ。間違いなく恐ろしい武器だ。
でも鎧や盾は封印石のペンダントから出さず装備していない。フル装備で戦う相手ではないということだな。
アイリスの体がふわっと浮くと、そこから一気に突風の如く15メートル程まで急上昇する。
詠唱したりスキルや魔法が発動した、なんて感じはなく、鳥が空を飛ぶのが当たり前のように、ごく自然にアイリスは飛んだ。
あれのどこが戦闘時にちょっと飛べるだけなんだろ。あの速さで飛んで戦えるって凄いんですけど。
俺があんな風に飛べるようになるにはまだまだ時間がかかる。まずは商人のレベルをMAXにして、それからバトルに特化した職業に転職してまたレベル上げだからな。カッコよく空中戦できるまでの道は険しいぜ。
「おっ、先制はドラゴンか」
猛然と迫るドラゴンは急停止すると大きく口を開き、黒い炎を火炎放射のようにアイリス目掛け吐き出す。
炎は凄まじい勢いだがアイリスに焦る様子はなく既に構えていた剣を炎にカウンターを合わせるように振り抜く。
空を切り裂く音と同時に衝撃波のような巨大な斬撃が繰り出され、凄まじい黒炎をいとも簡単に消滅させた。更に斬撃はあの大きいドラゴンをのけ反らせ少し後退させる。
「スゲーな、剣を振っただけであれだもん」
「ご主人様も同じような感じなのにゃ」
「ご主人はもっと凄いと思います」
「そ、そうかなぁ……」
あらためて自分のチートさを感じた。
この時アイリスは臆することなくドラゴンの胸元まで間合いを詰めており、透かさず剣を繰り出す。
「フラッシュ・フリージング」
アイリスが小さな声で技の名前らしきものを発した瞬間、直撃した剣撃がカメラのフラッシュのように光り、眼前の斬られたドラゴンは一瞬でカチコチに凍結し氷に覆われた。そして落下をする前に氷とその中のドラゴンは粉々にクラッシュされて消滅する。
黒炎竜とかいうドラゴン、本来は物凄く強いんだと思う。でも実力差がありすぎてザコにしか見えない。色々スキルとか魔法を使って戦うんだろうけど、見せ場なく死亡だよ。なんだか可哀想。てかアイリスさん怖っ。
「主様、終わりました」
アイリスは剣をペンダントに収納し、ゆっくりと降りてきて穏やかに小さく言った。
「ら、楽勝だったね。てか聞こえなかったけど、なんていう技?」
「ただの凍結斬りですが、勇者様がフラッシュ・フリージングと名前を付けてくださいました」
「へぇー、そうなんだ」
名付けたのは父さんかよ。まさに瞬間冷凍だな。
「それって魔法やスキルと合わせた剣技なの?」
「私自身のスキルや魔法は使っていません。賢者様と有名な鍛冶職人が作ったこの剣自体が特殊で、様々な属性の力を発動できます」
「そうなんだ……」
やっぱトンでもないチートソードだったか。これはもっと武器の事を詳しく勉強しないと。自分の店で売る商品を造る参考になる。
しかし剣だけの力であれなら、戦士のスキルとか上級剣技を合わせたらどれほど凄い威力になるんだろ。一度は全力を見てみたいかも。まあアイリスが本気を出して戦う相手なんてそうはいないだろうけど。
アイリスは伝説の賢者に無茶苦茶なドーピングされてるからな。ほぼ魔改造だよ。更に究極チート装備。だから一人でも無敵だ。因みにアイリスのHPは恐ろしい数値になっている。
戦士はレベル99でHPは1000ぐらいなのだが、様々な特殊魔法やスキル、レアアイテムを使いまくり、限界突破で3200になっていた。
防御力は少しだけ平均値超えの1000ってとこだが、普通に凄いレベルだ。俺の超人の体と同じで簡単にはダメージを負わない。
本来はあまり上がらないMPは魔道士のレベル99の数値を遥かに超える1800だ。戦士だから魔法はほとんど使えないけどMPを大きく消費する特殊スキルや剣技は使いたい放題。
もうラスボスの魔王になれますよ。マリウスはいったいどんな裏技を使ったのやら。恐ろしい奴だ。
俺のHPなんて50すらないからね。所詮商人なんて村人Aだし。
「ご主人様、原料が落ちてたので拾ってきたにゃ」
「ご苦労。で、なんだった?」
「銀色のピカピカの塊が落ちてたにゃ」
「おっ、それ銀の塊じゃん」
鑑定眼で見ると間違いなく銀で、約一キロある。このまま売っても十万円ほどになる。
だが銀食器や武具の装飾に使って商品にして売った方が儲かる。今は色々と武器作りの事を考えているし、これはいい物が手に入った。
「この辺りからは強いモンスターが出てくるようだし、みんな気を付けるように」
「はいにゃー‼」
「御意」
「はい」
っていうかアイリスさんがいるので何の心配もないけどね。ただアンジェリカ様が出てこなければだけど。
ここからはまるで荒野に見えるほど超巨大な一枚岩の上を西の方角へと進む。
二キロほど歩いたあたりで、何やら建物の残骸、というか基礎とか柱を発見した。
「ここに町があったって感じだな」
どうやら地図の遺跡まで辿り着いたようだ。周囲を見渡すとかなり広い範囲に建物の跡がある。
少し離れた場所には、ほとんど崩れているが神殿らしき物もあった。これだけ広いと探すの大変そうだ。
「本当に賢者のアジトがあるか分からないけど、手分けして探そう。何か怪しいものがあったり気付いたら教えてくれ」
「はいにゃ、お任せなのにゃ」
「御意」
「はい」
地図があって黄金のエリクサーの噂もあるのに、これまで発見されてないなら簡単には発見できないかもな。
で、あっという間に一時間経過して、アジト発見どころか手がかりすらなし。
とりあえず王道の井戸でも探すかな。まあ何もないだろうけど、あのマリウスの事だ、もしかしたらがあるかもしれない。
すでに何個か井戸らしきものは見つけてある。岩山の上なので掘ったところで水なんて出ないけど、底に召喚や移動系の魔法陣をセットしておけば水を運んでこれる。恐らくはそういう仕掛けの井戸だと思う。
一つ目の井戸は円の直径が二メートルありかなりの大きさだ。深さは十メートル程で底が見えている。俺なら簡単にダメージなく飛び降りられるし、よじ登ることもできる。
なので三人に声をかけずに井戸の底へ飛び降りてみた。
「ベタな横穴とかはないみたいだな」
井戸の底も側面も、大中小の様々な大きさの平たい石とセメントのようなもので隙間なく舗装されている。
テンプレだと一つだけ違う形の石があったりするんだけど……って本当にあるじゃん⁉
「すぐ見つかったけど、これが仕掛けかはまだ分からないよな」
とか言ってドキドキしながら、明らかに自然ではない円い石をボタンを押すように押し込んでみる。
「あれ? 動かない……ってなんにもないのかよ⁉」
普通に騙されたぁー‼ 誰も見てないけど超恥ずかしいよ。
そりゃそうだよな。こんなに簡単なら誰かが見つけてるって話だ。いったい何人がここで心を弄ばれたのやら。絶対マリウスの仕業だ。「引っかかったなバーカ」って言われているようで腹が立つ。だがこんなのがあるのなら、本当にここにアジトがあるかもしれない。
「ご主人、一通り見て回りましたが怪しいものはありませんでした」
井戸から出たタイミングでスカーレットが側にきて言った。
「ごめんなさいなのにゃ。クリスチーナもダメだったのにゃ」
クリスは申し訳なさそうな顔で猫耳を手前に下げていた。てかダメなのは想定内ですよクリスさん。
アイリスはまだ戻ってきていないけど、マリウスの事は一番知っているわけだし期待しよう。
それから残りの井戸も念入りに調べた。すると同じような感じで、一つだけ違う星型の石があったり、違う色の石があったりした。だが全てフェイクだった。
おいコラマリウス、ふざけんじゃねぇよ。ワザとらしいんだよ、このお調子者が。
でも確信したぜ、この場所にお前のアジトがあるということが。絶対に見つけてお宝ゲットしてやるからな。
「あるじ様、賢者様のアジトは発見できませんでした」
アイリスが戻ってきたが残念な結果だった。今回のイベントは難易度高いのかも。
「なあアイリス、一緒に居た時に使ってたアジトはどんな感じだったの、仕掛けとかあるんだろ」
「賢者様はアジトとなる建物の周りを特殊な結界魔法で覆っていました。外からは見えず存在も感知できないもので、普通には結界内には入れません。更に空間が遮断されて繋がっていないため、外ではその場所に何も存在せず、素通りすることもできます」
スゲーなその結界魔法、普通にチートじゃん。
「となると、この遺跡にアジトがあっても発見できないよな」
「はい。難しいと思います」
「ちょっと待てよ。マリウスはもう死んでると思うけど、それでも魔法は消えないものなの?」
「普通なら魔力が尽きて魔法は解除されると思います。でも賢者様は魔石や魔力の強いモンスターを封じた封印石を使って魔法を発動させていたので、ご本人が居なくなっても魔法が消えない可能性があります」
「そういえば、魔石や封印石はそんな使い方もできるんだよな」
乾電池とかバッテリーみたいなものかな。魔法やアイテムも奥が深い。っていうかマリウスさん、自分の魔力使わないとか鬼畜だな。
「前はどうやってアジトに入ってたの?」
「賢者様と一緒の時は何もしなくても入れます。一人の時は通行手形となるアイテムを持っているか、決められた手順を踏んで入ります」
「賢者も居ないしアイテムもないから、その手順とやらが鍵だな。で、どんな手順」
「森の中にあった賢者様のお屋敷の場合は、決められた道を通らないと辿り着けません。かなり複雑で前もって知っていなければお屋敷に入るのは不可能でした。ただ小さなアジトなどは簡単な道筋だったり、物を動かしたりするだけで入れました」
「そっか。じゃあここのは簡単な手順であることを願おう。でもまずはその手順を試す場所を探さないとな」
「主様、少しだけ気になる場所があります」
「おっ、いいねぇ。よし、そこに行ってみよう」
0
お気に入りに追加
131
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?
みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。
なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。
身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。
一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。
……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ?
※他サイトでも掲載しています。
※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる