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二章

「ダンジョン合宿と謎の石像」その③

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「ご主人、これはどういう状況でしょうか」
「恐らくドラゴンが最後の仕掛けだと思うから、通路にある罠が除去されたんじゃないかな」

 超人パワーという反則技を使ったけど、他の石像たちも役割があったんだろうな。例えばドラゴン像を動かすためとかの。

「じゃあ先に進めるのにゃ。きっと宝箱が山積みであるにゃ」
「だといいけどな。とりあえず先頭は俺が歩くからクリスは何も触らず転ばないように、真ん中を歩こうか」
「はいにゃ。お任せなのにゃ」

 クリスは招き猫のようなポーズをして言った。
 飼い猫って自分が可愛い事を知ってて人間が喜ぶようなポーズをするって、動物番組に出ていた飼い主たちが言ってたけど、最近それが分かるようになってきた。
 今のポーズも褒めてほしくて自然と出たんだと思う。てか体操服とブルマ姿だし可愛すぎる。まあ底抜けのバカだけどな。
 そしてそんな裏心理を読んでいる俺は勿論、褒めませんよ。何も見ていないようにスルーします。

「スカーレット、殿しんがりは頼んだぞ」
「御意」

 先頭で警戒しながら通路へと入り、ゆっくりと先に進んだ。
 通路はダンジョン同様に魔法の力で明かりが点いており、今のところトラップはない。
 クリスを連れているのにトラップが一つも発動しないという事は、無いと判断していいだろう。
 何事もないまま奥へ進むと広い空間に出る。そこは天井も高くサッカーフィールドぐらいあり、床も壁も舗装されておらず、洞窟系ダンジョンに似ていた。

「物凄く広いけど、巨大な岩山の中なのか? まだ地下じゃないよな」

 通路からその空間への合流地点には、また石碑があった。

「この先に試練あり、って書いてあるけど、もう見たら何が起こるか分かりますけどね」

 広い空間に用意された試練に打ち勝てば先に進めるようだな。

「にゃにゃっ⁉ 凄いのにゃ、ゴブリンがいっぱいいるにゃ」

 バトルフィールドとなる空間の奥の方に、クリスが言ったようにゴブリンがいる。だがそれらは石像のゴブリンだ。数は百体ぐらいはある。
 俺たちが石碑の横を通りバトルフィールドに足を踏み入れると、ゴブリンの石像の上に大きな魔法陣が現れた。
 魔法陣が強く輝くと、神秘的に七色に光る雫が召喚され、ぽつぽつと雨が降るようにゴブリンの石像に落ちる。すると石像はゴーレムとかではなく本物のゴブリンに変わった。

「こいつら石化していたのか」

 ゴブリンの身長は100から120センチで、体の色はこげ茶色だから緑の奴らより強いタイプだ。
 武器は持ってないが牙と爪は大きく鋭いから用心しないといけない。でも戦い慣れてきた今の俺とスカーレットなら簡単に倒せる相手だ。
 さっきオーク型のゴーレムを倒して手に入れた、柄の長い両手持ちの斧をウエストポーチの魔法空間から取り出す。ちょっとサイズが大きいけど超人パワーがあるので難なく使いこなせる。

「クリスはいつも通り下がってろ」
「はいにゃ。全力で逃げるのにゃ」

 相変わらずバトルの時は潔い引きっぷりだ。てか気を引き締めなくちゃいけないのに、吹き出しそうになったじゃねぇかよ。

「スカーレット、一気に片付けるぞ」
「御意」

 俺は一直線に突っ込んでいき、リーチがあって刃が巨大な斧を横薙ぎに振り抜き、前衛に居た三匹のゴブリンを一撃で倒した。
 斧の頑丈さと威力は中々のものだ。武器として出来が良い。本当に売買価格が幾らになるか楽しみだ。
 切り裂かれ完全にライフがゼロになったゴブリンの体は透明になっていき消滅した。煙も出さず原料も残さない、こいつらは魔造ではなく世界の歪み、負のエネルギーが生み出す野生だったようだ。

 この後はバーサーカー状態でやる気満々のゴブリン達が次々に襲い掛かってくる。
 広いフィールドを活かし動き回りながら、力任せに長い斧を振り回しゴブリンを近付けさせず撃破していく。
 スカーレットはスピードをいかして俊敏に動き、ゴブリン達を撹乱しながら次々に倒す。
 思った以上に楽勝で、あっという間に百匹ぐらいいたゴブリンの群れを全滅させた。しかし原料がゲットできないのは寂しいし懐事情的に痛い。まあ少ないとはいえ経験値は入るから良しとするけどな。
 その場にいたゴブリンが全て居なくなると仕掛けが発動し、フィールド奥の地面が動き下の階への階段が現れる。
 色々とテンプレなので分かりやすくていいけど、この階に居たのがオーク型ゴーレムより弱いゴブリンだったのが気になる。
 製作側から見たら、まずは小手調べって感じなのかもしれない。進んでいくと同じバトルフィールドがあって、少しずつ敵が強くなっていくんじゃないの。

「ご主人、罠の可能性もありますが、このまま行きますか?」
「そうだなぁ、もうここまで来たら乗せられて、流れのままでいいかな」
「ではバカ猫を先に行かせましょう。罠があれば全て発動させて餌食になるはず。そうすれば後から行く者は安全です」
「じゃあそうしようか」
「にゃっ⁉ そんなことしたら死んじゃうのにゃ。実はクリスチーナは凄く弱いのにゃ」
「知ってますけどっ‼ てかそれを知らない奴がここに居るかね‼」
「にゃん?」

 クリスはまた可愛くポーズをとってとぼけた顔をした。

「にゃん、じゃねぇよ」

 また猫の可愛さ前面に出して誤魔化す気だな。この可愛いだけの天然星人は侮れない。

「たまにはご主人の役に立て。ほら、さっさと行って豪快に死んでこい」
「スカーレットちゃん酷いのにゃ。猫もごく稀に役に立つのにゃ」

 自分で稀にとか言っちゃったよ。まあ自覚はあるのね。

「いまご主人の役に立てと言っている」
「まあまあスカーレットさん、その辺りで許してあげてよ。たぶん罠はないと思うし」
「はい。ご主人がそうおっしゃるなら」

 結局は俺が先頭で長い階段を下りた。
 下のフロアは上と同じような大きさのバトルフィールドで、奥の方に身長二メートル程で筋骨隆々なトロールの石像が三体ある。
 フィールドに足を踏み入れると石像の上に魔法陣が現れ、また七色の雫が召喚されて石化が解け、本物のトロールになった。
 体の色はノーマルの緑だが、気配と魔力の大きさが今までのトロールと違う。ハイトロールと同じぐらいの強さだと思う。まあその程度なら敵じゃないし、ここも楽勝で突破できる。
 後はトロールが持っている武器だけど、いつものハンマーじゃなく、巨大な金属バット型の黒い金棒だ。こりゃ凄く重くて破壊力がありそう。

「スカーレット、お前は接近して二匹を引き付けてくれ。俺はその隙に各個撃破していく。パワーあるから気を付けろよ」
「御意」

 スカーレットは疾風の如く移動してトロールとの間合いを詰めて、軽く斬りかかってはすぐに下がって二匹を上手く引き付ける。
 俺は一対一になったトロールを、容赦なく斧の一撃で倒した。相変わらずどのトロールも攻撃パターンが同じなんだよな。大きく上段に武器を振り上げるから隙だらけだ。簡単に倒せる。だけど勇気が必要でもある。
 何故なら懐に飛び込まないといけないからだ。初心者冒険者なら恐怖を感じるだろうから難しいと思う。ただ攻撃魔法や弓なら別だけどね。
 トロールは魔造だったようで煙を出して消滅する。その場には武器の金棒と原料の銅の塊みたいなものが落ちていた。そして残りの二匹も同じやり方で各個撃破する。
 フィールドからトロールが居なくなると仕掛けが発動し、また下への階段が現れた。

「今のところ楽勝だけど、そろそろ相手も強くなるだろうし、二人とも用心するように」
「御意」
「はいにゃ。お任せなのにゃ」

 この時、クリスは既に原料を拾い集めていた。どうやら三つとも銅の塊のようだ。
 金棒は重くてクリスは持てないから、俺が拾って自分のウエストポーチの魔法空間に入れた。
 因みに金棒を商人スキルの鑑定眼で確認するとこうなる。

 【素材・鉄】
 【販売価格・???】
 【買取価格・中銅貨一枚~二枚】
 《魔力・特殊能力なし・ノーマルタイプ》

 中銅貨は千円ぐらいだから売っても安い。まあ拾った物だし、冒険者の武器としては重すぎて使い道もない。何よりハンマーと同じで数が出回っていると考えられる。
 それにしても、この世界では魔法で色々できるからか、鉄の価値が思ってたより低い。てかそもそも向こうの世界の金属の価値なんて詳しく知らないや。もしかしたら、これでも高いのかもな。
 ただ裏技として、素材そのままなら低価格でも、何かしらの売れ筋商品にすれば、より高く売ることができる。それに今の鑑定が絶対とは限らない。商人レベルが上がればスキルの鑑定眼の精度が上がり、鑑定内容が大きく変化する場合もある。

「次の相手は流れ的に、リザードマンかワーウルフだろうな」

 階段を下り始めながら言った。

「凄いのにゃ、ご主人様はなんでも分かるのにゃ」
「ただ一階にあった石像が、弱い順に出てくると思っただけだよ」
「きっとご主人の考え通りだと思います。なので次はリザードマンかと」
「そっか、ワーウルフの方が強いんだな」

 初対決になるし、戦い方を知らないから油断は禁物だ。
 次の試練の場であるバトルフィールドに辿り着くと、そこにはリザードマンとワーウルフの石像が一体ずつあった。
 さっそく魔法陣が現れ、石化を解く七色の雫が召喚され二つの石像は元の姿へと戻った。
 リザードマンは身長二メートルで二足歩行の人型のトカゲという感じでお尻には太くて長い尻尾がある。
 体は濃い緑で頑丈そうな鱗の肌をしている。更に軽装備の鎧と兜を装備して三又の槍を持っていた。ぱっと見、牙もあるし接近した時には噛みつきと尻尾攻撃に警戒が必要だ。

 ワーウルフも身長は二メートルで、二足歩行の人型の狼という感じ。
 全身の毛は長めで色はシルバーとホワイトのツートンカラー、体は毛の上からでも分かるほどのマッチョで、パワーもスピードもありそう。
 足は膝から下が獣系で、イメージ通りの完璧な獣人型モンスターだ。武器は持っていないが、とにかく大きく鋭い牙と爪に要注意である。
 石化が解かれた二匹は目が赤く光っておりバーサーカー状態で、すぐに襲い掛かってくる。

「スカーレット、引き付けるだけで十分だから無理はするなよ」
「御意」

 スカーレットのレベルは20以上だけど、盗賊はバトルに特化した冒険者職じゃないから、どっちが相手でも簡単には倒せないはずだ。
 できれば一撃でどちらかを倒せたら、スカーレットに負担がかからないからいいんだけどな。
 ただ俺的には、この二匹もそれほど強さは感じない。といっても、全身から放出されている魔力の強さは間違いなく上級のモンスターだ。
 謎の超人パワーがチートすぎて感覚がマヒしている。ワーウルフなんか牙を剥き出しガルガル唸っててスゲー怖そうなのに恐怖を感じてないもん。

 俺の方に来たのはリザードマンで、槍の間合いに達した瞬間に攻撃してくる。素人では捌けないのは分かっているので、素早く下がり間合いを開ける。
 こっちもリーチのある武器を持っているし、隙があれば一撃で倒せるはずだ。まあその隙を作り出すのが難しいのだが、ふと過去の戦いを思い出した。
 まだ全然バトルに慣れていない時に、強めにダガーナイフを振り抜いただけで斬撃のような衝撃波が出たことがあった。あれって今でも出せるはずだ。ダメージを与えられなくても衝撃で隙は作れる。
 その時、距離を取って横に回り込もうとした俺にリザードマンは火炎放射の如く凄まじい炎を吐いて攻撃してきた。だが回避せずお構いなしに、衝撃波を飛ばすために斧を大きく振りかぶり、炎にカウンターを合わせるようにそのまま振り抜く。
 斧からは想像を超える衝撃波が放たれ、凄まじい勢いで炎を蹴散らしリザードマンに直撃し、数メートル吹き飛ばした。
 どうやら力の入れ方だけでなく、強く意識する、というかイメージすれば自在に出せるようだ。ただ、はっきり言って魔力とかがどの程度技に関係しているかはよく分からない。
 しかしこの間よりスゲー威力になってる。こりゃ使える立派な技だ。やっぱ魔力も一緒に放出されてるのかも。あと武器が大きいのもあるけど、この威力は俺自身が短期間で強くなってるからとも考えられる。

「一気に終わらせてやる」

 この隙に猛ダッシュして間合いを詰め、立ち上がろうとしていたリザードマンを一撃で斬り倒した。
 リザードマンは魔造モンスターだったようで煙を出して消滅する。
 その場には三又の槍と鎧と兜、それに原料のなんだか分からない小さな石が落ちている。
 宝石か? それならテンション上がるけど、今は鑑定眼で見ている暇はない。
 スカーレットとワーウルフの方を確認すると、まだどちらもダメージは負っていないが、明らかにスカーレットが劣勢だ。
 スピードは負けてないが、体格差もありパワーが違い過ぎる。でもここまで凌いでいるのは流石といえる。我が家の犬は本当に頼りになる。

「スカーレット、下がれ‼」

 そう言ったらスカーレットは透かさずワーウルフと距離を取る。
 その動きに合わせるように、俺はリザードマンの三又の槍をワーウルフに投げつけた。
 刺さればラッキーって思ってたけど、簡単にステップして躱される。だがこの隙に間合いを詰めて二人の間に割って入る。




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