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六章

「漆黒の魔剣使いとボス戦と裏ボス戦」その⑫

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「不可能なのにどうやって作ったんだよモンスター」

 ここスゲー気になる。俺もゲーム感覚でモンスター作ってみたい。それに商売にもなりそう。

「まだ十代のころだった……」

 ロイさんノリノリだな。それ話してくれるんだ。

「遺跡系ダンジョンへ行ったとき、仲間が連れていたバカな半獣人奴隷が次々にトラップを発動させ死にそうになった」

 ははっ、なんだよそれ、俺の冒険と一緒。どこにでもいるんだな、クリスみたいなド天然半獣人。

「だがその半獣人のお陰で隠しルートなども発見し、偶然に偶然が重なり見つけてしまったのだよ、伝説の大賢者、マリウスの魔導書を」

 んっ、待てよ……クリスはセバスチャンと会った時、見たことある顔だと言っていた。それに東の大陸にも行って遺跡系ダンジョンで冒険したとかなんとか……。
 まさかまさかのクリスチーナ本人なのか⁉ てかそんなドジっ子半獣人がそうそう居るわけない。やはり我が家の愛猫、クリスなんじゃないの。だとしても、だから何なんだよって話だが、こんな事あるの⁉ マジビックリした。

「それは何種もあるうちの一つだったが、ゴーレムやモンスターの製造方法が記されていた」

 どこで絡んでなんてことしてくれてんだよ我が家の猫は。全ての原因、元凶じゃねぇかよ。なんかもう繋がりすぎて怖いよ。

「他人の技術ってことか」
「だとしても、簡単なことではない。私だったからこそ、作ることができたのだ」
「自分が天才だといいたそうだね」
「そういうことではない。私はその奇跡の技を知った時、魂が熱くなり震え、闇に飲まれるのを感じた。心の底から魅了されたのだ。ふふっ、誰にも分からないだろうね、あの日あの時の感動は」

 もう顔がヤバいっての。完全にマッドサイエンティストだよ。

「誰よりも研究に没頭できたから完成したってことか」
「理解してくれたようだね」

 本があっても俺じゃ無理っぽいな。てか大賢者、物騒なもの残すなよ。悪用されてるだろ。

「長くなってしまったが、これが真実だ」

 うん、本当に長い。ここに来てからの会話だけで、アニメなら一話分ぐらいあるんじゃないの。
 でも流石にアンジェリカやクリスが登場したのは驚いた。俺のこれまでの旅も色々と関係していたし。とりあえずロイにはアンジェリカが知り合いだとは内緒にしておこう。

「本当のロイ・グリンウェルが、とことん悪党なんだと分かったよ」
「それはよかった」

 こりゃセバスチャンには言えないな。さて、これからどうするか……ってどうなんのこの後は。

「あのさぁ、街に戻らないのはそっちの勝手だけど、魔王軍に残るのなら問題があるんだけど」

 放置してたらゴールディ―ウォールに攻め込んでくるかもしれない。街にはアンジェリカがいるわけだし、戦いになったら何もかも消滅してしまう可能性がある。せっかく住むところを見つけたのに、こいつらのくだらない喧嘩で壊されてたまるかっての。

「魔王軍か、ははっ、そんなものもう何処にもないよ。魔王は死んでしまったからね」
「し、死んだって、どういう……魔王が?」
「あの人、色々とうるさいから、ちょっと小突いてやったんだよ。そしたら死んじゃったよ」

 おいおい、どういうことだよ。本当のカオスなんですけど。今すぐ帰りたい。

「魔王を簡単に倒せるほどの魔道士だったの?」
「まさか。私は冒険者としては二流の魔道士だったよ。ただ、今の私はもう人間ではないからね」
「……随分と怖いこと言いますね」
「私はあの破壊神にこの手で復讐するために、人であることを捨てた。今の私は魔人やモンスターとの融合体。そう、女神も含め、私は全ての生物を超越した存在になった」

 ロイは言い終わると同時に高笑いした。なんだかもうただただ面倒臭い。どこのテンプレのボスキャラだよ。
 アンジェリカさんご指名ですよ。ホンといますぐここに来て責任取れっての。

「金色の破壊神と戦う前に、私のモンスターを倒した君には、ここで死んでもらおうか」

 そう話しながらロイは全身から抑えきれず漏れ出すように、まがまがしく強大な魔力を放出している。

「やっぱそういう展開か」
「やっと設備が整って順調にモンスターが造れるようになったところで、別の二つ名が現れ邪魔をするとはね」

 だからさぁ、ちょっと訳ありな新米商人だっての。
 しかしこれからモンスターを大量生産するつもりだったのかよ。本気で軍を造るつもりだな。あぁ怖。なんで俺はこんな面倒なことに関わっちまったんだ。やっぱ猫か、猫を助けたせいか。

「もうそれ、呪われてるんじゃないの」

 って俺の方が呪われてるよ。猫の呪いだよ。

「なるほど、呪いか。ならば呪いの元を一つずつ、この世から消していくとしよう。勿論、最初は君だよ、漆黒の魔剣使い」

 ははっ、もう訂正するのも面倒だ。
 ここでロイが一気に魔力を高めて放出した。これは凄い、トンでもない魔力を感じる。今までのモンスターやイスカンダルと比べても桁違いといえる。
 放出される魔力が衝撃波となって周囲に襲い掛かり、立ち並んでいる大きな培養菅を破壊する。俺も踏ん張ってないと吹き飛ばされそうだ。更に空間全体がビリビリと震え、天井や地面も大地震のように揺れている。
 てか研究室を自分で破壊してますけど、それはいいのかよ。俺が先に壊してたらスゲー怒られそうなんだが。

「真の姿を見せてやろう」

 そう言った瞬間からロイの体がどんどん大きくなっていく。
 筋肉が盛り上がり服も靴も全て千切れ飛ぶ。そして体の色がグリーンに変化して肌の質感も硬そうになる。瞳は赤く白目の部分は黒くなり、髪は抜け落ち顔は白人美形の原型なくドラゴンのようで、頭の左右と正面に角がある。背中には大きくて黒い蝙蝠の羽、尻には恐竜を思わせる太い尻尾が生えた。ふくらはぎ辺りから下の足は恐竜っぽい感じだ。
 大会中のボディービルダー並みの完璧な肉体美で、身長が三メートルぐらいまで巨大化している。眼前にすると威圧感が半端ない。でもなんだかカッケー、ガチの変身だよ。姿は魔人族とリザードマンを合わせたっぽい。
 厄介そうなのが、体に埋め込まれている赤い魔石だ。恐らく魔力を増幅させるものとみた。胸の真ん中に大きめの魔石があり、その上に小さいのが二つずつ、腕や脚の側面に三つずつ、丸みのある両肩にも付いている。
 セバスチャンには悪いけど、ロイを連れて帰るのは無理だ。本物の悪党だし既に人間でもない。流れ的にここで倒す事になる。まあ俺が勝てたらだけど。ロイは魔王を簡単に倒したみたいだし侮れない。

「ほう、私のこの姿、そして圧倒的な魔力を前にしても臆する事がないとは、流石二つ名の冒険者だ」
「普通にビビッてますけどね」

 不思議な感覚だ。本気で怖いはずなんだけどワクワクしてる。

「では行くぞ、漆黒の魔剣使い」

 はいはいもうそれでいいよ。向こうの世界に居た時の俺は、無職のヒキオタって二つ名だし、それに比べりゃ中二全開でカッコいいよ。

「一撃で決めてやろう‼」

 ロイは一歩踏み込み上から叩きつけるようにパンチを繰り出す。
 回避できないと判断し、盾を前に出して踏ん張り猛然と迫るパンチを正面から受け止めた。
 凄まじい衝突音が轟き、衝撃で足元の地面がひび割れる。だが盾も体も無事だ。凄い衝撃だったけど普通に耐えれた。

「なっ⁉ 受け止めた……だと」

 ロイさんけっこう驚いてるな。でも見た感じ半分以下の力だろう。

「ならば、これでどうだっ‼」

 今度は魔力を上げてマジパンチっぽいのを連続して繰り出してきた。
 下手に回避せずその場で踏ん張って同じように盾を突き出し防御する。
 三メートルの巨躯から荒々しく叩きつけられたパンチは本当に凄まじい威力で、盾が割れるんじゃないかと思った。とどまっていられず踏ん張ったまま地面を削りながら後ろへと押される。でも買ったばかりのスニーカーは壊れていない。流石に魔道具だ。

「何故だ……」

 パンチを撃ち続けていたロイは、驚愕した顔で動きを止めた。

「たかが人間が、何故立っていられる」
「色々と訳ありなもので」

 余裕の笑みを見せ言ってやった。
 たぶんカッコいい場面のはずだ。アニメとか漫画なら、ここで終わって次週へ、って感じだろ。まあ主人公とかイケメン限定かもしれないけど。
 因みに何十発のパンチが繰り出されたか分からないが、盾は最後まで受けきり役目を果たした。本当にありがとう盾、お前だけは期待を裏切らない最高のパーティーメンバーだ。デカい神棚を作って祀りたいし、萌え擬人化してフィギュアになった時には必ず買おう。
 で、驚き止まっていたロイは、背中の羽を広げふわっと少しだけ宙に浮くと、俺を睨みつけたまま後退し距離をとった。

「じゃあ次は、俺のターンだ‼」

 まだ魔力制御に慣れていないが使いたい強さの魔力をイメージした。すると魔剣は反応し、魔力を生み出し刃から黒い炎のように放出させた。
 透かさず正面に居るロイ目掛けて魔剣を振り抜く。魔剣からはイメージ通り巨大な三日月形の斬撃が飛び出し、放たれた矢の如く凄まじいスピードで襲い掛かる。
 その斬撃に込めた魔力はタコモンスターを倒した時の半分ぐらいの強さだ。

「私も同じように受け止めてやるぞ‼」

 宙に浮いていたロイは地面に降りたあと、防御のために両腕をクロスさせて前に出した。
 魔力の塊である黒い斬撃はロイに命中すると大爆発する。一気に炎と煙が空間を包み込み視界を奪い、爆風が研究室の様々な設備を容赦なく破壊した。
 魔力を抑えたつもりだけど思ってたより凄い爆発になった。やはり魔剣の扱いは難しい。
 爆煙が少し薄れるとロイの姿が確認できた。魔王を倒したぐらいだし、流石にこの程度では終わらない。

「軽く出した斬撃がこの威力か……」

 ロイは大ダメージを負ってはいないが片膝を地面についていた。
 素直に飛んで逃げればいいのに意地を張るから痛い目に合うんだよ。イスカンダルもそんな感じだったけど、これって強い奴のテンプレの病気みたいなものか。
 まあ受けてはね返して圧倒的な力の差を見せつけたいんだろうけど、超人相手だと裏目に出るんだよな。なんだか反則してるみたいで申し訳ない気持ちになる。





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