41 / 74
六章
「漆黒の魔剣使いとボス戦と裏ボス戦」その⑫
しおりを挟む「不可能なのにどうやって作ったんだよモンスター」
ここスゲー気になる。俺もゲーム感覚でモンスター作ってみたい。それに商売にもなりそう。
「まだ十代のころだった……」
ロイさんノリノリだな。それ話してくれるんだ。
「遺跡系ダンジョンへ行ったとき、仲間が連れていたバカな半獣人奴隷が次々にトラップを発動させ死にそうになった」
ははっ、なんだよそれ、俺の冒険と一緒。どこにでもいるんだな、クリスみたいなド天然半獣人。
「だがその半獣人のお陰で隠しルートなども発見し、偶然に偶然が重なり見つけてしまったのだよ、伝説の大賢者、マリウスの魔導書を」
んっ、待てよ……クリスはセバスチャンと会った時、見たことある顔だと言っていた。それに東の大陸にも行って遺跡系ダンジョンで冒険したとかなんとか……。
まさかまさかのクリスチーナ本人なのか⁉ てかそんなドジっ子半獣人がそうそう居るわけない。やはり我が家の愛猫、クリスなんじゃないの。だとしても、だから何なんだよって話だが、こんな事あるの⁉ マジビックリした。
「それは何種もあるうちの一つだったが、ゴーレムやモンスターの製造方法が記されていた」
どこで絡んでなんてことしてくれてんだよ我が家の猫は。全ての原因、元凶じゃねぇかよ。なんかもう繋がりすぎて怖いよ。
「他人の技術ってことか」
「だとしても、簡単なことではない。私だったからこそ、作ることができたのだ」
「自分が天才だといいたそうだね」
「そういうことではない。私はその奇跡の技を知った時、魂が熱くなり震え、闇に飲まれるのを感じた。心の底から魅了されたのだ。ふふっ、誰にも分からないだろうね、あの日あの時の感動は」
もう顔がヤバいっての。完全にマッドサイエンティストだよ。
「誰よりも研究に没頭できたから完成したってことか」
「理解してくれたようだね」
本があっても俺じゃ無理っぽいな。てか大賢者、物騒なもの残すなよ。悪用されてるだろ。
「長くなってしまったが、これが真実だ」
うん、本当に長い。ここに来てからの会話だけで、アニメなら一話分ぐらいあるんじゃないの。
でも流石にアンジェリカやクリスが登場したのは驚いた。俺のこれまでの旅も色々と関係していたし。とりあえずロイにはアンジェリカが知り合いだとは内緒にしておこう。
「本当のロイ・グリンウェルが、とことん悪党なんだと分かったよ」
「それはよかった」
こりゃセバスチャンには言えないな。さて、これからどうするか……ってどうなんのこの後は。
「あのさぁ、街に戻らないのはそっちの勝手だけど、魔王軍に残るのなら問題があるんだけど」
放置してたらゴールディ―ウォールに攻め込んでくるかもしれない。街にはアンジェリカがいるわけだし、戦いになったら何もかも消滅してしまう可能性がある。せっかく住むところを見つけたのに、こいつらのくだらない喧嘩で壊されてたまるかっての。
「魔王軍か、ははっ、そんなものもう何処にもないよ。魔王は死んでしまったからね」
「し、死んだって、どういう……魔王が?」
「あの人、色々とうるさいから、ちょっと小突いてやったんだよ。そしたら死んじゃったよ」
おいおい、どういうことだよ。本当のカオスなんですけど。今すぐ帰りたい。
「魔王を簡単に倒せるほどの魔道士だったの?」
「まさか。私は冒険者としては二流の魔道士だったよ。ただ、今の私はもう人間ではないからね」
「……随分と怖いこと言いますね」
「私はあの破壊神にこの手で復讐するために、人であることを捨てた。今の私は魔人やモンスターとの融合体。そう、女神も含め、私は全ての生物を超越した存在になった」
ロイは言い終わると同時に高笑いした。なんだかもうただただ面倒臭い。どこのテンプレのボスキャラだよ。
アンジェリカさんご指名ですよ。ホンといますぐここに来て責任取れっての。
「金色の破壊神と戦う前に、私のモンスターを倒した君には、ここで死んでもらおうか」
そう話しながらロイは全身から抑えきれず漏れ出すように、まがまがしく強大な魔力を放出している。
「やっぱそういう展開か」
「やっと設備が整って順調にモンスターが造れるようになったところで、別の二つ名が現れ邪魔をするとはね」
だからさぁ、ちょっと訳ありな新米商人だっての。
しかしこれからモンスターを大量生産するつもりだったのかよ。本気で軍を造るつもりだな。あぁ怖。なんで俺はこんな面倒なことに関わっちまったんだ。やっぱ猫か、猫を助けたせいか。
「もうそれ、呪われてるんじゃないの」
って俺の方が呪われてるよ。猫の呪いだよ。
「なるほど、呪いか。ならば呪いの元を一つずつ、この世から消していくとしよう。勿論、最初は君だよ、漆黒の魔剣使い」
ははっ、もう訂正するのも面倒だ。
ここでロイが一気に魔力を高めて放出した。これは凄い、トンでもない魔力を感じる。今までのモンスターやイスカンダルと比べても桁違いといえる。
放出される魔力が衝撃波となって周囲に襲い掛かり、立ち並んでいる大きな培養菅を破壊する。俺も踏ん張ってないと吹き飛ばされそうだ。更に空間全体がビリビリと震え、天井や地面も大地震のように揺れている。
てか研究室を自分で破壊してますけど、それはいいのかよ。俺が先に壊してたらスゲー怒られそうなんだが。
「真の姿を見せてやろう」
そう言った瞬間からロイの体がどんどん大きくなっていく。
筋肉が盛り上がり服も靴も全て千切れ飛ぶ。そして体の色がグリーンに変化して肌の質感も硬そうになる。瞳は赤く白目の部分は黒くなり、髪は抜け落ち顔は白人美形の原型なくドラゴンのようで、頭の左右と正面に角がある。背中には大きくて黒い蝙蝠の羽、尻には恐竜を思わせる太い尻尾が生えた。ふくらはぎ辺りから下の足は恐竜っぽい感じだ。
大会中のボディービルダー並みの完璧な肉体美で、身長が三メートルぐらいまで巨大化している。眼前にすると威圧感が半端ない。でもなんだかカッケー、ガチの変身だよ。姿は魔人族とリザードマンを合わせたっぽい。
厄介そうなのが、体に埋め込まれている赤い魔石だ。恐らく魔力を増幅させるものとみた。胸の真ん中に大きめの魔石があり、その上に小さいのが二つずつ、腕や脚の側面に三つずつ、丸みのある両肩にも付いている。
セバスチャンには悪いけど、ロイを連れて帰るのは無理だ。本物の悪党だし既に人間でもない。流れ的にここで倒す事になる。まあ俺が勝てたらだけど。ロイは魔王を簡単に倒したみたいだし侮れない。
「ほう、私のこの姿、そして圧倒的な魔力を前にしても臆する事がないとは、流石二つ名の冒険者だ」
「普通にビビッてますけどね」
不思議な感覚だ。本気で怖いはずなんだけどワクワクしてる。
「では行くぞ、漆黒の魔剣使い」
はいはいもうそれでいいよ。向こうの世界に居た時の俺は、無職のヒキオタって二つ名だし、それに比べりゃ中二全開でカッコいいよ。
「一撃で決めてやろう‼」
ロイは一歩踏み込み上から叩きつけるようにパンチを繰り出す。
回避できないと判断し、盾を前に出して踏ん張り猛然と迫るパンチを正面から受け止めた。
凄まじい衝突音が轟き、衝撃で足元の地面がひび割れる。だが盾も体も無事だ。凄い衝撃だったけど普通に耐えれた。
「なっ⁉ 受け止めた……だと」
ロイさんけっこう驚いてるな。でも見た感じ半分以下の力だろう。
「ならば、これでどうだっ‼」
今度は魔力を上げてマジパンチっぽいのを連続して繰り出してきた。
下手に回避せずその場で踏ん張って同じように盾を突き出し防御する。
三メートルの巨躯から荒々しく叩きつけられたパンチは本当に凄まじい威力で、盾が割れるんじゃないかと思った。とどまっていられず踏ん張ったまま地面を削りながら後ろへと押される。でも買ったばかりのスニーカーは壊れていない。流石に魔道具だ。
「何故だ……」
パンチを撃ち続けていたロイは、驚愕した顔で動きを止めた。
「たかが人間が、何故立っていられる」
「色々と訳ありなもので」
余裕の笑みを見せ言ってやった。
たぶんカッコいい場面のはずだ。アニメとか漫画なら、ここで終わって次週へ、って感じだろ。まあ主人公とかイケメン限定かもしれないけど。
因みに何十発のパンチが繰り出されたか分からないが、盾は最後まで受けきり役目を果たした。本当にありがとう盾、お前だけは期待を裏切らない最高のパーティーメンバーだ。デカい神棚を作って祀りたいし、萌え擬人化してフィギュアになった時には必ず買おう。
で、驚き止まっていたロイは、背中の羽を広げふわっと少しだけ宙に浮くと、俺を睨みつけたまま後退し距離をとった。
「じゃあ次は、俺のターンだ‼」
まだ魔力制御に慣れていないが使いたい強さの魔力をイメージした。すると魔剣は反応し、魔力を生み出し刃から黒い炎のように放出させた。
透かさず正面に居るロイ目掛けて魔剣を振り抜く。魔剣からはイメージ通り巨大な三日月形の斬撃が飛び出し、放たれた矢の如く凄まじいスピードで襲い掛かる。
その斬撃に込めた魔力はタコモンスターを倒した時の半分ぐらいの強さだ。
「私も同じように受け止めてやるぞ‼」
宙に浮いていたロイは地面に降りたあと、防御のために両腕をクロスさせて前に出した。
魔力の塊である黒い斬撃はロイに命中すると大爆発する。一気に炎と煙が空間を包み込み視界を奪い、爆風が研究室の様々な設備を容赦なく破壊した。
魔力を抑えたつもりだけど思ってたより凄い爆発になった。やはり魔剣の扱いは難しい。
爆煙が少し薄れるとロイの姿が確認できた。魔王を倒したぐらいだし、流石にこの程度では終わらない。
「軽く出した斬撃がこの威力か……」
ロイは大ダメージを負ってはいないが片膝を地面についていた。
素直に飛んで逃げればいいのに意地を張るから痛い目に合うんだよ。イスカンダルもそんな感じだったけど、これって強い奴のテンプレの病気みたいなものか。
まあ受けてはね返して圧倒的な力の差を見せつけたいんだろうけど、超人相手だと裏目に出るんだよな。なんだか反則してるみたいで申し訳ない気持ちになる。
0
お気に入りに追加
131
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?
みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。
なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。
身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。
一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。
……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ?
※他サイトでも掲載しています。
※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる