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六章

「漆黒の魔剣使いとボス戦と裏ボス戦」その⑥

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「さてと、こっからは俺の仕事だ。スカーレット、もう下がっていいぞ」
「御意」

 スカーレットは無理をせず牽制に徹して無傷で戻ってくる。

「よくやったな。本当にお前は頼もしい」

 そう言いながらスカーレットの頭を撫でてやった。

「あわわわわっ、も、もったいないお言葉」

 スカーレットは赤面してあたふたした後、可愛らしくモジモジした。それを見ていたクリスが透かさず頭を撫でてほしそうに下げる。

「お前は何もしてないよね」
「にゃん⁉」
「下がれバカ猫‼」

 スカーレットはクリスの頭にパンチしてツッコミを入れた。我がパーティーは相変わらず緊張感がない。

「よし、気合い入れていきますか」

 この赤いカバモンスターは間違いなく今までで一番強い。恐らくダンジョンのボス的存在だ。といっても恐怖を感じる程のプレッシャーはない。バトルに慣れて自信がついたからか普通にやれる気がする。
 ハンマーを片手で持って肩に担ぎ、ゆっくりと歩き間合いを詰める。
 モンスターは威嚇したりせず冷静に観察していた。普通のモンスターなら空気を読まずがむしゃらに突撃してくる。やはり今までとは違うようだ。一定の距離に近付かない限り攻撃してこない。

「来ないなら、こっちから行くぞ」

 正面から猛ダッシュしてモンスターが動き出す前にジャンプする。超人パワーを上手く制御して跳んだが、普通の人間の跳躍より数倍高い位置にいる。そして落下のタイミングに合わせハンマーを持つ右手を大きく振りかぶってモンスターの額辺りに振り下ろす。
 だがハンマーが当たるより速くモンスターは俊敏に横回転し、太くて長い尻尾を鞭のようにしならせ攻撃してくる。
 攻撃体勢だったので防御できず尻尾の直撃を食らった。更にジャンプしていたこともあり踏ん張ることができず、トラックと衝突したように軽々と十メートル以上飛ばされ地面に何度も叩きつけられた。

「ご主人⁉」
「ご主人様⁉」
「だっ、大丈夫かアッキー⁉」
「お、おう、大丈夫大丈夫」

 まさかの直撃を食らってしまった。ちょっと痛かったしヒリヒリするけど大きなダメージはない。
 クソっ、失敗だったか。流石に正面からは舐めていた。でもバトル素人で商人の俺には魔法も剣技もスキルもないから、結局は力任せにいくしかない。

「あぁ~あ、やっちまったよ」

 お気に入りのTシャツがボロボロのビリビリになってしまった。また一枚、向こうの世界の貴重な物資が天に召されることになるとは。まあ油断した俺が悪いんだが、このカバ許さん。
 すぐに立ち上がり、Tシャツと呼べなくなった物を引きちぎり地面に叩きつけた。因みにこの時、仮面は取れていなかった。流石に魔道具だ。しかもフィットしているので付けていること自体忘れていた。

「このカバヤロー、敵討ちだ‼」

 吹き飛ばされた時に手放していたハンマーを拾い、また懲りずに正面から突撃する。今度は食らわずにカウンターとってやる。
 間合いを詰めるとモンスターが先に動く。先程と同じように横回転して尻尾で攻撃してくる。

「ワンパターンなんだよ‼」

 ハンマーをテニスのラケットのように片手バックハンドで振って、迫りくる尻尾と激突させて受け止めた。この時、甲高い金属音が鳴り響き周りの空間がビリビリと震えた。
 今ので尻尾が破壊されないとはなかなかの硬さだ。やっぱ強いぞカバモンスター。

「今度はこっちの番だ」

 更に間合いを詰めモンスターの横っ腹辺りにハンマーを振り下ろす。
 モンスターはその巨躯からは想像できないほどの速さで回避し、空振ったハンマーは地面を大きく陥没させた。

「コノヤロー、速いじゃねぇかよ。マジで残像見えたぞ」

 パワーとスピード、防御力もある上級モンスターとか、もう原料が楽しみだ。またモンスターが金に見えてきた。
 今度はカバモンスターのターンで透かさず逆回転し、また尻尾で攻撃しようとしている。普通なら回避か防御だろうが、俺はそこから踏み込んだ。

「させるかよ」

 モンスターは回転途中で後ろを向いており、振り下ろしたハンマーはタイミングよく尻尾の付け根に直撃し、粉砕するように断裂させた。
 モンスターが痛そうに叫び、ちぎれた尻尾はモクモクと煙を出し消滅する。血が出てないし間違いなく魔造で決まりだ。
 ダメージを負ったモンスターだが痛みで動けないなんて事はなく、透かさず俺の方を向き口を大きく開こうとした。これは炎を吐いて攻撃するつもりだ。さっき冒険者たちとの戦いを見てたから、大体の攻撃パターンは分かっている。

「お前のターンはないんだよ‼」

 高く振り上げたハンマーをモンスターの額にぶち込むと、凄まじい打撃音がして空間全体がグラグラと揺れた。
 直撃したハンマーはモンスターごと地面を陥没させてめり込む。そして大ダメージを負ったモンスターは煙を出し消えた。

「よっしゃー、完全勝利‼」

 ってことはないか。一撃食らって貴重なTシャツがご臨終だし。でもド素人丸出しの戦い方で、今までと同じように簡単に勝ってしまった。

「お見事です、ご主人」
「ご主人様はカッコイイのにゃ」

 後方に居た三人が駆け寄ってきた。我が家の犬と猫は嬉しそうだが、レオンは困惑するような、何とも言えない表情をしている。

「あの、アッキー、本当に体は大丈夫なの?」
「問題ないですけど」
「問題ないのが問題のような……アッキー、君はどんな体をしてるんだ」

 レオンが驚くのも無理はない。鎧や盾、防御力が上がる魔道具の服を装備してない状態での一撃だったからな。骨や内臓がやられたりするのが普通だ。
 嘘でいいから痛がって薬草とかポーションを使った方がよかったかも。まあ持ってないけど。

「鍛えたんですよ。それはもう、思い出したくもない地獄の猛特訓を何年もしたから」

 思わず嘘をついてしまった。何年も引きこもってしてたのはゲームばかりだ。ある意味では地獄の日々とも猛特訓とも言えないことはない。

「何年も鍛えた体には見えないけど」

 ですよねぇ~。普通の体型ですもんね。スポーツとかすらやってませんから。でも不思議とガリガリでもぽっちゃりでもないんだよな。

「アッキーのステイタスが気になるんだが、教えてもらえないかな。冒険者歴や今のレベルを」
「そういうのは秘密でお願いします。それ次に言ったら、ここに捨てていきますよ」
「わ、分かった。もう聞かない。だから置いていかないでくれ」

 ははっ、焦り方が面白い。あたふたして汗かきすぎだっての。

「ご主人様、金貨拾ってきたのにゃ」
「おっ⁉ やっぱワームより凄いことになってる」

 謎のカバモンスターの原料は金貨五枚だ。つまり十五万円ゲット、おいしすぎる。
 次にステイタスを確認したらレベルも13に上がっていた。
 簡単簡単、どんどん商人レベルが上がっていく。普通ならこのスピードで上がるとかありえないだろ。商人は年月かけて地道に経験を積んで上げていく職業だからな。
 とにかく今日は色々と楽勝だ。でもダンジョン冒険やバトルがこんなに楽しくていいのだろうか。体が超人で死を感じることがほとんどないから、今のところゲームをやってる感覚になる。
 この後はクリスに持たせてるウエストポーチの魔法空間から白Tシャツを取り出して着た。この時ふと思う、金が簡単に稼げるのも分かったし、必要はないけど鎧とか買って装備しようかなと。だって冒険なのにTシャツ姿とか味気ない。やっぱ形から入らないと。その方が楽しめるはずだ。なによりカッコいいし。
 バトルが終わり静かになったので、程なくして通路の奥に避難していた冒険者たちが戻ってくる。

「流石二つ名のレオンだ、あのモンスターを一人で倒すなんて」
「素敵、レオン様」
「やはり見たかったぜ、漆黒の魔剣使いの戦いを」
「ありがとうございます、レオンさんは私たちの命の恩人です」
「なにかお礼をさせてくれ」
「レオン最高‼」
「二つ名の最強はレオンで決まりだ」

 などと冒険者たちは次々にお礼や称賛を口にした。レオンの方を見るとなにやら申し訳なさそうな顔をしていた。

「レオンさん、この人たちに帰るように、うまく言ってください」
「あ、あぁ、分かった」

 他の者に聞こえないように小声で会話した。

「みんな、聞いてくれ。この辺りはもう上級モンスターが現れる、だから今すぐ引き返すんだ」

 流石主人公級イケメン、絵になってるし威厳がある。何故だか対処の仕方の慣れてる感が半端ない。結局レオンは勘違いされるのを楽しんでたんじゃないの。

「レオン様はどうするんですか? まさか更にダンジョンの奥へ」

 魔女帽子をかぶった黒魔道士風の小柄な女の子冒険者が言う。コスプレみたいでかわゆい。

「当然だ、どんなモンスターも私を止めることはできない」

 レオンは仁王立ちで力強く発した。いやマジでレオンさんカッケーっす。いま背景にドドンって効果音が見えた気がしたよ。
 低級の冒険者たちはそのカッコよさに歓声を上げる。なるほど、こうやって作られていくんだなピエロって。いや違った、伝説とか英雄って。
 そしてみんなお利口さんで、レオンの指示に素直に従いその場から上層階へと引き返した。

「ちょっとレオンさん、あの冒険者たちと一緒に帰ったら。俺はまだまだ先に行くよ」
「いやそれは……だって途中で上級モンスターと戦いになる可能性もあるし。アッキーといる方が安全のような気がする」
「そ、そうっすか。まあ別にいいですけど」

 もう正体バレてるから完全に開き直ってるよ。ある意味清々しい態度といえる。
 てかこの人は本当に低級モンスターとしか戦う気ないな。でもなんだろう、何故か突き離せない不思議な雰囲気を持っている。残念な子、特有のスキルでも働いているのかな。
 我が家の猫もそうだけど、ウザかったりするのに無視できなくて、ついつい構ってしまう。ただなぁ、この二つ名はそのうちパーティーに入れろとか本気で言ってきそうなんだよな。あぁやだやだ。考えただけで面倒臭い。

「ご主人、進むにしても通路や階段はないようです。まあ隠し扉があるかもしれませんが」
「そうか。じゃあここからは、あの魔法陣を使うようだな。あれって移動用のだろ」
「はい、そのようです」

 ダンジョン内で怪しく光るその魔法陣は、俺がこの異世界に来た時に使ったものと似ている。どうやらいつでも魔法が発動するみたいだ。
 この魔法陣が初心者ダンジョンに上級モンスターが出るようになった事と関係しているはずだ。あとセバスチャンのマスター、ロイ・グリンウェルにも。

「どこかにあるモンスター工場からこの魔法陣を使って送り込んでいる。俺はそう予想するけど、どう思う?」

 スカーレットの方を見て言った。だが透かさず返事したのはクリスだ。

「絶対にそうなのにゃ。それしかないのにゃ。クリスチーナもずっと前からそう思ってたのにゃ」
「ずっと、っていつからだよ」

 思わず天然ボケにツッコミを入れてしまった。なんだろこれ、ツッコミ入れたら負けたような気分になる。

「黙れバカ猫。そもそもご主人はお前になど意見を求めていない」
「にゃん、スカーレットちゃん酷いのにゃ。相変わらずの怒りんぼさんなのにゃ」
「誰のせいだバカ猫‼」

 スカーレットはクリスのお尻を蹴っ飛ばし言った。

「話がよく分からないが、これだけ大きな魔法陣を発動させたままで維持するには強大な魔力が必要だ。恐らく魔人族だろうな」

 レオンは眉間に皺を寄せた険しい表情で魔法陣を見ながら言う。
 確かロイを誘拐したのは魔王配下の魔人族という情報だった。やれやれだぜ。まったくもって嫌な予感がする。でも何故だか金の匂いもする。職業が商人だからだろうか。

「俺たちはこの先に何があるか確かめに行くけど、レオンさんはどうしますか?」
「い、行くよ、勿論行くとも」
「でも魔人族どころか、魔王が出てくるかもしれませんよ。冗談抜きでいま帰った方がいいかも」
「ははっ、お、脅かすなよアッキー、流石にこんなところに魔王は出ないよ。まあ魔人族の戦士がいたらそれだけで怖いけど」

 レオンさん足が震えてますよ。魔人族は本当に強いらしい。でもモンスターじゃないから原料とかはないんだよな。ただ倒せば経験値は入る。それにトロールのように武器などがあればゲットできる。
 どこに行ってどうなるのか分からないけど、今は怖いよりもドキドキワクワクの方が大きい。

「さあ、行こうか」
「御意」
「はいにゃー」
「お、おう」

 四人のヘッポコ変則パーティーは無謀かもしれないが、勢いと軽いノリのまま魔法陣の中に入った。





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