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六章

「漆黒の魔剣使いとボス戦と裏ボス戦」その⑤

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「あっ、これさっきのでっぱりなのにゃ。レオン様が罠だから触るなと言ったけど、きっとこれは罠じゃないのにゃ」

 とクリスが言うのが後ろから聞こえ立ち止まった。さっき巨大ワームが通ってもトラップ発動しなかったわけだし大丈夫なのかな。
 まあいくらお約束製造機のクリスさんでも流石にそれ、お触りしないよね。俺もう振り向かないよ。信じてるから。

「そうかもしれないな。私の間違いを認めよう」

 ちょっとまてぇぇぇいっ、ミスして意気消沈なの分かるけど、そこ認めないとこでしょうが。

「両方とも罠ということもあるのでは」

 スカーレットさぁぁぁぁん、ナイスアシスト。頼りになるぜ。

「ふっ、分かってないな、これだから素人冒険者は困る」

 ちょっ、レオンさん何言ってんすか。もうついさっきの自分忘れちゃったの。記憶力をどこに落としてきたんだ。

「左右の壁の同じ場所に罠があるなどセオリーではない。よし猫、押してみろ」
「はいなのにゃ」

 やっぱそうきたか。信じた俺がバカだった。
 で、クリスがでっぱりを押すといつも通りのガコン音がして奥に押し込まれる。

「あっ⁉」×2

 「あっ」じゃねぇよ、この天然ブラザーズが。責任取れないくせに何故押した。
 レオンがここまでおバカだったとは想定外だ。バカが二人もいたらグダグダすぎて手に負えない。
 そしてトラップはすぐに発動し、いま下りてきた階段の上の方で何か巨大な物が落ちたような轟音がする。

「アッキーすまぬ、またしてもはめられた」
「って誰にだよ‼」

 天然って学習しない生き物なんだと改めて思い知ったよ。
 でだ、何が起きたかというと、階段から巨大な岩の玉が猛然と転がり落ちてくる。
 はいキタお約束ぅぅぅっ、これ前に何度も見た定番のやつぅぅぅっ‼

「ちょっ、アッキー、なぜ逃げないんだ⁉」

 レオンはビビッて逃げようとしているが、大きさ的に逃げるところなんてない。しかも転がるスピードも速いからすぐに追いつかれる。

「一撃で砕く。破片が飛び散るから、二人ともレオンさんの後ろに隠れてろ」
「御意」
「はいにゃ」
「えっ、私の」
「そのデカい盾は飾りじゃないでしょ。さあいきますよ」

 その場で踏ん張って眼前に迫った巨大な岩の玉にパンチを入れる。
 直撃と同時に凄まじい破壊音が轟き、打ち上げ花火のように破裂した岩が四方八方に飛び散る。
 これまで何度も岩を破壊しているが、今回も楽々で一撃勝利だ。とはいえ少し体に岩の破片が当たってしまった。けど防御力が異常に高いから当然ノーダメージ。心配していたTシャツも破れたりせず無事で、後ろに居た三人も無傷だ。
 こういう時はレオンのビッグシールドや全身アーマーは役に立つ。戦士なんかやってないで防御特化のクルセイダーとかシールダー、タンクとかやればいいんだよ。ただ今みたいにボッチだと意味ないけど。

「ははっ、もう笑うしかないよ、あんな大きな岩を素手で破壊するなんて……そんなことあるの?」
「レオン様の気持ちは分かります。が、見てのとおりです」
「ご主人様にとっては普通の事なのにゃ」

 普通とか言ってんじゃねぇよ。誰のせいですかコノヤロー。何度も言うけど超人の俺じゃなかったら死んでるからね。
 それからもクリスは触って踏んでお尻で押して次々にトラップを発動させた。更にもう一人の天才、レオンもデカい盾をあっちこっちに引っ掛けぶつけトラップを発動させた。
 落とし穴に矢に槍に、もうお腹いっぱいですよ。ワザとにしか思えないけどワザとじゃないんだよな。天然ってなんて恐ろしい生き物なんだろ。
 ただモンスタートラップも多かったのでお金はいっぱい稼げた。まあワームの後は低級のゴブリン系ばかりだったけど。
 因みにさっき巨大ワームを倒した時にレベルが11にアップしていた。勿論商人だから身体能力はほぼアップなし。
 そんな天才たちの夢の共演で生まれた奇跡の時間が、いや、カオスな時間が一時間ほど続いた時、前方から冒険者と思われる男女の悲鳴が聞こえてくる。

「何かあったみたいだな。声の大きさからしてすぐ近くだ」
「い、行くのかい、助けに」

 レオンが弱々しく言った。

「当然行くでしょ。強いモンスターがいるかもしれないし。今はそれが目的だからね」
「そう、だよね……」
「心配しなくても、いざという時は助けますよ。二人も頼んだぞ。あっ、ごめん、一人だった」
「承知いたしました」
「にゃっ⁉ 酷いのにゃ。クリスチーナが数に入ってないのにゃ」
「お前はとにかく全力で逃げるように。自分の事だけ考えてよし」
「はいにゃ。お任せなのにゃ。クリスチーナは見事に逃げるのにゃ」

 スゲー自信満々で言ってるけど、全然頼もしくないからね。バトル時は存在を忘れるほどの空気キャラで、そもそもいつも捕まってるし。
 この時まだレオンは不安そうな顔をしていた。レベルを30まで上げた上級か中級の冒険者だし、これまでの経験からなにか嫌な予感がするのかも。
 そこから走って移動するとすぐに開けた空間に出る。体育館四つ分の大きさで既に魔法の力でライトが点いており昼間のように明るい。そして十人以上の冒険者と大きめのモンスターがいた。
 モンスターは気配からしてワームより上級と思う。が、いま気になるのはモンスターの後方の地面だ。移動用と見て取れる大きな魔法陣が光り輝いている。
 冒険者たちに襲い掛かっているモンスターは一体で、ボックス系のワゴン車なみに大きく、見た目はカバっぽい四足歩行型だ。体の色と瞳は濃い赤で、背中には恐竜のようなヒレと太く長い尻尾がある。
 スピードが速く体当たりや尻尾を振り回し冒険者を吹き飛ばしていた。更に口を大きく開けて炎まで噴いている。
 こりゃ低級の冒険者には無理な相手だ。でも今のところ死人は出てないみたいでよかった。この場に居る奴らはちゃんとしたパーティーを組んでて防御や回復系がいる。王道バトルをやってて羨ましい。

「誰かあのモンスター知ってるか?」

 すぐに近付かず、まずはバトルの様子を観察した。

「見たことはないが、あれが普通のレベルでないことは分かる」

 レオンは眉間に皺を寄せた険しい顔で言った。顔だけ見るとイケメンで頼もしいのに足は小刻みに震えていた。せっかく声までイケメンなのに残念過ぎる。でも結局は女子にモテるんだろうけど。

「私も知らないモンスターです。恐らくご主人でないと倒せない高レベルかと」
「クリスチーナもしら」
「黙れバカ猫、お前の情報はいらない」
「にゃっ⁉ それは酷すぎるのにゃ、スカーレットちゃん酷いのにゃ」
「いやまあ、いらないけどね」
「にゃんっ⁉ ご主人様まで。これはお仕置きを受けるしかないのにゃ」
「どんな思考回路してんだよ。とりあえずケツを出すなケツを」

 目の前でバトルやってるのにどこまで緊張感ないんだよ、我が家の猫娘は。
 それにしてもあのカバモンスター、冒険者を吹っ飛ばしたあと放置してるよな。普通なら止めを刺すために追いかけていくだろ。まるで後方の魔法陣を守るガーディアンのように見える。その事に冒険者たちは気付いてないようだ。攻撃魔法が使えるんだから距離をとって戦うか、追ってこないんだから逃げればいいのに。
 勝てると思ってるのかな。どれも低レベルのパーティーっぽいし、戦うだけでいっぱいいっぱいで冷静に考えられないのか。
 ここで冒険者たちが漆黒の魔剣使い、レオンさんに気付く。

「やったぁ、助かったぞ、レオンだ‼」
「ほんとだ、レオンだ‼」
「ありがてぇ、俺たちを助けに来てくれたんだな」
「二つ名の力を見せてくれ」
「素敵、レオン様の雄姿が見られるわ」

 苦戦していた冒険者たちは一気にテンションが上がる。
 そりゃこの場面での登場なら期待するよな。だってもう「まてぇい‼」とか「そこまでだっ‼」とか言って助けにくるヒーローカットインだもの。

「流石二つ名、大人気ですな」
「ど、どうしよう、アッキー」

 レオンは皆の前だから表情は崩さず、すがるような眼をして呟く程度に発した。

「とりあえず他の奴らは邪魔だな。レオンさんは俺のやることに上手く合わせてください」
「えっ、なに、何が始まるの?」
「オドオドしないでドヤ顔で、カッコよくポーズ決めててください」
「分かった、こ、これでいいか」

 レオンは胸を張って少し足を開いて右手を腰にそえて立った。表情も精悍でまさに威風堂々の言葉が当てはまる。裏事情を知ってても本当にカッコよく見える。

「スカーレット、お前のスピードであのカバみたいなの引き付けて時間稼いでくれ。その間にみんなを逃がす」
「御意」

 一言発するとスカーレットは疾風の如く動き、カバモンスターを牽制に行った。
 その場から少し前に出て他の冒険者たちに大声で話しかける。

「みんな、あれは上級のモンスターだ、ここは漆黒の魔剣使い、レオンに任せて逃げるんだ‼」
「えっ、私に、ちょっとアッキー」

 レオンは俺にだけ聞こえるように弱々しく小声で言った。

「合わせてって言ったでしょ。ほら、カッコいいポーズちゃんと決めて」

 こっちも小声で返す。てかレオンさん、意図が分かってないじゃん。

「なにしてる、みんな早く逃げろ‼ お前たちが居たらレオンさんが魔剣を使えないだろ。魔剣の力の巻き添えを食らわないように、通路の奥まで逃げるんだ‼」

 ここで止めの一言をレオンに言わせれば完璧だ。

「レオンさん、決め台詞言って」
「なにを言えば、ってこれ、また私が勘違いされるんじゃ」
「もうされてるんだから、ここで伝説が一つ増えるぐらい今更いいでしょ。なんでもいいから早く言ってよ」

 俺たちは少し早口で小声で会話する。それにしてもレオンはホンと面倒臭い人だ。

「みんなを怪我させるわけにはいかない、ここは私に任せろ‼」

 レオンは一歩前に出て力強く言った。そうそうそれよそれ、スゲーカッコいい。もう間違いなく主人公だよ、見た目だけ。
 そしてやはり二つ名の言葉には重みがある。俺が言ってもすぐに動かなかった冒険者たちが一斉に逃げ出した。

「分かった。そういうことならそうさせてもらうぜ」
「ありがとうレオン。後は頼んだ」
「やはり魔剣の力は凄いようだな、見られないのが残念だ」

 冒険者たちは逃げる際に声をかけていき、レオンはドヤ顔で見送った。
 てかイケメンっていいよね、立ってるだけで絵になるし。まあ別にそれほど羨ましくは……やっぱ羨ましいかも。





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