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八
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八
僕は目を覚ました時に、自分が硬い地面に寝ているのに気付いた。
「……え?」
床はいつもの畳敷きではない、石だった。ついでに言えば、壁も天井も石だ。
壁は三方が岩で、一方は、鉄格子だった。
ちょっと言葉に詰まってしまうくらい、典型的な、牢屋だった。森羅万象の典型を集めたカタログがあったら、ここの写真が使われるかもしれない。
そんなことを思いつつ、すぐにそんなことを考えている場合じゃないと気付いた。
その典型的な牢屋の、内側に、僕がいるのだから。
起きあがって、まず自分の服装が寝巻代わりのジャージだと気付く。昨日の夜、あのアオパートの一室で眠りに着いた時の服装だった。
次に反射的に窓を探した。日の光を欲したというよりは、今が何時なのか、昼なのか夜なのか、それを確かめようとしたのだ。
でも、この典型的な牢には、窓はなかった。
鉄格子に歩み寄り、手を触れてみると冷たかった。握り続けても、鉄格子は暖まることはなく、そのうちに冷たさで手のひらがピリピリしてきた。
僕は鉄格子にある、出入り口を探す。それはすぐそこにあるけれど、確認するまでもなく鍵はかかっているし、開けることは不可能だ。アオだったら力で強引に開けることが可能かもしれないが、しかし、僕に出来るわけもない。
鉄格子の向こうには、狭い通路を挟んで、石の壁だった。積んであるのではなく、次目はない。地下を掘削して、牢を作ったのかもしれない。
とりあえず、鉄格子から離れる。
何となく、人間とは違う気配があった。生物の気配はある、しかしそれが人とは若干、違う。
それに、空気もいつもより微かに、違う。
空気の違いに気付くのとほぼ同時に、通路の奥で、何か、金属同士がぶつかるような音がして、足音が近づいてくる。
そして、それが顔を見せた。
イノシシの頭と、ずんぐりとした人間に近い体、腰で漂う煙のように動いているは蛇で、こちらを見ると、いやに大きな声で鳴いた。
身がすくみそうになりつつ、冷静に僕は思った。
悪魔のようだが、違う。悪魔はもっと人間に近い。
このイノシシ頭は、魔人だ。魔人は魔界と人間界の間に存在する、魔迷宮の住人だが、悪魔は彼らを奴隷のように使うと聞いている。
「あるじガ、よンデイル」
その魔人が口を開き、かなりぎこちないながらも、人語を喋ったので、僕は驚きに目を丸くしてしまった。
「あ、主?」
僕の質問を聞きとれなかったのか、聞き取れても理解できなかったのか、それともはなから無視したのか、よく分からないけれど、その魔人は腰に下げている鍵の束を探り始めた。その鍵の束も、典型的な鍵の束、と言えるかもしれない。
一本を選び出した魔人が、指先がうまく使えないのではないかと思える動きで、不器用に鉄格子の隅、出入口の部分を開錠した。
このまま外に飛び出せば、逃げられるかもしれない。
そうは思ったが、実行する気にはなれなかった。何かが僕を躊躇わせた。
魔人が「でロ」と言い、僕はおとなしく、牢から出た。鉄格子から解放された僕の腕を、予想外に素早い動きで掴む。信じられないほど強烈な握力に、僕は思わず息を呑んだ。
逃げ出さなくて正解だったかもしれない。もし逃げても、すぐに追いつかれた、今、腕を掴まれた以上の力で、痛い目に会ったかも。
魔人は僕を引っ張って、歩き始めた。僕はそれに従って、先へ進んだ。
主、とは、誰だろう。
考えながら、僕はポケットの中身に服の上から触れた。
◆
「匠子、急げ」
俺は処刑刀を背負い、腰に拳銃をぶら下げて、アパートの部屋にやってきた匠子に催促をした。
まだ朝五時を過ぎたところで、外はうっすらと明るい程度。
凪の気配が唐突に移動してから、十分が過ぎた。俺はその直後に目覚めたが、しかし、凪が拉致されるのを防げなかったのでは、意味がない。
匠子も異変に気付き、すぐにここに電話をしてきた。そして間をおかずにここへ来たのだ。
彼女はここに来てすぐに、床にチョークで魔法人を描いていた。
人間は悪魔の住む魔界に、直接、アクセスすることはできない。人間界と魔界を繋ぐ魔迷宮を経由しなければならない。
そして、魔迷宮に行くことさえ、普通の人間には不可能だ。
魔迷宮に進む方法の一つが、魔法使いが使う、転移魔術だ。今、匠子が畳に描いているのも、それだった。
それがやっと終わる。
「アオ」
立ち上がった匠子がこちらを見る。突然の事態の上に、朝早いというのに、彼女の姿からそう言ったものは感じ取れない。いつも通りの匠子だった。
「今から、あなたを世界の時間と切り離す。私の魔法の中でも、極めて強烈な奴よ。あなたの体だから、たぶん、耐えられると思うけど、魔法の効果が切れた時、相応のダメージを受ける。それでも良いのね?」
「時間が無い。早く、俺を魔迷宮へ飛ばせ」
「凪くんの居場所は分かるの?」
俺は力強く頷く。
凪には、真理剣の一部を渡してある。その位置を俺が見失うことはない。
敵には気付かれなかったようで、それは今も凪が持っているのだろう。気配が移動しているが、人間にはない。魔迷宮でもない、とも思う。なら、答えは一つだ。
凪は、魔界にいる。
俺は匠子を急きたてる。
「急げ、匠子」
「……分かった。とりあえず、あなたに任せる」
匠子が離れ、俺は魔法陣の真ん中に立った。匠子が両手で魔法陣に触れ、目を閉じた。
「転移と同時に、あなたには私の魔法が発動する」
「だから、急げ」
匠子は俺の言葉に返事をせず、眉間にしわを寄せた。
魔法陣が輝き始める。
「行くよ」
匠子が小さく呟くと同時に、俺は一瞬の浮遊感の後、アパートの部屋とは全く違う光景の中に立っていた。
継ぎ目のない岩で出来た、滑らかすぎる平面の壁と床、そして天井。
自然とは思えない、通路だった。
体がやけに軽い。匠子の魔法がすでに発動している。
俺は全力疾走を開始する。通路を進むと、十字路がやってくる。俺は迷わず左折して、さらに駆ける。
魔迷宮には無数に出口がある。その出口は魔界の各所に繋がっているのだが、人間はまだ魔迷宮の正確な地図を持っていない。
最大の理由は、魔迷宮の中が、絶えず変化しているのだ。
魔迷宮を作ったのは悪魔で、その理由は、人間が魔界に直接に侵攻するのを防ぐためだと、反動の悪魔たちは言っている。
俺も、魔迷宮の全ては知らない。だが、第二次大戦の最中に何度もここで戦ったことと、悪魔と契約をしている存在である俺には、ある程度の土地勘のようなものがある。
人間とは根本的に違う悪魔の思考回路を、ある程度はトレース出来るのだ。
それに今、目標である凪の位置は、真理剣によって正確に把握できている。
どれだけ早く到達できるか、それが今、最大の問題だった。
俺は迷宮を踏破すべく、全力で走り続けた。
◆
なるほど、とその男は言った。
僕が魔人に連れて行かれた場所は、石造りの建物の四階だった。牢は別の棟の地下にあって、途中、地上を歩いた。
太陽は低い位置にあり、空は晴れ渡っていた。青い空だ。
それだけなら人間界だと思っただろう。しかし、目の前にある背の高い建物の外観は魔界のものだった。学校の教科書に資料として掲載されていた魔界の写真に、似た建物があった気がする。
その建物に入り、四階まで上がった。魔人はドアの一つの前まで僕を連れて行くと、やっと僕の腕を解放した。
「はいレ」
魔人はそう言って、一歩、下がった。拒否権もないし、僕はドアをノックした。「入れ」と人間の言葉が返ってきたので、恐る恐る、ドアを開けた。
中は、絨毯敷きで、柔らかそうなソファが二つあった。その一方に、男が腰かけている。
人間のように見えるが、服装は、悪魔趣味、と言えば良いのか、悪魔独特のものだったので、その男が悪魔だと理解した。
その男の隣に、長身の女が立っていた。彼女は兵士の戦闘服のようなものを着ている。それが悪魔趣味じゃないのが、不思議だった。
女がこちらも見ないのに対し、男は手に赤い液体が注がれたグラスを持ちながら、僕をじっと見ていた。僕は度のすぐ近くに立ったまま、男を観察し、女を観察し、部屋を観察した。
そうして言えることは、良い状況とは言えない、ということだ。
逃げ出せる可能性が、思い描けない。
そう思っている僕に男が、なるほど、と言ったのだ。
「なるほどね」
男はそう繰り返すと、グラスの中身を飲み干した。空のグラスに、女がテーブルから持ち上げたボトルから、丁寧に飲み物を注いだ。
「人間の割には」男が言う。「余裕だな」
どう答えればいいのか、分からなかった。だから僕は黙っていた。
余裕はないけれど、余裕のないように感じさせない程度の、小さな余裕はある。
「助けが来ると思っているのか?」
その質問に僕が答えなかったのは、図星だったからだ。
僕は、アオが来るだろうと思っていた。
「まぁ、座って待とうぜ、人間」
男が空いているソファを顎をしゃくって示したので、僕は警戒を解かずに歩み寄り、ソファにゆっくりと音もしないほど丁寧に腰を降ろした。
「人間」悪魔が言う。「気配を感じるぞ」
「……何の、ですか?」
聞き返した僕に、悪魔は鼻を鳴らす。
「圧倒的な力の気配、だな」
◆
俺は魔迷宮で、全部で四十四体、処刑刀で切り捨てた。
やっと魔迷宮を突破し、その出口から魔界に飛び出た。いきなり建物の中に出たので、足を止めて、周囲を確認する。
背後には、床に魔法陣があり、そこから魔迷宮に戻れるはずだ。
前方には石造りの廊下、松明が明かりを投げている。
凪の気配を探り、精確な場所が理解できるのと同時に、俺は疾走を再開する。
感覚からすると、この建物の上の上の階の辺りに、凪はいるようだ。階段を探る。
通路を駆けていると、窓があり、外がちらりと見えた。一瞬だったが、光景と記憶を一瞬で照合。ここがどこか、分かった。
魔界の中でも武闘派が集う、『九十九竜の砦』と呼ばれる、砦の街だ。
指導者が次々と入れ替わる場所だが、今は、誰の根城だったか。
階段が見つかり、二段飛ばしで進む。
踊り場で折り返した時、頭上にいる誰かの姿に、俺は足を止める。
十数段の階段を隔てて、背広を着た男がいた。
背命者だと、気付き、即座に俺は飛びかかった――が、俺の脳内で直感が最大級の警告を告げる。
処刑刀を引き抜きざまに振ると、壁を叩き、反動で姿勢を変える。
眼前を何かが通過。
俺は空中で体を捻り、処刑刀をもう一度、振るう。
何かと衝突した刃が火花を散らし、そのまま俺の振り抜いた刀は、壁に向かう。
打った反動で、俺の体が再度、移動。その時には足が階段を踏み、全力で距離を置く。
踊り場に着地して、男を見る。
「そこをどけ」
俺は処刑刀を構えて、告げる。
男は、糸のように細い眼で俺を見て、
「見えたか?」
と言った。
今の攻撃のことだろう。
「見る必要はない」
俺は一歩、階段を上がる。
その瞬間、俺の足を左右から挟むように、何かが、床を切りつけた。
「切り刻んでやろう」
男がそう言って、両手を持ち上げる。
俺は処刑刀を持ち上げ、床を蹴――れなかった。
体が唐突に重くなり、足の裏が床に張り付けられたような感じだ。処刑刀も重い。
匠子の魔法が、解けたのだ。
背命者の男が、腕を振る。
背を反らし、体を捻る。
かろうじて反射的な俺の動きが、勝る。
壁、床、天井、全てに深い亀裂が出来上がる。
「お前の負けだ」
男が手を強く振った。
死の気配に、俺の背筋が凍り――
◆
僕の正面に座る悪魔が、ゆっくりと話す。
「人間。お前のような存在は、久しく見なかった」
悪魔がグラスを傾け、息を吐く。
「七英雄を飼っている、と聞いている。本当か?」
「……飼っているわけじゃ、ありません」
ふむ、と悪魔が頷く。
「では、魔法使いを連れている、というのも間違いか?」
「匠子さんは、その……親の、依頼と言うか……」
僕はしどろもどろに答えるしかない。
悪魔の言葉は、的確だったから。
「まぁ、良い。言葉遊びに本当の興味などない。遊びは遊び、暇つぶしだ」
そう言って、悪魔は、テーブルにグラスを置いた。
「お前など足元にも及ばぬほどなのだよ」
悪魔が目を伏せたので、僕はその真意を測りかねた。
「あの……」
「なんだ?」
悪魔は瞑目したまま応じた。
「僕は」恐る恐る、言った。「阿倍野、凪、と言います。あなたは?」
瞼を持ち上げた悪魔の目には冷笑の色。
「人間は、名を大切にするのだったな。そんなものに、意味はないのに」
「でも、ここにはあなたと僕以外に、そこに、もう一人います」
悪魔はちらっと、自分の背後に立つ女を見た。
「名前が意味のないただの記号だとしても、この世界に、自分しかいないわけじゃ、ありません」
「……良いだろう」
悪魔がこちらを睥睨し、堂々と告げる。
「俺の名は、ガガラ」
「悪魔、ですよね」
「分かりきったことを」
ガガラはそう言うと、グラスを唇に運び、短く傾けた。
その視線が横に逸らされ、すぐに僕に向く。
「お前を助けに来た奴がいるぞ」
そう言われても、僕には分からない。
でも、僕を助けに来る人なんて、非常に少ない。
「アオ……」
僕は、視線を部屋の扉へ向けた。
何も、聞こえない。
何も、見えない。
何も、感じない。
◆
俺は全身を切り刻まれ、階段の踊り場に倒れた。
湿った音を立てて、俺の全身から噴出した血液が、そこら中に飛び散った。
意識を失う。
しかし、それも一瞬だ。
激痛、それも思考が真っ白になるような激痛が刹那だけ消え、即座に蘇り、去っていく。
切り裂かれた皮膚、断裂した筋肉、破砕された骨、全てが繋ぎ合わされていく。
同時に血液が再生産され、心臓が早鐘を打って、血管を激流となって流れて行く。
意識が明確になり、
俺は体を起こした。
階段の上にいる背命者の気配が揺らぐ。
まぁ、良いだろう、そんなことは。
恐怖されるのには慣れている。
俺は、恐怖させるための、存在なのだから。
「タネは分かった」
俺は首筋を押さえた。切断された場所が引きつっていたが、それもすぐに消える。
傍らに転がる処刑刀を無視して、俺は右手を前に突き出した。
手のひらから、黒い靄が滲みだす。
それが黒い粒子の帯に変化し、俺の手がそれを掴めば、帯が一本の刃になった。
「それが、万死剣……」
背命者が、呻くように、口にした。
本当の名を、「真理剣」と言う、俺の武器。
「剣でなど」背命者が両腕を構える。「防げぬ!」
男が腕を振るのと同時に、俺も真理剣を振っていた。
空中で見えないもの同士が衝突する。
「な――っ!」
相手が驚いても、俺に驚きはない。
この背命者は、魔界物質を細い糸にして攻撃していると、俺は体で理解した。
人間界の物質とは違う、図抜けて強靭で、そして極めて細い糸だ。
しかし、分かってしまえば、どうということはない。
物質であることに変わりはなく、同じ時間の流れと速度の中にあるのだ。
そして目の前の空間を通過しなければ、俺の体には当たらないのだから。
「まぁ」
俺は階段を一歩、上がる。
右手の剣、真理剣は、柄を残して、刀身が霞むように消えている。
「この程度の遊びも、時には必要だわな」
階段を上がる俺に、背命者は両腕を何度も振った。
しかし、俺には腕を振る必要すらない。
眼前で、何かと何かが衝突し、微かな風を巻き起こす中を、一歩一歩、階段を上がる。
今、俺を守るように、無数の極細の糸に変化した真理剣の刃が、俺を守っている。
正確には、俺が背命者の攻撃を読んで、それを払いのけている。
真理剣には定まった形がない。どんな形状にも変化できる上に、硬度も自由自在、さらに体積に関わらず重さすらも変えられる。
背命者が何か怒鳴ろうとした瞬間、俺の操る視認不可能な刃の一本が、彼の右手の指を一本、切断した。
「じゃあな」
俺の言葉は果たして聞こえたか。
階段の上に到達した俺の横で、背命者は細切れのブロック肉に姿を変え、床に飛び散った。
「あぁ、忘れていた」
処刑刀を置き去りにはできない。
真理剣の糸を操れば、階段の上から踊り場に転がる太刀を回収することもできる。
刀を背負った俺は階段をゆっくりと上がる。
肉体が一度、死に瀕したことで、匠子の魔法の反動は、ある程度、リセット出来た。
しかし、今度は戦闘でのダメージが俺に圧し掛かっている。
七英雄と、すでに死したその同類は、文字通りに休む間もなく戦場で激闘を続けた。
それは最初から想定されたことだった。そもそも、俺たちは悪魔との契約によって、超常的な身体能力と不老不死、そして個々で異なる異能を与えられ、それはつまり、死ぬまで戦うことを意味した。
だから、俺は戦場で瀕死に陥ったことは何度もある。その度に、最後の一線で肉体が再生し、再び戦場に立った。
その時にも感じたはずの、今の体の違和感が、なぜか、異様に重い。
匠子の魔法の影響ではないと感じる。
俺も、長い時間を生きたのだ。
階段を四階まで上がり、通路を進む。
ここか。
凪の気配の手前のドアの前に立ち、俺は真理剣を片手に握ったまま、空いている手でドアを押し開けた。
「ようこそ、七英雄の一人よ」
出迎えた声の主、悪魔の男よりも先に、俺はそこにいた存在に、視線が釘付けになった。
体が緊張し、すぐにほぐれる。
それはリラックスの中でも、戦闘の中で身につけたリラックスだった。
心が、戦闘態勢になった、ということだ。
「懐かしいな、モエギ」
俺の言葉に、悪魔の背後に立つ女は答えない。
俺は部屋に一歩、踏み込んだ。
◆
僕は服がぼろきれになり、残っている部分も血に染まっているアオにぎょっとして言葉が出なかった。
その衝撃から回復しても、僕は何も言えなかった。
アオの視線が、ガガラの背後に控えている女から、外れなかったから。
僕の見ている前で、アオが右腕を持ち上げた。
その手に、漆黒の剣が現れる。
真理剣だ。
僕はソファの上から、どこか、邪魔にならないところへ移動しようと考えた。
アオの邪魔になっては、いけない。
なりたくない。
「そこにおれ」
ガガラのその言葉に、僕は動きを止めた。
アオが部屋にゆっくりと踏み込み、それに合わせて、ガガラを守るように、女が移動する。
この人も、悪魔なのか?
人間のように、見える。
「俺もお前と同じよ」
ガガラが女の背中も見ずに言う。その視線は、手に持ったグラスに注がれている。
その赤い液体を透かし見るような、そんな視線。
「何が、ですか……?」
僕が訊くのと同時に、アオが腕を振る。
渾身の一撃だと、気配だけでも分かる。
真理剣が長く伸び、まるで瀑布のような迫力で、女の頭上に落ちる。
女が、腕を掲げていた。人間離れした、超高速で。
その腕に、真理剣が衝突した。
切断される。
そのはずだった。
「え?」
過ぎるほどに甲高い音が響いた後に、僕の間の抜けた声が漏れた。
腕は、切断されなかった。
服の袖は吹き飛んだが、その下の腕は健在。
いや、あれは腕なのか。
「この女も――」
ガガラが言う。
「――七英雄の一人なのだ」
悪魔の言葉の後に、アオが獰猛な笑みを浮かべて、言ったのが聞こえた。
「モエギ、俺に勝てると思うか?」
その言葉にやっと女、モエギが答える。
「私たちは、負けない存在なのでしょ? アオ」
激戦を戦い抜いた七人。
負けなかった七人。
超常の、七人。
その中の二人が、今、戦おうとしている。
ガガラがグラスの中身を揺らしながら、それを見つめているのに対し、僕は視線をアオとモエギから離せなかった。
◆
七英雄同士の戦闘は、公式には記録されていない。
記録されていないだけで、大戦を生き抜いた七人からの最初の離反者、二番目の離反者とは、人間軍に残る英雄との戦闘があった。
しかし、とアオは思う。
俺は、これが初めてだ。
真理剣を引き、長さを通常に戻す。そして駆けだす。
長さによって生まれる、振るった時の先端の超加速には魅力があるが、それではモエギは倒せない。
そんな小手先の単純な力比べじゃないのだ。
人間が積み重ねてきた剣術を使わなければ、無理だろう。
そこに真理剣にのみ可能な、超重量を重ねる必要さえある。
モエギが拳闘の構えを取り、俺を待ちうける。
その両手は漆黒に染まっていて、俺の斬撃で袖が吹き飛んだ方の腕は、肘のさらに根元までその黒が届いているのが分かる。
モエギは、俺の真理剣を知っているだろう。
一方、俺もモエギのことは知っていた。
その異能の名は「金剛壁」。防御に特化した異能だという。
真理剣を受け止められても、しかし、先ほどは全力ではない。
俺の鋭い踏み込みに、モエギが拳をこちらへ突き出す。
――速い!
身を捻って俺の頬を、拳が掠める。
体を回転させて、斬撃を繰り出す。しかし、モエギはそれを避けて見せた。
俺の動きも人間離れしているが、それ以上に、モエギが速い。
拳が次々と繰り出され、俺の頬骨、右鎖骨、右の肋骨二本を瞬く間にへし折った。
よろめいた俺に、死神の鎌となった左回し蹴りが襲いかかり、首を直撃する。
自分の体が激烈な衝撃に横転し、頭が地面に激突する。
蹴りで首を折られた上に、床への衝突で頭がい骨にも亀裂が入った。脳は頭の中で激しく翻弄される。
意識が途絶え、気付いた時には壁に叩きつけられ、その壁の表面を剥落させていた。
力なく床に体が落ち、反射的に床に手をついて体をかばう。
全ての骨折が即座に修復、意識も戻る。
立ち上がり、違和感のある首をかしげつつ、真理剣を構えなおす。
近接戦では、速度差で負ける。
しかし。
俺は迷いを振り払い、真理剣を先ほどの背命者にやったように、無数の糸に解くと、それを繰り出した。
一本が必殺の斬撃であり、今、それの数は百を超える。
長さの差によって、その刃は前後左右、四方八方から、モエギに襲いかかった。
モエギはわずかしか動かなかった。
短いが高速の運動が、途切れ途切れに起こる。モエギの衣類の切れ端が飛び散る。
それを前に、俺のこめかみを冷や汗が流れる。
糸の中に、何本か、他よりもさらに細く、しかし重さを増して威力を高めた糸を混ぜておいたのだ。
彼女の動きは、それを的確に弾いている。
見えない糸よりもさらに細い糸を、見抜けるのか。
モエギは視力を含めた五感で知覚しているのか、あるいは第六感でもあるのか。
動きの中で、モエギがこちらへと間合いを詰めてくる。無駄のない、直線的な動き。
糸による攻撃では、止められない!
真理剣を剣に戻す。その時には、モエギは眼前!
俺の最速の運動からの斬撃は、モエギに襲いかかるが、モエギは手の甲で刃の側面、腹を叩き、剣を逸らす。
俺も拳打を経験にものを言わせて回避し、二人の間合いが広がる。
斬撃と回避、拳打と回避。それが繰り返される。
激しい運動に体が悲鳴をあげ、軋む。
研ぎ澄まされた神経は、その鋭さ、薄さから来る脆さに、ひび割れそうになる。
しかし、体が壊れようと、神経が崩れようと、死ぬよりはマシだ。
その瞬間は、唐突にやってきた。
そこに剣を繰り出せば、一撃、見舞える。
直感が、告げる。そして体は考えるよりも先にそれを実行した。
真理剣が、モエギの首筋を薙ぎ払う。
手応えは――重い。
モエギの靴底が床を滑り、焦がす。
彼女は俺の一撃を、腕と首自体で、受け止めていた。
腕も、首も、漆黒に染まっている。
金剛壁。これほどとは。
モエギの空いている手が、腰に引きつけられている。
誘われたのではない、と俺はその刹那に思った。
あの一瞬の勝機は、間違いじゃない。
俺が勝手に失敗しただけだ。
次の瞬間、指先が鋭く揃えられた、漆黒の貫手が俺の左胸に直撃した。
◆
「アオ!」
アオの左胸から、モエギが手を引き抜く。血が迸り、モエギを赤く染める。
ぐらりと体が傾き、アオが倒れた。受け身も取らずに、床に崩れ落ちる。
「余興としては上出来だったな」
ガガラはそう言うと、グラスの中身を飲み干し、頷いた。
「では、本当の宴を始めよう」
悪魔の言葉は僕の耳をただ通りぬけた。
アオが、倒れている。
助けなくては。
でも。
僕はモエギを見た。
彼女はこちらに背中を向けたまま、立ちつくし、倒れているアオを見下ろしている。
彼女に勝つことなど、僕には、不可能だ。同じ戦場に立つことさえも、不可能なのだった。
自らの無力さに打ちのめされながら、モエギの背中を見ていた。
不意に、彼女の肩が小さく震えたように感じた。
しかし、彼女は鋭く振り返ると、こちらへとゆっくりと歩み寄ってくる。血に染まった姿、その無表情から発散されているのは、絶対零度の、冷酷さだった。
ガガラが立ち上がったので、僕はそちらを見た。
「暇つぶしもこれまで」
ガガラはグラスを手放す。グラスは床に落ち、転がった。ひびが入っているが、割れてはいない。それを僕の視線が追い、元に戻した時には、悪魔がこちらへ手を伸ばしているところだった。
何をされるか、分からない。
しかし、良いことが起こるわけもない。
身体を固くしながら、僕は自分でも何を考えているのか分からないまま、何かを必死に願った。
助かりたい、と思ったのだと思う。
助けてほしい、と。
刹那。
唐突に視界が揺れたことで、その思いさえも、形を失う。
体が落下して、それは床が崩壊したからだと分かり、瞬きするより速く、真っ黒い何かが球形になって僕を包み、僕は一切の明かりを失った。
◆
心臓を破壊されたのは、本当に久しぶりだった。
回復に思ったよりも時間がかかったので、際どかったが、うまくいった。
俺はモエギを糸で攻撃した時、部屋の床に細工をしておいた。床を破壊し、かつ、凪を保護する仕掛けだ。
心臓を破壊されて、それも危うく無効化されるところだったが、偶然にか、意識の途絶の間が短く、仕掛けは生きた。
結果、俺は予想外に不意打ちという形で、策を実行した。
床を破壊し、真理剣の形状を変化させ、凪を保護した。もちろん、俺の体も床と一緒に、一つ下の階へ落ちた。
もうもうと立ち込める土煙に隠れて、俺は凪を引き寄せつつ、さらに床をもう一度、破壊する。上の階の崩壊で不安定だった床は、簡単に崩れ、瓦礫も何もかも、もう一階、下へ落下した。
その頃には俺は凪と接触し、凪を真理剣で包んだまま、逃走を開始した。
あの悪魔や、モエギがどうなったのか、分からない。出来るだけ長い間、こちらを見失っていて欲しい。
新しくなった心臓を酷使して、真理剣で出来た黒い球から引っ張り出した凪を肩に担ぎ、通路を走る。
凪は気絶しているようだが、怪我はないと思う。
ちょっとした怪我の有無など、今は考えていられないというのが、本音だった。
今は、逃げるだけだ。
僕は目を覚ました時に、自分が硬い地面に寝ているのに気付いた。
「……え?」
床はいつもの畳敷きではない、石だった。ついでに言えば、壁も天井も石だ。
壁は三方が岩で、一方は、鉄格子だった。
ちょっと言葉に詰まってしまうくらい、典型的な、牢屋だった。森羅万象の典型を集めたカタログがあったら、ここの写真が使われるかもしれない。
そんなことを思いつつ、すぐにそんなことを考えている場合じゃないと気付いた。
その典型的な牢屋の、内側に、僕がいるのだから。
起きあがって、まず自分の服装が寝巻代わりのジャージだと気付く。昨日の夜、あのアオパートの一室で眠りに着いた時の服装だった。
次に反射的に窓を探した。日の光を欲したというよりは、今が何時なのか、昼なのか夜なのか、それを確かめようとしたのだ。
でも、この典型的な牢には、窓はなかった。
鉄格子に歩み寄り、手を触れてみると冷たかった。握り続けても、鉄格子は暖まることはなく、そのうちに冷たさで手のひらがピリピリしてきた。
僕は鉄格子にある、出入り口を探す。それはすぐそこにあるけれど、確認するまでもなく鍵はかかっているし、開けることは不可能だ。アオだったら力で強引に開けることが可能かもしれないが、しかし、僕に出来るわけもない。
鉄格子の向こうには、狭い通路を挟んで、石の壁だった。積んであるのではなく、次目はない。地下を掘削して、牢を作ったのかもしれない。
とりあえず、鉄格子から離れる。
何となく、人間とは違う気配があった。生物の気配はある、しかしそれが人とは若干、違う。
それに、空気もいつもより微かに、違う。
空気の違いに気付くのとほぼ同時に、通路の奥で、何か、金属同士がぶつかるような音がして、足音が近づいてくる。
そして、それが顔を見せた。
イノシシの頭と、ずんぐりとした人間に近い体、腰で漂う煙のように動いているは蛇で、こちらを見ると、いやに大きな声で鳴いた。
身がすくみそうになりつつ、冷静に僕は思った。
悪魔のようだが、違う。悪魔はもっと人間に近い。
このイノシシ頭は、魔人だ。魔人は魔界と人間界の間に存在する、魔迷宮の住人だが、悪魔は彼らを奴隷のように使うと聞いている。
「あるじガ、よンデイル」
その魔人が口を開き、かなりぎこちないながらも、人語を喋ったので、僕は驚きに目を丸くしてしまった。
「あ、主?」
僕の質問を聞きとれなかったのか、聞き取れても理解できなかったのか、それともはなから無視したのか、よく分からないけれど、その魔人は腰に下げている鍵の束を探り始めた。その鍵の束も、典型的な鍵の束、と言えるかもしれない。
一本を選び出した魔人が、指先がうまく使えないのではないかと思える動きで、不器用に鉄格子の隅、出入口の部分を開錠した。
このまま外に飛び出せば、逃げられるかもしれない。
そうは思ったが、実行する気にはなれなかった。何かが僕を躊躇わせた。
魔人が「でロ」と言い、僕はおとなしく、牢から出た。鉄格子から解放された僕の腕を、予想外に素早い動きで掴む。信じられないほど強烈な握力に、僕は思わず息を呑んだ。
逃げ出さなくて正解だったかもしれない。もし逃げても、すぐに追いつかれた、今、腕を掴まれた以上の力で、痛い目に会ったかも。
魔人は僕を引っ張って、歩き始めた。僕はそれに従って、先へ進んだ。
主、とは、誰だろう。
考えながら、僕はポケットの中身に服の上から触れた。
◆
「匠子、急げ」
俺は処刑刀を背負い、腰に拳銃をぶら下げて、アパートの部屋にやってきた匠子に催促をした。
まだ朝五時を過ぎたところで、外はうっすらと明るい程度。
凪の気配が唐突に移動してから、十分が過ぎた。俺はその直後に目覚めたが、しかし、凪が拉致されるのを防げなかったのでは、意味がない。
匠子も異変に気付き、すぐにここに電話をしてきた。そして間をおかずにここへ来たのだ。
彼女はここに来てすぐに、床にチョークで魔法人を描いていた。
人間は悪魔の住む魔界に、直接、アクセスすることはできない。人間界と魔界を繋ぐ魔迷宮を経由しなければならない。
そして、魔迷宮に行くことさえ、普通の人間には不可能だ。
魔迷宮に進む方法の一つが、魔法使いが使う、転移魔術だ。今、匠子が畳に描いているのも、それだった。
それがやっと終わる。
「アオ」
立ち上がった匠子がこちらを見る。突然の事態の上に、朝早いというのに、彼女の姿からそう言ったものは感じ取れない。いつも通りの匠子だった。
「今から、あなたを世界の時間と切り離す。私の魔法の中でも、極めて強烈な奴よ。あなたの体だから、たぶん、耐えられると思うけど、魔法の効果が切れた時、相応のダメージを受ける。それでも良いのね?」
「時間が無い。早く、俺を魔迷宮へ飛ばせ」
「凪くんの居場所は分かるの?」
俺は力強く頷く。
凪には、真理剣の一部を渡してある。その位置を俺が見失うことはない。
敵には気付かれなかったようで、それは今も凪が持っているのだろう。気配が移動しているが、人間にはない。魔迷宮でもない、とも思う。なら、答えは一つだ。
凪は、魔界にいる。
俺は匠子を急きたてる。
「急げ、匠子」
「……分かった。とりあえず、あなたに任せる」
匠子が離れ、俺は魔法陣の真ん中に立った。匠子が両手で魔法陣に触れ、目を閉じた。
「転移と同時に、あなたには私の魔法が発動する」
「だから、急げ」
匠子は俺の言葉に返事をせず、眉間にしわを寄せた。
魔法陣が輝き始める。
「行くよ」
匠子が小さく呟くと同時に、俺は一瞬の浮遊感の後、アパートの部屋とは全く違う光景の中に立っていた。
継ぎ目のない岩で出来た、滑らかすぎる平面の壁と床、そして天井。
自然とは思えない、通路だった。
体がやけに軽い。匠子の魔法がすでに発動している。
俺は全力疾走を開始する。通路を進むと、十字路がやってくる。俺は迷わず左折して、さらに駆ける。
魔迷宮には無数に出口がある。その出口は魔界の各所に繋がっているのだが、人間はまだ魔迷宮の正確な地図を持っていない。
最大の理由は、魔迷宮の中が、絶えず変化しているのだ。
魔迷宮を作ったのは悪魔で、その理由は、人間が魔界に直接に侵攻するのを防ぐためだと、反動の悪魔たちは言っている。
俺も、魔迷宮の全ては知らない。だが、第二次大戦の最中に何度もここで戦ったことと、悪魔と契約をしている存在である俺には、ある程度の土地勘のようなものがある。
人間とは根本的に違う悪魔の思考回路を、ある程度はトレース出来るのだ。
それに今、目標である凪の位置は、真理剣によって正確に把握できている。
どれだけ早く到達できるか、それが今、最大の問題だった。
俺は迷宮を踏破すべく、全力で走り続けた。
◆
なるほど、とその男は言った。
僕が魔人に連れて行かれた場所は、石造りの建物の四階だった。牢は別の棟の地下にあって、途中、地上を歩いた。
太陽は低い位置にあり、空は晴れ渡っていた。青い空だ。
それだけなら人間界だと思っただろう。しかし、目の前にある背の高い建物の外観は魔界のものだった。学校の教科書に資料として掲載されていた魔界の写真に、似た建物があった気がする。
その建物に入り、四階まで上がった。魔人はドアの一つの前まで僕を連れて行くと、やっと僕の腕を解放した。
「はいレ」
魔人はそう言って、一歩、下がった。拒否権もないし、僕はドアをノックした。「入れ」と人間の言葉が返ってきたので、恐る恐る、ドアを開けた。
中は、絨毯敷きで、柔らかそうなソファが二つあった。その一方に、男が腰かけている。
人間のように見えるが、服装は、悪魔趣味、と言えば良いのか、悪魔独特のものだったので、その男が悪魔だと理解した。
その男の隣に、長身の女が立っていた。彼女は兵士の戦闘服のようなものを着ている。それが悪魔趣味じゃないのが、不思議だった。
女がこちらも見ないのに対し、男は手に赤い液体が注がれたグラスを持ちながら、僕をじっと見ていた。僕は度のすぐ近くに立ったまま、男を観察し、女を観察し、部屋を観察した。
そうして言えることは、良い状況とは言えない、ということだ。
逃げ出せる可能性が、思い描けない。
そう思っている僕に男が、なるほど、と言ったのだ。
「なるほどね」
男はそう繰り返すと、グラスの中身を飲み干した。空のグラスに、女がテーブルから持ち上げたボトルから、丁寧に飲み物を注いだ。
「人間の割には」男が言う。「余裕だな」
どう答えればいいのか、分からなかった。だから僕は黙っていた。
余裕はないけれど、余裕のないように感じさせない程度の、小さな余裕はある。
「助けが来ると思っているのか?」
その質問に僕が答えなかったのは、図星だったからだ。
僕は、アオが来るだろうと思っていた。
「まぁ、座って待とうぜ、人間」
男が空いているソファを顎をしゃくって示したので、僕は警戒を解かずに歩み寄り、ソファにゆっくりと音もしないほど丁寧に腰を降ろした。
「人間」悪魔が言う。「気配を感じるぞ」
「……何の、ですか?」
聞き返した僕に、悪魔は鼻を鳴らす。
「圧倒的な力の気配、だな」
◆
俺は魔迷宮で、全部で四十四体、処刑刀で切り捨てた。
やっと魔迷宮を突破し、その出口から魔界に飛び出た。いきなり建物の中に出たので、足を止めて、周囲を確認する。
背後には、床に魔法陣があり、そこから魔迷宮に戻れるはずだ。
前方には石造りの廊下、松明が明かりを投げている。
凪の気配を探り、精確な場所が理解できるのと同時に、俺は疾走を再開する。
感覚からすると、この建物の上の上の階の辺りに、凪はいるようだ。階段を探る。
通路を駆けていると、窓があり、外がちらりと見えた。一瞬だったが、光景と記憶を一瞬で照合。ここがどこか、分かった。
魔界の中でも武闘派が集う、『九十九竜の砦』と呼ばれる、砦の街だ。
指導者が次々と入れ替わる場所だが、今は、誰の根城だったか。
階段が見つかり、二段飛ばしで進む。
踊り場で折り返した時、頭上にいる誰かの姿に、俺は足を止める。
十数段の階段を隔てて、背広を着た男がいた。
背命者だと、気付き、即座に俺は飛びかかった――が、俺の脳内で直感が最大級の警告を告げる。
処刑刀を引き抜きざまに振ると、壁を叩き、反動で姿勢を変える。
眼前を何かが通過。
俺は空中で体を捻り、処刑刀をもう一度、振るう。
何かと衝突した刃が火花を散らし、そのまま俺の振り抜いた刀は、壁に向かう。
打った反動で、俺の体が再度、移動。その時には足が階段を踏み、全力で距離を置く。
踊り場に着地して、男を見る。
「そこをどけ」
俺は処刑刀を構えて、告げる。
男は、糸のように細い眼で俺を見て、
「見えたか?」
と言った。
今の攻撃のことだろう。
「見る必要はない」
俺は一歩、階段を上がる。
その瞬間、俺の足を左右から挟むように、何かが、床を切りつけた。
「切り刻んでやろう」
男がそう言って、両手を持ち上げる。
俺は処刑刀を持ち上げ、床を蹴――れなかった。
体が唐突に重くなり、足の裏が床に張り付けられたような感じだ。処刑刀も重い。
匠子の魔法が、解けたのだ。
背命者の男が、腕を振る。
背を反らし、体を捻る。
かろうじて反射的な俺の動きが、勝る。
壁、床、天井、全てに深い亀裂が出来上がる。
「お前の負けだ」
男が手を強く振った。
死の気配に、俺の背筋が凍り――
◆
僕の正面に座る悪魔が、ゆっくりと話す。
「人間。お前のような存在は、久しく見なかった」
悪魔がグラスを傾け、息を吐く。
「七英雄を飼っている、と聞いている。本当か?」
「……飼っているわけじゃ、ありません」
ふむ、と悪魔が頷く。
「では、魔法使いを連れている、というのも間違いか?」
「匠子さんは、その……親の、依頼と言うか……」
僕はしどろもどろに答えるしかない。
悪魔の言葉は、的確だったから。
「まぁ、良い。言葉遊びに本当の興味などない。遊びは遊び、暇つぶしだ」
そう言って、悪魔は、テーブルにグラスを置いた。
「お前など足元にも及ばぬほどなのだよ」
悪魔が目を伏せたので、僕はその真意を測りかねた。
「あの……」
「なんだ?」
悪魔は瞑目したまま応じた。
「僕は」恐る恐る、言った。「阿倍野、凪、と言います。あなたは?」
瞼を持ち上げた悪魔の目には冷笑の色。
「人間は、名を大切にするのだったな。そんなものに、意味はないのに」
「でも、ここにはあなたと僕以外に、そこに、もう一人います」
悪魔はちらっと、自分の背後に立つ女を見た。
「名前が意味のないただの記号だとしても、この世界に、自分しかいないわけじゃ、ありません」
「……良いだろう」
悪魔がこちらを睥睨し、堂々と告げる。
「俺の名は、ガガラ」
「悪魔、ですよね」
「分かりきったことを」
ガガラはそう言うと、グラスを唇に運び、短く傾けた。
その視線が横に逸らされ、すぐに僕に向く。
「お前を助けに来た奴がいるぞ」
そう言われても、僕には分からない。
でも、僕を助けに来る人なんて、非常に少ない。
「アオ……」
僕は、視線を部屋の扉へ向けた。
何も、聞こえない。
何も、見えない。
何も、感じない。
◆
俺は全身を切り刻まれ、階段の踊り場に倒れた。
湿った音を立てて、俺の全身から噴出した血液が、そこら中に飛び散った。
意識を失う。
しかし、それも一瞬だ。
激痛、それも思考が真っ白になるような激痛が刹那だけ消え、即座に蘇り、去っていく。
切り裂かれた皮膚、断裂した筋肉、破砕された骨、全てが繋ぎ合わされていく。
同時に血液が再生産され、心臓が早鐘を打って、血管を激流となって流れて行く。
意識が明確になり、
俺は体を起こした。
階段の上にいる背命者の気配が揺らぐ。
まぁ、良いだろう、そんなことは。
恐怖されるのには慣れている。
俺は、恐怖させるための、存在なのだから。
「タネは分かった」
俺は首筋を押さえた。切断された場所が引きつっていたが、それもすぐに消える。
傍らに転がる処刑刀を無視して、俺は右手を前に突き出した。
手のひらから、黒い靄が滲みだす。
それが黒い粒子の帯に変化し、俺の手がそれを掴めば、帯が一本の刃になった。
「それが、万死剣……」
背命者が、呻くように、口にした。
本当の名を、「真理剣」と言う、俺の武器。
「剣でなど」背命者が両腕を構える。「防げぬ!」
男が腕を振るのと同時に、俺も真理剣を振っていた。
空中で見えないもの同士が衝突する。
「な――っ!」
相手が驚いても、俺に驚きはない。
この背命者は、魔界物質を細い糸にして攻撃していると、俺は体で理解した。
人間界の物質とは違う、図抜けて強靭で、そして極めて細い糸だ。
しかし、分かってしまえば、どうということはない。
物質であることに変わりはなく、同じ時間の流れと速度の中にあるのだ。
そして目の前の空間を通過しなければ、俺の体には当たらないのだから。
「まぁ」
俺は階段を一歩、上がる。
右手の剣、真理剣は、柄を残して、刀身が霞むように消えている。
「この程度の遊びも、時には必要だわな」
階段を上がる俺に、背命者は両腕を何度も振った。
しかし、俺には腕を振る必要すらない。
眼前で、何かと何かが衝突し、微かな風を巻き起こす中を、一歩一歩、階段を上がる。
今、俺を守るように、無数の極細の糸に変化した真理剣の刃が、俺を守っている。
正確には、俺が背命者の攻撃を読んで、それを払いのけている。
真理剣には定まった形がない。どんな形状にも変化できる上に、硬度も自由自在、さらに体積に関わらず重さすらも変えられる。
背命者が何か怒鳴ろうとした瞬間、俺の操る視認不可能な刃の一本が、彼の右手の指を一本、切断した。
「じゃあな」
俺の言葉は果たして聞こえたか。
階段の上に到達した俺の横で、背命者は細切れのブロック肉に姿を変え、床に飛び散った。
「あぁ、忘れていた」
処刑刀を置き去りにはできない。
真理剣の糸を操れば、階段の上から踊り場に転がる太刀を回収することもできる。
刀を背負った俺は階段をゆっくりと上がる。
肉体が一度、死に瀕したことで、匠子の魔法の反動は、ある程度、リセット出来た。
しかし、今度は戦闘でのダメージが俺に圧し掛かっている。
七英雄と、すでに死したその同類は、文字通りに休む間もなく戦場で激闘を続けた。
それは最初から想定されたことだった。そもそも、俺たちは悪魔との契約によって、超常的な身体能力と不老不死、そして個々で異なる異能を与えられ、それはつまり、死ぬまで戦うことを意味した。
だから、俺は戦場で瀕死に陥ったことは何度もある。その度に、最後の一線で肉体が再生し、再び戦場に立った。
その時にも感じたはずの、今の体の違和感が、なぜか、異様に重い。
匠子の魔法の影響ではないと感じる。
俺も、長い時間を生きたのだ。
階段を四階まで上がり、通路を進む。
ここか。
凪の気配の手前のドアの前に立ち、俺は真理剣を片手に握ったまま、空いている手でドアを押し開けた。
「ようこそ、七英雄の一人よ」
出迎えた声の主、悪魔の男よりも先に、俺はそこにいた存在に、視線が釘付けになった。
体が緊張し、すぐにほぐれる。
それはリラックスの中でも、戦闘の中で身につけたリラックスだった。
心が、戦闘態勢になった、ということだ。
「懐かしいな、モエギ」
俺の言葉に、悪魔の背後に立つ女は答えない。
俺は部屋に一歩、踏み込んだ。
◆
僕は服がぼろきれになり、残っている部分も血に染まっているアオにぎょっとして言葉が出なかった。
その衝撃から回復しても、僕は何も言えなかった。
アオの視線が、ガガラの背後に控えている女から、外れなかったから。
僕の見ている前で、アオが右腕を持ち上げた。
その手に、漆黒の剣が現れる。
真理剣だ。
僕はソファの上から、どこか、邪魔にならないところへ移動しようと考えた。
アオの邪魔になっては、いけない。
なりたくない。
「そこにおれ」
ガガラのその言葉に、僕は動きを止めた。
アオが部屋にゆっくりと踏み込み、それに合わせて、ガガラを守るように、女が移動する。
この人も、悪魔なのか?
人間のように、見える。
「俺もお前と同じよ」
ガガラが女の背中も見ずに言う。その視線は、手に持ったグラスに注がれている。
その赤い液体を透かし見るような、そんな視線。
「何が、ですか……?」
僕が訊くのと同時に、アオが腕を振る。
渾身の一撃だと、気配だけでも分かる。
真理剣が長く伸び、まるで瀑布のような迫力で、女の頭上に落ちる。
女が、腕を掲げていた。人間離れした、超高速で。
その腕に、真理剣が衝突した。
切断される。
そのはずだった。
「え?」
過ぎるほどに甲高い音が響いた後に、僕の間の抜けた声が漏れた。
腕は、切断されなかった。
服の袖は吹き飛んだが、その下の腕は健在。
いや、あれは腕なのか。
「この女も――」
ガガラが言う。
「――七英雄の一人なのだ」
悪魔の言葉の後に、アオが獰猛な笑みを浮かべて、言ったのが聞こえた。
「モエギ、俺に勝てると思うか?」
その言葉にやっと女、モエギが答える。
「私たちは、負けない存在なのでしょ? アオ」
激戦を戦い抜いた七人。
負けなかった七人。
超常の、七人。
その中の二人が、今、戦おうとしている。
ガガラがグラスの中身を揺らしながら、それを見つめているのに対し、僕は視線をアオとモエギから離せなかった。
◆
七英雄同士の戦闘は、公式には記録されていない。
記録されていないだけで、大戦を生き抜いた七人からの最初の離反者、二番目の離反者とは、人間軍に残る英雄との戦闘があった。
しかし、とアオは思う。
俺は、これが初めてだ。
真理剣を引き、長さを通常に戻す。そして駆けだす。
長さによって生まれる、振るった時の先端の超加速には魅力があるが、それではモエギは倒せない。
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人間が積み重ねてきた剣術を使わなければ、無理だろう。
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モエギが拳闘の構えを取り、俺を待ちうける。
その両手は漆黒に染まっていて、俺の斬撃で袖が吹き飛んだ方の腕は、肘のさらに根元までその黒が届いているのが分かる。
モエギは、俺の真理剣を知っているだろう。
一方、俺もモエギのことは知っていた。
その異能の名は「金剛壁」。防御に特化した異能だという。
真理剣を受け止められても、しかし、先ほどは全力ではない。
俺の鋭い踏み込みに、モエギが拳をこちらへ突き出す。
――速い!
身を捻って俺の頬を、拳が掠める。
体を回転させて、斬撃を繰り出す。しかし、モエギはそれを避けて見せた。
俺の動きも人間離れしているが、それ以上に、モエギが速い。
拳が次々と繰り出され、俺の頬骨、右鎖骨、右の肋骨二本を瞬く間にへし折った。
よろめいた俺に、死神の鎌となった左回し蹴りが襲いかかり、首を直撃する。
自分の体が激烈な衝撃に横転し、頭が地面に激突する。
蹴りで首を折られた上に、床への衝突で頭がい骨にも亀裂が入った。脳は頭の中で激しく翻弄される。
意識が途絶え、気付いた時には壁に叩きつけられ、その壁の表面を剥落させていた。
力なく床に体が落ち、反射的に床に手をついて体をかばう。
全ての骨折が即座に修復、意識も戻る。
立ち上がり、違和感のある首をかしげつつ、真理剣を構えなおす。
近接戦では、速度差で負ける。
しかし。
俺は迷いを振り払い、真理剣を先ほどの背命者にやったように、無数の糸に解くと、それを繰り出した。
一本が必殺の斬撃であり、今、それの数は百を超える。
長さの差によって、その刃は前後左右、四方八方から、モエギに襲いかかった。
モエギはわずかしか動かなかった。
短いが高速の運動が、途切れ途切れに起こる。モエギの衣類の切れ端が飛び散る。
それを前に、俺のこめかみを冷や汗が流れる。
糸の中に、何本か、他よりもさらに細く、しかし重さを増して威力を高めた糸を混ぜておいたのだ。
彼女の動きは、それを的確に弾いている。
見えない糸よりもさらに細い糸を、見抜けるのか。
モエギは視力を含めた五感で知覚しているのか、あるいは第六感でもあるのか。
動きの中で、モエギがこちらへと間合いを詰めてくる。無駄のない、直線的な動き。
糸による攻撃では、止められない!
真理剣を剣に戻す。その時には、モエギは眼前!
俺の最速の運動からの斬撃は、モエギに襲いかかるが、モエギは手の甲で刃の側面、腹を叩き、剣を逸らす。
俺も拳打を経験にものを言わせて回避し、二人の間合いが広がる。
斬撃と回避、拳打と回避。それが繰り返される。
激しい運動に体が悲鳴をあげ、軋む。
研ぎ澄まされた神経は、その鋭さ、薄さから来る脆さに、ひび割れそうになる。
しかし、体が壊れようと、神経が崩れようと、死ぬよりはマシだ。
その瞬間は、唐突にやってきた。
そこに剣を繰り出せば、一撃、見舞える。
直感が、告げる。そして体は考えるよりも先にそれを実行した。
真理剣が、モエギの首筋を薙ぎ払う。
手応えは――重い。
モエギの靴底が床を滑り、焦がす。
彼女は俺の一撃を、腕と首自体で、受け止めていた。
腕も、首も、漆黒に染まっている。
金剛壁。これほどとは。
モエギの空いている手が、腰に引きつけられている。
誘われたのではない、と俺はその刹那に思った。
あの一瞬の勝機は、間違いじゃない。
俺が勝手に失敗しただけだ。
次の瞬間、指先が鋭く揃えられた、漆黒の貫手が俺の左胸に直撃した。
◆
「アオ!」
アオの左胸から、モエギが手を引き抜く。血が迸り、モエギを赤く染める。
ぐらりと体が傾き、アオが倒れた。受け身も取らずに、床に崩れ落ちる。
「余興としては上出来だったな」
ガガラはそう言うと、グラスの中身を飲み干し、頷いた。
「では、本当の宴を始めよう」
悪魔の言葉は僕の耳をただ通りぬけた。
アオが、倒れている。
助けなくては。
でも。
僕はモエギを見た。
彼女はこちらに背中を向けたまま、立ちつくし、倒れているアオを見下ろしている。
彼女に勝つことなど、僕には、不可能だ。同じ戦場に立つことさえも、不可能なのだった。
自らの無力さに打ちのめされながら、モエギの背中を見ていた。
不意に、彼女の肩が小さく震えたように感じた。
しかし、彼女は鋭く振り返ると、こちらへとゆっくりと歩み寄ってくる。血に染まった姿、その無表情から発散されているのは、絶対零度の、冷酷さだった。
ガガラが立ち上がったので、僕はそちらを見た。
「暇つぶしもこれまで」
ガガラはグラスを手放す。グラスは床に落ち、転がった。ひびが入っているが、割れてはいない。それを僕の視線が追い、元に戻した時には、悪魔がこちらへ手を伸ばしているところだった。
何をされるか、分からない。
しかし、良いことが起こるわけもない。
身体を固くしながら、僕は自分でも何を考えているのか分からないまま、何かを必死に願った。
助かりたい、と思ったのだと思う。
助けてほしい、と。
刹那。
唐突に視界が揺れたことで、その思いさえも、形を失う。
体が落下して、それは床が崩壊したからだと分かり、瞬きするより速く、真っ黒い何かが球形になって僕を包み、僕は一切の明かりを失った。
◆
心臓を破壊されたのは、本当に久しぶりだった。
回復に思ったよりも時間がかかったので、際どかったが、うまくいった。
俺はモエギを糸で攻撃した時、部屋の床に細工をしておいた。床を破壊し、かつ、凪を保護する仕掛けだ。
心臓を破壊されて、それも危うく無効化されるところだったが、偶然にか、意識の途絶の間が短く、仕掛けは生きた。
結果、俺は予想外に不意打ちという形で、策を実行した。
床を破壊し、真理剣の形状を変化させ、凪を保護した。もちろん、俺の体も床と一緒に、一つ下の階へ落ちた。
もうもうと立ち込める土煙に隠れて、俺は凪を引き寄せつつ、さらに床をもう一度、破壊する。上の階の崩壊で不安定だった床は、簡単に崩れ、瓦礫も何もかも、もう一階、下へ落下した。
その頃には俺は凪と接触し、凪を真理剣で包んだまま、逃走を開始した。
あの悪魔や、モエギがどうなったのか、分からない。出来るだけ長い間、こちらを見失っていて欲しい。
新しくなった心臓を酷使して、真理剣で出来た黒い球から引っ張り出した凪を肩に担ぎ、通路を走る。
凪は気絶しているようだが、怪我はないと思う。
ちょっとした怪我の有無など、今は考えていられないというのが、本音だった。
今は、逃げるだけだ。
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宿や食事代は超高額、街を一歩出れば強敵モンスターだらけ、しかも財布の中身は無一文……。
――そして、この世界は滅ぶ運命にある"救いのないセカイ"だった。
だが、そんな絶望的状況での「水の精霊エレナ」との出会いが、彼を……いや、世界の運命を大きく変える事になる。
カナタに課せられた使命はただ一つ。
それは、かつて誰にも知られる事無く悲劇の結末を迎えた者達を全員救い、この世界が平和を迎える「真のエンディング」へと辿り着くこと!
※表紙絵 (C) 2020 かぼちゃ https://www.pixiv.net/users/8203
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
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