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第一章 信用度数最低編
一
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序
人間と悪魔の激戦も、今は昔。
人間は、自分たちを赤と表現し、悪魔たちを黒と表現した。
世界は、大きく、赤の領域と、黒の領域に分かれている。
馬が喘ぐように息をしているけど、僕は構わず走らせた。
馬が潰れてしまえば、立ち往生だ。しかし、今の状況のままというのも歓迎できない。
悪魔の勢力圏に切り込んでいた僕たちのユニットは、想定外の悪魔の包囲攻撃に遭い、散り散りになった。
馬に乗れた分、僕は幸運だった。
背後を振り返ると、見えるのは、原野と、三頭、いや、四頭の馬のような生物だ。
馬と違うのは、全身のそこここに硬い鱗があるのと、頭に二本のツノがある。
その動物、正確には魔獣に乗っている悪魔は、さっきから奇声をあげて、腕を振り回している。興奮というか、歓喜というか、そういう感じの声だ。
僕を捕まえれば、彼らは美味しい食事に舌鼓を打つことができる。
僕としては、まっぴらごめんだ。
馬が大きく息を吸って、吐く。危険な兆候だ。
もう一度、振り返る。追ってくるのは、やはり四頭。
前に視線を戻し、遠くに建造物が見えてきたのがわかった。物見櫓だ。つまり、人類軍の砦が近い。近いけど、まだ何キロかを移動しないといけない。
僕は持っている剣で、馬の尻を叩いた。限界なのはわかっているけど、こうするより他にない。命がかかっている。
突然に、視界が沈んだ、と思った時には、馬の脚がくじけて、転倒した馬から僕は放り出されていた。
物凄い衝撃の中、体が地面を転がった。そう気付いたのは、どうにか身を起こした時だ。
反射的に手元を見た。剣はない。これは幸運でも、不運でもある。下手に剣を持って、自分に突き刺さることもないではない。
起き上がると、身体中が痛むが、奇跡的い運動できなくはない。
ただ、僕を四頭の魔獣とその上の四体の悪魔が囲んでいるのは、大問題。
「えーっと」
悪魔は上級の悪魔でないと、人語を解さない。それでも言ってみた。
「その馬を」僕は馬を指差した。「君たちにあげよう」
視線が僕と馬の間を行き来したけど、結局、悪魔たちは僕も馬も手に入れることにしたようだった。
まったく、仕方ない。
悪魔たちが奇声をあげ、剣を振り上げ、こちらに突進すべく魔獣を走らせる。
その瞬間、僕は右手を意識した。
すっと動かすと、手首から先が何かに沈む気配。
しかし、何にも沈んでいるようには見えない。感覚だけが、ひんやりとした何かに差し込まれている。
そして僕の右手はそれを引っ張り出した。
真っ黒い炎が、まるで僕の手から溢れたように見える。
その炎を僕は意のままに操り、一撃で二体の悪魔を火だるまにした。黒い炎は容易に消えない。悪魔たち、そして魔獣たちが距離を置こうとする。
そんなことはさせない。
右手を打ちふるって、即座に残りの二体も焼き払った。今度は奇声ではなく悲鳴をあげて、彼らが地面をのたうちまわる。
やっと、落ち着ける。
一番近くにいた悪魔をより強い炎で焼き払いつつ、そいつが落とした剣を拾い上げる。悪魔が使うものだから、やたら重い。そして切れ味も悪そうだった。
でも別に、問題ない。
切れればいいのだ。
僕は四体の悪魔の首を刎ね、生臭さに耐えつつ、他に彼らの武器の中で持ち帰れるものを選別した。
こうしてその場には首のない悪魔の焼死体が残った。
僕は一気に増えた荷物に閉口しつつ、徒歩で人間軍の砦に向かって歩き始めた。
すでに僕の右手から黒い炎は消えている。
少し歩くと、馬のかける音がした。そして人の声も。
さらに進むと、遠くに見えていた八人の騎兵が、すぐに目の前に現れた。
「煙が見えましたが」隊長らしい男が声をかけてくる。「あなたですか? お一人で?」
僕は頷いて、大きく息を吐き、座り込んだ。
「少し、休ませてくれ」
砦に戻って、僕は仲間の帰りを待ったけど、五日が経っても誰も戻ってこなかった。
その間に、僕は砦にいる連合軍の査定係に四体の悪魔の首と、奪った武具を渡した。
それらが金に変わって、僕たちが生活できるわけだけど、しかし、この程度ではたいした額ではない。予想通り、砦に五日間、滞在するための費用にしかならなかった。
五日の間に、書類の方はしっかりと届いたのが、皮肉とも言える。
連合軍に提出した、探索隊の行動計画書が、その書類だ。これから仲間が自分以外、全滅したことを伝える書類を書かないといけない。
最後まで粘って、五日目の夕方、それを書いた。
翌朝、書類の提出と、馬を借りる手続きをして、僕はその砦を後にした。
悪魔の領域、黒の領地への探索は、比較的、金になる。
まず人間の軍隊である連合軍から最初に謝礼が渡される。これは契約料のようなものだ。
そして探索がはっきりとした成果、具体的には黒の領域の地図や、悪魔の砦などを発見すれば、また褒賞が出る。
もちろん、その探索行の中で悪魔を倒すのも、その装備を奪うのも自由だ。これもいずれは金になる要素だから。
しかし、今回のようなこともざらにある。
黒の領地で悪魔と遭遇、攻撃され、逃げる。手に入れた情報も、収穫も、全部捨てることになる。
何より、仲間を失う。
僕は、黒と赤のせめぎ合いが続く緩衝地帯に近い、リーンという街に向かいながら、馬上でのんびり考えた。
今まで、何人もの仲間を失ってきた。自分が死にそうな目にもあった。
さすがにそろそろ、引き時かもしれない。
何か、まともな、危険のない職業に就くべきではないか?
しかしそれがどういうものか、いまいち、はっきりしないのだった。
やがて太陽が真上に来て、また下がってくる。西の空に太陽が落ちかかった時、僕はやっとリーンにたどり着いた。
街を囲む空堀を横目に、中へ入る。
馬をまず、連合軍の屯所に返した。
他に、行くべきところはない。知り合いと顔をあわせるのも、気まずい。
仲間を犠牲にして生き延びる奴も多いけど、それでも、気が楽になるものじゃない。
家に帰ろう。それ以外にない。
街のはずれの古びた集合住宅。一階の角部屋である自分の部屋に入った。トイレはあるが、風呂はない。
装備を外して、保存食を入れている箱を漁った。賞味期限間近の連合軍の携行糧食が出てきたので、それを食べた。
砦にいた五日間で、だいぶ傷も疲れも癒えた。
食べ終わってから寝台に横になった。
考えることはこれからのことだ。もう黒の領域には近づかない方がいいだろう。運がいいのか、それとも悪運の持ち主なのか、自分のことがわからなかった。
その日はいつの間にか眠っていて、翌朝、遅い時間に目が覚めた。腹が減っているのが分かったから、財布の中身を確認してから、外へ出た。平服で良いのが、街にいる、ということを強く意識させた。
集合住宅にほど近い食料品店に入ると、店主のおばさんが目を丸くした。
「あらぁ、アルス、いつ帰ってきたの?」
「昨日だよ」
カウンターにビスケットと牛乳瓶と硬貨を置く。おばさんがお釣りを差し出してくるのを受け取り、その場で瓶を開けて、牛乳を飲み干した。
「いやねぇ」おばさんが顔をしかめる。「辛気臭いわよ、あなた」
「風呂に入ってないんだ」
「そういうんじゃない」
冗談なのに。
瓶を返して、店を出た。歩きながらビスケットを食べる。
そのまま、人目を避けるように、僕は安いという噂の武器屋へ向かった。一回だけ、行ったことがある。
すると、ちょうど店から知り合いが出てきた。ガタイのいい男の二人組だ。
片方が目を丸くする。
「アルスじゃないか。帰ってたのか?」
「まあね」
「どうした? 顔が青いぜ」
僕は軽く手を振って、彼らと入れ違いに店に入った。
店では新しい剣を探したけど、なにぶん、手持ちがない。武器屋の店主と交渉したが、最も安い剣を、三回払いで払うことになった。
別に、構わないけど。僕は剣術は得意じゃない。
その日は、剣を手に、寄り道せずに家に戻り、夕方から寝台で横になった。やっぱりすぐに眠りがやってきた。疲れが密かに残っているんだと思う。
それから数日、僕はひっそりと生活したけど、何もしないわけにいかない。
結局、リーンに戻って五日目、仕事を斡旋してくれる紹介所へ出向いていた。
登録証を渡して、少し待つ。係員が情報を確認しているのだ。
やがて順番になり、係員と机を挟んで向かい合うと、
「アルスさん。あなたの信用度数が今、いくつかご存知ですか?」
「信用度数? いくつですか?」
信用度数というのは、紹介所が仕事を斡旋する時の基準の一つだ。
どんな仕事を受けるにせよ、登録者がどれほどの技量か判断する指標が必要になる。信用度数は主に、仲間をどれだけ守れるか、だったと思う。
つまり、仲間が死ねば死ぬほど、信用度数は下がる。
今の僕は、ガタ落ちしているのは間違いない。係員が眼鏡を少し押し上げた。
「九、です」
「九?」
なんとなく、おうむ返ししてしまった。
まさか、十点満点なわけがない。
「最高値は?」
「百です」
……ちょっと、すぐには何も言えないな。
百点満点で、九点?
「九点って、どんな仕事がありますか?」
「残念ながら、私どもから紹介できる仕事は、ほとんど、ありません」
やれやれ、困った。
「ほとんど、に含まれない、仕事とは?」
「闘技場の選手です」
嫌な予感しかしない。闘技場の選手といっても、結局は人間や悪魔と命懸けで戦う見世物になる、ということだ。衣食住が保障されても、命が危ない。
「普通の仕事でいい」
「普通の仕事ですか?」
係員が書類の束をめくり始める。しかし、その手の動きはいつまでも終わらない。見つからないらしい。
「どこかの店の店員でも良いんです」
「どうでしょうね……。ああ、これは、どうですか?」
書類が、差し出された。
フゥム。
人間と悪魔の激戦も、今は昔。
人間は、自分たちを赤と表現し、悪魔たちを黒と表現した。
世界は、大きく、赤の領域と、黒の領域に分かれている。
馬が喘ぐように息をしているけど、僕は構わず走らせた。
馬が潰れてしまえば、立ち往生だ。しかし、今の状況のままというのも歓迎できない。
悪魔の勢力圏に切り込んでいた僕たちのユニットは、想定外の悪魔の包囲攻撃に遭い、散り散りになった。
馬に乗れた分、僕は幸運だった。
背後を振り返ると、見えるのは、原野と、三頭、いや、四頭の馬のような生物だ。
馬と違うのは、全身のそこここに硬い鱗があるのと、頭に二本のツノがある。
その動物、正確には魔獣に乗っている悪魔は、さっきから奇声をあげて、腕を振り回している。興奮というか、歓喜というか、そういう感じの声だ。
僕を捕まえれば、彼らは美味しい食事に舌鼓を打つことができる。
僕としては、まっぴらごめんだ。
馬が大きく息を吸って、吐く。危険な兆候だ。
もう一度、振り返る。追ってくるのは、やはり四頭。
前に視線を戻し、遠くに建造物が見えてきたのがわかった。物見櫓だ。つまり、人類軍の砦が近い。近いけど、まだ何キロかを移動しないといけない。
僕は持っている剣で、馬の尻を叩いた。限界なのはわかっているけど、こうするより他にない。命がかかっている。
突然に、視界が沈んだ、と思った時には、馬の脚がくじけて、転倒した馬から僕は放り出されていた。
物凄い衝撃の中、体が地面を転がった。そう気付いたのは、どうにか身を起こした時だ。
反射的に手元を見た。剣はない。これは幸運でも、不運でもある。下手に剣を持って、自分に突き刺さることもないではない。
起き上がると、身体中が痛むが、奇跡的い運動できなくはない。
ただ、僕を四頭の魔獣とその上の四体の悪魔が囲んでいるのは、大問題。
「えーっと」
悪魔は上級の悪魔でないと、人語を解さない。それでも言ってみた。
「その馬を」僕は馬を指差した。「君たちにあげよう」
視線が僕と馬の間を行き来したけど、結局、悪魔たちは僕も馬も手に入れることにしたようだった。
まったく、仕方ない。
悪魔たちが奇声をあげ、剣を振り上げ、こちらに突進すべく魔獣を走らせる。
その瞬間、僕は右手を意識した。
すっと動かすと、手首から先が何かに沈む気配。
しかし、何にも沈んでいるようには見えない。感覚だけが、ひんやりとした何かに差し込まれている。
そして僕の右手はそれを引っ張り出した。
真っ黒い炎が、まるで僕の手から溢れたように見える。
その炎を僕は意のままに操り、一撃で二体の悪魔を火だるまにした。黒い炎は容易に消えない。悪魔たち、そして魔獣たちが距離を置こうとする。
そんなことはさせない。
右手を打ちふるって、即座に残りの二体も焼き払った。今度は奇声ではなく悲鳴をあげて、彼らが地面をのたうちまわる。
やっと、落ち着ける。
一番近くにいた悪魔をより強い炎で焼き払いつつ、そいつが落とした剣を拾い上げる。悪魔が使うものだから、やたら重い。そして切れ味も悪そうだった。
でも別に、問題ない。
切れればいいのだ。
僕は四体の悪魔の首を刎ね、生臭さに耐えつつ、他に彼らの武器の中で持ち帰れるものを選別した。
こうしてその場には首のない悪魔の焼死体が残った。
僕は一気に増えた荷物に閉口しつつ、徒歩で人間軍の砦に向かって歩き始めた。
すでに僕の右手から黒い炎は消えている。
少し歩くと、馬のかける音がした。そして人の声も。
さらに進むと、遠くに見えていた八人の騎兵が、すぐに目の前に現れた。
「煙が見えましたが」隊長らしい男が声をかけてくる。「あなたですか? お一人で?」
僕は頷いて、大きく息を吐き、座り込んだ。
「少し、休ませてくれ」
砦に戻って、僕は仲間の帰りを待ったけど、五日が経っても誰も戻ってこなかった。
その間に、僕は砦にいる連合軍の査定係に四体の悪魔の首と、奪った武具を渡した。
それらが金に変わって、僕たちが生活できるわけだけど、しかし、この程度ではたいした額ではない。予想通り、砦に五日間、滞在するための費用にしかならなかった。
五日の間に、書類の方はしっかりと届いたのが、皮肉とも言える。
連合軍に提出した、探索隊の行動計画書が、その書類だ。これから仲間が自分以外、全滅したことを伝える書類を書かないといけない。
最後まで粘って、五日目の夕方、それを書いた。
翌朝、書類の提出と、馬を借りる手続きをして、僕はその砦を後にした。
悪魔の領域、黒の領地への探索は、比較的、金になる。
まず人間の軍隊である連合軍から最初に謝礼が渡される。これは契約料のようなものだ。
そして探索がはっきりとした成果、具体的には黒の領域の地図や、悪魔の砦などを発見すれば、また褒賞が出る。
もちろん、その探索行の中で悪魔を倒すのも、その装備を奪うのも自由だ。これもいずれは金になる要素だから。
しかし、今回のようなこともざらにある。
黒の領地で悪魔と遭遇、攻撃され、逃げる。手に入れた情報も、収穫も、全部捨てることになる。
何より、仲間を失う。
僕は、黒と赤のせめぎ合いが続く緩衝地帯に近い、リーンという街に向かいながら、馬上でのんびり考えた。
今まで、何人もの仲間を失ってきた。自分が死にそうな目にもあった。
さすがにそろそろ、引き時かもしれない。
何か、まともな、危険のない職業に就くべきではないか?
しかしそれがどういうものか、いまいち、はっきりしないのだった。
やがて太陽が真上に来て、また下がってくる。西の空に太陽が落ちかかった時、僕はやっとリーンにたどり着いた。
街を囲む空堀を横目に、中へ入る。
馬をまず、連合軍の屯所に返した。
他に、行くべきところはない。知り合いと顔をあわせるのも、気まずい。
仲間を犠牲にして生き延びる奴も多いけど、それでも、気が楽になるものじゃない。
家に帰ろう。それ以外にない。
街のはずれの古びた集合住宅。一階の角部屋である自分の部屋に入った。トイレはあるが、風呂はない。
装備を外して、保存食を入れている箱を漁った。賞味期限間近の連合軍の携行糧食が出てきたので、それを食べた。
砦にいた五日間で、だいぶ傷も疲れも癒えた。
食べ終わってから寝台に横になった。
考えることはこれからのことだ。もう黒の領域には近づかない方がいいだろう。運がいいのか、それとも悪運の持ち主なのか、自分のことがわからなかった。
その日はいつの間にか眠っていて、翌朝、遅い時間に目が覚めた。腹が減っているのが分かったから、財布の中身を確認してから、外へ出た。平服で良いのが、街にいる、ということを強く意識させた。
集合住宅にほど近い食料品店に入ると、店主のおばさんが目を丸くした。
「あらぁ、アルス、いつ帰ってきたの?」
「昨日だよ」
カウンターにビスケットと牛乳瓶と硬貨を置く。おばさんがお釣りを差し出してくるのを受け取り、その場で瓶を開けて、牛乳を飲み干した。
「いやねぇ」おばさんが顔をしかめる。「辛気臭いわよ、あなた」
「風呂に入ってないんだ」
「そういうんじゃない」
冗談なのに。
瓶を返して、店を出た。歩きながらビスケットを食べる。
そのまま、人目を避けるように、僕は安いという噂の武器屋へ向かった。一回だけ、行ったことがある。
すると、ちょうど店から知り合いが出てきた。ガタイのいい男の二人組だ。
片方が目を丸くする。
「アルスじゃないか。帰ってたのか?」
「まあね」
「どうした? 顔が青いぜ」
僕は軽く手を振って、彼らと入れ違いに店に入った。
店では新しい剣を探したけど、なにぶん、手持ちがない。武器屋の店主と交渉したが、最も安い剣を、三回払いで払うことになった。
別に、構わないけど。僕は剣術は得意じゃない。
その日は、剣を手に、寄り道せずに家に戻り、夕方から寝台で横になった。やっぱりすぐに眠りがやってきた。疲れが密かに残っているんだと思う。
それから数日、僕はひっそりと生活したけど、何もしないわけにいかない。
結局、リーンに戻って五日目、仕事を斡旋してくれる紹介所へ出向いていた。
登録証を渡して、少し待つ。係員が情報を確認しているのだ。
やがて順番になり、係員と机を挟んで向かい合うと、
「アルスさん。あなたの信用度数が今、いくつかご存知ですか?」
「信用度数? いくつですか?」
信用度数というのは、紹介所が仕事を斡旋する時の基準の一つだ。
どんな仕事を受けるにせよ、登録者がどれほどの技量か判断する指標が必要になる。信用度数は主に、仲間をどれだけ守れるか、だったと思う。
つまり、仲間が死ねば死ぬほど、信用度数は下がる。
今の僕は、ガタ落ちしているのは間違いない。係員が眼鏡を少し押し上げた。
「九、です」
「九?」
なんとなく、おうむ返ししてしまった。
まさか、十点満点なわけがない。
「最高値は?」
「百です」
……ちょっと、すぐには何も言えないな。
百点満点で、九点?
「九点って、どんな仕事がありますか?」
「残念ながら、私どもから紹介できる仕事は、ほとんど、ありません」
やれやれ、困った。
「ほとんど、に含まれない、仕事とは?」
「闘技場の選手です」
嫌な予感しかしない。闘技場の選手といっても、結局は人間や悪魔と命懸けで戦う見世物になる、ということだ。衣食住が保障されても、命が危ない。
「普通の仕事でいい」
「普通の仕事ですか?」
係員が書類の束をめくり始める。しかし、その手の動きはいつまでも終わらない。見つからないらしい。
「どこかの店の店員でも良いんです」
「どうでしょうね……。ああ、これは、どうですか?」
書類が、差し出された。
フゥム。
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