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第7章
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七
二人で裏道から裏道へと進んでいった。
今まで僕は、ここまで監視カメラや防犯カメラが密にあるとは思っていなかった。実際に歩いてみるとものすごい密度である。
それでもするすると、松代シティの外れの方へ移動できた。
ただ、予想外のことはすぐに起きるものだ。
路地から出たところで、前を塞ぐように誰かが進み出てきた。
「やっぱりね」
聞き慣れた少女の声に、僕は目を丸くした。
「真澄……、どうして……」
「あんたが考えることを私も考えただけ」
真澄がすっとこちらへ進んでくる。しかし、手に魔器は持っていない。僕はそれでも月読をかばうような位置に立った。
「大丈夫、大丈夫。手荒なことはしない」
反射的に、周囲の気配を探る。真澄以外には人の気配はないが、はっきりとはわからない。
油断できない。
「大丈夫だってば」
真澄が僕のすぐ前に立った。
「その子のことを、どれくらい知っている?」
「……どこかの研究所で、聖剣に関する研究が行われていて」
真澄が僕をじっと見ている。
「それで、この子はその被験体か何かだ」
「おおよそは正解かな。それで、街を出てどうするの?」
「ほとぼりが冷めるのを待つ」
それを聞いて、心底から落胆したように、真澄がため息を吐いた。
「いつになっても、ほとぼりは冷めないと思うけど」
「それは、まぁ、研究所は放っておかないだろうけど」
「十年でも二十年でも、逃げるの?」
そのことは考えていないわけではない。
「店長の力を借りるよ。少しずつでも運動する」
「強硬手段を取られたら? 無理矢理にあなたを制圧するかもしれない」
それが難問の一つではある。こちらには何のアドバンテージもない。
「だからこうして、姿を消そうとしているんだけど」
「いっその事、投降しなさいよ。それがみんなのためになる」
背後で月読が体を硬くしたのがわかった。だから僕は堂々と、応じた。それが誠意だ。
「しない。それなら、いつまででも逃げるよ」
「その子一人のために、全てを投げ打つの? 何者でもない、あなたが?」
そうだろうね。確かに、僕は何者でもない。
平凡な、一人の高校生だ。
「これもまた一つの選択ということだね」
呆れたように真澄は天を仰ぎ、もう一度、こちらを見た。
かすかに微笑んでいるように見えた。
「ついてきなさい」
「え?」
「抜け道を教えてあげる。他の事務所の連中や、対魔どもが網を張っているわよ」
ちょっと展開についていけなかった。もしかして、真澄は助けてくれるの?
「あまり時間はないわよ。私の方で、防犯カメラを盗んであげるから。ほら、急いで」
真澄が別の路地へ進んでいく。
なんとなく月読を見る。彼女はまだ不安そうだった。しかし、僕の中には真澄を信じる気持ちがある。
真澄は頼りになるはずだ。
「行こう、月読」
僕は月読の手を引いて、真澄の後を追った。
真澄は僕と店長が考えた経路を大きく外れている。明らかに防犯カメラの範囲内を通っているけど、気にしないようだ。さっき、カメラを盗む、と言っていた。つまり、僕たちの姿は記録されていないのか。
一度など、片側一車線の道路を横切った時は、寿命が縮む思いだった。
もし自動運転車が通りかかり、そのカメラに撮影されれば、全てが露見する。
偶然か必然か、車は通り掛からなかった。
「どうして、真澄は助けてくれるの?」
歩きながら尋ねると、真澄はこちらを見ずに答えた。
「あんたを放っておく気になれないからね。それとあまり話しかけないで、忙しいから」
どうやらたった今も、魔法を行使して監視を欺瞞しているらしい。黙っていよう。邪魔をしちゃ悪い。
そのまましばらく路地から路地へ抜け、用水路を飛び越え、路地とも言えない民家と民家の隙間も抜けた。
そして路地の真ん中で、真澄は足を止める。
「この先はこの地図に従って」
彼女がポケットから紙の地図を取り出した。滅多に見たことのない明細図だった。その地図に点がひとつあり、そこから点線が伸びている。
「点線の通りに行けば、警戒網を抜けられる」
僕はもう一度、地図を確認した。あと三十分もあれば、外に出られる。
「ありがとう、真澄。助かった、とても」
「余裕ができたら、連絡してよ。それと、しっかり逃げるように。じゃあね」
もうしばらくは会えなくなるはずなのに、真澄は軽い調子で、手を掲げ、背中を向けて元来た方へ戻っていく。
僕はその背中を見送っていたけど彼女が路地から折れる寸前、こちらを振り向いて、目があった。
彼女がベェッと舌を出して見せ、消えていった。
……なんだったんだ?
しかし考えている暇はない。僕は月読と一緒に地図に従って歩いた。
人目につかない道で、それほど気を使う必要はない。そしてついに路地を抜け、松代シティの中心部から伸びている幹線道路の一つに出た。検問を回避したようで、目立つ人も車もない。
どうやら、逃げ出せたようだ。
ここからが本番だ。
僕と月読は店長が依頼した長距離トラックを待った。このトラックがマグマグに荷物を運んでいるはずで、そろそろ帰り道であるこの道路を通過する。その時に僕と月読を拾ってくれる算段だ。
しばらくは、目立たないようにトラックを待つことになる。
しかし、それほど待つ必要はなかった。
スポーツカーが僕たちの横を通り過ぎて、ゆっくりと停車した、不審に思った時には、すでに運転手が車を降りている。
愕然とする。
降りてきたのは、女性。パンツスーツ、サングラス。
天城さんだった。
どうしてここへ? どこから情報が漏れている?
「どういう方法を使ったか知らないけど、危ないところだった。逃してしまうと面倒だからな」
天城さんは真澄と違ってすでに魔器を手にしていて、それが即座に展開した。例の拳銃と剣を融合させたような魔器。
僕の右手を月読が握る、そして閃光と共に剣の状態へと変化した。
僕の体が勝手に動き、構えを取る。僕にできることはほとんどない。月読を信じて、月読の考えをそのまま再現するしかない。
「他の奴らに感付かれると面倒だ」
天城さんの姿が搔き消える。
僕には認識できないものを、月読は見ていたようだった。
僕の体が、痛みを感じるほど捻られる。
脇腹にわずかな痛み、天城さんの魔器の刃がかすめていた。
不自然な姿勢からの跳躍。着地した時には僕は安定を取り戻したけど、すでに天城さんの姿は視界にない。
回避は不可能。
僕の腕だけが動き、背後に青い刀身を振る。
視界の外で激しい手応え。
反動で跳ね、どうにか間合いを取ろうとするけど、それでも天城さんの姿はない。
「悪くない反射速度だな」
声だけがする。
しかし攻撃はない。
月読も混乱したのか、背後を振り返るが、やはり天城さんはいない。
瞬間、手首に強烈な衝撃。
思わず僕の手が月読を手放した。
今まで、一度としてなかったことだ。
僕は突然に、体の制御が僕自身に戻ったせいで、よろめいて、尻もちをついた。
「お遊びは終わりだな、少年。少し眠れ」
天城さんの魔器が引きつけられ、こちらに突き出される。
その時に起こったことは、後になって、はっきりわかった。
突然に剣の姿から少女の姿になった月読が、割り込んでいた。
僕と、魔器の間に。
重なって響く、二つの湿った音。
天城さんの魔器はまず月読を貫き、それから僕も貫いていた。
胸に灼熱を感じた。何かが喉元をせり上がり、吐き出す。赤い飛沫が飛び散る。
「これはこれは」
天城の声がどこか遠くでしている。
「願ってもないことだな。仲良しこよしで、結構だ」
魔器が引き抜かれた。僕は背中から地面に倒れるのを感じた。後頭部に衝撃が走るけど、それをぼんやりとしか感じられないほど、すでに意識は朦朧としていた。
月読が何かを叫んでいる。
でもそれも、聞こえなかった。
僕の意識は、どこかに溶け出していく。
天城さんの声がした。
何を言っているんだ?
胸の中心で突然に、大きな脈動が起こった。体が震えるほどの強さ。
それを中心に僕の体じゅうの何かが収束していく。
強固な力の気配が、収束した全てをがっちりと固め、捕まえた。
そして僕の意識は今度こそ、完全なる闇の中へ沈没した。
◆
天城光は目の前で血の海に沈んでいる少年を冷静に眺め、自分の魔法が成功したのを感じた。
そしてその少年の前で、大量の血を流しながら、それでも少年を守ろうとする少女を見る。
「これで終わりだ。お前も休め」
天城は自分の魔器に基礎魔力を流し込む。
刀身で魔力が練り上げられ、彼女の魔法が発動した。
瞬間、少女が身を硬くし、姿勢を乱す。それでもすぐに姿勢を取り直す。
これは天城にとっては驚きだった。もう一度、魔力を練り上げ、魔法を発動する。先ほどよりも強く、より高い指向性で。
彼女の魔法が、少女の内部で発動する。
自分の魔力が魔法という形になり、少女の全身に行き渡るのを、確かに天城は感じた。
がくりと少女が体を前のめりにさせ、地面に片手をつく。その状態で、彼女は天城を睨みつけた。
「安心しろ、悪いようにはしない」
天城はできるだけ穏やかな口調で言ったが、少女には理解してもらえないようだった。
まったく、子供はこれだから嫌いだ。
すでに相当な魔法をこの少女にぶつけているが、驚くべき強靭さで、耐えている。
なら、それを無視する威力を叩き込むまで。
基礎魔力を強く練り上げ、さらにそこへ内包魔力を引用する。基礎魔力をきっかけに、怒涛の勢いで内包魔力が天城の支配下になる。
強大な力を一点に集中し、少女に送り込んだ。
ビクリと痙攣した少女はそのまま突っ伏し、動かなくなる。
「やれやれ。面倒なことだ」
天城は回転弾倉を弾き出すと、そこに一発の魔法弾を入れた。
素早く戻し、撃鉄を起こして引き金を引く。
小さな音ともに魔法弾に込められていた魔法が発動。
もしこの場を見ているものがいれば、その現象に腰を抜かしたかもしれない。
天城、そして倒れていた少女と睦月が、かき消えたのだ。
天城の車さえも消えていた。睦月と少女から流れた血の痕跡も消えている。
まるですべてが幻のようだった。
数分後、長距離トラックの運転手がそ通りかかったが、拾うべき人物は見当たらなかった。
トラックは停車し、運転手は周囲を確認した後、しかし連絡も禁じられているため、確認することもできず、義理として五分ほどそこに留まっていた。
そして誰もやってこないのを再度確認して、トラックを発車させた。
二人で裏道から裏道へと進んでいった。
今まで僕は、ここまで監視カメラや防犯カメラが密にあるとは思っていなかった。実際に歩いてみるとものすごい密度である。
それでもするすると、松代シティの外れの方へ移動できた。
ただ、予想外のことはすぐに起きるものだ。
路地から出たところで、前を塞ぐように誰かが進み出てきた。
「やっぱりね」
聞き慣れた少女の声に、僕は目を丸くした。
「真澄……、どうして……」
「あんたが考えることを私も考えただけ」
真澄がすっとこちらへ進んでくる。しかし、手に魔器は持っていない。僕はそれでも月読をかばうような位置に立った。
「大丈夫、大丈夫。手荒なことはしない」
反射的に、周囲の気配を探る。真澄以外には人の気配はないが、はっきりとはわからない。
油断できない。
「大丈夫だってば」
真澄が僕のすぐ前に立った。
「その子のことを、どれくらい知っている?」
「……どこかの研究所で、聖剣に関する研究が行われていて」
真澄が僕をじっと見ている。
「それで、この子はその被験体か何かだ」
「おおよそは正解かな。それで、街を出てどうするの?」
「ほとぼりが冷めるのを待つ」
それを聞いて、心底から落胆したように、真澄がため息を吐いた。
「いつになっても、ほとぼりは冷めないと思うけど」
「それは、まぁ、研究所は放っておかないだろうけど」
「十年でも二十年でも、逃げるの?」
そのことは考えていないわけではない。
「店長の力を借りるよ。少しずつでも運動する」
「強硬手段を取られたら? 無理矢理にあなたを制圧するかもしれない」
それが難問の一つではある。こちらには何のアドバンテージもない。
「だからこうして、姿を消そうとしているんだけど」
「いっその事、投降しなさいよ。それがみんなのためになる」
背後で月読が体を硬くしたのがわかった。だから僕は堂々と、応じた。それが誠意だ。
「しない。それなら、いつまででも逃げるよ」
「その子一人のために、全てを投げ打つの? 何者でもない、あなたが?」
そうだろうね。確かに、僕は何者でもない。
平凡な、一人の高校生だ。
「これもまた一つの選択ということだね」
呆れたように真澄は天を仰ぎ、もう一度、こちらを見た。
かすかに微笑んでいるように見えた。
「ついてきなさい」
「え?」
「抜け道を教えてあげる。他の事務所の連中や、対魔どもが網を張っているわよ」
ちょっと展開についていけなかった。もしかして、真澄は助けてくれるの?
「あまり時間はないわよ。私の方で、防犯カメラを盗んであげるから。ほら、急いで」
真澄が別の路地へ進んでいく。
なんとなく月読を見る。彼女はまだ不安そうだった。しかし、僕の中には真澄を信じる気持ちがある。
真澄は頼りになるはずだ。
「行こう、月読」
僕は月読の手を引いて、真澄の後を追った。
真澄は僕と店長が考えた経路を大きく外れている。明らかに防犯カメラの範囲内を通っているけど、気にしないようだ。さっき、カメラを盗む、と言っていた。つまり、僕たちの姿は記録されていないのか。
一度など、片側一車線の道路を横切った時は、寿命が縮む思いだった。
もし自動運転車が通りかかり、そのカメラに撮影されれば、全てが露見する。
偶然か必然か、車は通り掛からなかった。
「どうして、真澄は助けてくれるの?」
歩きながら尋ねると、真澄はこちらを見ずに答えた。
「あんたを放っておく気になれないからね。それとあまり話しかけないで、忙しいから」
どうやらたった今も、魔法を行使して監視を欺瞞しているらしい。黙っていよう。邪魔をしちゃ悪い。
そのまましばらく路地から路地へ抜け、用水路を飛び越え、路地とも言えない民家と民家の隙間も抜けた。
そして路地の真ん中で、真澄は足を止める。
「この先はこの地図に従って」
彼女がポケットから紙の地図を取り出した。滅多に見たことのない明細図だった。その地図に点がひとつあり、そこから点線が伸びている。
「点線の通りに行けば、警戒網を抜けられる」
僕はもう一度、地図を確認した。あと三十分もあれば、外に出られる。
「ありがとう、真澄。助かった、とても」
「余裕ができたら、連絡してよ。それと、しっかり逃げるように。じゃあね」
もうしばらくは会えなくなるはずなのに、真澄は軽い調子で、手を掲げ、背中を向けて元来た方へ戻っていく。
僕はその背中を見送っていたけど彼女が路地から折れる寸前、こちらを振り向いて、目があった。
彼女がベェッと舌を出して見せ、消えていった。
……なんだったんだ?
しかし考えている暇はない。僕は月読と一緒に地図に従って歩いた。
人目につかない道で、それほど気を使う必要はない。そしてついに路地を抜け、松代シティの中心部から伸びている幹線道路の一つに出た。検問を回避したようで、目立つ人も車もない。
どうやら、逃げ出せたようだ。
ここからが本番だ。
僕と月読は店長が依頼した長距離トラックを待った。このトラックがマグマグに荷物を運んでいるはずで、そろそろ帰り道であるこの道路を通過する。その時に僕と月読を拾ってくれる算段だ。
しばらくは、目立たないようにトラックを待つことになる。
しかし、それほど待つ必要はなかった。
スポーツカーが僕たちの横を通り過ぎて、ゆっくりと停車した、不審に思った時には、すでに運転手が車を降りている。
愕然とする。
降りてきたのは、女性。パンツスーツ、サングラス。
天城さんだった。
どうしてここへ? どこから情報が漏れている?
「どういう方法を使ったか知らないけど、危ないところだった。逃してしまうと面倒だからな」
天城さんは真澄と違ってすでに魔器を手にしていて、それが即座に展開した。例の拳銃と剣を融合させたような魔器。
僕の右手を月読が握る、そして閃光と共に剣の状態へと変化した。
僕の体が勝手に動き、構えを取る。僕にできることはほとんどない。月読を信じて、月読の考えをそのまま再現するしかない。
「他の奴らに感付かれると面倒だ」
天城さんの姿が搔き消える。
僕には認識できないものを、月読は見ていたようだった。
僕の体が、痛みを感じるほど捻られる。
脇腹にわずかな痛み、天城さんの魔器の刃がかすめていた。
不自然な姿勢からの跳躍。着地した時には僕は安定を取り戻したけど、すでに天城さんの姿は視界にない。
回避は不可能。
僕の腕だけが動き、背後に青い刀身を振る。
視界の外で激しい手応え。
反動で跳ね、どうにか間合いを取ろうとするけど、それでも天城さんの姿はない。
「悪くない反射速度だな」
声だけがする。
しかし攻撃はない。
月読も混乱したのか、背後を振り返るが、やはり天城さんはいない。
瞬間、手首に強烈な衝撃。
思わず僕の手が月読を手放した。
今まで、一度としてなかったことだ。
僕は突然に、体の制御が僕自身に戻ったせいで、よろめいて、尻もちをついた。
「お遊びは終わりだな、少年。少し眠れ」
天城さんの魔器が引きつけられ、こちらに突き出される。
その時に起こったことは、後になって、はっきりわかった。
突然に剣の姿から少女の姿になった月読が、割り込んでいた。
僕と、魔器の間に。
重なって響く、二つの湿った音。
天城さんの魔器はまず月読を貫き、それから僕も貫いていた。
胸に灼熱を感じた。何かが喉元をせり上がり、吐き出す。赤い飛沫が飛び散る。
「これはこれは」
天城の声がどこか遠くでしている。
「願ってもないことだな。仲良しこよしで、結構だ」
魔器が引き抜かれた。僕は背中から地面に倒れるのを感じた。後頭部に衝撃が走るけど、それをぼんやりとしか感じられないほど、すでに意識は朦朧としていた。
月読が何かを叫んでいる。
でもそれも、聞こえなかった。
僕の意識は、どこかに溶け出していく。
天城さんの声がした。
何を言っているんだ?
胸の中心で突然に、大きな脈動が起こった。体が震えるほどの強さ。
それを中心に僕の体じゅうの何かが収束していく。
強固な力の気配が、収束した全てをがっちりと固め、捕まえた。
そして僕の意識は今度こそ、完全なる闇の中へ沈没した。
◆
天城光は目の前で血の海に沈んでいる少年を冷静に眺め、自分の魔法が成功したのを感じた。
そしてその少年の前で、大量の血を流しながら、それでも少年を守ろうとする少女を見る。
「これで終わりだ。お前も休め」
天城は自分の魔器に基礎魔力を流し込む。
刀身で魔力が練り上げられ、彼女の魔法が発動した。
瞬間、少女が身を硬くし、姿勢を乱す。それでもすぐに姿勢を取り直す。
これは天城にとっては驚きだった。もう一度、魔力を練り上げ、魔法を発動する。先ほどよりも強く、より高い指向性で。
彼女の魔法が、少女の内部で発動する。
自分の魔力が魔法という形になり、少女の全身に行き渡るのを、確かに天城は感じた。
がくりと少女が体を前のめりにさせ、地面に片手をつく。その状態で、彼女は天城を睨みつけた。
「安心しろ、悪いようにはしない」
天城はできるだけ穏やかな口調で言ったが、少女には理解してもらえないようだった。
まったく、子供はこれだから嫌いだ。
すでに相当な魔法をこの少女にぶつけているが、驚くべき強靭さで、耐えている。
なら、それを無視する威力を叩き込むまで。
基礎魔力を強く練り上げ、さらにそこへ内包魔力を引用する。基礎魔力をきっかけに、怒涛の勢いで内包魔力が天城の支配下になる。
強大な力を一点に集中し、少女に送り込んだ。
ビクリと痙攣した少女はそのまま突っ伏し、動かなくなる。
「やれやれ。面倒なことだ」
天城は回転弾倉を弾き出すと、そこに一発の魔法弾を入れた。
素早く戻し、撃鉄を起こして引き金を引く。
小さな音ともに魔法弾に込められていた魔法が発動。
もしこの場を見ているものがいれば、その現象に腰を抜かしたかもしれない。
天城、そして倒れていた少女と睦月が、かき消えたのだ。
天城の車さえも消えていた。睦月と少女から流れた血の痕跡も消えている。
まるですべてが幻のようだった。
数分後、長距離トラックの運転手がそ通りかかったが、拾うべき人物は見当たらなかった。
トラックは停車し、運転手は周囲を確認した後、しかし連絡も禁じられているため、確認することもできず、義理として五分ほどそこに留まっていた。
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