英雄の影 〜魔竜、勇者を育ててしまう〜

Last-BOSS

文字の大きさ
上 下
16 / 19
第1章 それぞれの旅立ち

第16話 火蛍舞い狂う洞窟

しおりを挟む
 暑い・・・、サウナのように洞窟内は暑かった。

 魔神パズズのダンジョンは、ソドムらが想像していたような熱波地獄ほど酷くはなかったが、耐え難い状況であるのには変わりはない。

 地中を掘り進んできたと思われる内部は暗く、探索は松明なしではできないと思われたが、この環境だからこそ生息する火鰐ファイアリザード火蛍ファイアフライが自ら火を噴いたりして暴れまわっているおかげで、意外にも明るい。

 このダンジョンを攻略するスタメンは、鉄壁の防御を誇る鉄鎧アイアンゴーレムを着込んだ魔術師・冴子と、おだてられると何でも気分よく引き受けてしまうシュラの二人であった。
 それともう一人、セイントのクインが当然ながら同行している。重装な上に暑苦しい探索は厳しいものがあるが、セイントである彼には【帰還】の呪文があるため、いざという時は自分だけ抜け出せるという安心感がある。
 後顧の憂いがないクインは、余計なことは考えずに、立ちふさがる魔物を短槍ショートスピアで黙々と倒していた。武器のチョイスとしては、熱を帯びている敵には槍や弓のように距離を置いて戦える武器が良いので、反撃されることも少なくて済んでいた。

 ソドムらはというと、クインが帰還の魔法で戻った時に、すぐに救出に向かえるよう入り口で待機していた。二手に分かれた理由は全滅を防ぐ以外に、もし夕飯前までシュラが帰らず、ギルドが認めた私闘時間にもつれ込んだ場合、さきのライダースのようなお宝を狙うハイエナ連中を迎撃しなくてはならないからだ。それだけではない、野を跋扈ばっこしている賊どもはルール無用で襲い掛かってくるかもしれず、治安の悪い地域では探索以外にも気を使う必要があるのだ。
 
 ソドムが地味な留守番にまわった本当の理由は、「疲れていた」からであった。前日の入浴・就寝時にシュラ&レウルーラによる誘惑攻撃にホトホト参ってしまったのである。
 
 暗黒転生で魔人になったソドムらにとって、人生はとてつもなく長くなると思われ、人は飽きやすいということを熟知している彼としては、娯楽や贅沢などの楽しみすら飽きるのではないかと考え、それを恐れた。
 ゆえに、自らの戒めとして性行為は週末のみと決めて頑なに守っているわけである。
 それと一応は王である自分がルールを破るようでは示しがつかない。
 自分が決めて課したことなので、特例として欲望を解放してもいいのではあるが、皆には順守している姿を見せたかった。

 いささか大げさではあるが、順法精神が根ずく土壌を作りたい・・・という考えがソドムにはある。
 警備兵がいないと無法地帯になるこの下界で、人々が安心して暮らせるよう意識改革をもたらしたかった。
 世界を壊滅状態に陥れた影王が何を言ってるんだよ・・・ということは重々承知しているが、道徳心がなく治安が悪いと、ぶっちゃけ暮らしにくいのだ。

 人々が他人から奪うこと・もしくは騙すことしか考えていない地獄のような状況では、うまい飯にありつけないだろうし、寝こみを襲撃されたり、トイレですらビクビクしながら用を足さなくてはならない。

 で、まずは性欲を抑える・・・くらいは出来なくてはいけないと思い頑張った結果、面白半分で妨害され、疲れてしまったのだ。
 ただ我慢するだけなら、見ない・近づかない でいいのだが、彼女らは からかいたくて、視界に入る→わざわざポーズをとる→寝るときは抱き枕扱いにしてくる といった具合で容赦がなかった。

 耐えながらソドムは思った。

「もしも将来に分国して彼女らにそれぞれ国をまかせるとして、当然 法治国家として治めてもらわないと国が乱れ滅びてしまう。俺がルールを破ってばかりで好き勝手やっていると、それを見ていた者たちが自分の権力範囲内で同じことをし、その下もそうしてしまうだろう。倫理観がズレているレウルーラは民で魔法実験をしかねない、戦闘狂のシュラは「実力主義」をはき違えて 力が全ての弱肉強食社会にしてしまうだろうし、冴子に至っては国家予算を自らの魔法建造物アートに注ぎ込む可能性が高い」と。
(いや、そもそも温暖な地で妻と共につつましく暮らしたい。だが、しがらみがあって そうもいかん。とりあえず、ここを攻略できれば、国も潤い引退もできるかもしれん。今は待つしかない)



=====ダンジョン中層=====

「もうダメ!やってらんねぇ~わぁ!」暑さ対策のためモコモコに着込んだシュラが音を上げる。
 顔は汗だく、飲み水は底をついて、傍から見ても限界だとわかる。一番最初のシュラ案では、裸同然の身軽な格好で駆け抜けるつもりだったが、「砂漠の民は厚着をして熱から身を守る」という冴子の話を聞いて半信半疑ながら厚着したおかげで、三十分ほどは耐えることができた。だが、暗黒転生の代償として光と炎に弱くなったシュラにとっては、かなりキツかったようである。

 普通の人間であるクインも、このまま探索する自信はなく、
「そうですね、このへんで撤退しましょう」と、言うや否や帰還の呪文で瞬時に洞窟を出てしまった。「お、おい!自分だけ逃げるのかよ!」とシュラが文句を言いながら捕まえるはずが、クインはその場にはおらず、その右手は空しく宙を掴んだだけであった。
 監視・報告義務のある聖印徒は、全てを見届けるため死ぬわけにはいかない。そんなドライさはわかりきっていることなので、恨みごと一つ言わない冴子。鎧の鉄壁な防御により苛烈な環境など無縁な彼女は、ダンジョンへの考察に夢中であった。

「ここまでの道のりは迷路もなく、ただ地上を目指して掘り進んだかのような造りでしたが、ほら・・・この先は人間が作ったような舗装されてる道に変わってます。魔神のダンジョンの共通点・・・、つまり魔神や眷属には技術や知識があったが失われた・もしくは本来の出入口が封鎖されたため急ぐ必要があったのかもしれないですね。これは・・・」と、結論を導き出そうと思案する冴子。

「冴子さん、帰ろ!マジ無理・・・」シュラがお構いなしで即時撤退を要求してきた。先にクインが離脱したわけだから、自分も早くこの場から離れたかった。戦では疲れ知らずの彼女でも、暑さには敵わないようで、片膝をついてうずくまってしまっている。

「これは失礼、つい仮説に夢中になっておりました。さ、私が背負って行きますので、肩に手をのせてください」そう言ってシュラを背負い出口を目指す冴子。「ごめん、冴子さん・・・」と、シュラは謝りながら気を失った。冴子は、シュラの命に別状ないことを確認し、再び歩き始める。
(この魔界陣がある限り攻略は難しい。コキュー島の氷竜ウィルを連れてこれれば、魔界陣を相殺して攻略もできようが、あくまでも対等な同盟者・・・使役するわけにもいかぬ。どうしたものか・・・)

 何か糸口をつかみかけた冴子であったが、襲い来る魔物への対処で余裕がなくなり、一旦考えるのを止めてしまったため、ダンジョンの真理へたどり着くのは暫く先になってしまうのであった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

処理中です...