英雄の影 〜魔竜、勇者を育ててしまう〜

Last-BOSS

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第1章 それぞれの旅立ち

第14話 剣鬼のもてなし、ミンチにされるのは?

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 シュラは石造りの平屋に接近し、その奇妙さに戸惑った。その建物を境に奥へと続く風景は、乾燥のため草木は枯れ 生き物の気配がしなかった。魔神影響下の境にあえて建てたように思えた。
 手前には申し訳程度の石壁と鉄柵の門があり、その敷地には馬が六頭つながれている。

 門前で安全を確認したシュラがレウルーラを手招きした。
「先客なのか、山賊のねぐらどっちかな?」

 レウルーラは鉄柵の隙間から様子を見て、
「よく見て、馬の見張りが しゃがんでるわ」彼女が指差す先には、皮の鎧を着込んだ冒険者風の男がいた。

「お、ホントだ。見たことあるなぁ・・・あ!この前の騎馬兵だけの冒険者、ナントカだ」

「ああ、ライダースね。となると…攻略ではなく横取り狙いで来たのかも」よく見れば、男は冒険者ギルドの旗を抱えている。その旗は縁は、紺色で中心には軍馬が描かれている。

「ふぅん、なら潰しとく?」と、サラリと言うシュラ。その目は、数日空腹だった肉食獣が、獲物を見つけたかのように爛々としていた。気が早くて剣の柄を握ってさえいる。

「待って、シュラちゃん。相手はゴールドランクよ、たぶん気づかれてるわ。それにギルドルールで決められた時間以外は攻撃禁止だし」と、諭す。

「そっか。相手は野盗じゃないもんね。戦闘時間ハッスルタイムは、昼飯前と晩飯前くらいだったかな。今は その間くらいだから戦えないってことかぁ」

「そ、だから相手も構えないんじゃないかしら。それに紺色の縁ってことは、バックにタイタンズがいるから、モメるなら皆と相談しなくちゃだめね」
(冒険者となって一年、利害対立もなかったから派閥タイタンズとは争ったことはないけど、宗教的に真逆ゆえに戦うのも時間の問題ね)

「じゃ、入っても問題なし!」と言うや否や、隠れもしないで鉄柵を押しのけ、敷地に入るシュラ。

 止める間もないので、レウルーラはソドムらに合図して皆で行くことに決めた。
(相手もセイントがいるだろうし、戦いにはならないはず。もしも戦いになっても、すでに味方を呼んであるから、即座に制圧できる)

 
 見張りの男は、仲間にも聞こえるように大きめの声で、シュラに声をかけた。
「なんだい・・・嬢ちゃん、こんな危険なとこに来ちまったのかぁ」
(黒いミニスカ・ガーターベルト女子が二人。ん、仲間もワラワラと現れたな。ぱっと見は弱そうな連中だが、プラチナランクってことは勇者や化物なみに強いってのが常識だ。ガーターズとは戦わないに限る、ってリーダーが言ってたな。弱ってない限りは)

「おぉ、あんたら忠告しときながら、ちゃっかり来てんじゃん」と、シュラはナメた返答をした。別に悪意はなく思ったことを言っただけである。レウルーラは、彼らがギルドルールを絶対に守るとは限らないので警戒は怠らず、ソドムらの来着を待った。

「いやさ、俺たちは騎馬だから、儲け話がない時は ダンジョンなどを巡回ながしてるんだ。お宝かかえた冒険者や賊をみかけたら狩るわけさ」

 それを聞いてレウルーラは気が楽になった。
(なんだ、私たちと変わらない考えね。正義の味方じゃないなら落としどころもあるわね)

「で、ここは何なの?」無邪気に聞くシュラ。

「ん、ああ。看板が朽ちて落ちてたか。一応、宿屋だ。営業してるぞ。今、仲間たちが遅めの昼飯してるところさ」と、宿屋入口に落ちてる看板を見ながら親切に教える男。

「そなんだ。言われてみれば、いい匂いがする!」
 少ししてソドム達も入口に着いた。

「むぅ、この揚げ物の香りは…昔 立ち寄った宿屋フォレストで嗅いだ気がするな」料理人だっただけあり、嗅覚が敏感なソドムは、かつて立ち寄った温泉付きの宿屋を思い出す。

「え~と、名物がトリプルチーズチキンカツだったかしら」と、レウルーラも記憶を辿り当時を思い出してきた。不思議なもので、香りや味は昔を思い出すきっかけになったりする。

 シュラも食べ物の話で、完全に思い出す。
「そうそう、魔王十爪騒動!あと、竜王山脈を荒らされた竜王が暴れたのよね」

「・・・あの時期は色々ありすぎた。・・・とはいえ安全なら、とりあえず入ろう。寒いし、野外は危険だ」ソドムは、当時の事を触れられたくないので軽く流し、皆に合図してから木製の扉を開けて中に入った。


 建物内の壁は石造りで、石と石との間が色が違うのは、石灰石ライムストーンを砕き焼いて 水溶きしたものを流し込んだからだ。そのおかげで、強度が上がり隙間風もすくない。
 入って正面にあるカウンターは、宿屋としての受付と飲食カウンターを兼ねていた。カウンター奥は厨房と主の部屋になっているようで、不意に侵入されないようカウンター下をしゃがんで出入りしなくてはならない構造になっている。これなら、一旦しゃがんだ相手より有利に戦えるし、大人数で一気に襲い掛かかれないわけだ。もちろん、カウンターを乗り越えてくる賊もいるだろうが、よじ登るときに無防備になるので、店側は守りやすい。

 ソドム達は、カウンターの造りに感心しつつ、やはり油断のならない地だと改めて思った。周りを見渡すとテーブルが四つ、そのうち二つをくっつけて5人の男が食事をとっていた。ゴールドランクのライダースと、同行しているセイントであった。

 今 争う訳にもいかないし、対立しても得はないので、ソドムは気さくに話しかけた。
「おう、貴公ら早いな。一杯始めたりしてるのか?」
 ライダースのリーダーも心得ているので、
「冗談はよしてくれ、こんな危険地帯で酔うわけにはいかないぜ」と、苦笑いする。他のメンバーも軽く手を挙げて挨拶はするものの、街場の酔っ払いのように女を見つけては絡んできたりはしなかった。

「そう?アタシたちは飲んじゃうよね?」と、シュラがソドムに言う。

「そうだな、脱野宿の祝杯といくか」

「いいわね、泥酔しない程度にだけど」レウルーラは、賛同しつつ釘を刺しておいた。店内に女性の声が聞こえ始めたので、新規の客だと気がついた店主が奥から現れた。

「いらっしゃい。ランチタイムが終わって従業員は休憩入っちまったから、ロクなもてなしはできねぇが、温泉で旅塵を流すといい」初老の男は、微かに笑って皆を迎えた。
 黒いバンダナにエプロン姿、やせ型であるが動きに無駄がない。腰には剣を帯び、背中には盾を背負っている・・・料理人なのか戦士なのか よくわからない男であった。

「知ってる、この人!フォレストのマスター、連邦の剣鬼じゃん」と、シュラは失礼お構いなしで指さした。

「トリプルチーズチキンカツの剣鬼さん!」レウルーラも思わず指さしてしまった。
(あ~モヤモヤした感じが晴れてスッキリした!確か先代連邦王が酔った勢いで近習に称号を乱発したんだったかしら。ソドムの剣聖もそうなんでしょうけど)

 無礼にも指さされた店主は、怒りより先に古い記憶を辿って戸惑った。
(確かに見覚えはある。退役後に連邦旧街道で商売していた頃だったか。閑散期に、一悶着あった客か。その時は女が多い印象的な団体だった。にしては…、このミニスカ2人と男2人は当時のまま歳を取ってない。まあ、あれから二十年になる…そっくりな子孫かもしれん。だとしたら、俺が剣鬼と知ってるのはおかしい…)

「おお、いつぞやの新婚旅行の方々ですな。こんな辺鄙なところへ何用で?」
(俺も歳をとった。曖昧なことは横においておこう)

「もちろん、魔神討伐だ。しかし、まさか温泉があるとは驚いた。相変わらず上手いこと思いつくものだな」と、ソドムが感心した。

「ありがとよ。だけど、立地が悪くて客がいねぇのは変わらねぇが」

「そうか、いい物件があったら報せよう」と言って、ソドムは右拳を左胸に「ドン」と当ててから斜め前に突き出す連邦式敬礼をしてみせた。

 連邦出身の店主もキリリと表情が引き締まり、同じく敬礼で返してからニヤリとした。任務は被ったことはないが、同胞との再会は嬉しいようだ。

「新メニュー、デミソースのハンバーグは自信作だから、風呂上がりに食ってみてくれ」そう言うと店主は仕込のため厨房に引っ込んだ。
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