英雄の影 〜魔竜、勇者を育ててしまう〜

Last-BOSS

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第1章 それぞれの旅立ち

第13話 冒険は意外と地味なもの

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 スウィートの街から東に君臨している熱風の魔神パズズを攻略する時が訪れた。ギルドとしては、港湾都市スウィート~アクシー港をつなぐ陸路を阻むパズズは、何としても排除したいようで、討伐報酬も破格の金貨千枚(大和帝国一億円)を提示していた。
 当然、ダンジョンでのお宝も含めると巨万の富になり、ファミリー単位で攻略したとしても、悠々引退できる財が見込まれるだろう。

 針葉樹を縫うように設けられた小道を、山賊・魔物を警戒しながらソドム達は二日歩き、ダンジョン近くに辿り着いた。季節は秋だが、北部ゆえに雪がちらついていた。

「あ~、寒い!風は強いし、宿場町はないし、最悪なんだけど!」と、先頭を歩くシュラは不満を爆発させた。時折、強風にあおられてスカートがめくれるのだが、見られて困る相手はいないので押さえる素振りは微塵もなかった。後続のソドムとトリスは、見慣れたとはいえ本能的にシュラとレウルーラのミニスカ チラリズムは気になるようで、徒歩の旅も悪くない と、密かに思っていた。

 かつての連邦王国ならば、街との区間には徒歩半日の場所に宿場町があって、そこで食事・トイレ・宿泊ができたので女子でも快適に旅ができたものだ。また、宿場町には兵士が駐屯し、さらに騎士が街道を巡回しているので、道中の治安は良かった。
 それに比べて、連邦王国から分断されてしまった 今の下界は、何もないどころか山賊・魔物が跋扈する混沌とした大地なのだ、シュラの苛立ちは当然であった。

「寒さはコキュー島に比べれば何でもないけど、宿がないのは・・・。でも、ソドムと一緒なら楽しいわ」と、レウルーラは相変わらずソドムと並んで歩いてご機嫌である。

 ソドムは内心、連邦時代と違って宿場町がないのに、陸路を選んでしまったことを後悔していたが、ハイキングとキャンプだと思うことにして、無理やり楽しんでいた。

「たまには野宿もいいじゃないか。土地のジビエを堪能しながら、夜は静かに星を見て・・・な」

 冴子がバイザーを上げて、私見を述べる。道中は鉄鎧ゴーレムに歩くのを任せているので、彼女だけは全然疲れていない。
「街に停泊していた戦艦で、ダンジョン付近に横付けしても良かったのではないでしょうか?」それなら、外敵を気にせず移動ができて、安心して眠れるし、トイレ・簡易シャワーもあるので快適だっただろう。

「さ、さすが冴子殿!その言は正しい。ただ、派手に動くと 横取りを狙うハイエナどもが出るから、目立たない徒歩にしたのだ」

「でも、歩きだって帰り道ヤバいじゃん。むしろ、危険だろ!?」と、シュラが突っ込んだ。トリスは和やかな演奏をピタリと止めた。皆も思っていたことなのか、しばしの沈黙が一行を支配した。


「・・・正解だ!俺のリサーチ不足だったと認める。宿場町がないなら海路にしただろう、皆には苦労をかけてしまった」

 だよな・・・、と心で思う一同。戦艦を所有しているというアドバンテージを活かさないなど、意味が分からない。

 プラチナランクのファミリーで艦艇を有してるのはガーターズだけで、派閥ではアクシーズのみであった。
 アクシーズは艦艇に所属しているゴールド・シルバーランクの冒険者を乗せ、海から近いダンジョンに大人数の冒険者を送り込み、一挙に攻略することを得意としていた。

 西の派閥タイタンズは真逆の陸運に力を入れていて、本隊は小さめの家ほどある馬車を十頭の馬に曳かせて、護衛の騎馬兵と共に攻略に向かうスタイルをとっている。その馬車には対魔物・要害破壊兵器として、矢が槍ほど太い巨大クロスボウを屋根に設置していた。

 東の派閥ユーロはというと、勇者であるゼイター公爵を中心とした冒険サークルのような集まりの為、気ままに冒険はするが、基本は街の防衛にしか関心がないのが特徴であった。


「お、森を抜ける!…何やら先に建物があるから、一休みできそうだぞ」若干陰鬱な気分をそらすためにも、ソドムは明るい声を出し、石造りの平屋を指さした。安堵する一行、とはいえ快適空間とは限らないので大喜びはしなかった。

「ありがたい、戦う前に倒れるところでしたよ・・・」と、セイントのクインが珍しく弱音を吐いた。冴子と同じ全身板金鎧フルプレートアーマーに大楯という装備でも、あちらはゴーレムとして勝手に動いてくれるのに対し、彼は30キロ以上の重さを引きずり行軍しているのだから堪らない。
 ちなみにソドム・シュラ・レウルーラたち暗黒転生に成功した魔人の物理耐性は、クインの鎧くらいの防御力があるため、彼らの防具は首や心臓などの急所をしっかり守る程度で非常に身軽であった。

「まあ、寒風がこないところでブーツを脱いでくつろげるなら十分よ」と、レウルーラはポジティブな発言をして、夫の誤ちを薄め 皆の気持ちをも軽くさせた。

「そうだけど…」何の前情報もないので、さすがのシュラも喜びは小さい。

「楽観視もできません。ここはギルドの治安範囲外、いわば無法地帯です。旅人を狙った罠の可能性もあります」と、冴子が皆の気を引き締めた。
 いくら最強チームといっても不意討ちされたら、ひとたまりもない。過去には頭上から何重もの投網をかけられ、絶体絶命になった時もある。とくに注意しなくてはならないのが、炎の魔法や吐息ブレスであり、いきなりブッ放されたら、冴子以外は壊滅状態になるからだ。

「そうだな・・・。よし!シュラ、偵察してきてくれ!レウルーラは魔法探知を頼む」ソドムは二人に指示を出し、残りのメンバーは臨戦態勢で待機させた。

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