英雄の影 〜魔竜、勇者を育ててしまう〜

Last-BOSS

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第1章 それぞれの旅立ち

第9話 修羅の国

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 一瞬にして二人を殺されてしまった上に、必殺連携アタックが、全くダメージを与えていないことに絶望したスペードは、交戦を諦め 縛り付けてあるルゼッタを人質にして、この場を切り抜けることにした。今までワルとして、上手く立ち回ってきた人生だったので、スペードの怒りは相当なものだ。
(クソっ、なんで死なねーんだよ!この小娘は。味方は全滅、敵はノーダメ、最悪なんてもんじゃねぇ。しかもコイツら、俺が拉致るの知っててつけて来やがったな)

 スペードは、左手でルゼッタの金色の髪を掴み、武器を彼女の首元に当てて、

「動くんじゃねぇ!動けばネーちゃんを殺す!」


 が、二人はさっぱり動じない。不思議そうな顔をして互いの目を合わせた。彼らにしたら金儲けのために乗り込んできたわけで、人質の女性は席が隣だっただけの縁、さほどのインパクトはないのだ。強いて言えば、救出失敗してしまうと討伐報酬だけになってしまうくらいだった。

 緊迫した空気に合わせ、リュートの調べが場を包む。吟遊詩人のトリスが到着し、場を盛り上げるため演奏しながら、ゆっくりと階段を降りてきた。
 酒場での私物の見張りは、防御力自慢の大柄な黒騎士に任せ、任務の成功率を上げるため、ファミリーメンバーがほぼ出張って来た形になる。

 プラチナランクは、人数の多いファミリーで活動するため何かと経費がかかるので、デカイ案件がない時は ちょっとした仕事もこなしておけば、余裕ができて贅沢な食生活を維持できるというものだ。シルバーランク以上なら、最低限の食事(クズ肉と野菜の切れ端のスープ、度数が高いだけの安酒)を毎食無償で支給してもらうこともできるのだが、そこまで落ちぶれたくないのが皆の総意であった。


 段々と敵が増えていくので、スペードの焦りは増して言った。
(こっちは人質がいる。この現実を理解できないのかコイツらは・・・)

「テメーら、腕は立つのはようだが人質が死ねばギルドの報酬は減るんだぞ?それに俺は賞金首でもねぇ。だったら見逃した方が得じゃねーのか?」と、損得の話をするスペード。結局は金が全ての冒険者には、この手が一番いい。

「・・・」ソドムは腰から布を取り出し、剣についた血を拭ってから鞘にしまった。一瞬ではあるが、チラリと吟遊詩人トリスを見て合図を送る。それに気がついたトリスは、さりげなく曲を変えてゆく。その調べはとても穏やかで、場にいる者達の興奮を鎮め こころに安らぎをもたらす。トリスの魔曲【戦場乃子守歌ララバイ】が発動しはじめたのだ。
 元々、魔曲すら弾けないヘボ吟遊詩人だったトリスだが、ソドムらが寝ていた二十年という期間は、修行には十二分の時間であった。その研鑽を初お披露目する機会が来たのであった。


 交戦の意思がなくなったと感じたスペードは、人質を立ち上がらせ、じりじりと歩きながら、悦に浸るように持論を展開し始めた。

「いいか?ここは連邦王国じゃねぇ、無法地帯の・・・いわば修羅の国だ。そんで知恵と力があるものが、弱い奴らから税を徴収するってわけだ。追い詰められたって、この通り・・・頭を使っておさらばできるのさ!最高だと思わねーか?ヒャハははぁぁ・・・ぁぁ」と言いながら、バタリと倒れた。
 魔曲が効いて、卒倒するようにいきなり寝たのだ。残念ながら、曲の聞こえる場所にいたソドム以下みんなバタバタと倒れて寝た。魔法抵抗が高いルーラですら崩れるように倒れた。さらには、演奏者自身も寝てしまう、強力かつ迷惑なスキルであった。
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