英雄の影 〜魔竜、勇者を育ててしまう〜

Last-BOSS

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第1章 それぞれの旅立ち

第4話 大陸侵攻作戦

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 結局、シュラは宝石を三個も貰ったので、かなり機嫌が良くなっていた。そして、何気なく巨大なアイスゴーレムを見上げて、思案している。
(しかし、おっきいなぁ。建物でいうと五階くらいかな、わかんないや・・・。てか、ちゃんと動くんかな?)

「冴子さん、ゴーレムの動くとこみたいんだけど・・・」
(どうせハッタリで動かせないんでしょ?とは言わないでおこう。この人、怒ると恐いから)

「ああ、私の芸術作品が踊るところを見たいのね?」冴子は戦利品の【遠見の水晶】を大事そうに秘薬バックにしまい込み、ゴーレムに命令を伝える詠唱を始める。

「あ、いや・・・別に踊らなくても・・・いいんだけど」何だか面倒なことになったとシュラは思った。

 皆が疲れているだろうと思い、ソドムが中止を提案する。
「冴子殿、まともに相手しなくていいんですよ。小娘の無意味な 戯言ですから」

「いえいえ、踊らせはしませんよ。歩かせるだけです」

 ソドムは、「そこじゃない」と思ったが面倒くさくなって言葉を飲み込んで、溜息と分からない程度に「ふ~」と息を吐く。実年齢では還暦のソドムであるが、いくつになっても人の考えることはわからないし、コントロールすることは難しいと感じている。


 まさに そびえ立つというに相応しい 巨大なアイスゴーレムが、ゆっくり足をあげ一歩目を踏み出す。その巨大さは、ネオギオンを護る守護神といった風格があり、皆が息を呑んだ。
 シュラは二十年前、巨大なアークデーモンに踏まれて死にかけたことを今さらながら思い出し、足がすくむ。物理耐性プロテクトなど圧倒的質量に対しては意味をなさない。もし、アイスゴーレムの下敷きになったとしたら、普通に潰されて即死 もしくは大量出血で死ぬだろう。


 この時、不運があった。丘の僅かな傾斜がゴーレムのバランスを崩した。倒れまいと後ろに片足を出したが、コレが滑った。徐々にゴーレムは後ろに重心が移り、支えようとした足がまた滑り、逆に蹴り出すような形になって、後ろに仰向けのまま倒れ込んだ。
 そのままゴーレムは雪原を滑り、ついには城の城壁まで到達し、「ゴゴゴォォン!!」と大きな音を立てて砕け散る。その様子は、大規模な雪崩が村落に襲い掛かったかのようだった。

 当然、城壁も崩れた。その損害は城壁の三割にも及び、城の防衛力は半減した。「うそだろう」と皆が思い、絶望の声がこぼれる。

 この一瞬で、タクヤの酔いは醒め、頭脳をフル回転させ被害額の算出と補填方法をはじき出した。城壁といっても、厳重な二重城壁であり、しかも それぞれの壁の内側は兵士の宿舎や一般住居にしているため、建設には金と時間がかかっている。加えて、壁が崩壊している箇所から容易に敵が侵入できるので、警備の兵を大幅増員せねばならず、その人件費も相当かかる。

「おめっだ、何してくれでんなやぁ!あいだば金貨一万枚(大和帝国十億円)は飛んだぞ!」怒りで我を忘れたタクヤが、帝国訛り丸出しでソドムらを叱りつけた。

「待で待で。俺ら悪ぃけど、まずは住人助けねば!」と、ソドムは釣られて訛りながら、近習に救出部隊の派遣を指示した。

 シュラと冴子は、「やっちまった」と後悔して佇んでいる。レウルーラは、とりあえず場を和ませようと冴子に声をかけた。
「冴子ちゃん、転ぶ様子を見て気がついたんだけど、ゴーレムの足の裏・・・あれじゃダメね。鉱石ならまだしも、氷でできてるんだから、踏ん張りがきくようにアウトソールに凹凸とか付けるべきよ」と、魔術師の先輩としてアドバイスした。

「確かに・・・。真っ平では滑るのは道理でした。勉強になります、ルーラ姉」レウルーラ相手には素直な冴子。シュラも、責任逃れのために頷きながら会話に参加している風に装った。


 多少冷静さを取り戻したタクヤが、ソドムらを諭すように語気を弱めて・・・金の話に戻す。
「ともかく・・・、金だ。せっかく領土まで削って得た金がパーになったんだからな。さあ、どうするんだ?ネオギオン総帥・影王ソドム、宮廷魔術師長・冴子殿、神殿代表・レウルーラ卿」と、事務的に詰め寄った。
 当然、胸中に解決策がある。だが、成し遂げさせる為にも彼等自らの口で言わせる必要があった。

「それは・・・だな、責任もって俺たちが~」上司に渋々 戦果の約束や売り上げ目標を掲げるかのような感じでボソボソとソドムが話し出す。レウルーラは、ソドムに責任が一切無いので助け舟を出した。

「私たちが大陸に渡り、冒険者ギルドに登録して稼いでくるわ」そう言い切って、冴子とレウルーラに目で合図した。
「そう、そのための戦艦です。大陸に蔓延る魔神を殲滅し、財宝を手に入れて来ましょう」と、自信満々に冴子は言い放ち、取り乱したため乱れ放題だった紫の長髪を整えた。

「そんで、障害がなくなった所に進軍するのね」と、シュラは楽しげに言った。冒険と戦争が今から楽しみでしょうがない様子である。

「そういうことだ。元から大陸進出は悲願である。準備が整い次第、戦艦で南にある港湾都市スウィートに向かい、そこを拠点に活動する。なお、送金などのために連絡員も常駐させることとする。・・・これでいいかな?宰相殿」ソドムは上手くまとめて、金庫番の意思を確認した。

 単純な奴らだ・・・思惑通りに動いてくれる、と思ったタクヤ。嬉々として行くのであれば言うことはない。逆に生真面目な冴子も巻き込めたのは好都合であった。彼女がいれば、ソドムらが遊びにかまけて逃げ出すことはないだろう、とも思った。

「貴殿らの覚悟は伝わった。武運を祈る」と、白々しい台詞を吐くタクヤ。彼らの能力ならば、冒険者ギルドでぶっちぎりの存在になるのは間違いないから、その稼ぎは領地を切り取るよりも多いとみている。
(待てよ、冴子は連邦の恩赦があれば簡単に寝返るかもしれん。念のため俺の息のかかったエルディック一家の掃除人スイーパーを同行させよう。お、そんなことより経費・食料の節約のため、ゾンビと魔人らには再び寝てもらわなくては・・・)


「そうと決まれば、祝勝パーティだ!主だった者を広間に集めろ!兵たちには国庫から金を出して存分に旨いものと酒を飲ませよ。さて、久しぶりに俺も料理を作るぞ」と、ソドムは包丁を持つ素振りをして張り切った。
(このようなときに暗さは厳禁だ。ともかく明るく振舞い、その明るさで失態をかすめさせ、かつ船出は贖罪ではなく、華々しい栄光の一歩と印象付けなくてはならん)

 タクヤが抗議しないというのは、承認したという意味である。それならば、とシュラがはしゃぐ。
「おー、いいね。アンタの料理久しぶりだから楽しみ!」バシバシとソドムの背中を叩く。

「あ、シュラちゃん。せっかくだから鹿でも捕まえて行きましょ」と、レウルーラもノリノリである。「おっけー」と、シュラは快諾した。

「ソドム殿の料理は つい宮廷を思い出してしまいますが、何かとアレンジされてるので毎回発見があって好きです」と、冴子も喜ぶ。
(一番美味しいのは始祖たるソドムの・・とは言えないわね)

 ともあれ、戦勝と影王復活の宴は深夜まで続く・・・。
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