68 / 68
第6章 邪神と死霊術師
第67話 聖なる邪獣人戦闘懲罰奴隷
しおりを挟む
「グギガガガガガガ!!!!」
とある森に隣接した街道にて。
巨大な獣が、拳を振るう。
怒りと激情、何よりも無数の呪いを込めながら爪を走らせる。
「ぐぅうううううう!!!」
それに相対するは、元導きの巻貝兵士団、現エイダの見張り役の騎士ラウラ。
彼女はその手に持つ巨大な鉄の盾を前面に構え、受け止める。
幸い、その爪の威力は鉄を突破するほどではない。
が、それでもその威力と衝撃までは完全に防げるわけではなく、鉄の具族を履いてなお、足が地面にめり込み、体が後ろに押し込まれ、体感が大きく揺さぶられる。
「ぬぅうううう!!」
本来ならば、相手の大ぶりの攻撃の隙をついて、反撃するのが盾使いの戦い方の基礎だ。
しかしそれは、相手の攻撃の激しさに、体勢を崩さないようにするだけで精いっぱい。
攻撃はおろか、防御すら満足にできているとは言い難かった。
「た、隊長!
今援護をしま……」
「バカ者!!私は問題ない!
お前らは自分の身を全力で守れ!!」
しかしそれでも、彼女は自分の最後のプライドを持って、他の部下の援護提案と取りやめさせる。
なぜなら、今自分たちを責めている獣人は一匹ではない。
その数は5匹おり、いずれも人の姿を失った邪悪な獣の姿、邪獣人。
しかもどれもが、強力で強靭、自分を救うことごときに人手を回させるわけにはいかないのだ。
「はぁ、はぁ……」
「くくくく、いいのかぁ?防いでばかりで?
邪獣人の恐怖は、その強さではないのだぞ?」
襲撃者の頭領である、怪しげなローブを着た男が挑発の言葉を放ってくる。
苛立ちがたまり、殺意がわく。
しかしながら、そいつのセリフは嘘ではなく、邪獣人の恐ろしさはいま彼女はその身をもって体感していた。
(……喉が……渇く!!
怒りが、血が、衝動を求める……!!)
そう、邪獣人の脅威の本質。
それは、『獣化の呪いの伝発』。
ラウラは、自身の謎の渇きと、全てを投げ捨てて思うままに動きたい、理性を捨てたい葛藤にさいなまれる。
理性と本能の境界に、思考と直感がぶつかり合う。
そんな状態では当然、指揮も抗戦もまともにできるわけもなく。
「う、うわぁあああああ!!!」
「な!だ、大丈夫か……ぐあっ!!」
部下の一人が、邪獣人にかみつかれ、それに意識を持っていかれた瞬間に、彼女自身も相対する邪獣人からの爪の一撃を受けてしまう。
「う、うぐ、あぐ、がぁああああ!!!!」
そして、その一撃を受けたことにより、邪獣人の呪いは一気に深刻なものになる。
脳内に火花が走り、魂が暴走を始める。
文字通り血肉が暴れ、肺や胃から血が漏れ、口や鼻から血と胃液が漏れ出てくる。
(あ、これはまずい、わたし、死……)
当然そんな隙を、目の前の相手が見逃してくれるわけもなく。
恐るべき邪獣人の騎馬と爪の双撃が、彼女の目の前に迫り……。
「【浄化の光《ピュリファイ・レイ》】」
「ぐるぎぎぎぎ!!!!」
――そして、その攻撃はあっさりと防がれた。
「ん、よし、どっちも生きてるね。
はやく、姿勢を立て直して」
「あ、ああ」
それをなしたのは本来は護衛対象であるべき、イオ。
ギャレン村の聖女、恐るべき魔導の征服者、イラダの聖なる導き手。
数多くの異名がつけられており、彼女自身もその偉業を目の当たりにしたことはあった。
が、それでもなお、その光景は驚嘆すべきものであった。
「ぎ……きゅぅぅぅ……」
そう、イオが天に向かって、その右手を掲げ、そこから強い光が放たれる。
その光に当てられた邪獣人は怯み、眼は焼け、鼻を抑えて悶えている。
その逆にこちらは、視界がはっきりし、体にまとわりついていた倦怠感は抜け、思考を乱していた霞が晴れていくのを感じた。
「……聖女の名は伊達ではないというわけか」
奇跡とは、神聖魔術のくくりに過ぎないと考えていた彼女だが、それでも今自分の身に起きていること、そして彼女の行いは奇跡と呼ぶにふさわしいのだろうと確信した。
「おお!流石我が親友!!
それじゃぁ私も負けてられない、というわけで【癒しの光】」
そして、その奇跡に重ねるかのように、彼女の本来の警護兼見張り対象であるエイダが、月の女神へと祈りを捧げる。
すると、彼女の体の傷が癒え、活力が戻ってくる。
先のイオの浄化と合わせて、ラウラとその部下の体力と体調はすっかり元通りであった。
「……今なら、おとなしく降伏するなら、命までは取らない。
おとなしく、己が信じる神に懺悔し、行動を改めてほしい」
「………っつううう!!
えぇぇい!神の威光を持って、横暴をなす悪女共め!
正しき行いと正が、そして貴様らの不正を、我が軍勢をもって示してやる!!」
もっとも、これほどの偉業を見せられても、なお相手方の気力は折れず。
それでも、ラウラは後ろにいる存在の頼もしさを確信し、勇気をもって、その邪獣人と相対するのでした。
☆★☆★
なお、同時期、件のイオ他護衛対象達。
「う~ん、これは、殺さないで終わらせるの難しそうかな~」
「それって、どちらの意味で?」
「それは当然、邪獣人とカルト」
「ですよね~」
獣人と護衛が必死に戦っている中、私はエイダとこの騒動をどう納めるべきか話していた。
「というかさぁ、今私の右手に宿った聖痕の影響が強すぎてさぁ。
呪術や死霊術でアイツらを無力化するには、陰の魔力の調節がむずかしいし。
かといって、聖痕の浄化の奇跡を本気で放つと、あそこにいる邪獣人の何人か大変な目に合いそうだからなぁ」
「別にそれくらいならいいんじゃない?
呪術はまだしも、聖痕の浄化ぐらいそれで死んだら自己責任よ。
それにあくまで襲ってきたのは向こうなんだから、襲うのは襲われる覚悟があるやつだけってやつよ」
「でも、今の私が本気を出したら、吸血鬼であるエイダも巻き込まれ成仏しそうだけど、それでもいい?」
「……うん!やっぱり手加減って大事よね!」
そうなのだ、一応今回のカルト襲撃は予想よりは厄介だが、割とやろうと思えば何とかなる程度の襲撃でしかないのだ。
強力ではあるが、それでもマートに比べれば、ぼちぼち程度の強さの邪獣人5人、それを指揮というよりはヤジを飛ばしている先日の聖痕付きのカルトが1人。
カルトのおっさんに関しては、おそらく戦闘力はないし、邪獣人に関しても呪術耐性や強力な再生力こそ面倒くさいが、邪属性のおかげで、聖痕の浄化で一発退場させることができる。
「でもまぁ、あの襲ってきているモフモフ、いや邪獣人たちって、どう見ても無理やり戦わされてる感じでしょう?
ならまぁ、せめて助けてあげたいなぁって」
しかし、それでも相手が無理やり戦わっされているのなら、せめて救いたいと思うのが本音だ。
特に、件の暴走している邪獣人たちには隷属の聖痕がついており、行動するごとにそれがピカピカと魔力光を発している。
そして、邪獣人の獣化は高い再生力こそ持っているが、その痛覚は健在であるため、おそらくは相当の激痛と苦痛を感じながら、無理やり戦わされているのだろう。
これを不憫と言わずしてなんというのか?
「でも獣人なんて、どうせ邪獣人ほどでもないけど、ろくでもない子ばかりよ?
それでも助けたいの?」
「ろくでもないやつだったら、助けた後に殺す。
その方が、すっきりするし、あとくされない」
「ふふっ!実に傲慢で強欲!
さすがは死霊術師ね!」
自分の返事が気に入ったのか、エイダが満面の笑みをこちらに向けてくる。
「いいわよ、今回はあなたの提案に乗ってあげる!」
「……!!」
「でも、その代わり、すこ~しだけ、協力してほしいことがあるんだけど……いいわよね?」
協力を申し出ながら、明らかに何かを期待した眼でこちらを見やるエイダ。
一瞬、本当に彼女の要望に乗っていいかと思い悩んだが、それでも人の命よりは安いかと考え、左前腕を彼女のほうに差し出すのであった。
「……っは!」
そして、その瞬間、戦場の空気が変わった。
突如湧き上がる、膨大な魔力。
邪獣人など比べ物にならないほどの邪悪な気配に、乱れ狂う精霊たち。
攻め手であるはずの邪獣人も思わずその動きを止め、相手が隙をさらしたにもかかわらず、思わずラウラたちも後ろを振り返る。
「ふひ、はひ、ひひひひひひ!!!!!
あ~~~!!!!いい~~~!!!馴染む、馴染むぞぉおおお!!!!!
前よりも、聖痕がついても……なお旨い!!
極上、至高、最高、究極の血の味よおおおぉおおおお!!!!」
するとそこには、気力と魔力にあふれ、眼が光り、口端からわずかに血を漏らすエイダ。
そして、左腕を抑えるイオの姿が。
「な!ま、まさか、あいつは吸血鬼だったのか!?
はは、ははははは!やはり貴様は邪悪だったのだなぁ!!!
正義は我にあり!!いけ、罪人ども!!あいつらを喰い散らせぇ!!!」
カルトの男が、そんなエイダの様子を見て、恐れるどころか意気揚々と配下の邪獣人に命令を下す。
「きゅ、きゅ、きゅぅぅうぅ……」
「……ちぃ!!!邪獣人の癖に、怖気付きやがって!
行け、さっさとやれ、あいつらを殺せぇ!!!」
強大な気配と魔力に、尻尾と耳を丸め、縮こまる邪獣人。
それに強く命令を下す、カルトの男。
はじめこそ、邪獣人はまともに行動できなかったが、命令を重ねるごとに邪獣人にかけられた隷属の聖痕は強く輝き、苦しめ、そして行動を強制する。
そして、泣きながら、あるいは嘆きながらも、その獣は無理やりこちらを襲おうとした。
「……哀れだな、そして惨めだ。
だからこそ、せめて、優しく捕らえてやろう。
【血の拘束】」
そんな強制的に操られている獣人に、憐みの視線を向けつつ、エイダは一つの呪文を発動。
すると、彼女の指先から一滴の血がこぼれ、地面に落ちるとともに、放射状にはじけ飛ぶ。
そっらは獣人の体にまとわりつき、そして小さな穴をあける。
「……ぎびっ!!!」
「内側と外側、さらには霊的な、三重の拘束だ。
知性のない獣ごときに、この拘束は破れんよ」
魔力で強化した血と、欠陥内部に侵入した血、さらには呪術による三重束縛を受けた獣人はあっさりとその動きを止め、無力されてしまた。
「……ちぃい!!!役に立たない獣どもめぇ!
せめて、死ぬまで暴れ続けて……!!」
「それもさせない。
……【浄化の光《ピュリファイ・レイ》】」
それに合わせるかのように放たれるイオの右手の聖痕による【浄化】。
「っく!躱すことができないすきに、処分するつもりか!?」
「まさか、それなら、もっと早くやってるよ。
でも、動けないなら、こういうこともできるから、ね」
その【浄化の光《ピュリファイ・レイ》】は先ほどまでの放射状の光とは違い、一筋に光線、いやレーザービームの様に、動けない獣人に向かって飛んでいく。
「……ふぅぅ!!壊れろぉ!!!」
「んなぁ!?」
そして、その【浄化の光《ピュリファイ・レイ》】は、神聖な力をもって、獣人の体の一点を貫き、その体と魂につけられた【隷属の聖痕】を、さらには【邪獣人の呪い】だけを貫いていく。
「ぎゅ、グ……ふぅぅ……」
すると、隷属の聖痕と邪獣人の呪いのどちらも取れた、元邪獣人の獣化は解け、ただの獣人、あるいは人の姿に戻り、気を失う。
しかし、その体の傷は最低限であり、息もしている。
どうやら無事に無力化に成功したようだ。
「ほい、ほい……ほい!
うん!これで全員に成功したな!」
そして、一人目を成功したことを確認して、二人目、三人目と無力化と浄化を繰り返し、あっさりと邪獣人全ての無力化に成功した。
「そ、そんなバカな……
神により、大司祭様により与えられた、罪人奴隷が。
か、神の威光が、そんな、こんなことで……」
そして、自分の手駒をすべて失ったカルトの男は、ただただ、呆然とし、立ち尽くす。
まるで、目の前で起きたことが信じられぬことの様に、あり得ぬものを見たかのように。
「……で、どうする?
まだ、抵抗するかい?」
かくして、私達は無事にカルトとその配下の無力化に成功。
もっとも、せっかくの教会建設の下見のための移動中だったがゆえに、色々と予定が狂ってしまったが、それでもその下見自体は滞りなく行われたのでした。
とある森に隣接した街道にて。
巨大な獣が、拳を振るう。
怒りと激情、何よりも無数の呪いを込めながら爪を走らせる。
「ぐぅうううううう!!!」
それに相対するは、元導きの巻貝兵士団、現エイダの見張り役の騎士ラウラ。
彼女はその手に持つ巨大な鉄の盾を前面に構え、受け止める。
幸い、その爪の威力は鉄を突破するほどではない。
が、それでもその威力と衝撃までは完全に防げるわけではなく、鉄の具族を履いてなお、足が地面にめり込み、体が後ろに押し込まれ、体感が大きく揺さぶられる。
「ぬぅうううう!!」
本来ならば、相手の大ぶりの攻撃の隙をついて、反撃するのが盾使いの戦い方の基礎だ。
しかしそれは、相手の攻撃の激しさに、体勢を崩さないようにするだけで精いっぱい。
攻撃はおろか、防御すら満足にできているとは言い難かった。
「た、隊長!
今援護をしま……」
「バカ者!!私は問題ない!
お前らは自分の身を全力で守れ!!」
しかしそれでも、彼女は自分の最後のプライドを持って、他の部下の援護提案と取りやめさせる。
なぜなら、今自分たちを責めている獣人は一匹ではない。
その数は5匹おり、いずれも人の姿を失った邪悪な獣の姿、邪獣人。
しかもどれもが、強力で強靭、自分を救うことごときに人手を回させるわけにはいかないのだ。
「はぁ、はぁ……」
「くくくく、いいのかぁ?防いでばかりで?
邪獣人の恐怖は、その強さではないのだぞ?」
襲撃者の頭領である、怪しげなローブを着た男が挑発の言葉を放ってくる。
苛立ちがたまり、殺意がわく。
しかしながら、そいつのセリフは嘘ではなく、邪獣人の恐ろしさはいま彼女はその身をもって体感していた。
(……喉が……渇く!!
怒りが、血が、衝動を求める……!!)
そう、邪獣人の脅威の本質。
それは、『獣化の呪いの伝発』。
ラウラは、自身の謎の渇きと、全てを投げ捨てて思うままに動きたい、理性を捨てたい葛藤にさいなまれる。
理性と本能の境界に、思考と直感がぶつかり合う。
そんな状態では当然、指揮も抗戦もまともにできるわけもなく。
「う、うわぁあああああ!!!」
「な!だ、大丈夫か……ぐあっ!!」
部下の一人が、邪獣人にかみつかれ、それに意識を持っていかれた瞬間に、彼女自身も相対する邪獣人からの爪の一撃を受けてしまう。
「う、うぐ、あぐ、がぁああああ!!!!」
そして、その一撃を受けたことにより、邪獣人の呪いは一気に深刻なものになる。
脳内に火花が走り、魂が暴走を始める。
文字通り血肉が暴れ、肺や胃から血が漏れ、口や鼻から血と胃液が漏れ出てくる。
(あ、これはまずい、わたし、死……)
当然そんな隙を、目の前の相手が見逃してくれるわけもなく。
恐るべき邪獣人の騎馬と爪の双撃が、彼女の目の前に迫り……。
「【浄化の光《ピュリファイ・レイ》】」
「ぐるぎぎぎぎ!!!!」
――そして、その攻撃はあっさりと防がれた。
「ん、よし、どっちも生きてるね。
はやく、姿勢を立て直して」
「あ、ああ」
それをなしたのは本来は護衛対象であるべき、イオ。
ギャレン村の聖女、恐るべき魔導の征服者、イラダの聖なる導き手。
数多くの異名がつけられており、彼女自身もその偉業を目の当たりにしたことはあった。
が、それでもなお、その光景は驚嘆すべきものであった。
「ぎ……きゅぅぅぅ……」
そう、イオが天に向かって、その右手を掲げ、そこから強い光が放たれる。
その光に当てられた邪獣人は怯み、眼は焼け、鼻を抑えて悶えている。
その逆にこちらは、視界がはっきりし、体にまとわりついていた倦怠感は抜け、思考を乱していた霞が晴れていくのを感じた。
「……聖女の名は伊達ではないというわけか」
奇跡とは、神聖魔術のくくりに過ぎないと考えていた彼女だが、それでも今自分の身に起きていること、そして彼女の行いは奇跡と呼ぶにふさわしいのだろうと確信した。
「おお!流石我が親友!!
それじゃぁ私も負けてられない、というわけで【癒しの光】」
そして、その奇跡に重ねるかのように、彼女の本来の警護兼見張り対象であるエイダが、月の女神へと祈りを捧げる。
すると、彼女の体の傷が癒え、活力が戻ってくる。
先のイオの浄化と合わせて、ラウラとその部下の体力と体調はすっかり元通りであった。
「……今なら、おとなしく降伏するなら、命までは取らない。
おとなしく、己が信じる神に懺悔し、行動を改めてほしい」
「………っつううう!!
えぇぇい!神の威光を持って、横暴をなす悪女共め!
正しき行いと正が、そして貴様らの不正を、我が軍勢をもって示してやる!!」
もっとも、これほどの偉業を見せられても、なお相手方の気力は折れず。
それでも、ラウラは後ろにいる存在の頼もしさを確信し、勇気をもって、その邪獣人と相対するのでした。
☆★☆★
なお、同時期、件のイオ他護衛対象達。
「う~ん、これは、殺さないで終わらせるの難しそうかな~」
「それって、どちらの意味で?」
「それは当然、邪獣人とカルト」
「ですよね~」
獣人と護衛が必死に戦っている中、私はエイダとこの騒動をどう納めるべきか話していた。
「というかさぁ、今私の右手に宿った聖痕の影響が強すぎてさぁ。
呪術や死霊術でアイツらを無力化するには、陰の魔力の調節がむずかしいし。
かといって、聖痕の浄化の奇跡を本気で放つと、あそこにいる邪獣人の何人か大変な目に合いそうだからなぁ」
「別にそれくらいならいいんじゃない?
呪術はまだしも、聖痕の浄化ぐらいそれで死んだら自己責任よ。
それにあくまで襲ってきたのは向こうなんだから、襲うのは襲われる覚悟があるやつだけってやつよ」
「でも、今の私が本気を出したら、吸血鬼であるエイダも巻き込まれ成仏しそうだけど、それでもいい?」
「……うん!やっぱり手加減って大事よね!」
そうなのだ、一応今回のカルト襲撃は予想よりは厄介だが、割とやろうと思えば何とかなる程度の襲撃でしかないのだ。
強力ではあるが、それでもマートに比べれば、ぼちぼち程度の強さの邪獣人5人、それを指揮というよりはヤジを飛ばしている先日の聖痕付きのカルトが1人。
カルトのおっさんに関しては、おそらく戦闘力はないし、邪獣人に関しても呪術耐性や強力な再生力こそ面倒くさいが、邪属性のおかげで、聖痕の浄化で一発退場させることができる。
「でもまぁ、あの襲ってきているモフモフ、いや邪獣人たちって、どう見ても無理やり戦わされてる感じでしょう?
ならまぁ、せめて助けてあげたいなぁって」
しかし、それでも相手が無理やり戦わっされているのなら、せめて救いたいと思うのが本音だ。
特に、件の暴走している邪獣人たちには隷属の聖痕がついており、行動するごとにそれがピカピカと魔力光を発している。
そして、邪獣人の獣化は高い再生力こそ持っているが、その痛覚は健在であるため、おそらくは相当の激痛と苦痛を感じながら、無理やり戦わされているのだろう。
これを不憫と言わずしてなんというのか?
「でも獣人なんて、どうせ邪獣人ほどでもないけど、ろくでもない子ばかりよ?
それでも助けたいの?」
「ろくでもないやつだったら、助けた後に殺す。
その方が、すっきりするし、あとくされない」
「ふふっ!実に傲慢で強欲!
さすがは死霊術師ね!」
自分の返事が気に入ったのか、エイダが満面の笑みをこちらに向けてくる。
「いいわよ、今回はあなたの提案に乗ってあげる!」
「……!!」
「でも、その代わり、すこ~しだけ、協力してほしいことがあるんだけど……いいわよね?」
協力を申し出ながら、明らかに何かを期待した眼でこちらを見やるエイダ。
一瞬、本当に彼女の要望に乗っていいかと思い悩んだが、それでも人の命よりは安いかと考え、左前腕を彼女のほうに差し出すのであった。
「……っは!」
そして、その瞬間、戦場の空気が変わった。
突如湧き上がる、膨大な魔力。
邪獣人など比べ物にならないほどの邪悪な気配に、乱れ狂う精霊たち。
攻め手であるはずの邪獣人も思わずその動きを止め、相手が隙をさらしたにもかかわらず、思わずラウラたちも後ろを振り返る。
「ふひ、はひ、ひひひひひひ!!!!!
あ~~~!!!!いい~~~!!!馴染む、馴染むぞぉおおお!!!!!
前よりも、聖痕がついても……なお旨い!!
極上、至高、最高、究極の血の味よおおおぉおおおお!!!!」
するとそこには、気力と魔力にあふれ、眼が光り、口端からわずかに血を漏らすエイダ。
そして、左腕を抑えるイオの姿が。
「な!ま、まさか、あいつは吸血鬼だったのか!?
はは、ははははは!やはり貴様は邪悪だったのだなぁ!!!
正義は我にあり!!いけ、罪人ども!!あいつらを喰い散らせぇ!!!」
カルトの男が、そんなエイダの様子を見て、恐れるどころか意気揚々と配下の邪獣人に命令を下す。
「きゅ、きゅ、きゅぅぅうぅ……」
「……ちぃ!!!邪獣人の癖に、怖気付きやがって!
行け、さっさとやれ、あいつらを殺せぇ!!!」
強大な気配と魔力に、尻尾と耳を丸め、縮こまる邪獣人。
それに強く命令を下す、カルトの男。
はじめこそ、邪獣人はまともに行動できなかったが、命令を重ねるごとに邪獣人にかけられた隷属の聖痕は強く輝き、苦しめ、そして行動を強制する。
そして、泣きながら、あるいは嘆きながらも、その獣は無理やりこちらを襲おうとした。
「……哀れだな、そして惨めだ。
だからこそ、せめて、優しく捕らえてやろう。
【血の拘束】」
そんな強制的に操られている獣人に、憐みの視線を向けつつ、エイダは一つの呪文を発動。
すると、彼女の指先から一滴の血がこぼれ、地面に落ちるとともに、放射状にはじけ飛ぶ。
そっらは獣人の体にまとわりつき、そして小さな穴をあける。
「……ぎびっ!!!」
「内側と外側、さらには霊的な、三重の拘束だ。
知性のない獣ごときに、この拘束は破れんよ」
魔力で強化した血と、欠陥内部に侵入した血、さらには呪術による三重束縛を受けた獣人はあっさりとその動きを止め、無力されてしまた。
「……ちぃい!!!役に立たない獣どもめぇ!
せめて、死ぬまで暴れ続けて……!!」
「それもさせない。
……【浄化の光《ピュリファイ・レイ》】」
それに合わせるかのように放たれるイオの右手の聖痕による【浄化】。
「っく!躱すことができないすきに、処分するつもりか!?」
「まさか、それなら、もっと早くやってるよ。
でも、動けないなら、こういうこともできるから、ね」
その【浄化の光《ピュリファイ・レイ》】は先ほどまでの放射状の光とは違い、一筋に光線、いやレーザービームの様に、動けない獣人に向かって飛んでいく。
「……ふぅぅ!!壊れろぉ!!!」
「んなぁ!?」
そして、その【浄化の光《ピュリファイ・レイ》】は、神聖な力をもって、獣人の体の一点を貫き、その体と魂につけられた【隷属の聖痕】を、さらには【邪獣人の呪い】だけを貫いていく。
「ぎゅ、グ……ふぅぅ……」
すると、隷属の聖痕と邪獣人の呪いのどちらも取れた、元邪獣人の獣化は解け、ただの獣人、あるいは人の姿に戻り、気を失う。
しかし、その体の傷は最低限であり、息もしている。
どうやら無事に無力化に成功したようだ。
「ほい、ほい……ほい!
うん!これで全員に成功したな!」
そして、一人目を成功したことを確認して、二人目、三人目と無力化と浄化を繰り返し、あっさりと邪獣人全ての無力化に成功した。
「そ、そんなバカな……
神により、大司祭様により与えられた、罪人奴隷が。
か、神の威光が、そんな、こんなことで……」
そして、自分の手駒をすべて失ったカルトの男は、ただただ、呆然とし、立ち尽くす。
まるで、目の前で起きたことが信じられぬことの様に、あり得ぬものを見たかのように。
「……で、どうする?
まだ、抵抗するかい?」
かくして、私達は無事にカルトとその配下の無力化に成功。
もっとも、せっかくの教会建設の下見のための移動中だったがゆえに、色々と予定が狂ってしまったが、それでもその下見自体は滞りなく行われたのでした。
0
お気に入りに追加
97
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(17件)
あなたにおすすめの小説
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜
みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。
…しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた!
「元気に育ってねぇクロウ」
(…クロウ…ってまさか!?)
そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム
「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ
そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが
「クロウ•チューリア」だ
ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う
運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる
"バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う
「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と!
その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ
剣ぺろと言う「バグ技」は
"剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ
この物語は
剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語
(自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!)
しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
転生したらスキル転生って・・・!?
ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。
〜あれ?ここは何処?〜
転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
……あまり?えろではない、方向なので……。
『TSネクロマンサーですが、ど田舎村で聖女扱いされて困ってます 〜禁術が使いたいから田舎に来たんだよ邪魔するな!〜』
……系統ですかね?(というより既にありそう感がつよい)
まあ、更新止まってるから関係ないけど。
うーん……こいつら何教、何派の馬鹿なんだろうか……。
発光邪神なのか、善神異端派なのか……。
(夢のオールスターの誰かさんが恥じらう事になるのか、コイツら意外と貯め込んでるんだよねー(笑)なのか……)
65
太陽さん達が地方都市だったり首都だったりしてる。
首都というのが国じゃなくて県なのかも知れないけど、どちらかに(首都側?)したほうがよろし。
感想ありがとうございます!
一応イラダ地方の中心である都市を首都
王国の中心を、王都と表現していますが、多分ごっちゃになっているので……いずれ訂正します