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第5章 奴隷と死霊術師

第64話 新人冒険者の物語 (上)

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ギャレン村は、今イラダ地方で最もホットな開拓地であった。
そこそこ安全な行路に、珍しい特産物。
血沸き肉躍る冒険譚に、多くの悲哀や感動の物語。
多くの聖職者による天啓や占い師による吉縁。
さらには、無数の儲け話やそれに紐づいた安全なダンジョンの噂ともくれば、自然に多くの人々が集まることになり。
ギャレン村だけではなく、その周囲の村々にも多くの難民や冒険差が集まることになり、自然とその規模と大きくなり。
さらには、ようやくあの腰が重かった魔導ギルドや王都の教会、さらには商人ギルドまで動き始めたと来れば、数々の噂は一気に真実味を帯びることに。
かくして、ギャレン村とその周辺は、今までにない速度で発展。

そして、元々新人に過ぎなかったギャレン村在住新人冒険者たちも、はじき出されるかのように、その位を上げることになるのであった。

☆★☆★

「というわけで、ひじょ~~~~に不本意だが、これで今日からお前らも、正式なこの村付き冒険者として認めることにする。
 とりあえず、おめでとさん」

「いよっしゃ~~~!!!!」

かくして、場所はギャレン村で一番の大規模な冒険者用酒場【レギュラー】にて。
あの新人冒険者群である、チーム名【新緑の聖牙】の冒険者たちは何とかその実力と仕事ぶりが評価され。
いわゆる、新人以上の冒険者として、認められることになった。
もっともこれは強さというよりは、あくまで信用度によるものであり、強さで見れば、まだまだ新人に毛が生えた程度に過ぎないが。

「そしてこれが、お前らに送るこの酒場でそれなり以上の冒険者である証だ。
 ほれ、大切にしろよ」

「やった~!!」
「おぉ……これが」

そうして、シルグレットから彼らに渡されたのは指輪であった。
きちんとした装飾の施された鉄性であり、内側にはそれぞれの名前が刻印されている。
なによりも特徴的なのは、この指輪には美しく光る宝石が埋め込まれていることだ。

「おぉ~……宝石付きなんて……!
 これって売ったらいくらするかなぁ!?」

「売るなよ、殺すぞ」

「……ふわっ!?
 こ、これ、ほんのりと魔法が込められてませんか!?」

「おう!よく気が付いたな。
 実はこの指輪には、簡単な認証の魔法が込められているからな。
 いろんな意味で偽証防止になる、これだけでもお前ら以上の価値があるそんなレベルの指輪なんだぜ?」

「ははは、シルグレットさんも面白い冗談を言うなぁ!」

「……冗談だと思うか?」

「……え?もしかして、本当なんですか?」

そんな新しくもらった一人前冒険者の証にキャッキャと喜ぶ新人冒険者一行と、野次るシルグレット。
しかし、そんな中でも新緑の聖牙唯一の年長でもあるヨークは、静かにその指輪を見ながら、静かに口を開く。

「……鉄製、銀装飾、刻印有、魔法付きで、石は……トルマリンですか。
 ずいぶんと冒険者用の物とは思えない豪勢な作りですね~」

「だろ?特に魔法に関しては、あの天才聖……魔導士イオが掛けてくれたものだからな」

「正直、盗賊あたりだと、これ目当てで私達を襲ってきそうですね~」

「冒険者なら、そんな襲撃者を撃退してもらわなきゃ困るからな。
 それ込みでの高級仕様だ」

「……この子たちの実力、わかっていますか?」

「そこは、あんたの実力込みでだ。
 元傭兵団副団長、兜割のヨーク殿」

はぁとヨークが溜息を吐きながら、その指輪を受け取る。
彼女としては、自分はあくまでお守り程度であり、彼彼女らがそれなりに安定したら、パーティを抜けるつもりであったのだが、どうやらまだそれは許されないようだ。

「……にしても、この指輪、いったいどこのだれが作ったんですか?
 特に魔法付きの宝石なんて、どう考えても採算が合わないでしょう」

「それに関しては、まぁ、安定のイオ様頼りだ。
 宝石の識別魔法や宝石そのもの、ついでに指輪の簡単な設計図もあの人が鍛冶屋と相談して作ってくれたものだな」

「ま~~た、彼女に頼っているんですか?
 そろそろ、彼女に恩返ししないと」

「ふふふ、こっちとしても、あいつには恩返しをしたいし、そろそろ借りは返したいとは思っているんだ!
 でも、そのたびに、それ以上の恩を彼女からもらってしまってな……。
 なんかもう、一生頭が上がらない気がするぞ」

頭を抱えるシルグレットに、溜息を吐くヨーク。
本来なら、村長に次ぐこの村で2番目に偉いまとめ役でもあるはずのシルグレットの余りの情けなさに、思わず変な笑いが浮かんでくる。
しかしながら、それと同時にそれは自分もかと思い改める。
なぜなら、彼女もイオに多大にお世話になっており、【新緑の聖牙】のメンバーとしては、簡単な依頼を回してくれたり、新人たちの戦闘訓練や魔導訓練なんかも行ってくれたり。
さらには、彼女個人として、教会で古傷の治療なんかもしてもらった。
そこに、ギャレン村の村人として受けたその他の恩を追加すれば、もうなんか一生分の恩を受けているといっても過言ではないのだろうか?

「まぁ、安心しろヨーク。
 そもそもこの村において、基本的にどいつもこいつもアイツに貸しを持っていない奴なんていないからな。
 それこそ、貧民から新人、古参まで全員だ」

「……ですよね~」

いろんな意味で、どうしようもない村状況にシルグレットと二人合わせて思わず、乾いた笑いを浮かべてしまう。

「だからこそ、今度の新教会建設に関しては、まぁ少しでも恩を返せればって感じだが……。
 あれもそもそも、あいつが村の人たちを庇ったが故できた問題だからなぁ」

「たしか、怪しげなカルトが村の人々を襲おうとしたんでしたっけ?
 ……本当、私がその場にいなくて残念でしたね~」

手に持つハルバートをすりすりと撫でるヨークの様子に、頼もしさと恐怖、どちらも感じ、思わず冷や汗をかくシルグレット。

「ところで~、結局件のカルトについて、何かわかったこととかあるんですか?」

「今のところ詳細は不明だが……。
 いくらかわかったことは、背後には、このイラダ地方の領主様がいる首都。
 さらには、それと以前この村やストロング村を襲った【大ヴォラル盗賊団】が関与していそうなことくらいかな」

その瞬間、ヨークの眼の色が変わり、酒場の床の一部が砕けた。
ヨークの脳裏に、つい先日殺されたばかりの彼女の旦那の死に顔と、その元凶である盗賊どものゲスな笑い顔が浮かんだ。

「……ちょっと、用事を思い出してきたので、残党狩りをやってきます」

「ちょ!ま、まてまて。
 それに関しては、ちゃんと別の荒くれ系冒険者に賞金付きで頼んでいるからな?
 お前らには信用が必要な、もっと別の依頼をやってくれ、な、な?」

かくして、今にもカルトの残党を殺しに行きそうなヨークを、何とかパーティメンバー及びシルグレットで引き留めるのでした。

☆★☆★

そうして、場所は変わって、ストロング村

「ふゎああああああ!
 ほ、本当に一瞬でついた!」

「流石イオ様の魔法付き指輪!
 私達だけでもポータルを使えるなんて……感激です!」

【新緑の聖牙】は、兄弟神の教会にあるポータルを使ってギャレン村からストロング村まで、一瞬で移動してきた。
なお、本来なら件のポータルは、イオや彼女の兄弟子にその仲間、さらにはルドー村長などのごく一部の人以外では起動することが許されていない。
が、どうやら今回貰った冒険者の証の指輪は、ポータルの使用許可証を兼ねているらしい。

「そして今日の任務は……ダンジョン内での月光草に、薬草、魔石。
 さらには、一部石材の確保か」

「最近はイオさんの教会の建築ラッシュのおかげで、この手の資材はいくらでも必要らしいですからね。
 それに、新しい司祭がいっぱいこの村にも来ていますし……。
 他冒険者さんの治療用にも必要なのかも」

「……ん、それより、はやく」

かくして、かれらは準備もそこそこに、ストロング村にあるそのダンジョンへと突入していくのでした。



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