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第5章 奴隷と死霊術師

第62話 クレーマー

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「というわけで、この家は、いやこの司祭は死霊術師なのだ!
 村の者たちも、これでこいつが偽物の司祭だとわかっただろう!」

「いや、そんなものとうに知ってるし」

「おめぇら今更何を言ってるんだ?」

「な、なん……だと……!?」

さて、家の前に謎の集団がわいてからしばらく。
この謎の集団は彼らはこちらの家の前で、わめき始め、わざわざ金をばらまいて、この家や教会の糾弾しに来た。
具体的にはこの家は、死霊術師に占拠されているとか、獣人の気配がするとか。
まぁ、あることあること言いまくって、批難してきた。
ちくしょう、大体は事実ゆえになんも言い返せねぇ。

「でも偽司祭って、流石にそれはねぇべ。
 確か、噂に聞くに冥府神様は有名じゃねぇけど、きちんと神様なんだべ?
 なら、何の問題もねぇべ」

「う……ぐ!
 し、しかし、冥府神は善神ではなく、すなわち怪しい神の一種といっても……」

「でもそれ言ったらあそこは、兄弟神様、すなわち冒険神様の神殿でもあるんだぞ。
 冒険様は基本どこでも善神なんだろ、それに文句をつけるのはおかしくないか?」

「な!なぜこんなど田舎の貧民ごときが……!!
 ぐ、ぐぅ、だ、だがそんなもの詭弁だ!
 所詮冒険神なんぞ、弱小神に過ぎないではないか!!
 善神というには格が低すぎる!!」

でもまぁ、残念ながらいくら私が死霊術師であっても、マイナー神の司祭であっても、私が本物の司祭であるのには変わりないわけで。
さらに言えば、何も知らない無知な人ならそれで騙されるだろうが、残念ながらこちとら日ごろから村人と交流しているし、ミサによりこちらの世界の宗教について、教化済みだ。
口論の勢いと強い口調で、押し切ろうとしていたらしいが、どう考えてもそれは分が悪いぞ。

「というか、見た目いい格好している上に、結構高等な法衣きているけど、その割に簡易の聖印すらないね。
 信仰している神は何?」

「き、貴様のような邪教に、伝える言葉はない!!」

そして、見た目や装備にかけられた奇跡こそ本物ではあるが、それでも自分の信仰を公表しない上に、言動が怪しすぎる。
なによりも本物の奇跡の力を授けられておきながら、聖印の1つもない装備というのはさすがに不気味すぎるのだ。

「え?それっておかしくねぇべさ?
 自分の信仰する神を明らかにしないって、どう考えてもやべぇ奴らだべ!!」

「蛮神?混乱神?それとも混沌……!!ぎ、偽証神か!?」

「な!!き、貴様ぁ!?我らの信仰を疑うのか!!」

「なら信仰を言えよ」

「うぐ……」

どんどん彼らの言動からはぼろが出てきて、その怪しげなカルト集団に向けられる視線は、不信から敵意へと変わっていく。

「そ、それならばこの光を見よ!
 奇跡【聖光】!この聖なる輝きを見れば愚かで無知なものでも、どちらが真実かわかるはずで……」

「はい、聖光」

「なにぃ!?」

「い、インチキだ!そ、そんなの魔道具を使って再現しているに決まっていて……!?」

「いや、それはそっちの方だろ」

そして、それは多少の奇跡を使った所で、焼け石に水であった。

「だ、だが!それでも貴様が、獣人。
 いや獣人の中でも特に邪悪である邪獣人を匿っているということは、こちらですでにお見通しだ!!
 貴様がどのような邪悪な企みを練っているか知らんが、これは明らかに善神様達への背信行為だ!!
 貴様のような邪悪な悪人の企みは、決して見逃せん!」

しかしながら、それでも疑問なのが、なぜこいつらがここまでこちらの状況を掴んでいるかということだ。
正直、この家の魔術的防御はかな~り緩いとはいえ、それでもここまでこちらの状況がばれているのはいろいろと想定外だ。
それこそ、大教会の大司祭クラスが本気で探りにでも来なければ、ここまでこちらの情報を掴めないとは思うが……。
まさかねぇ?

この騒ぎをどうしようかと考えていると、こことは別の場所で騒ぎの音がした。
何事かと思えば、それはあの教会の方面からであり、そして、そこから巨大な炸裂音と共に、複数の吹き飛ぶカルト、そして兄弟子デンツが堂々と現れた。

「ぐはぁ!?」

「ふん、まさか白昼堂々我らの教会に堂々と強盗しようとする輩がいるとはな。
 冒険者が集まる中、なかなかの根性だとほめてやる」

状況を見るに、どうやら今回の糾弾はこちらの家だけではなく、教会にも並行して行われ、さらには武力行使も起りかけていたようだ。

「だ、だまれぇ!この邪神官に愚衆共め!
 我ら正義の使徒が、邪教からその教会を解放しようと……がぺっ!?」

「狙いは何だ、聖具か?聖地か?それとも……抜け穴ポータルか?」

「あ~……そういえばそれがあったか」

一瞬何のことかと思ったが、それならいろいろと納得である。
そもそも転送聖具《ポータル》はこの地上においてかなりレアな聖具である。
それこそ、例え聖職者であっても、ましてや王族貴族であっても、多少の強引な手段を使ってでも手に入れたくなるのは道理だ。
それこそ、こんなクッソ怪しい集団を使うことになっても。

「どうやら、このままではらちが明かないようだな!
 こうなれば、無理にでもわからせてやる!」

「ふん!正しき神の正体すらわからぬ、貧民どもめ!
 邪獣人がいかに恐ろしい物か、被害が出る前に、ここで終わらせる!」

なお、件のカルト集団も、もはや言葉は不要と武器を持ち始める。

「ふん、どうやら化けの皮がはがれたようだな!
 ここで仕留めてやる!」

「……やはり敵か。
 安心しろ、死んでも再利用してやる」

そして、その怒りは残念ながらこちらの村人、さらには兄弟子もノリノリな始末だ。
え?マジでこれは本当にここで人間同士殺し合いをする流れか?
さすがに、こんな白昼堂々殺し合いはまずいと思ったが、すでに時は遅く。

「……我らの神よ!かの邪悪なる者たちに聖なる罰を……」

「……っち!!冒険者神よ、この怪しげで邪悪なる者どもに、正当なる裁きを……」

って、げっ!!
その奇跡はさすがにまずい!?
ぼっさと見ている間に状況は一気に悪くなってしまった。
このカルトは、周りにいる村人全員を奇跡の効果範囲に入れているし、兄弟子はそもそも適性が怪しいのに、対抗呪文として同じ奇跡を唱えようとしていた。
このままでは、どう考えても村人か兄弟子のどちらかが犠牲になることは必須であるし、そうなると話が面倒くさくなること必須。
ならばせめて、一番被害を薄くと思い、私はその呪文、奇跡をおこなうことにした。

「すべての善神よ!わが神よ、我、ここを納め裁きを欲する者なり!!
 道を違える人々に神の恩寵を、そして優しき導を与え給え!!
 ……すぅうぅぅううう!!!最上級神聖呪文【聖罰《ジャッジメント》】!!!!」

だからこそ、私は、この集団の中でいち早く、この奇跡を発動させることにした。
そう、攻勢対人神聖呪文【聖罰《ジャッジメント》】。
膨大な魔力と強い祈りで発動できる奇跡であり、効果は対象及び自身の神への視察要請及び、それに基づいた神の裁き。
そして、以前自分がオッタビィア嬢からくらった忌々しい奇跡そのものである。

「……つぐぅぅぅぅ!!!」

そして、そんな奇跡を唱えると、当然その効果は自分にも及ぶわけで。
天上から注ぐ8種の光の柱が、この身を責め立てる。
以前の聖罰の雷の、8倍とはいかないが、それでも数倍以上の苦痛と痺れがこちらの全身を貫く。
さらに言えば、今回は自分が奇跡を発動させたがゆえに、魔力の消費も膨大で、余剰魔力を身体の防御に回すこともできない。
全身が火あぶりに合うような、強力な鉄板に挟まれるかのような痛みがこちらの身を支配する。

「……っはっはっは!やはり偽司祭だったな!
 では早速……って、あれ?
 ……ぎゃぁあああああああああ!!!!!!!」

「う、うわぁああ!!!!!!色が、光が!?」
「か、かみ!?な、なぜ我らも……がぁああああああ!!!!!」
「ひ!?く、くるな、あああぁああああああああ!!!!???」

そして、この痛みは、自分だけではない。
自分同様に天上から注いだ7つの光が、そのカルト達にも容赦なく天罰を与えていた。
さらに言うと、おそらくその罰は自分のものよりも大きいのだろう、ある者は、全身が赤く火傷の様に皮膚が焼けただれるものがいたり、ある者は痛みですぐに気絶し。
ある者は泡を吹いて、奇声を上げ、あるものは永遠に自分の信じる神に許しを請いていた。

なにより、特徴的なのは、そのカルトの持つ装備や武器がその聖罰により一瞬で灰や光の粒子と化し、あっという間に全身ひん剥かれてしまったという点だ。
そしてもう一つ彼らには、特大な罪を背負うことになる。

「いぎ、やめ……ぎぃああああああ!!!」
「ひ!?な、なぜ、これは、大司教の名で……あああぁあああ!!」
「おご、あががががあ!!!!」

そう、それこそが【聖痕】。
しかもそれは、以前の私が受けたような浅くて不安定なものでもなく、オッタビィアのような全身に浮かび上がる無数の小さな聖痕群でもない。

「あああぁあああああ!!!」

そう、それは巨大で深い【聖痕】。
おおよそ、皮を超え、肉にまで達するほどの深さでありながら、遠目からでもはっきりとわかるほどの特大な聖痕。
おおよそ、肉体だけではなく、魔力回路、さらには魂にすらべっとりと聖痕が付いているのが、第六感がはっきりと伝えてきた。

「ひ、ひぃ、ひぃひぃ!!!
 だ、だから俺は嫌だって言ったんだあぁああ!!!!」

「な、何が偽司祭だぁああ!!!
 うわぁあああああん!!!??」

そして、そうなると当然このカルトのうちほとんどは、四方八方に逃げ戸惑うことになる。
ある者は泣きながら、ある者は混乱しながら。
おおよそ、神が慈悲と裁きを与えたとは思えない、実にむごい光景が目の前には広がっていた。

「あ~……やっちまった」

目の前で広がる、あまりの神の裁きに思わず、頭を抱えてしまう。
ぱっと見だが、あの聖痕はかなり深い。
おそらくその深さは、今世を謙虚に生きるだけで解けることは期待できず。
伝説の聖女の祈りや魔王討伐でもしなければ、とれないだろうほどのくっきりとした罪の痕が彼らには付けられてしまった。
兄弟子の死霊術師引退の危機やら、村の人の命や聖痕を付けられる可能性がるため、本気を出し。
教会の魔力もブッパして放ったわけだが、それでも正直やり過ぎた感は否めない。

「それにこれもなぁ……」

そして、自分の右手の甲をじっと見つめる。
するとそこには以前のものよりもなお深い罪の痕、懐かしさすら感じる【聖痕】がそこにはあった。
ハロークソみたいな神様の監視の目、そして、ふぁっきん神のノルマ。
今回のカルマは何?できるだけ軽いのをお願いします。

「き、貴様貴様貴様ぁ!
 よ、よくも、神に、大司祭様に選ばれた我らをぉぉ!!!」

無数の逃げまとうカルトと、自分の手に甲に浮かぶ聖痕に、憂鬱になっている中。
カルトの中で唯一リーダー格の男は、聖痕を付けられてなお、威勢を失わず、こちらへと啖呵を切ってきた。

「我は認めん、認めんぞぉ!?
 貴様がいかに神々に求められようと、どのようなペテンをしていようとも!?
 邪獣人を匿う、邪悪な人間を許してはおけん!!」

「そうだ、今は引いてやるが……。
 貴様は遠からず知ることになるだろう!!
 邪獣人の恐ろしさを!貴様がどのような恐ろしき化け物を匿い、過ちを犯しているか!!!
 強引にでも、わからせてやるからなぁああ!!!!!!!」

かくして、そのカルトのリーダー格の男は、呪詛たっぷりの捨て台詞を吐きつつ、その場を後に。

「……せめて、これ以上の厄介ごとは勘弁してくれ」

「いや、それは無理だろ。
 というか厄介ごとが嫌なら、自分からそんなもん唱えるな。
 折角俺が唱えようと思ったのに、まったく」

かくして、兄弟子に支えられながらゆっくりと立ち上がり、周囲から心配そうに駆け寄ってくる村人たちを、なんとかなだめるのであった。
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