上 下
60 / 68
第5章 奴隷と死霊術師

第59話 餌付け

しおりを挟む
「で、どうする?
 ヴァルターの次は私が行ってみる?
 ちょうど最近、改造ドラゴンゾンビモドキが完成したから、ちょっと試運転してみたいんだけど!」

「……っふん!
 運がよかったな!今は邪獣化は神力が足りなくて使えないみたいだ!」

「……主人としての命令でも」

「いや、マジで無茶を言うな。
 あんなもの、めったに使えないから奥の手なんだよ!
 普通なら、新月か満月の夜にしか使えない!」

というわけであの模擬戦からしばらく後。
現在は、自宅の一室(急造したマート専用の部屋)で改めてマートと面談中だ。
そして、話を聞いていく中で分かったことは、どうやらあのすごいモフモフ形態は邪獣人《ランカスロープ》と言えども早々にできるものでは、奥義的な物らしい。

「あの時のだって、貴様が隷属の邪印でこちらをなんとかできただけだ。
 この邪印の力と、さらに私が信仰する【情動神デヤン】様から授かった加護の力だな。
 この加護の力さえ使えれば、ある程度好きな時に発動できるが、それでもせいぜい月に1回ぐらいだ」

「……そっかぁ」

「いや、なんでお前はそんなに残念そうなんだよ。
 そこは喜ぶところだろ」

くっそ、個人的には診察と銘打ってあのモフモフを好きな時に堪能できると思ったのに!!
それが混乱邪神の力+回数制限付きだったとは!
これでは、おそらくモフりたいという名目だけで変身してもらうのはいろんな意味で困難だろう。

「それのお前、この様を見てなお、もう一回やれっていうのか?」

「あ~、それってやっぱりヴァルター君の攻撃が原因ではない感じ?」

「それだけではないな。
 そもそも邪獣化はそれなりに体に負担がかかるからな。
 あいつにぼこぼこにされたとはいえ、それだけなら獣人の回復力でなんとかなる。
 が、邪獣化の反動はそれ以上に重いからな」

「ふ~~ん」

なお、現在マートはベットの上で横たわりながらこの面談を行っている。
彼女の病態としては、いくつかの模擬戦による打撲痕や擦り傷、魔力不足、さらには圧倒的な栄養不足に水分不足であった。
そして、こんな状態になりながら、彼女は邪神信仰をしている+邪獣人としての特性か、【奇跡】による回復魔術がびっくりするほど効果が薄いのだ。

「……どうだぁ?
 この呪われた、恐ろしき邪獣人の血に恐れおののいたか?
 くくくく、今から後悔してももう遅い!貴様はすでに我が呪縛に……んぎゅ!」

「はいはい、それほどしゃべる元気があるなら、問題なさそうではあるけどね。
 味はどう?」

「……悔しいけどおいしい」

だからこそ今こうして、実際に飯を食わせて体力を戻させているわけだ。
地味に大食いであったベネちゃんの妹でもあるし、それなりの量を持ってきたが、どうやら正解であったようだ。
内容としては、一応は麦たっぷりのおかゆに肉と芋と野菜を加えたもの、それに塩とスパイス、さらに酒で味付けをしたものだ。

「……というか、こんなに塩や香辛料使ったら誰でもうまいもの作れるだろ。
 なんだよ、流石に無駄遣いしすぎだ。
 この飯だけで、私の値段超えてんじゃねぇの」

「まぁね。
 というか、君はほぼ投げ売りみたいな値段だったし」

「ば~~か、金銭感覚ぶっ壊れてるんじゃねぇの?
 それともなんだ?こんなうまい飯おごれば、私の怒りが収まるとでも……」

「いや?別に君に怒られても怖くいないし。
 模擬戦、やる?」

「……治ったら憶えてろよ」

どうやら、ヴァルターによる躾も隷属の聖痕の効果もばっちり発動しているようだ。
暴れなくて何よりである。

「ほら、それじゃぁ食事の続きだから。
 口を開けて、ほら、あ~ん」

「……」

「あ~~ん」

「……あ~ん」

匙に粥を乗っけて、彼女の口に運ぶとパクパクと食事を食べていく。
粥粥粥、時々肉とイモ。
表情こそぶっきらぼうであるが、肉の破片を運ぶごとに、頭部の耳がピコピコ動くき、鼻がピスピスとなっている。
こっちが、肉を取ろうかイモにするか迷うたびに、そわそわと尻尾が揺れ、肉をとると尻尾がピンと張り、芋を選ぶと尻尾がへにゃりとする。
なんだこいつ、存在が可愛いかよ。

「……」

「……おい、なにしてるんだ?」

「なにって、ただ撫でているだけだが?」

思わず、友人の妹と分かっているのに、自然と頭部にあるケモミミに向けて手が伸びてしまった。
が、まぁ私は彼女の主人であるし、ある意味では診察みたいなものなので、おそらくはセーフなのだろう。
……っく!まだ軽く体を水で拭いた程度なせいか、あんまり毛並みがふわふわしてない!!
これは後でお風呂送りですね、間違いない。

「……お前人間だろ、邪獣人《ランカスロープ》の呪いを知らないのか?」

「知ってるし、理解したうえでやってる」

「……もしや、邪獣人になりたいのか?」

「いや別に?
 でも、絶対なりなくないほどでもない」

「……そうか」

もっとも、撫でられている側のマートは、その手を押しのけるでもなく、以外にも素直に撫でられを受け入れてくれた。
やっぱり、獣人故、やや毛深いのかな?
まぁ、それよりも全身のムダ毛処理をしてないからなのだろうが、それでも、毛というよりは毛皮みたいな部位もあるし、やっぱり、ある程度の肉体構造が違うのだろう。
そもそも変形できるから、そんなの些細な問題だろうが。

「……あっ」

「ん?どうした?」

「……なんでもない」

く!こいつ、視線こそこっちからそらしたくせに、撫でるのを止めた瞬間、しっぽと耳がへにゃっとなりやがったぞ!
なんだこいつ、性格がどぶの癖に、獣人ってアドバンテージだけで、こちらを的確に攻めてきやがって!

「ま、まぁ!ともかく、この様子だと数日もすれば体力は戻るはずだろ。
 そしたら、きちんとこの家での家事仕事やらをやってもらうぞ」

「……それ、大丈夫か?
 私、邪獣人だぞ?しかも、神の力により呪いの力は強化されている」

「あ~、そういえばそうだな。
 ……でもまぁ、大丈夫でしょ。
 少なくともこの家に関しては、神聖術でも呪術でも強化しているし」

「それは本当に大丈夫なのか?」

「すくなくとも、日常的に一般人が触れれば即死するような死霊術の実験を行っているけど、この家の人にも、外部にも犠牲者は出てないし」

「それはそれで大丈夫なのか?別の意味で」

ややドン引きした顔でこちらを見るマート。
でもしょうがないだろ、バグケキオスの親子改造ゾンビなんてその位の術を使わないとうまく制御できないんだから。
え?なら、そんなもの作るなって?それはそう。

「と、いうわけで!
 体が治り次第、色々お手伝いのほど頼むぞ!
 ベネちゃんの妹さん!」

「……マートだ」

「ん?」

「だから、お姉ちゃんの妹でもなく、獣人とかあれとかそれでもない。
 私の名はマートだと言ってるんだ」

「うん!それじゃぁよろしくねマートちゃん!」

かくして、この日からやや正式気味にではあるが、彼女がこの家で働くことが決まったのであった。


☆★☆★


なお、数日後。

「うえっ!?」

「うお!食器が砕けた!?」

「んぴゅ!?」

「え?床掃除したら、床に穴が開いた?」

「うわぁああ!!!」

「うおっ!水、水!
 このままだと火事になるぞ!?」

どうやらマートちゃんは、別に家事とかそういうことはほとんどやったことがなく。
挑戦する家事のことごとくで失敗。
邪獣化以上の損害を効率的に与えてきたのでしたとさ。

「まさか、ドジっ子メイドだったとは」

「う、うちの妹がすいません……」

さもあらん。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした

月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。 それから程なくして―――― お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。 「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」 にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。 「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」 そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・ 頭の中を、凄まじい情報が巡った。 これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね? ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。 だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。 ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。 ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」 そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。 フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ! うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって? そんなの知らん。 設定はふわっと。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

黒髪の聖女は薬師を装う

暇野無学
ファンタジー
天下無敵の聖女様(多分)でも治癒魔法は極力使いません。知られたら面倒なので隠して薬師になったのに、ポーションの効き目が有りすぎていきなり大騒ぎになっちまった。予定外の事ばかりで異世界転移は波瀾万丈の予感。

【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。 「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」 それって私のことだよね?! そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。 でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。 長編です。 よろしくお願いします。 カクヨムにも投稿しています。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...