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第3章 吸血鬼と死霊術師
第38話 ダンジョンとは
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ともすれば、ダンジョンである。
この世界におけるダンジョンとは一種の災害と認識されている。
魔力の高まりとともに、空間を割くように現れるこの世界特有の自然現象であり、一説によれば邪神がこの世界を作る際に仕込んだ厄災であるとされている。
周囲の地形を破壊しながら発生し、周囲の魔力に多大な影響を与え、さらに内部からは無数の魔物や呪いを散布したりする。
そしてダンジョンによる災害を根本的に解決するには、内部に入ってその核となるものを破壊する必要があるが、当然それはかなり困難。
内部には無数の魔物や罠、そして財宝などがひしめいている。
一説によればこれが、邪神による地上世界の侵攻やら、このダンジョンこそが魔物の生まれ故郷などと言われているが、その真意は不明。
ともかく放置すれば、ろくでもないのに危険な場所。
おおむねそんな認識である。
「ん、この先も魔力気配なし。
先に進もう」
というわけで、現在我々はダンジョンの中へとやってきている。
内装に関しては、一言でいうなら古城。
石畳風の壁や床に、冷光の放つラインプが点々と置かれている。
かなり、ユーザーフレンドリーなダンジョンといえるだろう。
「空気はきれいで、視界は良好。
……ダンジョンは初めてですが、ダンジョンとはこういうものなのでしょうか?」
ベネちゃんが鼻をすんすんと鳴らしながら、そうつぶやく。
「それはもちろん!このダンジョンは、私が信仰する月の女神であるニーラ様が作ったダンジョンだからよ!
ニーラ様は人間にも一部の善なる魔物にも優しい良識ある神様だからね!
私達に対して酷いことをするわけがないわ!」
そして、それに対して、件の犯人ならぬ犯鬼であるエイダが胸を張りながらそう答えた。
その自信満々な顔に思わず、聖光をぶち込んでやろうと思ったが、流石にダンジョン内で無駄な魔力を消費させるわけにもいかず、ぐっと我慢。
なお、彼女はこのダンジョンに侵入する際の囮役兼案内人として、連れてきたがいろんな意味で失敗だったかもしれない。
「ふふふ~、もちろんこのダンジョンは普通のダンジョンより安全なだけじゃないわよ?
月の女神さまはどこぞの神と違って、非常に慈悲深い神様だからね!
この中は陽の魔力だけではなく陰の魔力にもあふれながら、その呪いは致死的なものではない。
入るだけで人だけではなく、私のような吸血鬼もその恵みを受けることができるのよ!
おかげで、先のうんこ太陽神官のくそ光で汚れた体が回復しているのがわかるわ~」
というのも、このダンジョンでは吸血鬼であるエイダの体力を回復させる効果もあるらしいからだ。
もちろん、このダンジョンに入る前から、その程度のリスクは考えていたので、大慌てするほどではない。
が、それでも思うところがないといえば嘘になる。
なのでちょっと、彼女に巻いている聖魔術付きの縄を少しだけ強めに発動させることにした。
「いた、いたたた!
あ、愛の鞭が痛い!」
それに対するコイツの反応がこれである。
もちろん、この攻撃により、こいつはある程度痛めつけられているため、そこそこに魔力が消費されているはずだ。
が、それでもこの反応では効いているんだかいないんだか、よくわからないというのが本音だ。
というか愛の鞭ってなんだよ、別に愛はないよ。
「えへへ~、そう言っちゃってぇ♪
そうやって私を殺さずに弱らせる程度で、解決するってことは脈ありってことでしょ?
も~、イオちゃんってば、慈悲深い、好き♪」
でもなぜだか、この吸血鬼は依然テンションは高いまま。
おそらくだがこれは、いまだ自分の血と魔力に酔っているのが半分、直前にオッタビィアの太陽神の神気と侮蔑の聖痕の二重拷問聖光とのギャップのせいなのだろう。
残念ながら、オッタビィアに関しては今回のダンジョン探索に関してはお留守番だ。
あのなりかけ吸血鬼たちを見張り、結界を維持する人が必要故、致し方なしだ。
「どうする、処する?処する?
というか腕の一本ぐらい、切っておいたほうがいいと思うんだ」
「い、いやそれはさすがに……」
「そ、そうですよ!ヴァルターさん!イオさん!
腕一本とか生ぬるい!
ここは両腕と鼻、それと牙と髪の毛辺りも追加しておきましょう!」
「やだ、二人とも過激」
なお、仲間である二人は依然吸血鬼に対して厳しい模様。
いやまぁ、普通の人から見て彼女のやらかしを考えるといろいろと仕方ないことであるし、処刑されていないこと自体が奇跡ではある。
が、それでも一応は魔導神の司祭でもあるし、彼女の言う事が本当ならばそれなりに善行もしているため、私としてはまぁ処刑まではしなくていいかなと思ってしまっているのが本音だ。
「安心してね、イオ。
こいつが何かしたら、とりあえず僕が何も言わずにそいつの首を撥ねておいてあげるから」
「きゃ~、こわ~い!
イオちゃん守って~♪」
「……」
「ベネちゃん、視線が怖い。
というか、明らかに殺気が漏れるレベルだから落ち着いて」
かくして、空気が最悪ではあったが、なんとか4人でダンジョン内を探索していくのであった。
そうして、何匹かの蝙蝠の群れやら馬鹿でかいウサギの魔物を倒した果て。
ようやく私たちはそれを発見したのであった。
「よし!ようやく、ようやくあったよ!
月光草!しかも複数!」
「おお~!季節外れだから、どうかと思いましたが……。
やはり、ダンジョンは常識とは違う!
こういうこともあるんですね」
そうだ。そもそも今回私達がなぜ、こんな危険を冒してまでダンジョンに潜ったのかといえば、この月光草を探しに来たからだ。
この月光草は、吸血鬼化を抑える薬に必須な薬草の一種であり、同時に名前の通り月の女神である魔導神ニーラと非常に関わりが深いとされている。
だからこそ、このダンジョンが真に魔導神のダンジョンならば、中には月光草の1本や2本は生えているかもと思ったが……どうやら、正解だったようだ。
「でも、思ったよりも数は少ないけど、これで足りる?」
「いや流石にこれだけだと無理」
もっとも問題は、見つかった月光草はせいぜい10本前後しかなかったということだ。
一応この数の月光草があれば、1人や2人程度の吸血鬼化ぐらいなら無理なく治療できるが、残念ながら今回の被害者は軽く10は超えている。
この数の月光草では足りない。
しかし、これ以上このダンジョンを探索するには時間をかけすぎているため、戻らなければならない。
これはトリアージをしなければならないのかなんて考えていると、エイダはこちらを向きながらこんなことを言った。
「ね~、ね~、イオちゃん?
私は吸血鬼であるとともに同時に、月の女神さまの司祭でもあるんだよ?
つまりは、多少の豊饒の祈り……特に、月の女神様に関する月光草をこのダンジョン内で増やすことくらいなら、できなくもなんいだよ?」
「……それは本当か!!」
エイダのセリフに、驚きの声を上げるヴァルター。
「で、も、そのためにはね~。
ちょ~っと私の魔力とか、血が足りなくてね~。
あ~!どこかに、汚れなくある程度闇と光が両立している、そんな乙女の血がないかな~!?な~!?」
が、世の中そんな簡単な話がるわけもなく。
エイダは明らかにわざとらしい声を上げながら、こちらに視線を向けてくる。
余りのわざとらしさにため息が漏れ、ヴァルターは思わずその手が剣に伸びかかていた。
(……う~ん、ここは素直に血を渡してもいい気がしなくもないけど……。
これで調子に乗られてもなぁ)
まぁ、確かにここでエイダに血を渡して、ことをすぐに進めさせるのは簡単だ。
おそらく彼女もこんなところで裏切るほど馬鹿ではないだろうし、お楽約束は守ってくれるはずだ。
が、それと同時にこんなに迷惑かけた元凶の言う事を素直に聞くこと自体、非常に思うところがある。
その上、今回のようなことで気軽に血を渡したら、おそらく事あるごとに血を要求するようになるのが眼に見えている。
なので、その間の策をとることにした。
「というわけで、えい」
「……ふひょ!?」
「あ~~~~!!!?!?」
まずはエイダをそのまま胸元に抱き寄せる。
幸い、今のエイダの身長はやや小さめであり、力も弱まってるらしく、あっさり彼女を胸元に抱き寄せることに成功する。
「ま、まさかこれは噂に聞く、母乳と血の成分は似ている理論!?
な、なら安心してイオちゃん!ちゃんとこういうときも想定して、私は豊乳の奇跡も授かっていて……」
「そんなわけあるか、というかそれやったらさすがの私も怒る」
「ごめんなさい」
どうやら、私の本気が通じたらしく、おとなしく黙るエイダ。
そのエイダを忌々しげに見るヴァルター、こちらと見比べて、自身の胸をペタペタと触るベネちゃん。
大丈夫だよベネちゃん、例え年少のアリスちゃんに負けているほどのエンジェルバストでも、需要はあるはずだから。
「というわけで、血ではないけど、エイダちゃんには魔力と効率的に分けてあげるよ」
「おお!それはつまり……」
「まぁ、無理やりだけどね!!!」
「……ぴぎぃ!?!?」
そうして、自分の胸元に手繰り寄せたエイダに向けて、死霊術を発動する。
自分の中の陰の魔力を【魂操術】と共にエイダに向けて注入する。
もちろん魂操術は相手を魂から無理やり操る呪文だ。
もちろん、体や脳、心に反して相手を操るため当然痛みは伴う。
――が、今回は前回と違うのが、この術を使用している相手が、いわゆる肉体的には半分死んでいる吸血鬼だということだ。
だからこそ、陰の魔力を注入しても、体自体に支障は出ず、むしろその逆であり……。
「あばばばばば!いだ、いだいののぎもじいいぃぃぃいいいいい!!!
ばばばばばばば!にゃ、にゃんで!?でも、においが、魔力が!?
あははははははばばばばばば!」
「ほ~ら、早く従え、従え♪
なんなら、一生私に仕えるって言ってくれてもいいんだぞ?」
「や、やだぁあ!!!い、いくらイオちゃんでも……んにゃぁああ!♪!♪!
だめ!ようやく血のつながりから解放されたのに……。
やだー!!!魂が服従する服従しちゃう!!
イオちゃんの命令にしか、したがえなくあんるぅぅぅ♪♪」
かくして、エイダは私の魔力と術により、痛みと快楽の板挟みに。
結局、魔力が注入し終えるころには、それなりにおとなしくすることに成功したのでしたとさ。
――なお、唯一の懸念点であった、魂操術で操った上でのエイダの奇跡の使用へに支障や、こちらの聖痕への被害については、今回全く問題なかったとだけ言っておこう。
どうやら、月の女神様も冥府神様も今回ばかりはこちらを味方してくれたようだ。
「うう……今度は脅迫とかじゃなく、ちゃんと友情をはぐくんでから、血をお願いすることにします」
「いや、そこはあきらめてよ」
さもあらん。
この世界におけるダンジョンとは一種の災害と認識されている。
魔力の高まりとともに、空間を割くように現れるこの世界特有の自然現象であり、一説によれば邪神がこの世界を作る際に仕込んだ厄災であるとされている。
周囲の地形を破壊しながら発生し、周囲の魔力に多大な影響を与え、さらに内部からは無数の魔物や呪いを散布したりする。
そしてダンジョンによる災害を根本的に解決するには、内部に入ってその核となるものを破壊する必要があるが、当然それはかなり困難。
内部には無数の魔物や罠、そして財宝などがひしめいている。
一説によればこれが、邪神による地上世界の侵攻やら、このダンジョンこそが魔物の生まれ故郷などと言われているが、その真意は不明。
ともかく放置すれば、ろくでもないのに危険な場所。
おおむねそんな認識である。
「ん、この先も魔力気配なし。
先に進もう」
というわけで、現在我々はダンジョンの中へとやってきている。
内装に関しては、一言でいうなら古城。
石畳風の壁や床に、冷光の放つラインプが点々と置かれている。
かなり、ユーザーフレンドリーなダンジョンといえるだろう。
「空気はきれいで、視界は良好。
……ダンジョンは初めてですが、ダンジョンとはこういうものなのでしょうか?」
ベネちゃんが鼻をすんすんと鳴らしながら、そうつぶやく。
「それはもちろん!このダンジョンは、私が信仰する月の女神であるニーラ様が作ったダンジョンだからよ!
ニーラ様は人間にも一部の善なる魔物にも優しい良識ある神様だからね!
私達に対して酷いことをするわけがないわ!」
そして、それに対して、件の犯人ならぬ犯鬼であるエイダが胸を張りながらそう答えた。
その自信満々な顔に思わず、聖光をぶち込んでやろうと思ったが、流石にダンジョン内で無駄な魔力を消費させるわけにもいかず、ぐっと我慢。
なお、彼女はこのダンジョンに侵入する際の囮役兼案内人として、連れてきたがいろんな意味で失敗だったかもしれない。
「ふふふ~、もちろんこのダンジョンは普通のダンジョンより安全なだけじゃないわよ?
月の女神さまはどこぞの神と違って、非常に慈悲深い神様だからね!
この中は陽の魔力だけではなく陰の魔力にもあふれながら、その呪いは致死的なものではない。
入るだけで人だけではなく、私のような吸血鬼もその恵みを受けることができるのよ!
おかげで、先のうんこ太陽神官のくそ光で汚れた体が回復しているのがわかるわ~」
というのも、このダンジョンでは吸血鬼であるエイダの体力を回復させる効果もあるらしいからだ。
もちろん、このダンジョンに入る前から、その程度のリスクは考えていたので、大慌てするほどではない。
が、それでも思うところがないといえば嘘になる。
なのでちょっと、彼女に巻いている聖魔術付きの縄を少しだけ強めに発動させることにした。
「いた、いたたた!
あ、愛の鞭が痛い!」
それに対するコイツの反応がこれである。
もちろん、この攻撃により、こいつはある程度痛めつけられているため、そこそこに魔力が消費されているはずだ。
が、それでもこの反応では効いているんだかいないんだか、よくわからないというのが本音だ。
というか愛の鞭ってなんだよ、別に愛はないよ。
「えへへ~、そう言っちゃってぇ♪
そうやって私を殺さずに弱らせる程度で、解決するってことは脈ありってことでしょ?
も~、イオちゃんってば、慈悲深い、好き♪」
でもなぜだか、この吸血鬼は依然テンションは高いまま。
おそらくだがこれは、いまだ自分の血と魔力に酔っているのが半分、直前にオッタビィアの太陽神の神気と侮蔑の聖痕の二重拷問聖光とのギャップのせいなのだろう。
残念ながら、オッタビィアに関しては今回のダンジョン探索に関してはお留守番だ。
あのなりかけ吸血鬼たちを見張り、結界を維持する人が必要故、致し方なしだ。
「どうする、処する?処する?
というか腕の一本ぐらい、切っておいたほうがいいと思うんだ」
「い、いやそれはさすがに……」
「そ、そうですよ!ヴァルターさん!イオさん!
腕一本とか生ぬるい!
ここは両腕と鼻、それと牙と髪の毛辺りも追加しておきましょう!」
「やだ、二人とも過激」
なお、仲間である二人は依然吸血鬼に対して厳しい模様。
いやまぁ、普通の人から見て彼女のやらかしを考えるといろいろと仕方ないことであるし、処刑されていないこと自体が奇跡ではある。
が、それでも一応は魔導神の司祭でもあるし、彼女の言う事が本当ならばそれなりに善行もしているため、私としてはまぁ処刑まではしなくていいかなと思ってしまっているのが本音だ。
「安心してね、イオ。
こいつが何かしたら、とりあえず僕が何も言わずにそいつの首を撥ねておいてあげるから」
「きゃ~、こわ~い!
イオちゃん守って~♪」
「……」
「ベネちゃん、視線が怖い。
というか、明らかに殺気が漏れるレベルだから落ち着いて」
かくして、空気が最悪ではあったが、なんとか4人でダンジョン内を探索していくのであった。
そうして、何匹かの蝙蝠の群れやら馬鹿でかいウサギの魔物を倒した果て。
ようやく私たちはそれを発見したのであった。
「よし!ようやく、ようやくあったよ!
月光草!しかも複数!」
「おお~!季節外れだから、どうかと思いましたが……。
やはり、ダンジョンは常識とは違う!
こういうこともあるんですね」
そうだ。そもそも今回私達がなぜ、こんな危険を冒してまでダンジョンに潜ったのかといえば、この月光草を探しに来たからだ。
この月光草は、吸血鬼化を抑える薬に必須な薬草の一種であり、同時に名前の通り月の女神である魔導神ニーラと非常に関わりが深いとされている。
だからこそ、このダンジョンが真に魔導神のダンジョンならば、中には月光草の1本や2本は生えているかもと思ったが……どうやら、正解だったようだ。
「でも、思ったよりも数は少ないけど、これで足りる?」
「いや流石にこれだけだと無理」
もっとも問題は、見つかった月光草はせいぜい10本前後しかなかったということだ。
一応この数の月光草があれば、1人や2人程度の吸血鬼化ぐらいなら無理なく治療できるが、残念ながら今回の被害者は軽く10は超えている。
この数の月光草では足りない。
しかし、これ以上このダンジョンを探索するには時間をかけすぎているため、戻らなければならない。
これはトリアージをしなければならないのかなんて考えていると、エイダはこちらを向きながらこんなことを言った。
「ね~、ね~、イオちゃん?
私は吸血鬼であるとともに同時に、月の女神さまの司祭でもあるんだよ?
つまりは、多少の豊饒の祈り……特に、月の女神様に関する月光草をこのダンジョン内で増やすことくらいなら、できなくもなんいだよ?」
「……それは本当か!!」
エイダのセリフに、驚きの声を上げるヴァルター。
「で、も、そのためにはね~。
ちょ~っと私の魔力とか、血が足りなくてね~。
あ~!どこかに、汚れなくある程度闇と光が両立している、そんな乙女の血がないかな~!?な~!?」
が、世の中そんな簡単な話がるわけもなく。
エイダは明らかにわざとらしい声を上げながら、こちらに視線を向けてくる。
余りのわざとらしさにため息が漏れ、ヴァルターは思わずその手が剣に伸びかかていた。
(……う~ん、ここは素直に血を渡してもいい気がしなくもないけど……。
これで調子に乗られてもなぁ)
まぁ、確かにここでエイダに血を渡して、ことをすぐに進めさせるのは簡単だ。
おそらく彼女もこんなところで裏切るほど馬鹿ではないだろうし、お楽約束は守ってくれるはずだ。
が、それと同時にこんなに迷惑かけた元凶の言う事を素直に聞くこと自体、非常に思うところがある。
その上、今回のようなことで気軽に血を渡したら、おそらく事あるごとに血を要求するようになるのが眼に見えている。
なので、その間の策をとることにした。
「というわけで、えい」
「……ふひょ!?」
「あ~~~~!!!?!?」
まずはエイダをそのまま胸元に抱き寄せる。
幸い、今のエイダの身長はやや小さめであり、力も弱まってるらしく、あっさり彼女を胸元に抱き寄せることに成功する。
「ま、まさかこれは噂に聞く、母乳と血の成分は似ている理論!?
な、なら安心してイオちゃん!ちゃんとこういうときも想定して、私は豊乳の奇跡も授かっていて……」
「そんなわけあるか、というかそれやったらさすがの私も怒る」
「ごめんなさい」
どうやら、私の本気が通じたらしく、おとなしく黙るエイダ。
そのエイダを忌々しげに見るヴァルター、こちらと見比べて、自身の胸をペタペタと触るベネちゃん。
大丈夫だよベネちゃん、例え年少のアリスちゃんに負けているほどのエンジェルバストでも、需要はあるはずだから。
「というわけで、血ではないけど、エイダちゃんには魔力と効率的に分けてあげるよ」
「おお!それはつまり……」
「まぁ、無理やりだけどね!!!」
「……ぴぎぃ!?!?」
そうして、自分の胸元に手繰り寄せたエイダに向けて、死霊術を発動する。
自分の中の陰の魔力を【魂操術】と共にエイダに向けて注入する。
もちろん魂操術は相手を魂から無理やり操る呪文だ。
もちろん、体や脳、心に反して相手を操るため当然痛みは伴う。
――が、今回は前回と違うのが、この術を使用している相手が、いわゆる肉体的には半分死んでいる吸血鬼だということだ。
だからこそ、陰の魔力を注入しても、体自体に支障は出ず、むしろその逆であり……。
「あばばばばば!いだ、いだいののぎもじいいぃぃぃいいいいい!!!
ばばばばばばば!にゃ、にゃんで!?でも、においが、魔力が!?
あははははははばばばばばば!」
「ほ~ら、早く従え、従え♪
なんなら、一生私に仕えるって言ってくれてもいいんだぞ?」
「や、やだぁあ!!!い、いくらイオちゃんでも……んにゃぁああ!♪!♪!
だめ!ようやく血のつながりから解放されたのに……。
やだー!!!魂が服従する服従しちゃう!!
イオちゃんの命令にしか、したがえなくあんるぅぅぅ♪♪」
かくして、エイダは私の魔力と術により、痛みと快楽の板挟みに。
結局、魔力が注入し終えるころには、それなりにおとなしくすることに成功したのでしたとさ。
――なお、唯一の懸念点であった、魂操術で操った上でのエイダの奇跡の使用へに支障や、こちらの聖痕への被害については、今回全く問題なかったとだけ言っておこう。
どうやら、月の女神様も冥府神様も今回ばかりはこちらを味方してくれたようだ。
「うう……今度は脅迫とかじゃなく、ちゃんと友情をはぐくんでから、血をお願いすることにします」
「いや、そこはあきらめてよ」
さもあらん。
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