上 下
12 / 68
第1章 開拓村と死霊術師

第11話 最良の交渉術

しおりを挟む
――端的に言って、死霊術師にとって、逆恨みは割と慣れっこなことである。

そもそもの死霊術という魔術そのものが、周囲の神の加護を薄くすると知られており。
そのせいで、死霊術師が存在するというだけで、ありとあらゆる不幸が死霊術のせいにされるのは、良くある話だからだ。

例えば、ある日お腹を壊したときや、怪我の直りが遅いとき。
親や子が流行り病で亡くなったときや、いつもよりも狩りの調子がうまくいかなかったとき。
農家が麦の収穫量が低いときや、旅の途中で野性のゴブリンに襲われたとき。
何なら地震や台風、悪性ダンジョン出没といった大災害まで。

ありとあらゆる不幸を、感情のはけ口として、死霊術師のせいにするのは、ある意味では人間が感情を持つ生き物である限り、避けられない問題なのだ。

「ま、これに関してはお互い不幸だったね」

「……」

だからこそ、今回の救出劇。
そこで起きた悲劇により、目の前にいる少女が、私を逆恨みをすることになってしまった。
が、その事に関して、私はそこまでイラつきはしなかったし、むしろ同情すらしているのだ。
幼いのに肉親を失った悲しさや、それにまつわる悲劇。
それらは、幼い少女が一晩で飲み込めるようなものではないだろうし、見当違いとはいえ、自分に負の感情をぶつけてしまうのは仕方がないことだと思う。

「でも、君は生き残ったんだよ!
 君のお父さんの勇気と献身のおかげで!
 だからこそ、その思いを無駄にしないためにも!
 そして、その勇者である君のお父さんを供養しなきゃいけない、そうだろ?」

「……」

「……え、えっと、その。
 ここはゾンビさん達がいるとはいえ、まだまだ危険ですので。
 あの……非難を……」

「……もう私はほっといてください。
 私はこの先、生き残っても邪魔になるだけです。
 それに、お父さんがいない世界なんて、もう、私には……」

でもさすがに、父の死に方が悪かったからと言って、拗ねてこちらの言う事を無視するのはどうかと思う。
ヴァルターやベネちゃんは、そんな彼女を真剣に心配しており、そのために一緒に来るように声をかけ、その心を解きほぐそうとしている。
が、結果は無駄。
彼女の受けた心理的ショックと頑固さは、相当のもののようだ。

「でもま、だからと言って放置するわけにもいかないんだよね。
 な冒険者として」

「……!!」

ならば仕方なしと、右手にわかりやすく紫電状に魔力を貯めて、頑固な彼女に見せつける
今まで怒りと悲しみを混ぜたかのような彼女の顔に、ようやく変化が現れる。

「……そうだよ、こちとら死霊術師。
 子供を見殺しにしたなんて、報告をしたら、それだけで悪評はうなぎのぼり。
 だから、たとえ無茶をしても、あなたには私達についてきてもらうよ」

「……っ!!」

悪評が付きやすい死霊術師。
だからこそ、我々な死霊術師は、過程よりも結果を重視するのだ。
圧倒的な成功を持って、死霊術という最低な過程を肯定する。
それがネクロマンサーという魔術師の生き方なのだ。

「まぁ、今回のこれは、あなたが私たちの言う事を素直に聞かなかったから。
 だから、あなたにはこの罰を受けてもらう!」

「………!!」

そして、おびえた表情でこちらを見る彼女の目の前で、私はその右手にため込んだ魔力と魔術を開放し、死霊術師の禁忌を犯す。



「というわけで、私たちの代わりに、説得のほうをお願いしますよ。
 お父さん」

『あ、あれ?私は確か吸血鬼になって……。
 あれ?何で体が透けて、え、え?』

「ぱ、パパァァァァァァ!!!!!!!!!」

かくして、私はこのわからずやの説得のため、昨晩死んだばかりの彼女の父の霊魂を【幽霊】として召喚。
彼女の死んだ父の幽霊に、彼女の説得を任せるのでした。

☆★☆★

「やだぁあああ!!パパがいなきゃ次の村いかないぃぃぃ!!
 パパも一緒についてきてよぉぉ!!」

『う、う~ん。パパもそうしてやりたいのも山々なんだが……
 でも、パパはもう死んじゃってるからなぁ。
 というか、もうちょっと反抗期じゃなかったか?』

「だって、それはパパが、ママがいながら他の女性とも付き合っていたから。
 しかも、それが実は村公認だったとか、年頃の娘にはめっちゃきつかったんだけど」

『ごめんなさい』

思ったより難航している交霊術による説得を尻目に、私は残る2人の元吸血鬼も降霊。
その霊魂相手に、面談、あるいは被害者たちのの最後の会話という名の説得をさせることにしたのだ。

「で、君のほうはいいの?」

『あ、俺は大丈夫っす。
 連れてきた子供たちと俺は、あんまりつながりないんっすよね。
 俺が、死ぬ前の契約であの子たちを保護した理由も、どうせ死ぬならって、かっこつけたかっただけっすし』

むしろそっちの方がかっこいいのでは?
ともかく、幸いにも降霊させた幽霊のうち一匹は、どうやら被害者の子供たちとはそこまで深い関係ではなかったらしい。
おかげで彼相手には、存分に村で起こった出来事について、事情徴収を行うことができた。

「つまりはまだ、村に生き残りが残っているかもと」

『まぁ、可能性としては?
 そもそも吸血鬼って同族の血はそこまで沢山は飲めないらしいっす。
 そのせいで、未だ生きた人間が【血袋】っていう餌扱いであの村には生きたままとらえられてるのは覚えてるっす。
 たしか、餌用の部屋に女と子供ばかり集められていたはずっす!』

そして、彼から聞くにどうやらストロング村がほとんど絶滅したのは間違いないが、それでも未だ生き残りはいるそうだ。
もっともそれは、あくまで吸血鬼の餌として、人の尊厳とやらが捨てられた状態での生存であるため、無事であるとは言い難いが……。
それでも、まったく希望がないわけではなさそうだ。

『やっぱり、俺としてはできれば俺たちの村と人質解放。
 それと死んでしまった村のみんなの供養してほしいんっすが……お願いできるっすか?』

「今すぐとはいかないけど、前向きに検討はする。
 そもそも隣村だから、放置するわけにもいかないし」

『おお!ありがたいっす!
 ありがとうっす!』

「でもその時は、君に道案内とかの協力してもらうけど……。
 それで構わないよね?」

『あ!もちろん構わないっす!
 ……あ~、でも、ちょっと聞きたいことが……』

その幽霊は、最初は力強く返事をしたが、何かを思い出したのか頬をかきつつ、こちらに質問をした。

『あの……確か死霊術師に使役される幽霊って、確か死後、天の国じゃなくて、地獄に堕ちるって聞いたんっすが、あれってホントっすか?
 いやまぁ、子供たちや他の村のみんなの供養をできるんなら、その位の我慢できるんっすが……』

「あぁ、それに関しては安心して。
 こちとら、聖職者との兼業死霊術師だから。
 事が終わったら、君の供養や葬式はちゃんとやるつもりだよ。
 それに、君達が吸血鬼になったことによる魂の汚れはすでに洗浄済みだし。
 ほら、これが証拠の聖印、少なくとも君たちを地獄行には絶対にしないから」

なお、この世界において、死霊やらゾンビになることは、基本的にあまりよくないこととされている。
それこそ長く魂が死霊を続けていると、魂が汚れ、精神が損耗。
更には悪逆にまで染まった死霊の魂は、天の国には行けず、邪神の元へとひきつけられやすくなるとされているのだ。

『え、あ、おぉ~!!
 ほ、本当っすか姐御!いや~~よかった~~!!死んだ後吸血鬼になって神様の事けっこう罵倒しちゃったんすよね~!!
 だからん本当に感謝っす!むしろ一生ついていくっす!』

「いや、そこは頃合いを見て成仏してもらうつもりだから。
 一生はむしろ困る」

まぁ、でも一応こちとら魔導学園出身の善良な死霊術師なのだ。
きちんと手懐けた魂もキャッチ&リリースの精神は忘れずに。
あくまで善良な人間の魂の力を借りるときは、一時的を心掛けて!
え?ゴブリンの魂?魔物の魂は邪神の元に行かないように、存分に使いつぶす所存です。

「まぁ、そういうわけで、次に君たちの村に行くその時まで君には休んでいてもらうよ。
 というわけで、この中に入って、休んどいてくれ」

『えっと、これは?』

「封魂筒。まぁ、ちょっとした死霊用の持ち運び棺桶みたいなもんだから」

この協力的な死霊を持ち運びの筒の中へと回収し、一息つく。
そして、自分がこの死霊との交渉を行った頃合いに、ちょうどほかのメンツの交渉もひと段落したようだ。
一組は幽霊として蘇った家族との最後の別れ話を済ませ、もう一組の子供たちはヴァルター達の熱い説得により、大分正気を取り戻していた。
そして最後の、やけにこちらを敵視していたあの女の子と彼女の父との会話も終わったようだ。
彼女は相変わらず、こちらを見る眼はややきついが、それでも大部正気が戻っているのが眼に見えてわかる。

「……というわけで、非常~~に不本意ですが、あなた達のおかげで、お父さんとも会話できました。
 そして、私達が真にあなた達に救われたことに一応の心の区切りができました」

「だから、改めてお礼を言います。
 お姉さん達、こんな私達を助けてくれて、ありがとうございます!」

彼女は頭を下げてこちらに礼を言い、その横で彼女の父である霊がうんうんとうなずいている。

「で、も!
 私個人としては、まだまだ納得できていません!
 そもそも、なんで私とお父さんがこんな目に合うのか!
 そして、これでお父さんとお別れにならなきゃいけないということが……」

「だから、誠に勝手ながら!そこの死霊術師のお姉さんにお願いがあります!
 どうか私に死霊術を教えてください!
 私はまだ、お父さんと別れたくない!
 だからそのために、どうか私の魔法の師匠になってください!」

かくしてその少女は、洞窟に床に頭を擦り付けて、私にそう宣言するのであった。



「いや、普通に私利私欲による、身内の蘇生や降霊とか。
 一般善性死霊術師の倫理的に、タブー中のタブーだからね?
 というわけで、動機が不純すぎるため、弟子入りは不可です」

「ええええぇぇぇえええ!!!!」

なお、当然その弟子入り願いは、当然却下。
おかげで、その少女を洞窟から出すために、またひと悶着あったのであったとさ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

せっかく異世界に転生できたんだから、急いで生きる必要なんてないよね?ー明日も俺はスローなライフを謳歌したいー

ジミー凌我
ファンタジー
 日夜仕事に追われ続ける日常を毎日毎日繰り返していた。  仕事仕事の毎日、明日も明後日も仕事を積みたくないと生き急いでいた。  そんな俺はいつしか過労で倒れてしまった。  そのまま死んだ俺は、異世界に転生していた。  忙しすぎてうわさでしか聞いたことがないが、これが異世界転生というものなのだろう。  生き急いで死んでしまったんだ。俺はこの世界ではゆっくりと生きていきたいと思った。  ただ、この世界にはモンスターも魔王もいるみたい。 この世界で最初に出会ったクレハという女の子は、細かいことは気にしない自由奔放な可愛らしい子で、俺を助けてくれた。 冒険者としてゆったり生計を立てていこうと思ったら、以外と儲かる仕事だったからこれは楽な人生が始まると思った矢先。 なぜか2日目にして魔王軍の侵略に遭遇し…。

処理中です...