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第0章 神話に残る能力で

狙いは俺だ

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 バキバキと家を轢き潰しながら、破城槌がこちらに迫ってくる。

「王国が収蔵しない『神の残渣』があるなんて話、聞いたことねーぞ!」

 アベルが叫ぶ。

 ん……? だけどよく考えると……ちょっと待て。
 おかしいな。ノーヴァさんの作ったそれとは、構造が違う気がする。
 俺が昔見たときは、もっとゆっくり動く兵器だった。

 『おっ、やんのか? こっちにはバケモンあるんやぞ?』とノーヴァさんが煽り、そこに『今日中に着くならな~』とお決まりの返しをする。

 それが名物だった。禍々しい外見に高威力、いかにも人のモノを壊しそうな名前で、実際は他人に危害を加えない……調整された『攻城兵器 破城槌MK4』。
 あんな速度で移動して、バキバキ建造物を破壊するなんて、おかしい。

 ……多分、何か別の機関を流用して……ニコイチにしてあるんだ。

 急いで建物の中に引き返す。
 広間に戻ると、何人かの村人とラウラが地下室の蓋を開けていた。

「なんで戻ってきたんだ!?」
「すごい揺れを感じて……それで、みんな心配になって」
「分かった。それ以上はいい……とにかく、全員地下から森に退避させてくれ!」

 俺は声を張る。

「ま、待って! ここは大丈夫なんじゃ……」
「ごめん……無理だ……! あんなの使われたら、宿が1秒でぶっ壊れる!」

 揺れと地鳴りが空間を覆いつくす。
 サルートルが追い付き、俺に問うた。

「イツキ……君はアレの強さを知っているのか?」
「ああ。許せない……」

 ノーヴァさんの破城槌が、悪用されている。
 思い出に、べっとりと泥をかけられたような気分だ。

「とにかくみんな、まずは逃げて――」
「さあ、イツキ君! 着替えは終わりましたか!」

 突如として振動が止み、外から大きな声が聞こえた。
 奴と破城槌が、もうすぐそこにいる。

 こめかみを、冷や汗が流れ落ちていく。
 全員、その場から動くことができずに固まっていた。

「こちらは準備が出来ましたよ。早く出てきてほしいですね」
「……ええと……まだ、もう少し待ってほしいかな!」

 俺は振り返り、目で避難するよう促した。
 だが、誰も逃げようとしない。だから、さっさと逃げておいてほしかったのに……。

「冒険者ども! そこにいる半獣の少年を引き渡せ! そうすれば、これ以上の破壊はしない! 貴君らの抗戦に敬意を表し、金品も奪いはしないでおこう!」
「……断ったら!」
「愚問だね! 『イツキ君』を渡すか、ここで無残に潰れるかだ!」

 俺の足は、自然と前に出た。

「おい、イツキ……!」

 俺がどうなるか、それは分からない。
 だが、みんなに迷惑をかけるわけにはいかない。それに、この村を、これ以上破壊されたら……。
 あいつらは、ノーヴァさんとの思い出を踏みにじって、ヒョウドウとの思い出を壊していく。こんなのはもうごめんだ。

「待つんだイツキ、ここで今出ていけば、やつらの思うツボだぞ!」
「……あいつらの狙いは……確信はないけど、たぶん、どこかで『村』から『俺』に変わったんだ」

 予想が正しければ、あいつらは俺の能力を欲している。可能な限り俺を生かして手に入れたいんだろう。
 攻城兵器なんて持ってきておいて、目の前で止まったのもそれが理由だ。

「イツキはどうなるの!」

 突然ロークラの世界に転移してから、2、3週間。
 分かんないことだらけだったけど、リアルな建築を楽しめたり、しばらくぶりに仲間の良さを実感できたり、いいこともあった。

「なんとかなるでしょ」

 ラウラを見て微笑む。
 彼女は悲しい顔で、俺の頭の上を指差した。
 本当に、厄介な耳だな。

 大丈夫。今度こそ、本当に。

 俺は鹿の脚亭のカギを開け、扉を開いた。



 ◇◇◇



 下から見上げた破城槌は、やはりとんでもないサイズだった。
 やっぱりこれは、ノーヴァさんの作った攻城兵器で間違いなさそうだ。
 まったく、野暮すぎる改造しやがって……。

「お待たせ」
「ずいぶん待ちましたよ。なんですか、寝間着のままじゃないですか」
「ちょうどいいのがなくてさ……」

 ザイフェルトが、後ろに目配せをする。
 素早く甲冑の男たちが俺の両脇に立った。

「なあ。色々聞きたいことがあるんだけど」
「移動には時間もかかります。そこでゆっくり、お話ししましょう」
「それじゃ、せめてここで1つだけ」

 ザイフェルトの沈黙を、俺は肯定と受け取った。

「俺、どこに連れていかれるの?」
「二度言わせないで下さい。それを君に伝える必要はありません。君は私と一緒に来る。それだけです」
「処刑される……とかじゃないよね?」
「しませんよ、もちろん……」

 俺のリアクションを楽しむような、たちの悪い間。

「ただ、旅の途中で君が見せる態度によっては、手が自然に動いてしまうかもしれません」

 俺の両腕を、冷たく固い兵士たちの手が掴んだ。

 その時だった。

 遠くから、ドドド、と何かが迫ってくる音が聞こえた。思わず、音のする方向を向く。

「よそ見をするな」

 右腕を強く引っ張られる。
 だが、目が離せない。何かが、確実にこっちに来ている。
 それも、力強く、高速で……。

 突然、バギっ、と横の家が、こちら側に大きく膨らんだ。

「!? な、何事――」

 ザイフェルトが剣を抜こうとするよりも早く、家の壁がはじけ飛んだ。
 そこには筋骨隆々の、一頭の鹿の姿があった。

「オ、オジーチャン……?」

 オジーチャンはそのまま突進して、ザイフェルトを跳ね飛ばす。

 隊長! と多くの兵士が吹き飛ばされたザイフェルトに駆け寄った。
 オジーチャンは俺の目の前で、鼻息を荒げて顔を左右に振っている。
 どこに行ってたんだ、今まで。

 こうなることを見越して、わざわざ待機していたんじゃないかと思うようなタイミングだ。

 オジーチャンは、ふん、と小さく鼻を鳴らして俺を見る。
 その口には、緋に輝く石をたたえたペンダントがあった。

「それ、ラウラの……」

 俺は、それに引き寄せられるように手を伸ばした。
 見た目に反して、ずっしりと重い。
 緋の宝玉のようなものには、どこかに見覚えがあった。

「……マナクリスタル?」

 魔法MODでよく使われるアイテムに、形も色もよく似ていた。
 微量の魔力を蓄積しておけば特定のマシンを起動できる、いわば蓄電池のようなもの。

 持ち替えてその裏側を見ると、そこには金属で引っ掻いたような文字が刻まれていた。

『お前の手で完成させろ ヒョウドウ』

「ブルルルゥゥ……」

 オジーチャンが、低い声で口を鳴らす。
 まだ興奮しているのか、ゆっくり俺に近寄ってくると、ドンドン、と2回胸に頭突きをした。
 それから、首をくいっと反対に振る。

「……もしかして、乗れって言ってんのか?」
「ブモッ!」

 鼻息荒く、首を縦に振る。
 なんだコイツ、ヒトの言葉を理解してる……? いや、待てよ。これが獣人の特殊能力ってやつか!?
 いや、考えている暇はない!
 俺は、オジーチャンの背中に飛び乗る。すると、彼は俺を気遣う素振りも見せず、一目散に駆け出した。

「ちょっ、はやっ、早いってぇぇっ!!」

 ペンダントを持ったまま首に腕を回して、なんとか振り落とされないようにする。が、それでも体はほとんど宙に浮いていた。

「落ちる落ちる、ゆっくりっ、ゆっくり走って!」

 やっぱり言葉なんて通じてないじゃないか!
 土埃の中を駆け抜け、広場にたどり着く。
 そこで、オジーチャンは急停止した。慣性に任せて俺の体が吹き飛ばされる。

 着水。目の前が一瞬薄暗くなって、すぐに全身を冷たさが襲ってきた。

 ざばぁっ、と勢いよく立ち上がる。
 オジーチャンは俺を嘲笑するように口角を上げると、今度はゆっくり俺に尻を向けて宿屋のほうへと走っていった。

「ッおぉぉい!!」

 オジーチャンは俺の声に反応しない。
 姿が見えなくなって、俺は肩を落とした。

「なんでこんな所に連れてきたんだよっ!」

 広場。水。
 ここは……噴水の中だ。

 振り返ると、そこには日に照らされて輝く、水を吹き出すオブジェがあった。
 そこにペンダントが引っかかっている。拾うと、マナクリスタルがほんのり赤く光っていた。

「もしかして……」

 マナクリスタルが光るのは、近くに魔法装置『マナソケット』があるときだ。
 通常、マナクリスタルはマナソケットにはめ込んで使う。ただ見た目が地味なので、見失わないように双方を近づけるとマナクリスタルが光る性質があった。
 ということは、この近くに……。

 遠くから、おぉぉッ、と威勢のいい声が響いた。
 マズい。あいつらが追ってくる……!

 俺はインベントリを開くと、わずかに残っていた石材をかき集めた。
 自動建築機を設置して石を入れ、村の外壁の10分の1の大きさ、厚さを4分の1に設定する。
 これで、噴水の周りに高速で外壁を建てる!

 なんとか、時間を稼がないと……!



 ◇◇◇



 冷たい水に全身を浸しているせいで、手の感覚がない。
 寒さで、奥歯も震えている。
 マナクリスタルはソケットに近づければ光が強くなるはずだ。手を動かし続け、どこにあるかを探る。
 その間にも、足音と声は大きくなっている。

「クソっ、なんだこの壁は! ザイフェルト様! これは!」

 壁の向こうから激しい怒声が聞こえた。
 ぐるりと小さい石壁で取り囲まれているせいで、音が反響して耳が痛い。
 だが、今はそんなことに構っている余裕はない。

「イツキ君はこの中にいるようですね。破城槌を用意しろ!」
「かしこまりましたッ!!」

 ヤバイ、あれでド突かれたら一瞬で石壁は崩壊する。
 クソ、どこだ、どこだ、どこだ……。

「ッ……?」

 足先に、コツっ、と何かが当たった。
 そこだけ、わずかにブロックが盛り上がっている。
 目を凝らし、そこを見る。

「あった……!」

 マナクリスタルを近付けると、輝きはどんどん激しくなる。
 間違いない。クリスタルを嵌めるための『マナソケット』だ。

 水の中にマナクリスタルを沈める。
 輝きで、暗い水底が照らされ、その輪郭がはっきりと浮かびあがった。
 マナクリスタルは吸い込まれるように窪みにはまり込む。

 キュゥイィン――。
 カリカリカリカリカリ――。

 内部で、何かが起動している。
 激しくはないが、わずかに地鳴りのような音とともに振動も感じる。
 この中に、いったい何が……。

 ブォン……と音がして、目の前の噴水が幻のように消えた。
 代わりに、ホログラムのようなものが現れる。

「うぉ……すっげ、魔法MODってこんな事出来んの!?」

 思わず、その光に手を伸ばす。
 映像をつまんで引っ張ると拡大。その手を離せば元の縮尺に戻る。
 スワイプで構造を回転させて確認できる。

「これは……なるほど……?」

 どこかで見たことのある機構だ。
 炸薬を入れる場所がほとんどないところから見て、火薬式じゃない……これは……。

「破城槌用意!!」

 なるほどヒョウドウ、これは俺にぴったりの『ブツ』じゃないか……。
 こんなもん用意してるなんて、こっちの世界、そんなにヒマだったのか?

 仕様は理解できた。ホログラムを弄って、噴水の見た目に戻す。

「てェェッ!!」

 バゴォッ、という激しい音とともに、砕けた石の残骸が噴水に無数の波を立たせる。
 風穴をあけられた南面から、太陽の光が差し込んできた。

「イツキ君……先ほどは妨害が入ってしまいましたね。迎えに来ましたよ」

 ザイフェルトの声が、石の壁の内側に響いている。
 俺は立ち上がる。前髪と指先から、ぽたぽたと雫が落ちた。

「その能力で穴でも掘って逃げるのかと思ったのですが、自分で退路を塞いだだけとは。それほど焦っていた、ということでしょうか」

 オブジェの裏から顔を出す。
 土煙の中のザイフェルトは、破城槌の前で腕組みをしているシルエットだけが浮かび上がっていた。

「抵抗はやめて下さい。村人さんたちに犠牲が出ますよ」
「……」
「大人しく出てきて頂けますか?」
「……」
「私からここに入ってもよいのですが……なぜか、罠の臭いがするもので」
「……バレてたか」

 土煙が晴れる。ザイフェルトは……笑顔だった。

「イツキ君。君のその不思議な力……聞きたいのですが、それは破壊にも使えるのですか?」
「いいや、俺に物を壊す趣味はないんで。『山賊』のアンタと違ってさ」
「獣人の大工は手際が良く、よい仕事をすると聞きます。ですが、これほどの高速で建築する大工は聞いたことがありません……そう、神話以外では」

 神話……プレイヤー神話か。
 この男、俺をプレイヤーなんじゃないかと疑っているわけだ。

「そこで、君がどんな力を持っているのか知りたくなったのです。神話級の、その力の秘密をね」
「なるほど……それで?」
「少しばかり観察させて頂きました。そして……時が経つほどに、あなたの建築速度は上がっていた」
「……盗み見はやめてくれよ! いやらしいな!」
「申し訳ありません。ですが、我々はそれを見て思ったのです。今ならまだ……貴方を捕らえる事が出来るのではないか、とね」

 ザイフェルト、こいつ……観察して、俺がこの世界――能力に慣れていない事を察したのか。
 そして慣れてしまう前に、一手を取ろうとしたわけだ。

 オジーチャンさえ来なかったら、確かにその作戦は成功していただろう。

「それじゃあ、俺を殺す気はないんだ?」
「いやいや、そうとも限りません」

 ザイフェルトの口角が、ぐいっと上がる。

「死んだあなたを解剖すれば、その秘密が分かるかも」
「冗談」
「ハハハ、もちろん嘘ですよ。ただ君が、村の人を守りたいという気持ちは嘘ではないでしょう? 分かったら、今すぐ出て来て下さい」

 なんだよ、もうちょっとこっちの話に乗って来いよ……。

「君が拒否すれば、破城槌が村を破壊します」
「それはヤだけど……奴隷もヤだなぁ……」
「では……。破城槌を反転させろ! 攻撃準備!」
「ストップ、ストップ! な、交渉しよ、交渉!」
「君という人は……」

 ザイフェルトは呆れたようにつぶやいた。

「交渉というのは、条件があってこそ成り立つのですよ?」
「えーと、じゃあ、そこの自動で建築ができる機械をあげる!」

 壁を作り終わって放置されていた自動建築機を、指さして言う。

「あれのおかげなんだよ、俺の力は! 拾ったんだアレ。あげるから勘弁して」
「ほほう、それはいい条件ですね」
「俺もさ、やっとこの村で楽しく生活できるようになってきた所なんだよ。だからさ」
「……イツキ君、何のつもりか分かりませんが、時間稼ぎはやめなさい」
「いやいや、単に俺のお願い、聞いてもらえないかなって……」

 素早くインベントリを開いて、あの『布団』を確認する。
 大丈夫、いつでも出せる。

「だから頼むよ、この通り!」

 頭を下げながら、インベントリから取り出す。
 そして、一直線にザイフェルトに向かって投げ――。

 ――るふりをした。
 ザイフェルトは、投げる動きをした瞬間に後ろに引いている。

「はあ。なぜフェイントをしたのか分かりませんが、無駄ですよ、イツキ君」

 もしそのまま投げつけていたら、やはり避けられていただろう。

「知っている技に引っかかる私ではありません。ましてや、そんな速度では」
「はー……そうだろうと思った。アンタ強そうだもん」

 俺は苦笑いして、布団をその場に敷いた。

「もう、俺は寝ることにするよ」
「イツキ君、そろそろ怒りますよ」
「……ああ、そう」

 俺は噴水に手をついて石の端を押した。カチリと音がする。
 それを確認してから、ゆっくり布団の上に腰を下ろす。

「いい交渉条件だと思ったんだけどなぁ」
「交渉決裂……ということでよろしいですか?」
「ああ、決裂決裂。もういいだろ? この話はおしまい」

 流石にイラ付いたのか、一瞬ザイフェルトは言葉に詰まった。
 俺は布団の中で横になり、頭を右手で支える。
 いわゆる、休日のオヤジのごろ寝スタイルだ。

「……では……破城槌を用意しろ! 村を破壊する!」

 破壊する?

「出来るもんならな」

 瞬間、ゴゴゴ、と鈍く大きな地鳴りが響く。
 破城槌の振動とは違う、まるで地獄から響くような音。

「なっ、なんだ、……この音は!」

 布団に寝そべったままの俺の後ろ――噴水があった場所が、二つに裂ける。
 水が地下に吸い込まれ、代わりに、地面から巨大な兵器が姿を現した。
 ゆっくりと、その全貌が露になる。

 全長10メートルはあろうかという、巨大な砲塔。

「な? 交渉しておいたほうが良かっただろ?」
「どうして……こんな巨大な兵器が……突然……!」
「さあね」

 否が応にも笑みがこぼれる。

「今の間に、こんなものを作ったというのですか!」
「んなワケないじゃん。いくら早いって言ってもさ。お前も見てただろ、俺の建築速度」
「では、なぜっ……!?」
「この村を最初に作ったヤツの趣味じゃないかな。いわゆる、プレイヤー……神様の」

 そう、これは俺とヒョウドウの趣味。あいつが死んだことで諦めた、ロマン。
 遥か昔の冗談を、奴は実現させていた。

「こんな『隠し要素』が好きなんて、イカした神様もいるもんだ」
「信じられん……!」

 カリカリカリカリ、と砲筒が回転する。
 天を向いていた銃身が、俺の背中に照準を合わせた。
 その先には、ザイフェルトと、ノーヴァの破城槌。

「待て! 今それを撃てば、君も無事では済むまい!」

 俺はリラックスしまくった姿勢のまま、口を開く。

「大丈夫。コレ、『ノックバック判定を起こさせる兵器』らしいんだよね」
「ノックバ……? 何?」

 ノックバック≪吹き飛ばし≫判定。
 つまり『空気砲』みたいなものだ。当たった敵を遠くに吹き飛ばす大砲。
 これだけで命を落とすことはない、非殺傷兵器。

「簡単に言うと、人間とか物をノーダメージでドーンと吹き飛ばす装置だよ」
「吹き飛ばす……自分ごとか!」
「いや……」

 俺のニヤニヤが止まらない。左手で布団を指差す。
 ザイフェルトの顔から血の気が引いていく。

「俺が寝てるコレ。見てたなら知ってると思うけど、強制的に動けなくなるっていう代物なんだ」

 そう、布団はノックバック判定を無視できる。つまり、俺は『動けない』。

「さっき投げようとした布団、実は避けない方が正解だったってワケ」
「……イツキ君、交渉しようじゃないか」
 ジリジリと後ずさりするザイフェルト。
 だが、人間の足でこのロマン砲の範囲と射程から逃れるのは不可能だ。

「我に刃を向けたこと、地平の果てで後悔するがいい……ザイフェルト……いや、咎人よ!」
「ぜっ、全員撤退しろ! 退避だあッ!!」

 やってやれ、イツキ。――そんな声が聞こえた気がした。

「無限反動砲<アンリミテッド・ノックバック> ―華の守護者(ジャッジ・オブ・アンサス)―」

 俺の背中を貫いて、透明な爆発が起こる。あたりの石畳が裏返り、円形に吹き飛んでいく。
 球状の歪みが石壁を全て破壊し、ザイフェルトたちと破城槌を巻き込んだ。

『何だこれはっ……!』
『ぐわあっ……!』
『うわぁぁぁ……!』

 吹き飛ばされていくザイフェルトと兵士、それに破城槌。その風切音が、どんどん小さくなっていく。
 設計図通りなら、奴らは文字通り、地平線の果てまで吹き飛ぶ。
 ノックバック判定はゆっくりと消え、最後には着地できるようになっている。命までは取らない……はずだ。多分。

「決まった……!」

 脳内にヤバい汁が出てるのが分かる。
 直後、背後でガチャガチャと構造物が崩れていく音が聞こえた。

 ヒョウドウとかつて話していたことが、瞬時に脳裏に蘇る。

『秘密兵器は一回限り! いざという時に使うのさ』

 お前と俺で完成させた……秘密兵器を!
 使ったぞ、ヒョウドウ!

 ……二度は使えない、お前の形見を……!
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