6 / 6
第二話『殺意なき殺人』弐
しおりを挟む
依頼人の恋人、葉山 美月の遺体が発見されたのは彼女が住んでいるマンションの自室だった。
マンションの周りには立ち入り禁止のテープが張られ、警察官と野次馬が集まっていた。
私と絢辻は近くのコインパーキングに車を止め、歩いてマンションに向かった。
マンションの入り口前には二人の制服警官と、スーツにコートを羽織り、白手をつけた刑事が一人いた。
入り口に近づき、黄色のテープをくぐって中に入ると、立っていた制服警官が進路を塞いだ。
そこへ慌てて刑事が寄って来た。
「その人はいい、通してくれ」
刑事の言葉で、制服警官が道を開ける。
「お疲れ様です、三好警部」
絢辻が刑事に話しかける。
「全く、急だったから手配に苦労したよ。今度からは止めて欲しいね」
三好はため息をつきながら私と絢辻に白手を渡した。
「そちらの方は助手さん?」
「あ、若菜ちゃんはミステリー作家なの。助手と思ってくれていいよ」
所長もだが、どうやら絢辻も私のことを探偵事務所の職員だと思っているらしい。
「どうも、村瀬です」
もう訂正するのを諦めて名乗る。
「岐阜県警の三好です。あの、村瀬若菜ってもしかして白雪の殺人の?」
驚いた。白雪の殺人は私のデビュー作だ。四年前に出版されたものだが、知っている人がいたとは。
「はい。あれはデビュー作です。よくご存知で」
「いやぁ、あれは面白かったですよ。それ以来、村瀬先生のファンでして。あ、握手していただいても?」
「えぇ!いいですよ。私もファンの方に出会えて嬉しいです」
私と三好警部はお互いに手を出し、握手を交わした。
「三好警部、若菜ちゃん。早く行くよ」
すでに入り口のドアを抜けていた絢辻が言う。
「…我々も行きましょうか」
「えぇ、そうですね」
私と三好警部はお互いの顔を見て笑い合うと慌てて絢辻の後を追った。
「鑑識の調べによると、死因は窒息死。おそらくクッションか何かを長時間押し付けられたのだと思います。部屋は荒らされており、金目のものは持ち去られています。遺体に争った形跡がないことから顔見知りの犯行と思われます」部屋に着くまでの移動時間に、三好が簡単な報告をしてくれた。
「第一発見者は誰なんですか?」
絢辻が貰った白手をつけながら聞いた。
「第一発見者は恋人の城島隼人三十二歳。フォトスタジオKIZIMAの経営者です。自身もプロのカメラマンとしてこの業界ではそれなりに知られているそうです。殺された恋人の葉山美月は専属モデルだったようで」
「なるほど。まずは会ってみないとですね。彼はまだ部屋に?」
「えぇ。うちの飯島が話を聞いています。どうぞこっちです」
三好が先頭に立って案内する。
被害者の部屋はマンションの六階、角を曲がった先にある一番奥の部屋だった。
「へぇ、ここだけ角の奥にあるのか。全然分からないな」
エレベーターと階段は被害者の部屋の反対側の端にある。そのため、エレベーターを降りてすぐ、全ての部屋のドアが見える。しかし、被害者の部屋は角を曲がったところにあるのでぱっと見、部屋があるとは分からない。
「曲がり角に、ちょうど被害者の部屋の方に防犯カメラが取り付けてあるんですが、それも壊されてました。死角から鈍器で一撃です」
三好が廊下の角を指差す。
確かに防犯カメラがあった。一目見て、機能していないことがわかる状態だった。
マンションの周りには立ち入り禁止のテープが張られ、警察官と野次馬が集まっていた。
私と絢辻は近くのコインパーキングに車を止め、歩いてマンションに向かった。
マンションの入り口前には二人の制服警官と、スーツにコートを羽織り、白手をつけた刑事が一人いた。
入り口に近づき、黄色のテープをくぐって中に入ると、立っていた制服警官が進路を塞いだ。
そこへ慌てて刑事が寄って来た。
「その人はいい、通してくれ」
刑事の言葉で、制服警官が道を開ける。
「お疲れ様です、三好警部」
絢辻が刑事に話しかける。
「全く、急だったから手配に苦労したよ。今度からは止めて欲しいね」
三好はため息をつきながら私と絢辻に白手を渡した。
「そちらの方は助手さん?」
「あ、若菜ちゃんはミステリー作家なの。助手と思ってくれていいよ」
所長もだが、どうやら絢辻も私のことを探偵事務所の職員だと思っているらしい。
「どうも、村瀬です」
もう訂正するのを諦めて名乗る。
「岐阜県警の三好です。あの、村瀬若菜ってもしかして白雪の殺人の?」
驚いた。白雪の殺人は私のデビュー作だ。四年前に出版されたものだが、知っている人がいたとは。
「はい。あれはデビュー作です。よくご存知で」
「いやぁ、あれは面白かったですよ。それ以来、村瀬先生のファンでして。あ、握手していただいても?」
「えぇ!いいですよ。私もファンの方に出会えて嬉しいです」
私と三好警部はお互いに手を出し、握手を交わした。
「三好警部、若菜ちゃん。早く行くよ」
すでに入り口のドアを抜けていた絢辻が言う。
「…我々も行きましょうか」
「えぇ、そうですね」
私と三好警部はお互いの顔を見て笑い合うと慌てて絢辻の後を追った。
「鑑識の調べによると、死因は窒息死。おそらくクッションか何かを長時間押し付けられたのだと思います。部屋は荒らされており、金目のものは持ち去られています。遺体に争った形跡がないことから顔見知りの犯行と思われます」部屋に着くまでの移動時間に、三好が簡単な報告をしてくれた。
「第一発見者は誰なんですか?」
絢辻が貰った白手をつけながら聞いた。
「第一発見者は恋人の城島隼人三十二歳。フォトスタジオKIZIMAの経営者です。自身もプロのカメラマンとしてこの業界ではそれなりに知られているそうです。殺された恋人の葉山美月は専属モデルだったようで」
「なるほど。まずは会ってみないとですね。彼はまだ部屋に?」
「えぇ。うちの飯島が話を聞いています。どうぞこっちです」
三好が先頭に立って案内する。
被害者の部屋はマンションの六階、角を曲がった先にある一番奥の部屋だった。
「へぇ、ここだけ角の奥にあるのか。全然分からないな」
エレベーターと階段は被害者の部屋の反対側の端にある。そのため、エレベーターを降りてすぐ、全ての部屋のドアが見える。しかし、被害者の部屋は角を曲がったところにあるのでぱっと見、部屋があるとは分からない。
「曲がり角に、ちょうど被害者の部屋の方に防犯カメラが取り付けてあるんですが、それも壊されてました。死角から鈍器で一撃です」
三好が廊下の角を指差す。
確かに防犯カメラがあった。一目見て、機能していないことがわかる状態だった。
0
お気に入りに追加
2
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
友よ、お前は何故死んだのか?
河内三比呂
ミステリー
「僕は、近いうちに死ぬかもしれない」
幼い頃からの悪友であり親友である久川洋壱(くがわよういち)から突如告げられた不穏な言葉に、私立探偵を営む進藤識(しんどうしき)は困惑し嫌な予感を覚えつつもつい流してしまう。
だが……しばらく経った頃、仕事終わりの識のもとへ連絡が入る。
それは洋壱の死の報せであった。
朝倉康平(あさくらこうへい)刑事から事情を訊かれた識はそこで洋壱の死が不可解である事、そして自分宛の手紙が発見された事を伝えられる。
悲しみの最中、朝倉から提案をされる。
──それは、捜査協力の要請。
ただの民間人である自分に何ができるのか?悩みながらも承諾した識は、朝倉とともに洋壱の死の真相を探る事になる。
──果たして、洋壱の死の真相とは一体……?
幻影のアリア
葉羽
ミステリー
天才高校生探偵の神藤葉羽は、幼馴染の望月彩由美と共に、とある古時計のある屋敷を訪れる。その屋敷では、不可解な事件が頻発しており、葉羽は事件の真相を解き明かすべく、推理を開始する。しかし、屋敷には奇妙な力が渦巻いており、葉羽は次第に現実と幻想の境目が曖昧になっていく。果たして、葉羽は事件の謎を解き明かし、屋敷から無事に脱出できるのか?
没落貴族イーサン・グランチェスターの冒険
水十草
ミステリー
【第7回ホラー・ミステリー小説大賞奨励賞 受賞作】 大学で助手をしていたテオ・ウィルソンは、美貌の侯爵令息イーサン・グランチェスターの家庭教師として雇われることになった。多額の年俸と優雅な生活を期待していたテオだが、グランチェスター家の内情は火の車らしい。それでもテオには、イーサンの家庭教師をする理由があって…。本格英国ミステリー、ここに開幕!
「鏡像のイデア」 難解な推理小説
葉羽
ミステリー
豪邸に一人暮らしする天才高校生、神藤葉羽(しんどう はね)。幼馴染の望月彩由美との平穏な日常は、一枚の奇妙な鏡によって破られる。鏡に映る自分は、確かに自分自身なのに、どこか異質な存在感を放っていた。やがて葉羽は、鏡像と現実が融合する禁断の現象、「鏡像融合」に巻き込まれていく。時を同じくして街では異形の存在が目撃され、空間に歪みが生じ始める。鏡像、異次元、そして幼馴染の少女。複雑に絡み合う謎を解き明かそうとする葉羽の前に、想像を絶する恐怖が待ち受けていた。
学園ミステリ~桐木純架
よなぷー
ミステリー
・絶世の美貌で探偵を自称する高校生、桐木純架。しかし彼は重度の奇行癖の持ち主だった! 相棒・朱雀楼路は彼に振り回されつつ毎日を過ごす。
そんな二人の前に立ち塞がる数々の謎。
血の涙を流す肖像画、何者かに折られるチョーク、喫茶店で奇怪な行動を示す老人……。
新感覚学園ミステリ風コメディ、ここに開幕。
『小説家になろう』でも公開されています――が、検索除外設定です。
月夜のさや
蓮恭
ミステリー
いじめられっ子で喘息持ちの妹の療養の為、父の実家がある田舎へと引っ越した主人公「天野桐人(あまのきりと)」。
夏休み前に引っ越してきた桐人は、ある夜父親と喧嘩をして家出をする。向かう先は近くにある祖母の家。
近道をしようと林の中を通った際に転んでしまった桐人を助けてくれたのは、髪の長い綺麗な顔をした女の子だった。
夏休み中、何度もその女の子に会う為に夜になると林を見張る桐人は、一度だけ女の子と話す機会が持てたのだった。話してみればお互いが孤独な子どもなのだと分かり、親近感を持った桐人は女の子に名前を尋ねた。
彼女の名前は「さや」。
夏休み明けに早速転校生として村の学校で紹介された桐人。さやをクラスで見つけて話しかけるが、桐人に対してまるで初対面のように接する。
さやには『さや』と『紗陽』二つの人格があるのだと気づく桐人。日によって性格も、桐人に対する態度も全く変わるのだった。
その後に起こる事件と、村のおかしな神事……。
さやと紗陽、二人の秘密とは……?
※ こちらは【イヤミス】ジャンルの要素があります。どんでん返し好きな方へ。
「小説家になろう」にも掲載中。
誰何の夢から覚める時
多摩翔子
ミステリー
「隠し事のある探偵」×「記憶喪失の喫茶店マスター」×「忘れられた怪異の少女」による、"美珠町の怪異"に迫るホラー・ミステリー!
舞台はC部N県美珠町は人口一万人程度の田舎町
僕こと"すいか"は”静寂潮”という探偵に山の中で倒れているところを助けられた。
自分が”喫茶まほろば”のマスターだったこと、名前が”すいか”であること、コーヒーは水色のマグに入れること……と次々と脳内で少女の声が響き、”認識”が与えられるが、それを知るまでの”記憶”が抜け落ちていた。
部屋に残された「記憶を食べる代わりに願いを叶える怪異、みたま様」のスクラップブックを見つけてしまう。
現状を掴めないまま眠りにつくと、夢の中で「自分そっくりの顔を持つ天使の少女、みたま様」に出会い……
「あなたが記憶を思い出せないのは、この世界で”みたま様”が忘れられてしまったから」
忘れられた怪異の行方を追うため、すいかは喫茶オーナー兼駆け出し探偵助手となり、探偵静寂潮と共に、この町に隠された謎と、自分の記憶に隠された秘密を暴くため動き出す。
___例え、その先にどんな真実があろうとも
◇◇◇
こちらの作品は書き手がBLを好んでいるためそういった表現は意識していませんが、一部BLのように受け取れる可能性があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる