探偵絢辻真希の推理

無知葉 奈央

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第二話『殺意なき殺人』壱

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「今思えば、始まりは私が赤城正明殺害事件の密室の謎を解いた時ですね」
絢辻がそう言うと、黒男は右手で顎をさすりながら答えた。
「そう言えばそうですな。あれは単にあの辺りの探偵を試したに過ぎません。あんな簡単な謎が解けないような探偵に用はありませんでしたから。絢辻先生で6人目、解けたのは絢辻先生だけでしたよ。それ以降ですかな、私があなたに挑戦状を叩きつけたのは」
「えぇ。あなたの用意する謎はどれも私を楽しませてくれました。覚えていますか?葉山美月の事件を」
「あぁ。覚えているとも。あれは面白かったが、単純すぎた」
そう言うと黒男は悔しそうな顔をした。
「あれは単に容疑者の考えが甘かっただけですよ」
「いやいや、選んだ私が間違いだった。認めよう、あの事件は完全に私のミスだ」
首を左右に振りながら答えた黒男の口元にはまだ、余裕の笑みが見られた。


「恋人を探して欲しいねぇ。いいじゃん、協力してやれよ」
私は台所からマグカップを二つ持ってくると、一つをソファの前の机に置いた。
ソファでは絢辻が寝そべっている。
「そういうのは警察の仕事だと思うの。浮気調査とかならまだ探偵っぽいけど」
今朝早く私の家にやって来た絢辻は、図々しくも朝食と食後のコーヒーを要求してきた。朝食を食べ終え、私がコーヒーの用意をしていると、絢辻は昨日遅くに来たという依頼人の話を始めた。
「いいのかよ部外者に喋って。守秘義務とかあるだろ」
「あぁ、村瀬先生ならいいよいいよ。もううちの職員みたいなもんだからって所長が言ってた」
私はため息をついた。絢辻の所属する櫛木探偵事務所の所長とはまだ会ったことはないが、どうやらいい加減な人物のようだ。
私はミステリー作家だ。今日だって絢辻が来る前から新作のネタを考えていたんだ。まぁ、行き詰っていたが。
「あ、そうそう。今回の依頼に協力してくれたら事務所の取材を許可してあげるって言ってたよ」
「それを早く言え。よし、協力しよう」
所長、いい加減な人物なんて言ってすいませんでした。
私は心の中でまだ名も顔も知らない絢辻の上司に謝罪した。

絢辻は相変わらずコーヒーにはスティック砂糖を二本入れる。
それ以下でもそれ以上でもいけないらしい。
絢辻がスプーンでコーヒーに砂糖を入れてかき混ぜ、一口目を啜ったところで、絢辻の携帯が鳴った。
「はい絢辻です。はい、え?対象が!?分かりました。警察には?三好警部ですね。了解です、すぐ向かいます」
すごく嫌な予感がする。こういう時の私の予感はよく当たる。
「若菜ちゃん、車出して」
「…いちを聞いとく。何があった?」
「昨日依頼に来た大川さんの恋人、つまり捜索対象が遺体で発見されたって」
やっぱり私の予感は当たった。正直行きたくないが、手伝うと言ってしまった以上、今更無理とは言えない。
「分かった。行くぞ」
私はコートを羽織ると、机の上に置いていた車の鍵を持ち、玄関に向かった。



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