5 / 6
第二話『殺意なき殺人』壱
しおりを挟む
「今思えば、始まりは私が赤城正明殺害事件の密室の謎を解いた時ですね」
絢辻がそう言うと、黒男は右手で顎をさすりながら答えた。
「そう言えばそうですな。あれは単にあの辺りの探偵を試したに過ぎません。あんな簡単な謎が解けないような探偵に用はありませんでしたから。絢辻先生で6人目、解けたのは絢辻先生だけでしたよ。それ以降ですかな、私があなたに挑戦状を叩きつけたのは」
「えぇ。あなたの用意する謎はどれも私を楽しませてくれました。覚えていますか?葉山美月の事件を」
「あぁ。覚えているとも。あれは面白かったが、単純すぎた」
そう言うと黒男は悔しそうな顔をした。
「あれは単に容疑者の考えが甘かっただけですよ」
「いやいや、選んだ私が間違いだった。認めよう、あの事件は完全に私のミスだ」
首を左右に振りながら答えた黒男の口元にはまだ、余裕の笑みが見られた。
「恋人を探して欲しいねぇ。いいじゃん、協力してやれよ」
私は台所からマグカップを二つ持ってくると、一つをソファの前の机に置いた。
ソファでは絢辻が寝そべっている。
「そういうのは警察の仕事だと思うの。浮気調査とかならまだ探偵っぽいけど」
今朝早く私の家にやって来た絢辻は、図々しくも朝食と食後のコーヒーを要求してきた。朝食を食べ終え、私がコーヒーの用意をしていると、絢辻は昨日遅くに来たという依頼人の話を始めた。
「いいのかよ部外者に喋って。守秘義務とかあるだろ」
「あぁ、村瀬先生ならいいよいいよ。もううちの職員みたいなもんだからって所長が言ってた」
私はため息をついた。絢辻の所属する櫛木探偵事務所の所長とはまだ会ったことはないが、どうやらいい加減な人物のようだ。
私はミステリー作家だ。今日だって絢辻が来る前から新作のネタを考えていたんだ。まぁ、行き詰っていたが。
「あ、そうそう。今回の依頼に協力してくれたら事務所の取材を許可してあげるって言ってたよ」
「それを早く言え。よし、協力しよう」
所長、いい加減な人物なんて言ってすいませんでした。
私は心の中でまだ名も顔も知らない絢辻の上司に謝罪した。
絢辻は相変わらずコーヒーにはスティック砂糖を二本入れる。
それ以下でもそれ以上でもいけないらしい。
絢辻がスプーンでコーヒーに砂糖を入れてかき混ぜ、一口目を啜ったところで、絢辻の携帯が鳴った。
「はい絢辻です。はい、え?対象が!?分かりました。警察には?三好警部ですね。了解です、すぐ向かいます」
すごく嫌な予感がする。こういう時の私の予感はよく当たる。
「若菜ちゃん、車出して」
「…いちを聞いとく。何があった?」
「昨日依頼に来た大川さんの恋人、つまり捜索対象が遺体で発見されたって」
やっぱり私の予感は当たった。正直行きたくないが、手伝うと言ってしまった以上、今更無理とは言えない。
「分かった。行くぞ」
私はコートを羽織ると、机の上に置いていた車の鍵を持ち、玄関に向かった。
絢辻がそう言うと、黒男は右手で顎をさすりながら答えた。
「そう言えばそうですな。あれは単にあの辺りの探偵を試したに過ぎません。あんな簡単な謎が解けないような探偵に用はありませんでしたから。絢辻先生で6人目、解けたのは絢辻先生だけでしたよ。それ以降ですかな、私があなたに挑戦状を叩きつけたのは」
「えぇ。あなたの用意する謎はどれも私を楽しませてくれました。覚えていますか?葉山美月の事件を」
「あぁ。覚えているとも。あれは面白かったが、単純すぎた」
そう言うと黒男は悔しそうな顔をした。
「あれは単に容疑者の考えが甘かっただけですよ」
「いやいや、選んだ私が間違いだった。認めよう、あの事件は完全に私のミスだ」
首を左右に振りながら答えた黒男の口元にはまだ、余裕の笑みが見られた。
「恋人を探して欲しいねぇ。いいじゃん、協力してやれよ」
私は台所からマグカップを二つ持ってくると、一つをソファの前の机に置いた。
ソファでは絢辻が寝そべっている。
「そういうのは警察の仕事だと思うの。浮気調査とかならまだ探偵っぽいけど」
今朝早く私の家にやって来た絢辻は、図々しくも朝食と食後のコーヒーを要求してきた。朝食を食べ終え、私がコーヒーの用意をしていると、絢辻は昨日遅くに来たという依頼人の話を始めた。
「いいのかよ部外者に喋って。守秘義務とかあるだろ」
「あぁ、村瀬先生ならいいよいいよ。もううちの職員みたいなもんだからって所長が言ってた」
私はため息をついた。絢辻の所属する櫛木探偵事務所の所長とはまだ会ったことはないが、どうやらいい加減な人物のようだ。
私はミステリー作家だ。今日だって絢辻が来る前から新作のネタを考えていたんだ。まぁ、行き詰っていたが。
「あ、そうそう。今回の依頼に協力してくれたら事務所の取材を許可してあげるって言ってたよ」
「それを早く言え。よし、協力しよう」
所長、いい加減な人物なんて言ってすいませんでした。
私は心の中でまだ名も顔も知らない絢辻の上司に謝罪した。
絢辻は相変わらずコーヒーにはスティック砂糖を二本入れる。
それ以下でもそれ以上でもいけないらしい。
絢辻がスプーンでコーヒーに砂糖を入れてかき混ぜ、一口目を啜ったところで、絢辻の携帯が鳴った。
「はい絢辻です。はい、え?対象が!?分かりました。警察には?三好警部ですね。了解です、すぐ向かいます」
すごく嫌な予感がする。こういう時の私の予感はよく当たる。
「若菜ちゃん、車出して」
「…いちを聞いとく。何があった?」
「昨日依頼に来た大川さんの恋人、つまり捜索対象が遺体で発見されたって」
やっぱり私の予感は当たった。正直行きたくないが、手伝うと言ってしまった以上、今更無理とは言えない。
「分かった。行くぞ」
私はコートを羽織ると、机の上に置いていた車の鍵を持ち、玄関に向かった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
幻影のアリア
葉羽
ミステリー
天才高校生探偵の神藤葉羽は、幼馴染の望月彩由美と共に、とある古時計のある屋敷を訪れる。その屋敷では、不可解な事件が頻発しており、葉羽は事件の真相を解き明かすべく、推理を開始する。しかし、屋敷には奇妙な力が渦巻いており、葉羽は次第に現実と幻想の境目が曖昧になっていく。果たして、葉羽は事件の謎を解き明かし、屋敷から無事に脱出できるのか?
友よ、お前は何故死んだのか?
河内三比呂
ミステリー
「僕は、近いうちに死ぬかもしれない」
幼い頃からの悪友であり親友である久川洋壱(くがわよういち)から突如告げられた不穏な言葉に、私立探偵を営む進藤識(しんどうしき)は困惑し嫌な予感を覚えつつもつい流してしまう。
だが……しばらく経った頃、仕事終わりの識のもとへ連絡が入る。
それは洋壱の死の報せであった。
朝倉康平(あさくらこうへい)刑事から事情を訊かれた識はそこで洋壱の死が不可解である事、そして自分宛の手紙が発見された事を伝えられる。
悲しみの最中、朝倉から提案をされる。
──それは、捜査協力の要請。
ただの民間人である自分に何ができるのか?悩みながらも承諾した識は、朝倉とともに洋壱の死の真相を探る事になる。
──果たして、洋壱の死の真相とは一体……?
「鏡像のイデア」 難解な推理小説
葉羽
ミステリー
豪邸に一人暮らしする天才高校生、神藤葉羽(しんどう はね)。幼馴染の望月彩由美との平穏な日常は、一枚の奇妙な鏡によって破られる。鏡に映る自分は、確かに自分自身なのに、どこか異質な存在感を放っていた。やがて葉羽は、鏡像と現実が融合する禁断の現象、「鏡像融合」に巻き込まれていく。時を同じくして街では異形の存在が目撃され、空間に歪みが生じ始める。鏡像、異次元、そして幼馴染の少女。複雑に絡み合う謎を解き明かそうとする葉羽の前に、想像を絶する恐怖が待ち受けていた。
没落貴族イーサン・グランチェスターの冒険
水十草
ミステリー
【第7回ホラー・ミステリー小説大賞奨励賞 受賞作】 大学で助手をしていたテオ・ウィルソンは、美貌の侯爵令息イーサン・グランチェスターの家庭教師として雇われることになった。多額の年俸と優雅な生活を期待していたテオだが、グランチェスター家の内情は火の車らしい。それでもテオには、イーサンの家庭教師をする理由があって…。本格英国ミステリー、ここに開幕!
学園ミステリ~桐木純架
よなぷー
ミステリー
・絶世の美貌で探偵を自称する高校生、桐木純架。しかし彼は重度の奇行癖の持ち主だった! 相棒・朱雀楼路は彼に振り回されつつ毎日を過ごす。
そんな二人の前に立ち塞がる数々の謎。
血の涙を流す肖像画、何者かに折られるチョーク、喫茶店で奇怪な行動を示す老人……。
新感覚学園ミステリ風コメディ、ここに開幕。
『小説家になろう』でも公開されています――が、検索除外設定です。
舞姫【後編】
友秋
ミステリー
天涯孤独の少女は、夜の歓楽街で二人の男に拾われた。
三人の運命を変えた過去の事故と事件。
彼らには思いもかけない縁(えにし)があった。
巨大財閥を起点とする親と子の遺恨が幾多の歯車となる。
誰が幸せを掴むのか。
•剣崎星児
29歳。故郷を大火の家族も何もかもを失い、夜の街で強く生きてきた。
•兵藤保
28歳。星児の幼馴染。同じく、実姉以外の家族を失った。明晰な頭脳を持って星児の抱く野望と復讐の計画をサポートしてきた。
•津田みちる
20歳。両親を事故で亡くし孤児となり、夜の街を彷徨っていた16歳の時、星児と保に拾われ、ストリップダンサーとなる。
•桑名麗子
保の姉。星児の彼女で、ストリップ劇場香蘭の元ダンサー。みちるの師匠。
•津田(郡司)武
星児と保の故郷を残忍な形で消した男。星児と保は復讐の為に追う。
月夜のさや
蓮恭
ミステリー
いじめられっ子で喘息持ちの妹の療養の為、父の実家がある田舎へと引っ越した主人公「天野桐人(あまのきりと)」。
夏休み前に引っ越してきた桐人は、ある夜父親と喧嘩をして家出をする。向かう先は近くにある祖母の家。
近道をしようと林の中を通った際に転んでしまった桐人を助けてくれたのは、髪の長い綺麗な顔をした女の子だった。
夏休み中、何度もその女の子に会う為に夜になると林を見張る桐人は、一度だけ女の子と話す機会が持てたのだった。話してみればお互いが孤独な子どもなのだと分かり、親近感を持った桐人は女の子に名前を尋ねた。
彼女の名前は「さや」。
夏休み明けに早速転校生として村の学校で紹介された桐人。さやをクラスで見つけて話しかけるが、桐人に対してまるで初対面のように接する。
さやには『さや』と『紗陽』二つの人格があるのだと気づく桐人。日によって性格も、桐人に対する態度も全く変わるのだった。
その後に起こる事件と、村のおかしな神事……。
さやと紗陽、二人の秘密とは……?
※ こちらは【イヤミス】ジャンルの要素があります。どんでん返し好きな方へ。
「小説家になろう」にも掲載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる