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出会いと再会と~悠木ソラの場合~ 2
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講堂は熱気に包まれていた。
ほとんどの部活の発表が終了し、残すは弓道部と軽音部だ。
どちらも入学前から興味を持っていた部活。
もちろん一番入りたいのは軽音部だけれども、父親から教えられ武道もかじっていたため、今までやったことのない弓道も一度はやってみたい競技でもあった。
舞台の上では、さっきまで発表をしていたバスケットボール部の片づけが終わり、弓道部の部員が自分たちの発表の準備をしている。
部員たちが準備を進めているその前で、部長らしい女生徒がマイクを持って弓道部の紹介を始めた。
部長の進行にしたがって、部員たちが的に向かって弓を射る。
こんな風に弓を射ることが出来たら気持ちいいだろうな……そんな風に素直に感じながら見入っていると、部長に呼ばれたのか、部員の一人が舞台の前の方に出てきた。
目元の涼しい、きりっとした感じの人で、一度も染めたことのないような長く美しい髪を一つに括っている。
「え~、彼女は二年の芝本楓。うちの部のエースであり、次期主将候補でもあります。最後に、彼女に弓を射てもらいますが、せっかくなので一年生の誰かに協力してもらいたいと思います。誰かやってみたい人はいますか?」
その言葉に、一年生の席がざわつく。
みんな、手伝ってみたいような、少し恥ずかしいようなそんな気分なのだろう。自分から手を上げる強者はいなそうだ。
やってもいい……むしろやってみたいと思ったものの、悪目立ちするのは避けたかった。
そんなことを考えながら芝本という先輩を見ると、何故だか彼女もこちらを見ていた。
びっくりして思わず目を丸くすると、それが可笑しかったのかふっと彼女の唇が笑みを刻む。
そして彼女は、部長の耳元に何か耳打ちをすると、私の方を示した。
私の周りがざわざわと騒がしくなる。
「えーと、芝本がぜひ指名をしたいといってまして……ちょっと待ってください。いま、確認してます」
舞台の上もにわかに騒がしくなり、後ろに並ぶ部員たちも落ち着かない様子だ。ただ一人、芝本先輩だけが落ち着いている。
そうこうするうちに、舞台上の部長のもとへ実行委員らしい生徒が駆けつけてメモを渡す。
部長は頷き、再びマイクを口元へ寄せた。
「1年C組の悠木ソラ……さん?ちょっとその場に立っていただけますか?」
名前を呼ばれ、身がすくむ。どうしよう……と思って固まっていると、隣に座っていたクラスメイトの山根さんが、
「大丈夫?とりあえず立った方がいいんじゃない?」
と声をかけてくれた。こわばった表情のまま頷いて、それでも感謝の気持ちを込めて山根さんにちらりと微笑んで、その場に立ち上がる。
とたんにたくさんの視線が突き刺さり、思わず足が震えた。
その足の震えを根性で抑え込み、背筋を伸ばしてまっすぐ舞台を見上げた。
「ね、芝本。あの子でいいの?」
「ええ。問題ありません」
小声のやり取りをマイクが拾って私の耳まで届けてくれる。
間違いならよかったけど、どうやら間違いではないようだ。
弓道部の生徒が小走りにやってきて私の手を取り、広い場所へと引っ張り出す。
そこで的のようなものを渡されて、上に掲げて持つように指示された。
言われた通り掲げると、部員の人が私の後ろから一緒に持ってくれようとした。
優しそうなその人の道着の胸には『佐次』と名前が刺しゅうされていた。
すると舞台上から声がかかる。
「佐次。手伝わなくていい。その子一人で持たせてみな」
マイクの主はいつの間にか芝本先輩に代わっていたようだ。凛とした声が耳を打つ。
その言葉に驚いたように佐次先輩が舞台上を見る。
「でも、いきなり一人で持たせるのは……。動いたら危ないですし」
「大丈夫。その子は動かない。大丈夫だな?悠木ソラ」
問われて思わず頷く。
小さな頃から色々な武道と親しんできた。この位で怯えるほど弱虫ではない。
だが、舞台上のあの人はなぜ大丈夫と言い切れるのだろう?
外見だけで判断するなら、ただのやせっぽちで背の小さい、度胸などまるでない子供のようにしか見えないだろうに。
何処かで会ったことあったかな?……そんなことを思った瞬間、
「返事はちゃんと声に出せ!!」
厳しい声が飛んできた。
首をすくめ、反射的に声を出す。
「だ、だいじょぶ……です」
久しぶりに歌う以外で出した大きな声。
その声を聞いて、芝本先輩は満足そうに頷いている。
―やっぱり、どこかで会った事があるのかも。怒鳴られた時、なんだか懐かしかった……。
そうは思うものの、考えてみても思い出せない。
そうこうしているうちに舞台上では準備が終わっていたようだ。
「では、いく。動くんじゃないぞ」
よく通る声が命じるままに、的をしっかり持ってぴたりと構えた。
その様子を確認し、芝本先輩がゆっくりと弦を引く。
乱れのない、きれいなフォーム。
その姿に見とれる暇もなく、次の瞬間、矢が放たれた。
風を切る音がした……と思ったのと同時に衝撃が来る。
恐る恐る上を見上げると、的のど真ん中を矢が貫いていた。
「す……ごぉい」
思わず声がこぼれた。
「すごい!!かっこいい!!!」
こみ上げる興奮のままに声を上げると、舞台上で微笑んでいる人と目があった。芝本先輩は何とも愛おしそうな眼差しをこちらに向けていた。
なんで??とゆっくりそんな疑問に浸る間もなく、まだ上にささげたままだった両手から佐次先輩がそっと的を取り上げ、背中を押して生徒の群れへと戻されてしまう。
自分の場所に戻って再び舞台を見上げた時にはもうそこに、芝本先輩の姿はなかった。
「すごかった~!」
「悠木さんもよく怖くなかったね」
「ね、悠木さんってあの弓道部の先輩と知り合いなの??」
そんな質問が前後左右から押し寄せる。
だが、混乱している頭ですべての質問を処理しきれるわけもなく、ただあいまいに笑うしか出来なかった。
ほとんどの部活の発表が終了し、残すは弓道部と軽音部だ。
どちらも入学前から興味を持っていた部活。
もちろん一番入りたいのは軽音部だけれども、父親から教えられ武道もかじっていたため、今までやったことのない弓道も一度はやってみたい競技でもあった。
舞台の上では、さっきまで発表をしていたバスケットボール部の片づけが終わり、弓道部の部員が自分たちの発表の準備をしている。
部員たちが準備を進めているその前で、部長らしい女生徒がマイクを持って弓道部の紹介を始めた。
部長の進行にしたがって、部員たちが的に向かって弓を射る。
こんな風に弓を射ることが出来たら気持ちいいだろうな……そんな風に素直に感じながら見入っていると、部長に呼ばれたのか、部員の一人が舞台の前の方に出てきた。
目元の涼しい、きりっとした感じの人で、一度も染めたことのないような長く美しい髪を一つに括っている。
「え~、彼女は二年の芝本楓。うちの部のエースであり、次期主将候補でもあります。最後に、彼女に弓を射てもらいますが、せっかくなので一年生の誰かに協力してもらいたいと思います。誰かやってみたい人はいますか?」
その言葉に、一年生の席がざわつく。
みんな、手伝ってみたいような、少し恥ずかしいようなそんな気分なのだろう。自分から手を上げる強者はいなそうだ。
やってもいい……むしろやってみたいと思ったものの、悪目立ちするのは避けたかった。
そんなことを考えながら芝本という先輩を見ると、何故だか彼女もこちらを見ていた。
びっくりして思わず目を丸くすると、それが可笑しかったのかふっと彼女の唇が笑みを刻む。
そして彼女は、部長の耳元に何か耳打ちをすると、私の方を示した。
私の周りがざわざわと騒がしくなる。
「えーと、芝本がぜひ指名をしたいといってまして……ちょっと待ってください。いま、確認してます」
舞台の上もにわかに騒がしくなり、後ろに並ぶ部員たちも落ち着かない様子だ。ただ一人、芝本先輩だけが落ち着いている。
そうこうするうちに、舞台上の部長のもとへ実行委員らしい生徒が駆けつけてメモを渡す。
部長は頷き、再びマイクを口元へ寄せた。
「1年C組の悠木ソラ……さん?ちょっとその場に立っていただけますか?」
名前を呼ばれ、身がすくむ。どうしよう……と思って固まっていると、隣に座っていたクラスメイトの山根さんが、
「大丈夫?とりあえず立った方がいいんじゃない?」
と声をかけてくれた。こわばった表情のまま頷いて、それでも感謝の気持ちを込めて山根さんにちらりと微笑んで、その場に立ち上がる。
とたんにたくさんの視線が突き刺さり、思わず足が震えた。
その足の震えを根性で抑え込み、背筋を伸ばしてまっすぐ舞台を見上げた。
「ね、芝本。あの子でいいの?」
「ええ。問題ありません」
小声のやり取りをマイクが拾って私の耳まで届けてくれる。
間違いならよかったけど、どうやら間違いではないようだ。
弓道部の生徒が小走りにやってきて私の手を取り、広い場所へと引っ張り出す。
そこで的のようなものを渡されて、上に掲げて持つように指示された。
言われた通り掲げると、部員の人が私の後ろから一緒に持ってくれようとした。
優しそうなその人の道着の胸には『佐次』と名前が刺しゅうされていた。
すると舞台上から声がかかる。
「佐次。手伝わなくていい。その子一人で持たせてみな」
マイクの主はいつの間にか芝本先輩に代わっていたようだ。凛とした声が耳を打つ。
その言葉に驚いたように佐次先輩が舞台上を見る。
「でも、いきなり一人で持たせるのは……。動いたら危ないですし」
「大丈夫。その子は動かない。大丈夫だな?悠木ソラ」
問われて思わず頷く。
小さな頃から色々な武道と親しんできた。この位で怯えるほど弱虫ではない。
だが、舞台上のあの人はなぜ大丈夫と言い切れるのだろう?
外見だけで判断するなら、ただのやせっぽちで背の小さい、度胸などまるでない子供のようにしか見えないだろうに。
何処かで会ったことあったかな?……そんなことを思った瞬間、
「返事はちゃんと声に出せ!!」
厳しい声が飛んできた。
首をすくめ、反射的に声を出す。
「だ、だいじょぶ……です」
久しぶりに歌う以外で出した大きな声。
その声を聞いて、芝本先輩は満足そうに頷いている。
―やっぱり、どこかで会った事があるのかも。怒鳴られた時、なんだか懐かしかった……。
そうは思うものの、考えてみても思い出せない。
そうこうしているうちに舞台上では準備が終わっていたようだ。
「では、いく。動くんじゃないぞ」
よく通る声が命じるままに、的をしっかり持ってぴたりと構えた。
その様子を確認し、芝本先輩がゆっくりと弦を引く。
乱れのない、きれいなフォーム。
その姿に見とれる暇もなく、次の瞬間、矢が放たれた。
風を切る音がした……と思ったのと同時に衝撃が来る。
恐る恐る上を見上げると、的のど真ん中を矢が貫いていた。
「す……ごぉい」
思わず声がこぼれた。
「すごい!!かっこいい!!!」
こみ上げる興奮のままに声を上げると、舞台上で微笑んでいる人と目があった。芝本先輩は何とも愛おしそうな眼差しをこちらに向けていた。
なんで??とゆっくりそんな疑問に浸る間もなく、まだ上にささげたままだった両手から佐次先輩がそっと的を取り上げ、背中を押して生徒の群れへと戻されてしまう。
自分の場所に戻って再び舞台を見上げた時にはもうそこに、芝本先輩の姿はなかった。
「すごかった~!」
「悠木さんもよく怖くなかったね」
「ね、悠木さんってあの弓道部の先輩と知り合いなの??」
そんな質問が前後左右から押し寄せる。
だが、混乱している頭ですべての質問を処理しきれるわけもなく、ただあいまいに笑うしか出来なかった。
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