♀→♂への異世界転生~年上キラーの勝ち組人生、姉様はみんな僕の虜~

高嶺 蒼

文字の大きさ
上 下
264 / 545
第三部 学校へ行こう

第二百三十話 お見舞いとお料理教室

しおりを挟む
 翌週から中等学校へしばらく授業体験に通うことが決まっている週末。
 シュリは、ルゥのお父さんのお見舞いのために、彼女の家を訪れていた。

 食材は準備してきた。
 今日はこの食材を使って、ルゥのお父さんに胃にも心にも優しい料理を食べてもらう。
 ルゥの料理の、見た目は悪くないのに味が劇的な部分を、こっそり矯正しながら。

 予定しているお料理は、相手が病人な事もあってごく簡単なもの。
 下町では良く食べられている米を仕入れてきたので、それを使ってお粥を作る。
 といっても、ただのお粥ではない。
 色々な野菜をぶち込んで一緒に煮込む、中華風のお粥である。

 前世では、風邪をひくといつもこれを作って食べていた。
 米も野菜も柔らかくて消化にいいし、生姜も入れておけば体も温まる、体調の悪い体に優しい一品なのだ。

 果たしてお粥でルゥの料理の練習になるのか疑問に思う人もいるかもしれないが、彼女の場合、野菜を切ったり刻んだりという、下拵えの部分の技術は特に問題は見あたらない。
 彼女の料理の問題点は味付けという一点と、味見の習慣が身につかないという部分にある……シュリはそう睨んでいた。
 なので、料理行程が複雑でないお粥であっても、十分にお料理教室の教材になるはずである。

 いつもなら、街へ出るシュリの傍らには、愛の奴隷の誰かが必ずいるのだが、今日はその姿はない。
 いつものようにお供を決めるためのじゃんけんを始めようとした三人に、友達の家へ遊びに……というかお見舞いにいくのだから、付き添いはいらないと断ったからだ。

 そんなシュリの意見は、少々渋られたもののなんとか受け入れられ、受け入れた代わりに馬車を押しつけられた。
 街中を一人で歩くのは危険だという理由からだが、体の中に五人の精霊が住んでいる上に、呼べばすぐに来てくれる眷属という名のペットが三人もいるシュリに、どんな危険があると言うのだろう。
 そう思いはしたが、シュリの事を心配して言ってくれているのだから、とそのおせっかいを受け入れ、シュリは今、食材を入れた袋を膝の上に抱えて馬車に揺られている。 

 乗り込んでからそれなりに時間もたつから、もうじき馬車も目的地に着くことだろう。
 そんなことを思っている間に、馬車は徐々に速度をゆるめ、ゆっくりとその動きを止めた。
 御者のおじさんが外で動き回る気配を感じつつ、シュリは大人しく呼ばれるのを待つ。
 別に、降りるための段をつけてくれなくても降りられるけど、貴族とはそう言うものだというのだから仕方がない。
 貴族というものは、とにかく色々な人の世話になって生きる生き物なのだ。


 「シュリ様、お待たせしました」


 御者のおじさんの、そんな言葉と共に馬車の扉が開かれる。
 シュリは差し出されたおじさんの手をとって、馬車から外の地面へと降り立った。

 にこにこと、優しげな笑顔で見守ってくれるおじさんを、横目でちらりと見る。
 なんというか、微妙にフェミニンになっていると思うのは気のせいだろうか。
 御者服の基本はそのままに、おそらく自らつけたのであろう綺麗なレースが至る所にあしらわれていた。
 仕事が終わった後、自室でチクチクと裁縫仕事をするおじさんの様子が目に浮かぶようである。

 そんなことを思いながらじぃっとおじさんのを見上げていると、主の視線に恥じらうようにその頬がぽっと染まる。
 なんというか、妙に可憐なのがなんとも言えない。

 シュリは、ツヤツヤでお手入れのいいおじさんの顔を半眼で見つめ、ふぅと小さく息をついた。
 そして思う。
 まあ、似合ってるからいいか、と。
 そんな可愛らしくマイナーチェンジしたおじさんに、


 「いってらっしゃいませ」


 と見送られ、シュリはルゥの家の前に立つ。
 背伸びをして、ノッカーに手を伸ばすが、いかんせん身長が足りない。
 むぅ、と唇を尖らせたシュリの小柄な体を後ろから誰かがひょいと抱き上げてくれた。


 「さ、シュリ。遠慮なく叩いて来訪を知らせるといい」


 そう言って凛々しくも優しく笑うのは大地の精霊・グランスカ。
 じゃあ、遠慮なくとノッカーに手を伸ばし、自分の訪問を告げた。


 「ありがとう、グラン。助かったよ」


 地面に降ろされた後、彼女を見上げて礼を言うと、チョコレート色の肌の、凛々しくも美しい精霊は、嬉しそうにその表情を緩め、


 「今日のシュリ当番は私だからな。これくらいは役得というものだ。ではな、シュリ。困ったらいつでも私を呼べ」


 そう言って姿を消した。そんな彼女の残像を見上げたまま、シュリは首を傾げる。


 (シュリ当番って、なに?)


 と。
 だが、この間から何度か聞く機会のあった言葉の謎をとく時間もなく、


 「いらっしゃい、シュー君」


 そんな言葉と共に目の前の扉が開いた。
 そこにいたのは、淡いピンクのワンピースに身を包んだ、お嬢様っぽい姿のルゥと、


 「ようこそ。シュリ君……だったかしら?よく、来てくれたわね」


 彼女の傍らに立つ、優しげな美人さんの姿。
 数年前、一度だけ会ったことのあるルゥのお母さんだが、以前の印象と変わらず若々しくて綺麗な人だ。
 大きな瞳におっとりとした垂れ目は、ルゥの大きいけれど切れ長の目とは違っていて、ルゥの顔立ちはお父さん譲りなんだなぁと連想させる。


 (ルゥはお父さん似かぁ。でも、まあ、うん)


 二人の顔を見比べた後、シュリの視線はわずかに下へと流れる。


 (似てるところも、無くはないのかぁ)


 育ちのいいお母さんの遺伝もあってか、ルゥも順調に成長させているようだ。
 まあ、どことは言わないが。
 そんな風に、シュリの視線が一瞬下に流れたことで、


 (やっぱり、シュー君はおっきい方が好きなんだね)


 ルゥの、そんな誤解を促進させた事は言うまでもない。
 ルゥは、ちょっと胸元が開きすぎじゃないかな?とお父さんが難色を示したという曰く付きのワンピース姿で、ぐっと拳を握った。

 が、当のシュリはそんなルゥの内心など伺い知るすべはなく、にこにこと愛らしい笑顔で二人の顔を交互に見上げ、


 「こんにちは。お邪魔します」


 と丁寧に頭を下げるのだった。
しおりを挟む
感想 221

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

異世界転生漫遊記

しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は 体を壊し亡くなってしまった。 それを哀れんだ神の手によって 主人公は異世界に転生することに 前世の失敗を繰り返さないように 今度は自由に楽しく生きていこうと 決める 主人公が転生した世界は 魔物が闊歩する世界! それを知った主人公は幼い頃から 努力し続け、剣と魔法を習得する! 初めての作品です! よろしくお願いします! 感想よろしくお願いします!

処理中です...