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第三部 学校へ行こう
第二百十七話 エリザベスは見た!?⑦
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イルルの膨大なコレクションからブラシを選び、二人そろってシュリの部屋へ戻ると、そこにはまだ部屋の主の姿は見あたらなかった。
どうやらまだ、呼び出された用事が終わっていないようだ。
「むぅ~、シュリはまだ戻っておらんのぅ。仕方ないから、何かして遊んでおるか?二人で寂しければポチやタマを呼んでも良いぞ??」
ほっぺを可愛く膨らませたイルルのその提案を聞きながら、エリザベスは足をきゅっと内股にしてもじもじした後、そっとイルルの服の袖を引いた。
「その、遊ぶのも別にかまいませんけれど、その前に、お手洗いに……」
「む?おしっこか??」
「ちょ、こ、声が大きいですわ」
「じゃが、妾達以外誰もおらんぞ?じゃったら声が大きかろうと小さかろうとかまわんじゃろ?」
「ま、まあ、そうですけれど……レディーはそう言うことを大きな声で言ったりしないものなんですのよ?貴方は少し、でりかしーに欠けますわ!」
「うにゅ?そういうものか??人間の考えることは色々小難しいのぅ」
ぷりぷりするエリザベスの顔を不思議そうに見上げ、イルルは小首を傾げる。
なんで怒るのかまるでわからないという様にきょとんとするイルルになんだか毒気を抜かれ、エリザベスは小さく息を吐き出してから改めてイルルに道案内をお願いした。
「うむっ。任せておくのじゃ」
とまっ平らな胸を叩き、請け負うイルル。
「にゅーがくしきの時とは反対じゃ。今度は妾がしっかり案内してやるからの」
シュリの部屋を出たイルルは、にこにこしながらエリザベスを案内して歩く。
シュリの部屋からトイレへの道のりはそう遠いわけではなく、あっという間にたどり着くはずだった。
……何事もなければ。
「……っふ……んっ、んんっ……」
押し殺したような、そんな艶声が聞こえたのはその時だった。
「ぬっ!?いかん!!」
曲がり角の直前で、イルルは慌てたようにエリザベスの手を引き、壁にぺったりとへばりついた。
「ちょ、な、なんですの!?きゅ、急に手を引っ張ったりして??ぎ、ぎりぎりなんですから、色々と考慮して頂けないかしら!?」
「しっ!!静かに、なのじゃ」
残された片手で、とっさにお股を押さえたエリザベスがイルルに抗議する。
が、イルルは即座にその口をふさいでそっと曲がり角の先の様子を伺った。
「……どうやら、気づかれなかったようなのじゃ」
ほっと息をつき、
「気づかれたら危険なのじゃ。くるくる、大人しくしておるのじゃぞ?」
そう言いながらエリザベスを解放してくれた。
「うう~……ちょ、ちょっと出てしまいましたわぁ」
「ん?どうしたのじゃ??」
涙目で呟くエリザベスの顔を、イルルが不思議そうに見上げる。
エリザベスは慌ててぶんぶんと首を横に振り、
「な、何でもありませんわ。ワタクシがお漏らしをするなんて事、あるはずがございませんでしょう!?そっ、それより、一体なにごとですの??」
隠しきれない動揺を誤魔化すように、そう質問した。
「んむ?気になるなら、ほれ、ちょっとのぞいてみればいいのじゃ」
気づかれんように気をつけるのじゃぞ~?と注意を受けつつ、エリザベスはそうっと廊下の角の先を覗き見する。
すると、その目に飛び込んできたのは何ともハレンチな光景だった。
廊下の先にはシュリがいた。
だが、そこにいたのはシュリだけではない。
シュリの前に膝を突き、顔の位置を彼と同じ高さにしている人物が居る。
その人物に、エリザベスは見覚えがあった。
そこにいたのはこの屋敷を訪れて、最初に顔を合わせた人物。
シュリの秘書と自ら名乗った女性、ジュディスだった。
彼女は、知的で美しい顔をうっとりとさせて、主であるシュリに己の顔を寄せていた。
遠目に見ても、その唇と唇はしっかりばっちりくっついている様に見え、更に言うなら大分深く繋がりあっているようにも見える。
それはどう見ても、口づけをしているようにしか見えなかった。
だが、幼いシュリといい大人なジュディスが口づけを交わすなど、常識的にあり得ない。
意外と常識人なエリザベスはそう思い、まずは己の目を疑った。
(ワ、ワタクシの見間違いかしら……)
あり得ない現実を受け入れられず、エリザベスはこしこしと己の目をこする。
だが、そうしたところで目の前の光景が変わるはずもなく、エリザベスはがばりと振り向くと、イルルの肩をがっとつかんだ。
「なっ、なっ、なっ……な、なんなんですのぉ!?あれは!?」
出来るだけ小声で、だが激しい剣幕でイルルに迫る。
だが、イルルの方は至ってのんびりした顔だ。
「ん?なにかと言われてもの~。見ればわかるじゃろ??」
「わ、わ、わ、わからないから聞いてるんじゃありませんの!?」
「うにゅ?わからんのか??くるくるは見た目と違って結構ウブなんじゃの~」
「見た目と違ってってどういうことですの!?ワタクシは見た目も中身も純情そのものですわっ」
むきぃっとなったエリザベスをどうどうとなだめつつ、イルルもちらりと廊下の先に目をやる。
そこでは相も変わらずシュリとジュディスが熱烈なキスを交わしている真っ最中で。
幸せそうにとろけているジュディスの顔を見て、イルルは思う。
(ちゅ~というものは、それほどいいものかのう?)
と。
イルルに言わせれば、口と口をくっつけるより、シュリにブラッシングをして貰う方がよほど気持ちいい。
とはいえ、イルルはまだ、シュリとキスをしたことなどないのだが。
(妾は、いつでもどこでも発情をする輩とは違うのじゃぞ~)
むふんと鼻息を吐き出しつつ、イルルはそんなことを思う。
まあ、海千山千のお姉様方から言わせれば、何も知らない子供の戯れ言だと、鼻で笑われてしまうだろうが。
「あれはの~、いわゆる、ちゅーというものなのじゃ」
「ちゅー……やはり、あれは口づけ……接吻という事なのですわね」
「接吻……お主、やけに古くさい言い回しをするのう。じゃが、まあ、その通りじゃな。ジュディスはシュリとちゅーするのが好きでのぅ。暇さえあればちゅっちゅしておるのじゃ。恐らくさっきの呼び出しも、色々理由をこさえてシュリと二人っきりになりたかっただけなのじゃろ。ずっこいジュディスがよく使う手なのじゃ」
「ひ、暇さえあればちゅっちゅ……は、はれんち……ですわっ」
エリザベスはぷるぷる震えて拳を握る。
そんな彼女を、イルルはおもしろそうに眺め、それからふと気がついたように口を開いた。
「そう言えばお主、おしっこはもうよいのか??」
「あ!!!!」
イルルの事ですっかり忘れていた尿意を思い出したエリザベスは大事な場所を押さえてへなへなと座り込んでしまう。
「わ、忘れてましたわ。ま、まずいですわ……も、もう限界ですの……」
真っ青な顔をしてうめくエリザベス。
一歩でも自力で動こうものなら、なんとか決壊を押しとどめているダムが突き崩されてしまいそうだった。
そんなエリザベスを、やれやれとあきれ顔で見下ろすイルル。
だが、さすがにお漏らしをさせるのも可哀想だと思った彼女は、エリザベスをひょいと抱え上げると、シュリとジュディスがいちゃついているのとは別のルートでトイレへと向かう。
「はえ?ちょ、あの!?」
「漏れそうなんじゃろ?妾に任せておくのじゃ。超特急でトイレに一直線なのじゃ!!」
そう言って、ものすごい勢いで移動し始めるイルル。
それは完全に親切心から出た行動。
だが、自分で歩くのと同じくらい、他人に持ち上げられて運ばれる振動は、膀胱にきた……。
「ちょ、まっ!?お、おおおお、お気持ちは嬉しいのですけれど、もう少しゆっくり……し、振動は危険っ……危険ですわ……で、ですから、そ、そんなに揺らさないで……揺ら……あーーーー!!!!」
遠く、廊下の先から、エリザベスの悲痛な悲鳴が響く。
「んぉ?どうしたのじゃ?そんな悲鳴をあげ……ぬぉぉぉっ!!生ぬるいっっ!?なにやら生ぬるい液体が流れてぇぇぇっ!?」
更に、イルルのそんな、切ない悲鳴も聞こえてきて。
夢中でキスをしていたシュリは、ふと顔を上げて後ろを振り向いた。
「……シュリ様?」
急にキスを中断した愛しい人を、ジュディスの潤んだ瞳が見つめる。
どうしたのか?と問うように。
後ろをうかがっていたシュリは小首を傾げ、それからジュディスの方へ再び向き直ると、その頬を撫でてなんでもないよと柔らかく微笑んだ。
(なんだかエリザベスとかイルルの声が聞こえた気がしたけど、気のせいだよね、きっと……)
シュリは己の中の疑念をそんな風に片づけ、ジュディスに望まれるまま再び彼女の唇に己の唇を重ね合わせるのだった。
どうやらまだ、呼び出された用事が終わっていないようだ。
「むぅ~、シュリはまだ戻っておらんのぅ。仕方ないから、何かして遊んでおるか?二人で寂しければポチやタマを呼んでも良いぞ??」
ほっぺを可愛く膨らませたイルルのその提案を聞きながら、エリザベスは足をきゅっと内股にしてもじもじした後、そっとイルルの服の袖を引いた。
「その、遊ぶのも別にかまいませんけれど、その前に、お手洗いに……」
「む?おしっこか??」
「ちょ、こ、声が大きいですわ」
「じゃが、妾達以外誰もおらんぞ?じゃったら声が大きかろうと小さかろうとかまわんじゃろ?」
「ま、まあ、そうですけれど……レディーはそう言うことを大きな声で言ったりしないものなんですのよ?貴方は少し、でりかしーに欠けますわ!」
「うにゅ?そういうものか??人間の考えることは色々小難しいのぅ」
ぷりぷりするエリザベスの顔を不思議そうに見上げ、イルルは小首を傾げる。
なんで怒るのかまるでわからないという様にきょとんとするイルルになんだか毒気を抜かれ、エリザベスは小さく息を吐き出してから改めてイルルに道案内をお願いした。
「うむっ。任せておくのじゃ」
とまっ平らな胸を叩き、請け負うイルル。
「にゅーがくしきの時とは反対じゃ。今度は妾がしっかり案内してやるからの」
シュリの部屋を出たイルルは、にこにこしながらエリザベスを案内して歩く。
シュリの部屋からトイレへの道のりはそう遠いわけではなく、あっという間にたどり着くはずだった。
……何事もなければ。
「……っふ……んっ、んんっ……」
押し殺したような、そんな艶声が聞こえたのはその時だった。
「ぬっ!?いかん!!」
曲がり角の直前で、イルルは慌てたようにエリザベスの手を引き、壁にぺったりとへばりついた。
「ちょ、な、なんですの!?きゅ、急に手を引っ張ったりして??ぎ、ぎりぎりなんですから、色々と考慮して頂けないかしら!?」
「しっ!!静かに、なのじゃ」
残された片手で、とっさにお股を押さえたエリザベスがイルルに抗議する。
が、イルルは即座にその口をふさいでそっと曲がり角の先の様子を伺った。
「……どうやら、気づかれなかったようなのじゃ」
ほっと息をつき、
「気づかれたら危険なのじゃ。くるくる、大人しくしておるのじゃぞ?」
そう言いながらエリザベスを解放してくれた。
「うう~……ちょ、ちょっと出てしまいましたわぁ」
「ん?どうしたのじゃ??」
涙目で呟くエリザベスの顔を、イルルが不思議そうに見上げる。
エリザベスは慌ててぶんぶんと首を横に振り、
「な、何でもありませんわ。ワタクシがお漏らしをするなんて事、あるはずがございませんでしょう!?そっ、それより、一体なにごとですの??」
隠しきれない動揺を誤魔化すように、そう質問した。
「んむ?気になるなら、ほれ、ちょっとのぞいてみればいいのじゃ」
気づかれんように気をつけるのじゃぞ~?と注意を受けつつ、エリザベスはそうっと廊下の角の先を覗き見する。
すると、その目に飛び込んできたのは何ともハレンチな光景だった。
廊下の先にはシュリがいた。
だが、そこにいたのはシュリだけではない。
シュリの前に膝を突き、顔の位置を彼と同じ高さにしている人物が居る。
その人物に、エリザベスは見覚えがあった。
そこにいたのはこの屋敷を訪れて、最初に顔を合わせた人物。
シュリの秘書と自ら名乗った女性、ジュディスだった。
彼女は、知的で美しい顔をうっとりとさせて、主であるシュリに己の顔を寄せていた。
遠目に見ても、その唇と唇はしっかりばっちりくっついている様に見え、更に言うなら大分深く繋がりあっているようにも見える。
それはどう見ても、口づけをしているようにしか見えなかった。
だが、幼いシュリといい大人なジュディスが口づけを交わすなど、常識的にあり得ない。
意外と常識人なエリザベスはそう思い、まずは己の目を疑った。
(ワ、ワタクシの見間違いかしら……)
あり得ない現実を受け入れられず、エリザベスはこしこしと己の目をこする。
だが、そうしたところで目の前の光景が変わるはずもなく、エリザベスはがばりと振り向くと、イルルの肩をがっとつかんだ。
「なっ、なっ、なっ……な、なんなんですのぉ!?あれは!?」
出来るだけ小声で、だが激しい剣幕でイルルに迫る。
だが、イルルの方は至ってのんびりした顔だ。
「ん?なにかと言われてもの~。見ればわかるじゃろ??」
「わ、わ、わ、わからないから聞いてるんじゃありませんの!?」
「うにゅ?わからんのか??くるくるは見た目と違って結構ウブなんじゃの~」
「見た目と違ってってどういうことですの!?ワタクシは見た目も中身も純情そのものですわっ」
むきぃっとなったエリザベスをどうどうとなだめつつ、イルルもちらりと廊下の先に目をやる。
そこでは相も変わらずシュリとジュディスが熱烈なキスを交わしている真っ最中で。
幸せそうにとろけているジュディスの顔を見て、イルルは思う。
(ちゅ~というものは、それほどいいものかのう?)
と。
イルルに言わせれば、口と口をくっつけるより、シュリにブラッシングをして貰う方がよほど気持ちいい。
とはいえ、イルルはまだ、シュリとキスをしたことなどないのだが。
(妾は、いつでもどこでも発情をする輩とは違うのじゃぞ~)
むふんと鼻息を吐き出しつつ、イルルはそんなことを思う。
まあ、海千山千のお姉様方から言わせれば、何も知らない子供の戯れ言だと、鼻で笑われてしまうだろうが。
「あれはの~、いわゆる、ちゅーというものなのじゃ」
「ちゅー……やはり、あれは口づけ……接吻という事なのですわね」
「接吻……お主、やけに古くさい言い回しをするのう。じゃが、まあ、その通りじゃな。ジュディスはシュリとちゅーするのが好きでのぅ。暇さえあればちゅっちゅしておるのじゃ。恐らくさっきの呼び出しも、色々理由をこさえてシュリと二人っきりになりたかっただけなのじゃろ。ずっこいジュディスがよく使う手なのじゃ」
「ひ、暇さえあればちゅっちゅ……は、はれんち……ですわっ」
エリザベスはぷるぷる震えて拳を握る。
そんな彼女を、イルルはおもしろそうに眺め、それからふと気がついたように口を開いた。
「そう言えばお主、おしっこはもうよいのか??」
「あ!!!!」
イルルの事ですっかり忘れていた尿意を思い出したエリザベスは大事な場所を押さえてへなへなと座り込んでしまう。
「わ、忘れてましたわ。ま、まずいですわ……も、もう限界ですの……」
真っ青な顔をしてうめくエリザベス。
一歩でも自力で動こうものなら、なんとか決壊を押しとどめているダムが突き崩されてしまいそうだった。
そんなエリザベスを、やれやれとあきれ顔で見下ろすイルル。
だが、さすがにお漏らしをさせるのも可哀想だと思った彼女は、エリザベスをひょいと抱え上げると、シュリとジュディスがいちゃついているのとは別のルートでトイレへと向かう。
「はえ?ちょ、あの!?」
「漏れそうなんじゃろ?妾に任せておくのじゃ。超特急でトイレに一直線なのじゃ!!」
そう言って、ものすごい勢いで移動し始めるイルル。
それは完全に親切心から出た行動。
だが、自分で歩くのと同じくらい、他人に持ち上げられて運ばれる振動は、膀胱にきた……。
「ちょ、まっ!?お、おおおお、お気持ちは嬉しいのですけれど、もう少しゆっくり……し、振動は危険っ……危険ですわ……で、ですから、そ、そんなに揺らさないで……揺ら……あーーーー!!!!」
遠く、廊下の先から、エリザベスの悲痛な悲鳴が響く。
「んぉ?どうしたのじゃ?そんな悲鳴をあげ……ぬぉぉぉっ!!生ぬるいっっ!?なにやら生ぬるい液体が流れてぇぇぇっ!?」
更に、イルルのそんな、切ない悲鳴も聞こえてきて。
夢中でキスをしていたシュリは、ふと顔を上げて後ろを振り向いた。
「……シュリ様?」
急にキスを中断した愛しい人を、ジュディスの潤んだ瞳が見つめる。
どうしたのか?と問うように。
後ろをうかがっていたシュリは小首を傾げ、それからジュディスの方へ再び向き直ると、その頬を撫でてなんでもないよと柔らかく微笑んだ。
(なんだかエリザベスとかイルルの声が聞こえた気がしたけど、気のせいだよね、きっと……)
シュリは己の中の疑念をそんな風に片づけ、ジュディスに望まれるまま再び彼女の唇に己の唇を重ね合わせるのだった。
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