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第三部 学校へ行こう

第二百十二話 エリザベスは見た!?②

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 エリザベスを連れて家の扉をくぐると、そこにはまるでシュリの存在を察知していたかのようにジュディスが待ちかまえていた。


 「お帰りなさいませ、シュリ様」


 きらきらの笑顔で出迎えてくれたジュディスが差し出した手に、シュリはそっと自分の荷物を預けると、彼女の背後をちらっと確認する。
 するとやはり奥の方から、


 「きょ、今日こそは私が一番にシュリ様をお迎えせねばっ!!」


 と執事のセバスの声が聞こえた。
 おじい様の時代から仕えてくれている彼も、もうおじいちゃんと言っていい年ではあるのだが、まだまだ元気に現役を続けてくれている。
 家族のみんなを誰より先に迎えるのを誇りにしている彼だが、シュリに関しては常にジュディスに負け越しているのが現状だ。
 まだ見えぬセバスの姿と、ばたばたと執事らしからぬ足音を聞きながらシュリは思う。


 (残念、セバス。きっとセバスがスタートする頃には、ジュディスのスタンバイ、終わっちゃってると思うんだ……)


 玄関が開いたときに鳴る、扉に設置されたベルの音を聞いてから向かうのでは遅いのだ。
 どうやってだか分からないが、ジュディスはそれよりも遙かに早くシュリの気配を察知して、玄関で嬉々として待機しているのだから。
 まるでご主人様の帰宅を待つ、忠実なわんこの様に。

 そんな彼女の行動に苦笑しつつも愛おしく思い、シュリはご苦労様の思いを込めて微笑みかけ、それから傍らのエリザベスを紹介する事にする。
 因みに、イルルはジュディスの視線を避けるようにシュリの陰に隠れているようだ。
 流石のイルルも、己の行動がジュディスにバレるのはまずいと思うだけの頭はあるのだろう。
 ちっちゃくなって、一生懸命に己の身を隠そうとする様子はなんだか可愛らしかったが、きっとジュディスにはバレバレだと思う。
 だが、そのことにはあえてふれず、


 「ジュディス、彼女は僕のクラスメイトでイルルの友達のエリザベスだよ。今日は遊びに来てくれたんだ」


 ジュディスにエリザベスの事を紹介した。
 そして、エリザベスに向き直ると、


 「エリザベス、彼女は僕の秘書をしてくれてるジュディスだよ」


 そう言って、一応ジュディスの事を紹介しておいた。
 エリザベスは微妙な表情でシュリとジュディスを見比べて、


 「秘書、ですの?貴方の??」


 そんな疑問を口にした。
 まあ、その疑問ももっともだと思う。
 どう考えても、シュリの様なちびっ子に妙齢の美人秘書がいるなんておかしいと思うし。
 シュリは苦笑混じりに、エリザベスの質問に答えた。


 「おじ様から、将来の勉強の為だとかで小さな町……というか村の管理を任さてるんだけど。正直、僕一人じゃどうにもならないから、ジュディスに手伝ってもらってるんだ。まあ、ほとんどジュディスにまかせっきりなんだけどさ」

 「シュリ様、それはご謙遜が過ぎるというものですよ?私はあくまでシュリ様の補佐でしかないんですから」


 ジュディスがすぐにそう言ってくれはしたが、シュリのやっていることなど、ジュディスの報告を聞いて、書類に判を押すくらいの事である。
 あとは、たまにカレンを護衛にお忍びで、村の様子を見に行くことくらいだろうか。
 村の人達は、シュリのことを風変わりな金持ちのボンボンぐらいに思っているようで、行くとみんなから可愛がられた。
 因みに最近は村のお姉さま方の肉食獣のような熱い視線が怖くなってきたので、少々足が遠のいてはいるのだが。
 でもまあ一応、村の運営は順調である。


 「む、村の管理……この年で?」

 「まあ、ほら、僕にはこの通り優秀な秘書がいるし、ね?」

 「いやですわ、シュリ様。優秀で美人で床上手な秘書だなんて。ほめすぎです」


 エリザベスが呆然とつぶやき、シュリが苦笑し、ジュディスがくねくねと身をよじる。
 僕、優秀ってとこしか言ってないんだけどなぁと思いつつ、訂正しても無駄だと分かっているシュリは、ジュディスの暴走をスルーして、


 「じゃあ、ジュディス。僕たちは部屋に行くよ。シャイナに、お茶の用意を頼んで貰える?」


 そんなお願いと共に小さく小首を傾げてジュディスを見上げた。
 主の可愛らしい仕草に、ジュディスは反射的に鼻を片手で押さえながら、


 「かしこまりました、シュリ様。そのように手配いたしますね。エリザベス様、ごゆっくりお過ごし下さい。……イルルは、ちょっとここに残って貰えるかしら?」


 そう言って、シュリとエリザベスにはにっこり艶やかな笑顔を向け、その後ろに隠れたままのイルルをまるで笑っていない瞳で見つめた。


 「なっ、なぜじゃ!?わ、妾がなにをしたと!?」

 「勝手に馬車に乗り込んで、勝手に迎えに行って、シュリ様にご迷惑をおかけしたのよね?」

 「おっ、お主……どうしてそれを!?」

 「シュリ様の事で私に分からない事があるとでも?観念なさい」

 「むぐっ!!じゃ、じゃが、妾は友達の接待をせねばならんのじゃ。じゃから、お仕置きは後にして……」

 「大丈夫。あっという間に終わらせてあげる。さ、シュリ様達はお部屋へどうぞ?」

 「う、うん。い、いこうか?エリザベス」

 「いっ、いやじゃ~!!見捨てないで欲しいのじゃ~~!!」


 ジュディスのにっこり笑顔で促されたシュリは、エリザベスの手を引いて素直に部屋に向かおうとしたが、その足下にイルルがしがみつく。
 だが、直後にその襟首をがっしりつかんだジュディスにあっけなく引きはがされてしまった。


 「これ以上、シュリ様を煩わせるとどうなるか、分かっているのかしら?イルル??入学式の時といい、今日といい、温厚な私もそろそろ限界よ??」

 「むぐぐぐっ。お仕置きは怖いが、逆らうのはもっと怖そうなのじゃ……し、仕方ないのう……」


 ジュディスにつまみ上げられたまま、イルルはがっくりと肩を落とす。
 彼女はそんなイルルをどこか満足そうに見つめ、


 「では、シュリ様とエリザベス様はお先に。イルルは用事が終わり次第、そちらへ行かせますので」


 そう言って、再度シュリを促した。


 「うん。じゃあ、後でね?イルル」

 「……うむ。いた仕方ないのじゃ。ま、まあ、ジュディスもあっという間に終わるといっておるのだから、きっとあっという間に終わるのじゃろ……その内容がどんなものであれ、の……」


 
 シュリは逆らわずに頷き、エリザベスの手を引いて自分の部屋へと向かう。
 その背中を、うつろな笑いのイルルと、それを逃がすまいとがっしり捕まえているジュディスのにっこり笑顔が見送った。
 エリザベスはさすがにイルルが気になるようで、シュリに手を引かれながら振り返り、


 「い、いいんですの?置いてきてしまって……」


 そんな心配そうな声を上げる。
 その言葉に、シュリは力なく首を振り、


 「仕方ないよ。やっぱり、必要だと思うんだ。しつけって……」


 そう答えるのだった。
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