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第三部 学校へ行こう
第二百十話 おうちに帰る、その前に②
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「にゅ?違うぞ、クルクル。妾の年は千を越えてにひゃくごじゅう……」
「そうだね~。あと千を越えて二五〇日くらいたてば、イルルも学校に通えるかもしれないね~」
バカ正直に己の年齢を答えようとしたイルルの口を素早くふさいで、シュリは、うふふ~、と誤魔化すように笑う。
それを聞いたエリザベスが、あら、まだそんなに年下でしたのね~、と深く考えずに納得してくれた。
なんともありがたい単純さである。
さすがにそんなに年下と考えるには、ちょっとイルルは大きすぎるだろうと思うのだが、そこはあえてつっこまない。
つっこんだら、負けなのである。
ここは、エリザベスが納得してくれれば、それでシュリの勝ちなのだから。
そんなこんなで、色々な誤解や話が一段落したところで、エリザベスは改めて目の前のシュリとイルルを見た。
なんだか非常に不審そうな眼差しで。
「それにしても、あなた達、一体全体どういう関係ですの……?見ていればずーっとベタベタ、ベタベタくっついたままで……そう言えば、さっき、ワタクシにイルルを持ち帰らせようとしてましたわね……もしかして、イルルは貴方の奴隷ですの?」
「奴隷!?ち、ちがうよ?イルルは奴隷じゃないし、僕は奴隷なんて持ってないし」
エリザベスの質問を、シュリは慌てて否定した。
まあ、普通じゃない奴隷は三人ほど従えているが、あえてそこを申告する必要もないだろう。
シュリ自身が積極的に奴隷を買い求めようとした事があるわけじゃないからセーフである。……たぶん。
「じゃあ、イルルは貴方のなんですの?そんなに堂々といちゃいちゃしているんですから、普通の関係性では無いですわよね……はっ、ま、まさか、愛人!?」
そう言って、驚愕の眼差しでエリザベスはシュリを見た。
「愛人って、どうしてそうなるの!?まあ、百歩譲ってそれに近い関係性だとしても、普通は恋人?って聞くところじゃないの!?」
「え~?でも、貴方、確か、自己紹介で恋人はいないっておっしゃってましたし。もしや、あの自己紹介は嘘八百でしたの!?」
「ち、ちがうって。自己紹介は嘘じゃないし、イルルは僕の恋人でも、ましてや愛人でもありませんっ!!」
この大嘘つきめという眼差しを向けられ、シュリはきっぱりはっきりその疑惑を否定する。
「奴隷でもなく、恋人でも愛人でもない……じゃあ、イルルは一体貴方のなんですの?」
「イルルが僕の何かって?イルルは僕のペットだよ」
「は?ペット?」
「そう、ペット……って、はっっっ!!」
うっかり正直に答えてしまったシュリは、エリザベスの微妙な表情で自分の失言に気づき、はっとする。
それは紛れもない真実なのだけれど、堂々と断言するのは少々まずい。
今のイルルはどう見ても獣人っぽいだけの幼い女の子だし、そんな相手を恥ずかしげも無くペット宣言する奴は、なんか色々とダメだろう。
うん、ダメな気がする。
実際、エリザベスはそんなダメな奴を見る眼差しでシュリを見ている気がするし。
「えっと、ち、違うんだよ?ぺ、ペットっていうのは、その、言葉のあやでね?そうだな~、なんて言ったらいいのかな~」
これだ、という言葉が思いつかず、言葉を濁しながら頭をフル回転させる。
「あ、怪しいですわ~……ねぇ、イルル?貴方はシュリにとってどういう存在なんですの?」
エリザベスはシュリの挙動不審な様子に若干引きつつ、イルルから真実を聞き出そうと、質問の矛先を彼女に変えた。
その質問を受けたイルルは、ほんのり首を傾げると、
「う~む。妾がシュリにとってどういう存在か?そうじゃの~……まあ、簡単に言ってしまえば、妾はシュリの忠実なしもべじゃな!!」
しばし考え込んだ後、きっぱりとそう答えた。
それを聞いたシュリはがっくりと肩を落とす。
内容的には正しいんだけれど、今はそう答えて欲しくなかった、と。
「忠実な、しもべ、ですの?それってやっぱり、どれ……」
「ちっ、ちがうからっ。イルルは、ペットでも、しもべでも、奴隷でもないからっ!!僕にとってのイルルは、えーっと、可愛くて、からかいがいがあって、一緒にいて退屈しなくて、ついつい構いたくなるおもちゃ……」
「おもちゃ!?」
「じゃなくって!!!……んーっと、あえて言うなら……そう!!妹、みたいな!!」
「妹?」
「そう、妹!!」
「血のつながりは?」
「な、無いけど。妹的な存在と思っていただければ幸いです」
追求されて、なぜか言葉が敬語になってしまう。
嘘とも言い切れないが真実でもない言葉の内容に、ついつい弱腰になってしまったのだ。
でも、まあ、よく考えてみれば、イルルはまさしく手の掛かる妹のようなものと言っても過言ではない気はする。
ペットという間柄の方が、妹よりより近しいような気もするが、手が掛かるという部分は共通しているし、一応可愛がってるのも本当だ。
「ふぅん、妹、ですの。そうですの。ふうぅ~ん」
「う、うん。そう。妹みたいな感じ、なんじゃないかな~って」
「でも、血がつながってないなら一緒に住んでいないはずですわよね?なら、何で一緒の馬車に?」
「そこはあれだよ。血はつながってないけど、一緒には住んでるんだ。ん~と、ほら!リアもそうだし」
「彼女は貴方の乳母の娘だからでしょう?確か彼女、自己紹介でそう言ってましたわよね?でもイルルはどうしてなのかしら?彼女も使用人の娘か何か?」
大変疑わしそうに問われたシュリは、懸命に頭を働かせる。
きっとエリザベスは、ただの居候ですと言ったところで信じてくれないに違いない。
どうにかして、彼女の納得する理由を絞り出さなくては、とシュリは笑顔のまま、脳味噌をフル稼働させた。
「えーと、イルルは、僕の護身術の先生をしてくれている冒険者が連れている子なんだ。一緒に僕の家に住み込んでるんだよ。ね、リアと一緒でしょ?」
「冒険者の連れ子?そうなんですの?」
エリザベスは、それでもまだ疑い深く、イルルに向かって確認の問いかけをする。
シュリは、イルルが余計なことを言う前に、素早く念話を飛ばした。
『イルル、黙って頷いて!帰ったら好きなだけブラッシングしてあげるから』
『ブ、ブラッシングを好きなだけ……!!よしきた!!心得たのじゃ!!!』
「う、うむ!そのとおりなのじゃ!!シュリの言う事に間違いは無いのじゃ。無いったら無いのじゃぞ!?」
シュリのそんな念話を受けて、欲望に忠実なイルルはどきっぱりと頷いた。
「そう、なんですのね。まあ、ならいいのですかしら」
さすがのエリザベスも、イルルの毅然とした態度にようやく納得してくれたようだ。
シュリは内心、胸をなで下ろした。
だが、そんなシュリに、だめ押しとばかりの質問が飛んでくる。
「でも、シュリナスカ・ルバーノ。いくら妹みたいと言っても、そうやってずーっと膝に乗せて密着してるなんて、ちょっと異常じゃ無いのかしら?まさか、権力を笠に着てイルルに強要をしているんじゃないでしょうね?」
ぶつけられたまさかの質問にシュリは目をまあるくして、
「そ、そんなわけ無いでしょ?イルルだって、ほら、ちっともいやがってないし」
苦笑混じりに反撃する。
これに関してはなんの後ろ暗さもない。
大体において、シュリの膝に上りたがるのはイルルの方で、シュリはイルルのが乗りたがるから乗せてあげているだけなのだから。
シュリの言葉にイルルも頷いた。
「そうじゃぞ、クルクル。シュリはこう見えて奥手なのじゃ。そうからかうでない。大体のう、シュリはちょっと受け身すぎるくらいなのじゃ。妾はもっと積極的で良いと思うんじゃぞ?抱っこだってちゅーだって、もっと自分からしても良いと思うのじゃ!」
「こっ、こら!イルル!!」
「だ、抱っこ……それに、ちゅ、ちゅーですって!?そ、それってまさか、噂にきくあの、せ、せせせ、接吻の事ですの!?」
「うむ。そうともいうのぉ」
「まっ、まさかまさか、イルルもしているんですの!?そっ、その、接吻を!?まだこんなに小さいのに!?」
「むぅ。小さいは余計じゃ、小さいは。じゃが、妾はこう見えて慎み深い女じゃからの~。他の奴らみたいに自分からちゅーちゅーするのはどうも好かん。こういうのはじゃな、男の方からリードするものと相場は決まっておるのじゃ。それでもって、むーどたっぷりであつあつなのが妾の好みじゃ。シュリはよーっく覚えておくようにの?まあ、そういう点、シュリは少々大人しすぎるかもしれんの。あんまり自分からはせんもんな?」
「……」
そこで同意を求められても困ってしまう。
どう誤魔化せばいいのか、果たして誤魔化せるものなのかと黙考していると、
「な、なんてハレンチですの……このまま放っておいたらイルルがシュリナスカ・ルバーノの毒牙に掛かるのは時間の問題ですわ。友人のワタクシが何とかしてさしあげないと……」
エリザベスがそんなことをぶつぶつと呟いているのが漏れ聞こえた。
それを聞きながらシュリは思う。
どっちかというと、毒牙にかけられているのは、いつも僕の方だと思うんだけどなぁ、と。
それこそ赤ん坊の頃から、アクティブすぎる世のおねー様方に、いつおいしく頂かれてしまうのかと、戦々恐々としているのは大概においてシュリの方なのである。
まあ、その原因を作り出しているのは、結局シュリ自身ではあったが。
困った顔で、一人で赤くなったり青くなったりしているエリザベスを見守っていると、しばらくしてからなにやら決意を秘めた表情で彼女はきっとシュリをみつめ……いや、睨んだ。
「シュリナスカ・ルバーノ。今日はワタクシが貴方のお宅へ遊びに行って差し上げますわ!そして、貴方がイルルになにをしようと思っているのかは知りませんけれど……」
「イルルになにをって……ただブラッシングするだけだよ……」
「ブラッシングしてもらうだけじゃぞ?」
妙にきりりとした表情のエリザベスの耳には、疲れたようなシュリの言葉も、きょとんとこぼしたイルルの言葉も届いていないようで。
彼女はびしりとシュリを指さし、宣言した。
「友人の純潔は、ワタクシが守ってみせますわ!!」
……と。
「……もういいよ。好きにして……」
それに対してシュリは力なくそう返し、がっくりと肩を落とす。
本来ならば、エリザベスのブラッシングをするチャンスと喜ぶべき場面だが、ここまでのやりとりで、その余力も無いくらいに疲れ果ててしまったシュリなのだった。
「おお~、クルクルも来るのか?なら、妾と一緒にシュリにブラッシングしてもらうのじゃ~。シュリのブラッシングは、すっごくすっごく気持ちいいのじゃ」
素直に喜んでいるのはイルルばかり。
それを聞いて、エリザベスは油断なく思う。ブラッシングって、何かの隠語なのかしら、と。
こうして、登校初日の放課後、お友達のお持ち帰りというレアイベントを、早速引き当ててしまったシュリは、イルルの頭のてっぺんに、なんともいえないため息を、そっと落とした。
そんなシュリを、イルルはなんとも不思議そうに見上げるのだった。
「そうだね~。あと千を越えて二五〇日くらいたてば、イルルも学校に通えるかもしれないね~」
バカ正直に己の年齢を答えようとしたイルルの口を素早くふさいで、シュリは、うふふ~、と誤魔化すように笑う。
それを聞いたエリザベスが、あら、まだそんなに年下でしたのね~、と深く考えずに納得してくれた。
なんともありがたい単純さである。
さすがにそんなに年下と考えるには、ちょっとイルルは大きすぎるだろうと思うのだが、そこはあえてつっこまない。
つっこんだら、負けなのである。
ここは、エリザベスが納得してくれれば、それでシュリの勝ちなのだから。
そんなこんなで、色々な誤解や話が一段落したところで、エリザベスは改めて目の前のシュリとイルルを見た。
なんだか非常に不審そうな眼差しで。
「それにしても、あなた達、一体全体どういう関係ですの……?見ていればずーっとベタベタ、ベタベタくっついたままで……そう言えば、さっき、ワタクシにイルルを持ち帰らせようとしてましたわね……もしかして、イルルは貴方の奴隷ですの?」
「奴隷!?ち、ちがうよ?イルルは奴隷じゃないし、僕は奴隷なんて持ってないし」
エリザベスの質問を、シュリは慌てて否定した。
まあ、普通じゃない奴隷は三人ほど従えているが、あえてそこを申告する必要もないだろう。
シュリ自身が積極的に奴隷を買い求めようとした事があるわけじゃないからセーフである。……たぶん。
「じゃあ、イルルは貴方のなんですの?そんなに堂々といちゃいちゃしているんですから、普通の関係性では無いですわよね……はっ、ま、まさか、愛人!?」
そう言って、驚愕の眼差しでエリザベスはシュリを見た。
「愛人って、どうしてそうなるの!?まあ、百歩譲ってそれに近い関係性だとしても、普通は恋人?って聞くところじゃないの!?」
「え~?でも、貴方、確か、自己紹介で恋人はいないっておっしゃってましたし。もしや、あの自己紹介は嘘八百でしたの!?」
「ち、ちがうって。自己紹介は嘘じゃないし、イルルは僕の恋人でも、ましてや愛人でもありませんっ!!」
この大嘘つきめという眼差しを向けられ、シュリはきっぱりはっきりその疑惑を否定する。
「奴隷でもなく、恋人でも愛人でもない……じゃあ、イルルは一体貴方のなんですの?」
「イルルが僕の何かって?イルルは僕のペットだよ」
「は?ペット?」
「そう、ペット……って、はっっっ!!」
うっかり正直に答えてしまったシュリは、エリザベスの微妙な表情で自分の失言に気づき、はっとする。
それは紛れもない真実なのだけれど、堂々と断言するのは少々まずい。
今のイルルはどう見ても獣人っぽいだけの幼い女の子だし、そんな相手を恥ずかしげも無くペット宣言する奴は、なんか色々とダメだろう。
うん、ダメな気がする。
実際、エリザベスはそんなダメな奴を見る眼差しでシュリを見ている気がするし。
「えっと、ち、違うんだよ?ぺ、ペットっていうのは、その、言葉のあやでね?そうだな~、なんて言ったらいいのかな~」
これだ、という言葉が思いつかず、言葉を濁しながら頭をフル回転させる。
「あ、怪しいですわ~……ねぇ、イルル?貴方はシュリにとってどういう存在なんですの?」
エリザベスはシュリの挙動不審な様子に若干引きつつ、イルルから真実を聞き出そうと、質問の矛先を彼女に変えた。
その質問を受けたイルルは、ほんのり首を傾げると、
「う~む。妾がシュリにとってどういう存在か?そうじゃの~……まあ、簡単に言ってしまえば、妾はシュリの忠実なしもべじゃな!!」
しばし考え込んだ後、きっぱりとそう答えた。
それを聞いたシュリはがっくりと肩を落とす。
内容的には正しいんだけれど、今はそう答えて欲しくなかった、と。
「忠実な、しもべ、ですの?それってやっぱり、どれ……」
「ちっ、ちがうからっ。イルルは、ペットでも、しもべでも、奴隷でもないからっ!!僕にとってのイルルは、えーっと、可愛くて、からかいがいがあって、一緒にいて退屈しなくて、ついつい構いたくなるおもちゃ……」
「おもちゃ!?」
「じゃなくって!!!……んーっと、あえて言うなら……そう!!妹、みたいな!!」
「妹?」
「そう、妹!!」
「血のつながりは?」
「な、無いけど。妹的な存在と思っていただければ幸いです」
追求されて、なぜか言葉が敬語になってしまう。
嘘とも言い切れないが真実でもない言葉の内容に、ついつい弱腰になってしまったのだ。
でも、まあ、よく考えてみれば、イルルはまさしく手の掛かる妹のようなものと言っても過言ではない気はする。
ペットという間柄の方が、妹よりより近しいような気もするが、手が掛かるという部分は共通しているし、一応可愛がってるのも本当だ。
「ふぅん、妹、ですの。そうですの。ふうぅ~ん」
「う、うん。そう。妹みたいな感じ、なんじゃないかな~って」
「でも、血がつながってないなら一緒に住んでいないはずですわよね?なら、何で一緒の馬車に?」
「そこはあれだよ。血はつながってないけど、一緒には住んでるんだ。ん~と、ほら!リアもそうだし」
「彼女は貴方の乳母の娘だからでしょう?確か彼女、自己紹介でそう言ってましたわよね?でもイルルはどうしてなのかしら?彼女も使用人の娘か何か?」
大変疑わしそうに問われたシュリは、懸命に頭を働かせる。
きっとエリザベスは、ただの居候ですと言ったところで信じてくれないに違いない。
どうにかして、彼女の納得する理由を絞り出さなくては、とシュリは笑顔のまま、脳味噌をフル稼働させた。
「えーと、イルルは、僕の護身術の先生をしてくれている冒険者が連れている子なんだ。一緒に僕の家に住み込んでるんだよ。ね、リアと一緒でしょ?」
「冒険者の連れ子?そうなんですの?」
エリザベスは、それでもまだ疑い深く、イルルに向かって確認の問いかけをする。
シュリは、イルルが余計なことを言う前に、素早く念話を飛ばした。
『イルル、黙って頷いて!帰ったら好きなだけブラッシングしてあげるから』
『ブ、ブラッシングを好きなだけ……!!よしきた!!心得たのじゃ!!!』
「う、うむ!そのとおりなのじゃ!!シュリの言う事に間違いは無いのじゃ。無いったら無いのじゃぞ!?」
シュリのそんな念話を受けて、欲望に忠実なイルルはどきっぱりと頷いた。
「そう、なんですのね。まあ、ならいいのですかしら」
さすがのエリザベスも、イルルの毅然とした態度にようやく納得してくれたようだ。
シュリは内心、胸をなで下ろした。
だが、そんなシュリに、だめ押しとばかりの質問が飛んでくる。
「でも、シュリナスカ・ルバーノ。いくら妹みたいと言っても、そうやってずーっと膝に乗せて密着してるなんて、ちょっと異常じゃ無いのかしら?まさか、権力を笠に着てイルルに強要をしているんじゃないでしょうね?」
ぶつけられたまさかの質問にシュリは目をまあるくして、
「そ、そんなわけ無いでしょ?イルルだって、ほら、ちっともいやがってないし」
苦笑混じりに反撃する。
これに関してはなんの後ろ暗さもない。
大体において、シュリの膝に上りたがるのはイルルの方で、シュリはイルルのが乗りたがるから乗せてあげているだけなのだから。
シュリの言葉にイルルも頷いた。
「そうじゃぞ、クルクル。シュリはこう見えて奥手なのじゃ。そうからかうでない。大体のう、シュリはちょっと受け身すぎるくらいなのじゃ。妾はもっと積極的で良いと思うんじゃぞ?抱っこだってちゅーだって、もっと自分からしても良いと思うのじゃ!」
「こっ、こら!イルル!!」
「だ、抱っこ……それに、ちゅ、ちゅーですって!?そ、それってまさか、噂にきくあの、せ、せせせ、接吻の事ですの!?」
「うむ。そうともいうのぉ」
「まっ、まさかまさか、イルルもしているんですの!?そっ、その、接吻を!?まだこんなに小さいのに!?」
「むぅ。小さいは余計じゃ、小さいは。じゃが、妾はこう見えて慎み深い女じゃからの~。他の奴らみたいに自分からちゅーちゅーするのはどうも好かん。こういうのはじゃな、男の方からリードするものと相場は決まっておるのじゃ。それでもって、むーどたっぷりであつあつなのが妾の好みじゃ。シュリはよーっく覚えておくようにの?まあ、そういう点、シュリは少々大人しすぎるかもしれんの。あんまり自分からはせんもんな?」
「……」
そこで同意を求められても困ってしまう。
どう誤魔化せばいいのか、果たして誤魔化せるものなのかと黙考していると、
「な、なんてハレンチですの……このまま放っておいたらイルルがシュリナスカ・ルバーノの毒牙に掛かるのは時間の問題ですわ。友人のワタクシが何とかしてさしあげないと……」
エリザベスがそんなことをぶつぶつと呟いているのが漏れ聞こえた。
それを聞きながらシュリは思う。
どっちかというと、毒牙にかけられているのは、いつも僕の方だと思うんだけどなぁ、と。
それこそ赤ん坊の頃から、アクティブすぎる世のおねー様方に、いつおいしく頂かれてしまうのかと、戦々恐々としているのは大概においてシュリの方なのである。
まあ、その原因を作り出しているのは、結局シュリ自身ではあったが。
困った顔で、一人で赤くなったり青くなったりしているエリザベスを見守っていると、しばらくしてからなにやら決意を秘めた表情で彼女はきっとシュリをみつめ……いや、睨んだ。
「シュリナスカ・ルバーノ。今日はワタクシが貴方のお宅へ遊びに行って差し上げますわ!そして、貴方がイルルになにをしようと思っているのかは知りませんけれど……」
「イルルになにをって……ただブラッシングするだけだよ……」
「ブラッシングしてもらうだけじゃぞ?」
妙にきりりとした表情のエリザベスの耳には、疲れたようなシュリの言葉も、きょとんとこぼしたイルルの言葉も届いていないようで。
彼女はびしりとシュリを指さし、宣言した。
「友人の純潔は、ワタクシが守ってみせますわ!!」
……と。
「……もういいよ。好きにして……」
それに対してシュリは力なくそう返し、がっくりと肩を落とす。
本来ならば、エリザベスのブラッシングをするチャンスと喜ぶべき場面だが、ここまでのやりとりで、その余力も無いくらいに疲れ果ててしまったシュリなのだった。
「おお~、クルクルも来るのか?なら、妾と一緒にシュリにブラッシングしてもらうのじゃ~。シュリのブラッシングは、すっごくすっごく気持ちいいのじゃ」
素直に喜んでいるのはイルルばかり。
それを聞いて、エリザベスは油断なく思う。ブラッシングって、何かの隠語なのかしら、と。
こうして、登校初日の放課後、お友達のお持ち帰りというレアイベントを、早速引き当ててしまったシュリは、イルルの頭のてっぺんに、なんともいえないため息を、そっと落とした。
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