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第四→五部 婚約した後の色々なお話

第481話 マチルダとシュリ

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久しぶりなのに短くてすみません。
次はこんなにあかないように少しずつ書き溜めております。
楽しく読んでいただければ嬉しいです。

********************

 シュリの寝息しか聞こえてこない空間に、ノックの音が響く。
 最初のノックの後に返事を待つようにしばしの間の後、


 「お返事がない、わね。ジュディスさんは、今ならシュリ君は1人でお部屋にいるっていってたんだけど。お出かけでも、しちゃったかしら?」


 ドアの向こうからそんな声。
 でもその声でぐっすり寝入ってしまっているシュリが目を覚ますこともなく。
 かといって、ドアの向こうの人も、諦めよくいなくなる気配はなく、再びドアのノックが響いた後、今度はうっすらとドアが開いた。


 「シュリ君?」


 控えめに呼びかける声。
 声の主はドアのところで部屋の中を伺うように見回して、ベッドの上で力つきたように眠っているシュリを見つけると、嬉しそうに微笑んだ。


 「なんだ。寝ちゃってたのね」


 出かけちゃってなくて良かった、そう言いながら部屋に入ってきたのは、乳母のマチルダ。
 普通であれば、勝手に部屋に入るのはダメなことだが、乳母である彼女は、シュリ専属である愛の奴隷達やキキと同様に、鍵が閉まってなければ入っていい事になっている。

 そんな訳で。

 許可されているのだから堂々と入ってくればいいのに、恐る恐るおずおずと部屋に入り込んだマチルダは、眠っているシュリの傍らにそっと腰を下ろした。
 すると彼女の重みを受けてベッドが揺れ、その刺激を受けたシュリが寝返りを打って仰向けになる。

 そんなシュリの寝乱れた髪を、慈母の微笑みを浮かべたマチルダが指先で優しく整え、懐かしい気配に反応したシュリが彼女の方へとにじり寄り。
 結果、シュリの頭はマチルダの太股の上におさまった。
 いわゆる膝枕、というやつである。
 マチルダは、自分の太股の上におさまったシュリを一瞬きょとんとして見つめたが、その顔にはすぐに幸せそうな笑みが浮かんだ。


 「ふふっ。こんなおばちゃんの膝枕がいいなんて。シュリ君は変わり者ですね~?」


 なんて話しかけつつ、さっきの続きとばかりにシュリの髪を撫でる。
 その手のひらに、甘えるように頭をぐりぐりと押しつけてもっと撫でろと言わんばかりのシュリに、マチルダはもうメロメロだ。
 きゅんきゅんする胸に、


 (これは母性。母性なのよ!!)


 そう己に言い聞かせ、理性を総動員して眠るシュリを見守る。
 そんなマチルダの理性を試すように、シュリがもぞもぞと動き出した。
 大好きなもう1人のお母さんのにおいと包容力に包まれたシュリは、大変幸福な夢を見ていた。
 それは今よりもっとちっちゃなころの夢。
 毎日マチルダに甘やかされていた、赤ちゃんの頃の夢だ。

 赤ちゃんのシュリはお腹を空かせて捜し物をしている。
 赤ちゃんのシュリにとっては主食でありおやつでもあるような栄養の源、魅惑の液体を。

 赤ちゃんの頃のように、親指をくわえてちゅぱちゅぱする様子に、マチルダははっとする。
 その仕草は、昔から変わらず、シュリのお腹が空いたというおっぱい催促のサインだった。


 「こ、困ったわ。さすがにもう出ないと思うし」


 シュリの為の母乳を保ちたい、とおっぱいマッサージは続けていたが、そもそも母乳というものは、生まれた子供を育てる為に出るものだ。
 生まれたての子供もいないのに、ほいほい出てくるものではない。


 「で、でも、前にシュリ君が吸ったら出てきた事もあったわよね?」


 以前の事を思い出し、マチルダは眠りながら親指を吸うシュリを見つめた。


 「た、試してみる価値は、あるのかしら?」


 そしてごくりと唾を飲み込み、胸元をくつろげてシュリを抱き直す。
 授乳しやすい体勢へと。
 それを察知したシュリは、本能のままに自分が吸いつくべき場所を探し始める。


 「シュリ君? おっぱいですよ~?」


 赤ちゃんの如くおっぱいを求めるシュリの口元に、マチルダは自分の胸を近づけていく。小さいけれどもう赤ちゃんではないシュリに授乳を試みる、という行為は何ともいえない背徳感があった。
 シュリは、赤ちゃんの頃から慣れ親しんだおっぱいに唇をすり付け。
 それを見つけた瞬間にはぷっと吸いついた。
 その瞬間、マチルダの背筋に甘い電流が走り、こぼれ落ちそうになる不適切な声をどうにかしてこらえる。

 そんなマチルダのことを知ってか知らずか、シュリは容赦なくおっぱいを吸い始めた。出るはずのない、母乳を求めて。
 片手で口を覆い、あふれ出そうになる声と衝動をどうにかこらえていたマチルダは、しばらくして不思議な事に気がついた。
 おっぱいを無心に吸っているシュリののどが何かを飲み込むように動いており、どうやら自分の胸の先から液体があふれ出しているようだという事実に。

 枯れ果てたと思っていた母乳が出ている事実を前に、マチルダは目を丸くする。
 そして思う。
 母性ってすごい、と。
 そんなマチルダはもちろん知らない。
 このわき出る母乳の原因が、シュリの称号だということを。
 でも、まあ、世の中、知らなくていいこと、というものもあるのである。
 真実を知らないマチルダは、己の母性に感動しつつ、そのまましばらく授乳を続けるのだった。
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