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第四部 王都の新たな日々
第470話 宿での邂逅
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お待たせしました!!
筆が遅くてすみません……
********************
お城の晩餐会でのフィフィアーナ姫の事が気になって、何となく沈んだ様子でいるシュリを、
「気晴らしに、少し街を歩いてきてはどうですか?」
と、散歩に送り出したのはジュディスだった。
そんな彼女の言葉を受けて、屋敷でただ鬱々しているのも良くないか、とシュリは素直に彼女の言葉に従うことにした。
ついでなので、獣王国の件で貴重な労働力を借り出し、大変な思いをさせてしまったであろうナーザの宿の居残り組にお菓子でも届けよう、とシャイナの作ってくれた焼き菓子を手みやげに街を歩く。
ぼんやり歩いていたせいで、商店の少ない裏通りを歩くのを忘れ、結果、あちこちからお土産を持たされて、積上がったそれを崩さないようにふらふら歩き、どうにかキャット・テイルにたどり着いた。
ちなみに、今日は護衛はついていない。
1人でぼんやりすることも必要だろうとの、秘書としてのジュディスの判断だった。
これが一般的な貴族の子息なら有り得ないが、シュリの場合は自身が護衛よりもずっと強いので問題はない。
とはいえ、護衛がついてにらみを効かせておくことで回避できる面倒事も多いので、普段はちゃんと護衛を連れて歩いてはいるけれど。
ぼんやりしょんぼりしたまま、山盛りの荷物を抱えて宿の扉を開ける。
「いらっしゃいませ……おや? あなたは」
受付にいたのは蒼い髪と瞳の美人さん。
シュリは彼女を見上げ、へんにゃりと笑い、
「こんにちは。えっと、確か、シャナ、さん?」
うろ覚えの彼女の名前を呼んだ。
「ええ。そうです。こんにちは。ですが、どうしましたか? なにやら元気がないようですが」
「元気がない? そう、かな? そんなことない、と思うけど。あ、これ、お土産です」
「お土産!? こんなに??」
「ああ。僕からのお土産は1番下の焼き菓子だけなんだ。上のは、通り道の商店のみなさんが持たせてくれて」
「あなたが頂いたものなのにいいんですか?」
「気にしないで。今日は、あなたとサギリに、この間ナーザ達を借りて忙しくさせちゃったお詫びを持ってきたんだ。迷惑じゃなければ、他のも貰ってくれると嬉しいな。みんなで食べて、余ったらお客さんにあげちゃってもいいし」
「そう、ですか? では店主達にもそう伝えましょう。ちょうど先ほど昼営業が終わった所です。みんなで少し休憩をとるところでしたから、いいタイミングでした。今、サギリがお茶を入れています。あなたも一緒にどうですか」
「せっかくの休憩なのに、僕が混ざったら悪いよ」
「いえ、あなたがいた方がみんな喜ぶでしょう。むしろ、帰してしまったら私が怒られます」
「そう、かな」
「絶対そうです。さ、行きましょう」
山のような品を器用に片手で抱え、彼女はもう片方の手をシュリの方へと伸ばした。
手をつないで行こう、という事らしい。
そんなに子供じゃないんだけどなぁ、と苦笑しつつ、シュリは素直にその手をとる。
そして彼女に導かれるまま、宿の食堂へと向かった。
◆◇◆
「シュリ、良く来たな!」
「いらっしゃい、シュリ」
「シュリ君、久しぶり」
食堂に入ると、それに気づいた3人が嬉しそうに出迎えてくれた。
それを聞いたシャナは、シュリを見て、
「シュリ? それがあなたの名前、ですか?」
そう問いかけた。
隠す必要も無いことだ、とシュリは頷き、
「うん、そうだよ」
そう答える。
そうか、自己紹介もまだしてなかったか、と思いながら。
「僕の名前はシュリナスカ・ルバーノ。友達はみんなシュリって呼ぶから、シャナさんもそう呼んでね」
微笑み、告げる。
何気なく行った自己紹介がなにを引き起こすか、その時は知る由もなく。
「シュリナスカ・ルバーノ。あなたが」
「あれ? もしかして僕のこと、知ってた??」
「……ええ。あなたのお屋敷の、ジュディス、という女性とは何度か言葉を交わしたことがあります」
「ジュディスと?」
「ええ。あなたに会いに行ったのですが、いない、という事でしたので。最近はずいぶん忙しくされていたようで。ここで会えたのは幸いでした。近々、また、訪ねようと思っていたのですよ」
「そう、だったんだね。僕を……」
言葉を交わしながら、シュリは内心首を傾げる。あれ、その話、なんだか聞いた事があるぞ、と。
シュリがその客と会わずにすむように追い返してくれたジュディスの報告で。
じわじわと、嫌な予感が背筋をはい上る。
あの報告の時、ジュディスはなんと言っていたか。
蒼い髪に蒼い瞳の美女。
そう、言ってはいなかったか。
手をつないでいる女性の顔を見上げる。
蒼い髪に蒼い瞳の、絶世の美女と呼んでも間違いないであろうその美貌を。
「時にお尋ねしますが」
「なっ、なにかな?」
「イルルという名前に聞き覚えは? イルルアンルージュ、あるいはルージュでもかまいませんが」
そのどれにも聞き覚えがあります、とはとっさに言えなかった。
そんなシュリの躊躇に気づくことなく、
「イルルちゃん? それならシュリのうちにいる子だよね? 赤い髪で、元気のいい」
悪気無く、ジャズが答える。
「紅い髪……瞳の色は?」
「えっと、確か琥珀というか金というか……」
「答えるな、ジャズ。なにか様子がおかしい」
遅ればせながら、ナーザがジャズの答えを遮る。
が、欲しい答えは既にシャナ……シャナクサフィラの手の内だった。
「金の瞳。紅い髪に金の瞳はルージュの色です。シュリナスカ・ルバーノ。やはりあなたが彼女を捕らえていたのですね」
「違うぞ、シャナ。なにか誤解があるようだが、イルルは望んでシュリの元にいる。無理矢理捕らえている訳じゃない。きちんと話し合えば分かるはずだ」
「ならばなぜ、この少年は私から逃げ回っていたのでしょう? 後ろ暗いことが、あったからではないですか?」
蒼く冷たい瞳が、シュリの瞳をからめ取る。
魂の奥底まで凍らせるような、冷ややかさで。
「ルージュは思慮が足りない子ですから、たぶらかすのは簡単だったでしょうね。男慣れしてませんし、ちょっと甘い言葉をかければほいほいついて行ってしまいかねない軽率なところもあります。頭が弱い分、勢い任せな部分もありますし。そう考えると、あなたばかりが悪いわけではないのかもしれません。そこで1つ相談ですが」
そう言って、シャナクサフィラはすぅっと目を細めた。
「今すぐルージュを返して頂けませんか? あの子の民も心配していますし、友人である私も、あの子が心配です。ルージュのすべてを受け止めきれるような器が、あなたのような子供にあるとも思えない」
イルルを返せば許す。
それはシュリをわずかなりとも気に入っている彼女の、最大の譲歩だった。
しかし。
シュリにだって、それに頷けない理由はある。
だって、イルルは。
「返せないよ。イルルは、僕の大切、だから」
イルルは既に、シュリの大切な家族だった。
本人の意志を無視して返す約束なんて、出来るわけがなかった。
「……そうですか。交渉決裂ですね。あなたの事はそれなりに気に入っていたんですが。残念です。とても。ですが、ここではお世話になった宿を壊してしまう。場所を移しますよ」
「出来るだけ、人気のない開けた場所でお願いできるかな?」
「かまいません。私は人を嫌いなわけではないですから。ムダな犠牲を出すのは本意ではありません」
「そっか。ありがとう」
素直に微笑み、礼を言ったシュリに、シャナクサフィラはわずかに動揺する気配を見せた。
だが、それはすぐに冷たい仮面の下に隠れ。
彼女はシュリの襟首を捕まえると、その体をぶらんとぶら下げて、宿を出て行こうとした。
そんな彼女に、ナーザの声が追いすがる。
「っっ! 待て!! シュリだけを連れて行かせると思うのか!?」
解き放たれた龍の威圧に冷や汗を流しながらも、彼女は声を上げた。
今、この場で動けるのは彼女だけだった。
ジャズもサギリも、龍の怒りに当てられて意識を失っている。
「……その勇気は敬意に値します。ですが、店主よ」
シャナクサフィラは、龍の威圧を込めてナーザを見た。
「龍をなめないでいただきたい。人の枠の中では、確かにあなたは強いのでしょう。ですが」
蒼い瞳がすぅ、と細められた。
「人如きが、龍にかなうとでも?」
吹き付けるような威圧に、ナーザが膝を突く。
だが闘志は失ってはいない。
彼女はシュリを掴んだままの高位の存在から目を離さず、睨みつけた。
「シュリを、離せ」
「聞けませんね。ここを壊さぬ配慮をするのも、あなた達を殺さぬ配慮をするのも、これまで世話になった感謝の気持ちです。ここは存外居心地のいい場所でした。世話に、なりました。あなた達のことも、嫌いではなかったですよ。こんな終わりになって、残念です」
その言葉を最後に、彼女の姿はドアの向こうへ消えた。
その手にぶら下げた、シュリ、共々。
その姿が視界から消えた瞬間、威圧が弱まり、何とか体の自由を得たナーザは立ち上がり、
「店を、頼む」
意識は取り戻したものの、まだ身動きできそうにない娘と従業員へ短く告げた。
「おか……さん、ど、こへ?」
どうにか動く口でジャズが問う。
「ルバーノ邸へ。シュリのことを伝えなければ」
「そ……か。わた、しも行きたい、けど、まだ、動けな、いから。おね、がい。おか、あさん」
「任せろ」
力強く娘に頷き、ナーザは己の城を飛び出していった。
筆が遅くてすみません……
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「気晴らしに、少し街を歩いてきてはどうですか?」
と、散歩に送り出したのはジュディスだった。
そんな彼女の言葉を受けて、屋敷でただ鬱々しているのも良くないか、とシュリは素直に彼女の言葉に従うことにした。
ついでなので、獣王国の件で貴重な労働力を借り出し、大変な思いをさせてしまったであろうナーザの宿の居残り組にお菓子でも届けよう、とシャイナの作ってくれた焼き菓子を手みやげに街を歩く。
ぼんやり歩いていたせいで、商店の少ない裏通りを歩くのを忘れ、結果、あちこちからお土産を持たされて、積上がったそれを崩さないようにふらふら歩き、どうにかキャット・テイルにたどり着いた。
ちなみに、今日は護衛はついていない。
1人でぼんやりすることも必要だろうとの、秘書としてのジュディスの判断だった。
これが一般的な貴族の子息なら有り得ないが、シュリの場合は自身が護衛よりもずっと強いので問題はない。
とはいえ、護衛がついてにらみを効かせておくことで回避できる面倒事も多いので、普段はちゃんと護衛を連れて歩いてはいるけれど。
ぼんやりしょんぼりしたまま、山盛りの荷物を抱えて宿の扉を開ける。
「いらっしゃいませ……おや? あなたは」
受付にいたのは蒼い髪と瞳の美人さん。
シュリは彼女を見上げ、へんにゃりと笑い、
「こんにちは。えっと、確か、シャナ、さん?」
うろ覚えの彼女の名前を呼んだ。
「ええ。そうです。こんにちは。ですが、どうしましたか? なにやら元気がないようですが」
「元気がない? そう、かな? そんなことない、と思うけど。あ、これ、お土産です」
「お土産!? こんなに??」
「ああ。僕からのお土産は1番下の焼き菓子だけなんだ。上のは、通り道の商店のみなさんが持たせてくれて」
「あなたが頂いたものなのにいいんですか?」
「気にしないで。今日は、あなたとサギリに、この間ナーザ達を借りて忙しくさせちゃったお詫びを持ってきたんだ。迷惑じゃなければ、他のも貰ってくれると嬉しいな。みんなで食べて、余ったらお客さんにあげちゃってもいいし」
「そう、ですか? では店主達にもそう伝えましょう。ちょうど先ほど昼営業が終わった所です。みんなで少し休憩をとるところでしたから、いいタイミングでした。今、サギリがお茶を入れています。あなたも一緒にどうですか」
「せっかくの休憩なのに、僕が混ざったら悪いよ」
「いえ、あなたがいた方がみんな喜ぶでしょう。むしろ、帰してしまったら私が怒られます」
「そう、かな」
「絶対そうです。さ、行きましょう」
山のような品を器用に片手で抱え、彼女はもう片方の手をシュリの方へと伸ばした。
手をつないで行こう、という事らしい。
そんなに子供じゃないんだけどなぁ、と苦笑しつつ、シュリは素直にその手をとる。
そして彼女に導かれるまま、宿の食堂へと向かった。
◆◇◆
「シュリ、良く来たな!」
「いらっしゃい、シュリ」
「シュリ君、久しぶり」
食堂に入ると、それに気づいた3人が嬉しそうに出迎えてくれた。
それを聞いたシャナは、シュリを見て、
「シュリ? それがあなたの名前、ですか?」
そう問いかけた。
隠す必要も無いことだ、とシュリは頷き、
「うん、そうだよ」
そう答える。
そうか、自己紹介もまだしてなかったか、と思いながら。
「僕の名前はシュリナスカ・ルバーノ。友達はみんなシュリって呼ぶから、シャナさんもそう呼んでね」
微笑み、告げる。
何気なく行った自己紹介がなにを引き起こすか、その時は知る由もなく。
「シュリナスカ・ルバーノ。あなたが」
「あれ? もしかして僕のこと、知ってた??」
「……ええ。あなたのお屋敷の、ジュディス、という女性とは何度か言葉を交わしたことがあります」
「ジュディスと?」
「ええ。あなたに会いに行ったのですが、いない、という事でしたので。最近はずいぶん忙しくされていたようで。ここで会えたのは幸いでした。近々、また、訪ねようと思っていたのですよ」
「そう、だったんだね。僕を……」
言葉を交わしながら、シュリは内心首を傾げる。あれ、その話、なんだか聞いた事があるぞ、と。
シュリがその客と会わずにすむように追い返してくれたジュディスの報告で。
じわじわと、嫌な予感が背筋をはい上る。
あの報告の時、ジュディスはなんと言っていたか。
蒼い髪に蒼い瞳の美女。
そう、言ってはいなかったか。
手をつないでいる女性の顔を見上げる。
蒼い髪に蒼い瞳の、絶世の美女と呼んでも間違いないであろうその美貌を。
「時にお尋ねしますが」
「なっ、なにかな?」
「イルルという名前に聞き覚えは? イルルアンルージュ、あるいはルージュでもかまいませんが」
そのどれにも聞き覚えがあります、とはとっさに言えなかった。
そんなシュリの躊躇に気づくことなく、
「イルルちゃん? それならシュリのうちにいる子だよね? 赤い髪で、元気のいい」
悪気無く、ジャズが答える。
「紅い髪……瞳の色は?」
「えっと、確か琥珀というか金というか……」
「答えるな、ジャズ。なにか様子がおかしい」
遅ればせながら、ナーザがジャズの答えを遮る。
が、欲しい答えは既にシャナ……シャナクサフィラの手の内だった。
「金の瞳。紅い髪に金の瞳はルージュの色です。シュリナスカ・ルバーノ。やはりあなたが彼女を捕らえていたのですね」
「違うぞ、シャナ。なにか誤解があるようだが、イルルは望んでシュリの元にいる。無理矢理捕らえている訳じゃない。きちんと話し合えば分かるはずだ」
「ならばなぜ、この少年は私から逃げ回っていたのでしょう? 後ろ暗いことが、あったからではないですか?」
蒼く冷たい瞳が、シュリの瞳をからめ取る。
魂の奥底まで凍らせるような、冷ややかさで。
「ルージュは思慮が足りない子ですから、たぶらかすのは簡単だったでしょうね。男慣れしてませんし、ちょっと甘い言葉をかければほいほいついて行ってしまいかねない軽率なところもあります。頭が弱い分、勢い任せな部分もありますし。そう考えると、あなたばかりが悪いわけではないのかもしれません。そこで1つ相談ですが」
そう言って、シャナクサフィラはすぅっと目を細めた。
「今すぐルージュを返して頂けませんか? あの子の民も心配していますし、友人である私も、あの子が心配です。ルージュのすべてを受け止めきれるような器が、あなたのような子供にあるとも思えない」
イルルを返せば許す。
それはシュリをわずかなりとも気に入っている彼女の、最大の譲歩だった。
しかし。
シュリにだって、それに頷けない理由はある。
だって、イルルは。
「返せないよ。イルルは、僕の大切、だから」
イルルは既に、シュリの大切な家族だった。
本人の意志を無視して返す約束なんて、出来るわけがなかった。
「……そうですか。交渉決裂ですね。あなたの事はそれなりに気に入っていたんですが。残念です。とても。ですが、ここではお世話になった宿を壊してしまう。場所を移しますよ」
「出来るだけ、人気のない開けた場所でお願いできるかな?」
「かまいません。私は人を嫌いなわけではないですから。ムダな犠牲を出すのは本意ではありません」
「そっか。ありがとう」
素直に微笑み、礼を言ったシュリに、シャナクサフィラはわずかに動揺する気配を見せた。
だが、それはすぐに冷たい仮面の下に隠れ。
彼女はシュリの襟首を捕まえると、その体をぶらんとぶら下げて、宿を出て行こうとした。
そんな彼女に、ナーザの声が追いすがる。
「っっ! 待て!! シュリだけを連れて行かせると思うのか!?」
解き放たれた龍の威圧に冷や汗を流しながらも、彼女は声を上げた。
今、この場で動けるのは彼女だけだった。
ジャズもサギリも、龍の怒りに当てられて意識を失っている。
「……その勇気は敬意に値します。ですが、店主よ」
シャナクサフィラは、龍の威圧を込めてナーザを見た。
「龍をなめないでいただきたい。人の枠の中では、確かにあなたは強いのでしょう。ですが」
蒼い瞳がすぅ、と細められた。
「人如きが、龍にかなうとでも?」
吹き付けるような威圧に、ナーザが膝を突く。
だが闘志は失ってはいない。
彼女はシュリを掴んだままの高位の存在から目を離さず、睨みつけた。
「シュリを、離せ」
「聞けませんね。ここを壊さぬ配慮をするのも、あなた達を殺さぬ配慮をするのも、これまで世話になった感謝の気持ちです。ここは存外居心地のいい場所でした。世話に、なりました。あなた達のことも、嫌いではなかったですよ。こんな終わりになって、残念です」
その言葉を最後に、彼女の姿はドアの向こうへ消えた。
その手にぶら下げた、シュリ、共々。
その姿が視界から消えた瞬間、威圧が弱まり、何とか体の自由を得たナーザは立ち上がり、
「店を、頼む」
意識は取り戻したものの、まだ身動きできそうにない娘と従業員へ短く告げた。
「おか……さん、ど、こへ?」
どうにか動く口でジャズが問う。
「ルバーノ邸へ。シュリのことを伝えなければ」
「そ……か。わた、しも行きたい、けど、まだ、動けな、いから。おね、がい。おか、あさん」
「任せろ」
力強く娘に頷き、ナーザは己の城を飛び出していった。
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