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第四部 王都の新たな日々
第467話 マッチョの集う、新聖地
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前々からあたためていた話をやっと書けました。
間話的な感覚で読んでいただければいいかな、と。
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シルバが王都に戻ってきてしばらくたった今日この頃。
シュリはリューシュを獣王国へ返してちょっぴりさびしいシルバを捕まえて、一緒に筋トレをする日々を過ごしていた。
シルバは獣王国でシュリに筋肉をつける手伝いをすると約束したとおり、自分が行っているトレーニングを中心に、色々な筋トレを教えてくれたのだが、その成果は中々現れず。
最初こそは、トレーニングを持続さえすればシュリにも筋肉はついてくるはず、と気軽に考えていたシルバだが、1月過ぎても筋肉の欠片も見あたらないシュリの体に、少々焦りを覚えつつあった。
そんな時である。
その情報が舞い込んできたのは。
「なあ、2人は知ってるか? 王都にマッチョが集うカフェがあるって話」
そう話すのはアズラン。
日々筋トレに励むシュリに触発され、彼も時折筋トレに加わっていた、そんな折のことだった。
「マッチョが集う……」
「カフェ??」
アズランから得られた情報に、シュリとシルバは首を傾げる。
そんな2人に向かって、アズランは更に説明を続けた。
「ああ。なんでも、筋肉を育てるのに最適なメニューがあったり、従業員は少々珍妙な格好をしているようだが筋肉に関しての知識を豊富に備えたマッチョの鏡なんだとか。オープンしたのは最近みたいだが、筋肉を愛する同志の間ではすでに聖地とされているらしい」
「最近、オープンした??」
「ん? シュリ。思い当たる場所でもあるのか?」
入ってきた情報とシルバの問いかけに、シュリは首の傾けを更に深くする。
(最近、オープン。珍妙な格好の従業員……なんだか覚えがあるような)
頭を捻るが、答えは形にならず、シュリはアズランに問いかけた。そのカフェの名前は? と。
打てば響くように、アズランは答えた。
「たしか、オトメ☆カフェ、って名前だったと思うぞ」
そう言いつつ、アズランは店名を紙に書いてくれた。
この星マークが大事らしい、とか言いながら。
「オトメ☆カフェ……!!」
その名前を聞いて、シュリはすぐに思い出した。
そういえば、オープンのお知らせが来ていたな、と。
行こうと思っていたのだが、その前に獣王国のごたごたで王都を出ていたため、すっかり忘れていたのだ。
当初は、愛の奴隷達の誰かを連れて行けばいいか、と思っていたが、よく考えれば熾烈な争いが勃発するのは目に見えている。
だったらいっそ、ここにいる友人を誘って男の友情を深めるのもいいかもしれない。
そんなことを思いながら、シュリは貴重な男友達の顔を交互に見上げた。
「2人はオトメ☆カフェ、興味ある??」
「まあ、無くはないかな。筋肉がないだの、なよなよしてるだの、ファランがしょっちゅうからかってくるから、そろそろ見返してやりたいんだよなぁ。筋肉愛好家が集うカフェなんだし、効率的に筋肉を鍛える方法なんかも教えてもらえるかもしれないし」
「俺も効率的に筋肉を鍛える方法は聞いてみたい。それに、筋肉に効果的なメニューもあるって話だしな。シュリの筋肉をどうにか鍛える為には、なりふりを構っていられない気がしてきていたところだったんだ」
問いかけに返ってきたのは肯定的な返事。
シルバに関しては、自分が行きたい、というよりも、シュリの筋肉の為に行ってみたい、という事らしいが。
でも確かに。
シルバとトレーニングしてしばらくたつし、それまでだって体を鍛える運動はしていたが、シュリのぷにボディーに変化はない。
ステータスは、全体から見ると微々たる変化だが、トレーニングしただけの上昇は見られるというのに。
同じようにトレーニングしているシルバや、時々参加するアズランでさえ、触ってみれば腕やお腹の筋肉が増えている気がするのに、シュリだけそれがない。
負荷が足りないのか、とシルバやアズランの2倍、3倍の回数をこなしても筋肉痛すら気配を見せないのはなぜなのか。
オトメ☆カフェで何らかの答えが見つかればいいんだけど。
2人と約束の日程を決めながら、そう思わずにはいられないシュリだった。
◆◇◆
「こ、ここがオトメ☆カフェ……なのか!?」
「これが噂のマッチョ……いや、筋肉愛好家の聖地!? 本当に??」
休日、予定を合わせて一緒にやってきたオトメ☆カフェを前にして、シルバとアズランはあんぐりと口を開けて、驚愕の眼差しでその店構えを見た。
「な、なんというか、想像していた感じと違うな?」
「う、うん。思っていたよりずっと……なんていうか、ピンク?」
「あ~……うん。2人の言いたいことはなんとなく分かるよ」
その店は、正しくオトメ☆カフェ、といった感じだった。
全体的にピンク多めなメルヘンで乙女チックな店構え。
窓を飾るのは気合いの入りまくった豪華なレース。
このカフェがオープンする前に、大口の仕事が入ったとオーギュストがせっせとレース編みをしていたが、恐らくそのレースはすべてこの店に納入されているのだろう。
前にアグネスが言っていた。
プリティ&ゴージャスがコンセプトなの、と。楽しそうに笑いながら。
そんな彼女(彼?)の言葉を思い出しながら、シュリは口元に笑みを刻む。
これは確かに、
「プリティ&ゴージャス、だなぁ」
と大きく頷きながら。
「よし、じゃあ、入ろうか!」
中がどうなっているか楽しみだな、と思いながら、シュリは友人2人を振り返る。
「入る!? ここに入るのか……」
「そ、そうだな。そのために来たんだしな……」
2人とも、なんだか挙動不審だ。特にアズランは、
「ファランがどこかで隠れて見てたりしないか? ここに入ったことをファランに知られるのだけは……」
ここにいない双子の妹の事を気にしてきょろきょろしている。
そんな彼に苦笑しつつ、
「ここに立ってる方が目立つよ、アズラン。早く入っちゃお」
シュリはそう言って、有無を言わせず扉を押し開けた。
◆◇◆
「いつ飲んでもこのドリンクは最高だな。俺の上腕二頭筋が喜んでるのを感じるよ」
「タンパク質多めのラインナップも素晴らしいわぁ。さぁて、どれを頼んだら私の大胸筋が喜んでくれるかしら」
ピンクとレースの可愛らしい空間に詰め込まれた、マッチョ、筋肉、マッチョ……。
店内は外から見て想定していたよりずっとカオスだった。
「こ、この店は俺達には少々レベルが高くないか?」
「え~? そうかなぁ?? 店内の内装も可愛いし、楽しそうじゃない?」
「楽しそう、とかそう言うレベルじゃないぞ、シュリ。僕達の手に負えない感じしかしない」
「そんなことないでしょ? お客さんの筋肉ももの凄いし、きっといいアドバイスをもらえると思うけどなぁ」
「だめだ。あの人達のアドバイスをもらうには、俺達の筋肉レベルが足りてない」
「そうだよ。もっと筋肉レベルを上げてからじゃないと」
筋肉レベルって何だよ、と内心つっこみをいれつつ、店内の空気に当てられておかしな事を言い出した友人2人を半眼で見上げる。
だが、完全に腰が引けている2人が逃げ出すより早く、
「あらぁ。シュリきゅん。来てくれたのねぇ。バーニィ、感激よぉ」
むっきむきの筋肉を、レースをふんだんに使ったメイド服で包んだ漢女が現れた。
「あ、バーニィ。ちょっとごたごたしてて、お店に来るのが遅れてゴメンね? ほんとはオープンしてすぐに来るつもりだったんだけど」
「いやん。気にしないでいいのよぉ。シュリきゅんが忙しかったのは、レッドやブランから聞いてるわぁ」
「あ、あの2人はもう来たんだね?」
「ええ。お仕事の合間に時々顔を出してくれるのよ、2人とも。時々はノワールさんも連れて。ハンサムさんが来てくれると、華やかでいいわよねぇ」
そう言ってバーニィはうふふ、と笑う。
そんな彼女ににこやかに笑い返し、
「そっか。良かった。そう言えば、アグネスは?」
シュリは軽く周囲を見回してから問いかけた。
「お姉さまは、基本、お洋服屋さんの方を担当なの。時々は様子見に寄って下さるけど」
「そっかぁ。それはそうと……」
言いながらシュリは改めてバーニィの姿を眺めた。
少々ゴツくてガタイはいいが、彼女の為にあつらえたのであろうその制服は良く似合っていた。
だから。
「それ、お店の制服? 良く似合ってるね。可愛いよ」
シュリはにっこり笑って、心からそう言った。
とたんにバーニィの顔がぼふぉっと赤くなり、彼女は熱い頬に両手を当てて、いゃんいゃんと身をよじる。
「もうっ。シュリきゅんったら、相変わらず女ゴロしなんだからぁ。好きになっちゃうわよぉ?」
「あ、それはごめんなさい」
「くぅん、つれないんだからぁ。でも、そんなところも、イイ、のよねぇ」
バーニィはうふうふ笑ってシュリに投げキッスをしたあと、今度はシュリの後ろで固まっている2人に目を向けた。
「あらぁ。今日はお友達と来てくれたのねぇ」
「うん。最近、僕達、体を鍛えるのに筋トレしててさ」
「まあぁ、それは素敵ねぇ。健全な精神は健全な肉体に宿るものだものねぇ。でも……」
えへんと胸を張るシュリの、胸板(?)や腕やほっぺたを、バーニィは指先でつつき、
「いやぁん、ぷにぷに」
うふんと笑う。
そんな彼女にシュリはむっと唇を尖らせ、
「これから筋肉を鍛えてガッチガチになるの!!」
ムキになって言い返した。
「ええぇぇ~。ガッチガチにしちゃうのぉ? それはちょっぴり残念な気もするけど、でも男の子、だものねぇ。そう思う気持ちもわかるわぁ。じゃあ、今日はそっちのメニューをお求めなのねぇ?」
「うん、筋トレのアドバイスも。僕、筋肉がつきにくいみたいなんだ」
「あらぁ、それは大変ねぇ。じゃあ、このバーニィちゃんが、筋肉が1番喜ぶ目玉メニューをお持ちするわ。そっちのお友達にも、ね」
そう言って、バーニィはシルバとアズランにもバチコンっと熱烈なウィンクをかまし、筋肉の間をぬうようにして、シュリ達を席へと案内してくれた。
シュリは飛び乗るようにイスに座り、シルバとアズランは所在なさそうに小さくなってイスに座る。
そんな3人に、
「じゃあオトメ☆カフェ目玉メニューを用意してくるわぁ。それまでゆっくりくつろいでてちょうだい」
再びバチコンっとウィンクをし、バーニィはカウンターの方へ戻っていった。
その後ろ姿を見送り、それから改めて周囲を見回したシュリは、周囲の席にちんまり座っている筋肉マッチョさん達をうっとり眺める。
「僕も早くああいう筋肉マッチョになりたいなぁ」
シュリの言葉を聞いてぎょっとしたのはシルバだ。
共に筋肉を鍛える約束はしたが、シュリにマッチョな肉体が似合うとは全く思えない彼は、あわててシュリに声をかけた。
「いや、いきなりアレを目指すのはどうかと思うぞ、シュリ。アレほどの筋肉は、そう簡単に手に入るものじゃないからな」
「そうだよ。それに、シュリの顔にあのムキムキな体は似合わないんじゃないか? 違和感がハンパない」
「いいんだよ。体がムキムキになる頃には、顔だってちゃんとゴツくなってるはずなんだから」
「シュリの顔がゴツく……それはイヤだな」
「うん。ゴツいのはダメだよね。何で止めなかったんだって、ファランに絶対怒られる。ああ見えてファランは、シュリの顔が好きなんだから」
「俺だって母上に怒られる。王位継承権を剥奪される恐れだってあり得るぞ」
「ええぇぇ~? 2人とも、大げさだよ。僕は男の子なんだし、ゴツくなって当然だと思うけどなぁ。僕、胸板の厚い男らしい男になるのが夢なんだ」
きらきらの目で語るシュリを、シルバとアズランは何とも言えない表情で見る。
それは絶対無理だと思う、と2人の目が語っていた。
「はぁ~い。お待たせぇ。これが噂のスペシャルドリンクよ」
何とも微妙な空気になったテーブルに、タイミング良くバーニィがやってきた。
彼女が持ってきて3人の前に置いたのは、ちょっとどろっとした飲み物の入ったグラス。
シュリは目を輝かせ、シルバとアズランは胡散臭そうにそのドリンクを見つめた。
「これこそ、アタシとアグネスお姉さまの血のにじむような努力の結晶、プロンティーンよ!!」
「プロンティーン……」
バーニィの言葉を聞いてシュリは思う。
やっぱりなんか聞いたことのある名前だ、と。
「プロンティーン。初めて聞くな。どういう効果がある飲み物なんだ?」
小首を傾げ、シルバが問いかける。
(それはきっと、筋肉を効率よく鍛える補助、っていう効果だよ)
シュリが心の中で答えるのと同時に、
「うふふん。よく聞いてくれたわね! これはね、これを飲んでから運動する、あるいは運動の直後に飲むことで、良質な筋肉を育てるのを助けてくれる、奇跡の飲み物なのよぅ!!」
ばばぁぁん、と得意そうに鼻息荒くバーニィが答えてくれた。
「アグネスお姉さまと研究に研究を重ね、試行錯誤を繰り返し、想像を絶する努力で生み出されたのがこのプロンティーンよぉ。さ、召し上がれ? 飲んだ後の運動ブースはあっちに用意してあるわぁ」
「へぇ? 飲んだ後に運動するスペースまで併設されているのか。それはいいね」
アズランは頷き、バーニィの示す運動ブースが、カフェスペースと同様、ピンクで埋め尽くされている事に若干ひいた顔をしたが口には出さず、黙ってグラスを傾けた。
シルバとシュリも、彼に続いてグラスに口をつける。
なんだかどろっとしてるし、味はどうなんだろう、と少し不安だったが、予想に反してそのドリンクは甘みもちょうど良く美味しかった。
「これ、美味しい。飲みやすいね」
「そうだな。うまいな」
「ああ、これなら毎日でも飲めそうだ」
「でしょうおぉぉ」
シュリ達の感想に、バーニィがまたまた厚い胸板……いや胸を張った。
「素材にも味にもお姉さまとこだわって作ったの。これは、南の方から取り寄せたバナーヌって果物と特濃ミルクを使ったバナーヌプロンティーンドリンク。でも他にもお貴族様に人気の黒くて甘ぁいお菓子、ショコラッテをちょっぴり入れたショコラッテプロンティーンドリンクもあるわ」
(バナナ味とチョコ味か。王道だな~)
シュリはうんうん頷き、
「バナーヌか。俺も食べた事はあるが、アレはうまいな」
「ショコラッテね。確か、ファランが好きなんだよなぁ」
シルバとアズランもそれぞれ、そんな事を話しながら、ドリンクを味わった。
その後は、バーニィや、筋肉有段者(?)のお兄さま方にご教授いただきながら筋トレをし。
頑張った子達に特別サービスよ、とウィンクと共に渡されたさっきとは違う、ショコラッテ味のドリンクを味わい、3人は充実した気分でオトメ☆カフェを後にした。
共に再訪する事を約束して。
◆◇◆
その日から。
シュリとシルバ、ときどきアズランの筋トレは、オトメ☆カフェに場を移した。
その結果……。
「見てくれ。俺の大胸筋と上腕二頭筋。だいぶ仕上がってきたと思わないか」
「確かにいい感じだな。でもシルバは元々それなりに筋肉があったから当然の仕上がりかも。それより見てよ、僕の腹筋!! 線すら無かったのに、うっすら6つに割れてきたんだ。すごくないか!?」
大興奮で互いの筋肉を見せ合いたたえ合う友人達の横で、シュリは切なく己の肉体を見下ろす。
彼らと変わらず……いや、彼ら以上の負荷で鍛えたはずなのに、以前と全く変わらぬクオリティのぷにぷにぷりんな肉体を。
「な、なんで……?」
今にも泣きだしそうな目で、アグネスとバーニィを見る。
アグネスは、余りにトレーニング効果の出ないシュリに白旗を掲げたバーニィによって呼び出されたのだが。
「うーーーーーーーーーん」
そのアグネスをもってしても、解決が難しいのか、彼女は長々とうなりながら、シュリの体のあちこちを触る。
「シュリはそっちの子達と一緒にトレーニングしてたのよね?」
「はい、お姉様。むしろ2人より苛烈なトレーニングをしていましたわぁ」
「なのにこの仕上がり。筋肉の欠片も見あたらないわ……」
シュリ、恐ろしい子、とアグネスが驚愕の眼差しを向けてくる。
シュリは泣きたい気持ちでその視線を受け止め、ぷにっと音がしそうなくらいもち肌な自分の腕をつついて。
「なんでぇぇ?」
「きっと筋肉がつきにくい体質なのねぇ」
「そんな体質、いらないよぉぉ」
アグネスの同情的な眼差しを受けながら、心からの叫びと共に天をあおぐのだった。
◆◇◆
そんなシュリの様子をこっそり見ていた女神様達は顔を見合わせる。
そして、
「……どんなに頑張っても、シュリが望むような筋肉は付かない、と教えてやった方がいいんじゃないか?」
「そうよぅ。運命の女神のスキルの効能で、シュリの筋肉は筋肉になる代わりにパワー値に変換されてるんだって、教えて上げた方がいいと思うわよぅ?」
「いやだよ。そんなの話したら、ボクがシュリに嫌われちゃうじゃないか! それに、筋肉熱が高まったシュリの要望に応えてスキルメーカーが作ろうとしてる、[筋肉増量+]とか[筋肉男]とか、そんな無粋きわまりないスキルをつぶすのに忙しくてそれどころじゃないんだよ!?」
「うむ、しかしなぁ? さすがに、実らぬ努力をしているシュリがあわれでな」
「うん。ちょっとかわいそうよねぇ」
「じゃあ、なにかい? 2人はボクらのシュリが、筋肉ムキムキの男臭い男になっちゃっても構わないと?」
「そっ、それは……困るな」
「うん。絶対いやぁ!」
「だろぉ!?」
シュリには、シュリに知られないようにひっそり隠されたスキルがあった。
女神様によってシュリには見えないように隠された、常にパッシブなそのスキルの名前は、[(女神様の)理想の肉体美]。
そのスキルの設定の数百を越える選択項目を、3人の女神が吟味し、話し合い、調整した結果、シュリの肉体に無駄な筋肉は不要という調整結果に。
ちょっとはあってもいいが、皮膚の下にうっすら筋肉が感じられる程度がちょうどいい、と。
シュリの求める、シックスパックの腹筋や、筋肉太りした胸板など、もっての他である。
故に、シュリの肉体はこのまま順調に身長が伸びて成長したとしても、シュリの望む方向には決して行かないのは確定事項だ。
だが、今回のように、出来るはずだった筋肉はどこへいっちゃっているのか。
答えは簡単。
筋肉はそのまま、シュリの内面のパワーに変換され、ステータスにもそのまま反映されている。
その事実にシュリが気づき、がっくり肩を落とすのは、多分、そう先の事では無いだろう。
間話的な感覚で読んでいただければいいかな、と。
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シルバが王都に戻ってきてしばらくたった今日この頃。
シュリはリューシュを獣王国へ返してちょっぴりさびしいシルバを捕まえて、一緒に筋トレをする日々を過ごしていた。
シルバは獣王国でシュリに筋肉をつける手伝いをすると約束したとおり、自分が行っているトレーニングを中心に、色々な筋トレを教えてくれたのだが、その成果は中々現れず。
最初こそは、トレーニングを持続さえすればシュリにも筋肉はついてくるはず、と気軽に考えていたシルバだが、1月過ぎても筋肉の欠片も見あたらないシュリの体に、少々焦りを覚えつつあった。
そんな時である。
その情報が舞い込んできたのは。
「なあ、2人は知ってるか? 王都にマッチョが集うカフェがあるって話」
そう話すのはアズラン。
日々筋トレに励むシュリに触発され、彼も時折筋トレに加わっていた、そんな折のことだった。
「マッチョが集う……」
「カフェ??」
アズランから得られた情報に、シュリとシルバは首を傾げる。
そんな2人に向かって、アズランは更に説明を続けた。
「ああ。なんでも、筋肉を育てるのに最適なメニューがあったり、従業員は少々珍妙な格好をしているようだが筋肉に関しての知識を豊富に備えたマッチョの鏡なんだとか。オープンしたのは最近みたいだが、筋肉を愛する同志の間ではすでに聖地とされているらしい」
「最近、オープンした??」
「ん? シュリ。思い当たる場所でもあるのか?」
入ってきた情報とシルバの問いかけに、シュリは首の傾けを更に深くする。
(最近、オープン。珍妙な格好の従業員……なんだか覚えがあるような)
頭を捻るが、答えは形にならず、シュリはアズランに問いかけた。そのカフェの名前は? と。
打てば響くように、アズランは答えた。
「たしか、オトメ☆カフェ、って名前だったと思うぞ」
そう言いつつ、アズランは店名を紙に書いてくれた。
この星マークが大事らしい、とか言いながら。
「オトメ☆カフェ……!!」
その名前を聞いて、シュリはすぐに思い出した。
そういえば、オープンのお知らせが来ていたな、と。
行こうと思っていたのだが、その前に獣王国のごたごたで王都を出ていたため、すっかり忘れていたのだ。
当初は、愛の奴隷達の誰かを連れて行けばいいか、と思っていたが、よく考えれば熾烈な争いが勃発するのは目に見えている。
だったらいっそ、ここにいる友人を誘って男の友情を深めるのもいいかもしれない。
そんなことを思いながら、シュリは貴重な男友達の顔を交互に見上げた。
「2人はオトメ☆カフェ、興味ある??」
「まあ、無くはないかな。筋肉がないだの、なよなよしてるだの、ファランがしょっちゅうからかってくるから、そろそろ見返してやりたいんだよなぁ。筋肉愛好家が集うカフェなんだし、効率的に筋肉を鍛える方法なんかも教えてもらえるかもしれないし」
「俺も効率的に筋肉を鍛える方法は聞いてみたい。それに、筋肉に効果的なメニューもあるって話だしな。シュリの筋肉をどうにか鍛える為には、なりふりを構っていられない気がしてきていたところだったんだ」
問いかけに返ってきたのは肯定的な返事。
シルバに関しては、自分が行きたい、というよりも、シュリの筋肉の為に行ってみたい、という事らしいが。
でも確かに。
シルバとトレーニングしてしばらくたつし、それまでだって体を鍛える運動はしていたが、シュリのぷにボディーに変化はない。
ステータスは、全体から見ると微々たる変化だが、トレーニングしただけの上昇は見られるというのに。
同じようにトレーニングしているシルバや、時々参加するアズランでさえ、触ってみれば腕やお腹の筋肉が増えている気がするのに、シュリだけそれがない。
負荷が足りないのか、とシルバやアズランの2倍、3倍の回数をこなしても筋肉痛すら気配を見せないのはなぜなのか。
オトメ☆カフェで何らかの答えが見つかればいいんだけど。
2人と約束の日程を決めながら、そう思わずにはいられないシュリだった。
◆◇◆
「こ、ここがオトメ☆カフェ……なのか!?」
「これが噂のマッチョ……いや、筋肉愛好家の聖地!? 本当に??」
休日、予定を合わせて一緒にやってきたオトメ☆カフェを前にして、シルバとアズランはあんぐりと口を開けて、驚愕の眼差しでその店構えを見た。
「な、なんというか、想像していた感じと違うな?」
「う、うん。思っていたよりずっと……なんていうか、ピンク?」
「あ~……うん。2人の言いたいことはなんとなく分かるよ」
その店は、正しくオトメ☆カフェ、といった感じだった。
全体的にピンク多めなメルヘンで乙女チックな店構え。
窓を飾るのは気合いの入りまくった豪華なレース。
このカフェがオープンする前に、大口の仕事が入ったとオーギュストがせっせとレース編みをしていたが、恐らくそのレースはすべてこの店に納入されているのだろう。
前にアグネスが言っていた。
プリティ&ゴージャスがコンセプトなの、と。楽しそうに笑いながら。
そんな彼女(彼?)の言葉を思い出しながら、シュリは口元に笑みを刻む。
これは確かに、
「プリティ&ゴージャス、だなぁ」
と大きく頷きながら。
「よし、じゃあ、入ろうか!」
中がどうなっているか楽しみだな、と思いながら、シュリは友人2人を振り返る。
「入る!? ここに入るのか……」
「そ、そうだな。そのために来たんだしな……」
2人とも、なんだか挙動不審だ。特にアズランは、
「ファランがどこかで隠れて見てたりしないか? ここに入ったことをファランに知られるのだけは……」
ここにいない双子の妹の事を気にしてきょろきょろしている。
そんな彼に苦笑しつつ、
「ここに立ってる方が目立つよ、アズラン。早く入っちゃお」
シュリはそう言って、有無を言わせず扉を押し開けた。
◆◇◆
「いつ飲んでもこのドリンクは最高だな。俺の上腕二頭筋が喜んでるのを感じるよ」
「タンパク質多めのラインナップも素晴らしいわぁ。さぁて、どれを頼んだら私の大胸筋が喜んでくれるかしら」
ピンクとレースの可愛らしい空間に詰め込まれた、マッチョ、筋肉、マッチョ……。
店内は外から見て想定していたよりずっとカオスだった。
「こ、この店は俺達には少々レベルが高くないか?」
「え~? そうかなぁ?? 店内の内装も可愛いし、楽しそうじゃない?」
「楽しそう、とかそう言うレベルじゃないぞ、シュリ。僕達の手に負えない感じしかしない」
「そんなことないでしょ? お客さんの筋肉ももの凄いし、きっといいアドバイスをもらえると思うけどなぁ」
「だめだ。あの人達のアドバイスをもらうには、俺達の筋肉レベルが足りてない」
「そうだよ。もっと筋肉レベルを上げてからじゃないと」
筋肉レベルって何だよ、と内心つっこみをいれつつ、店内の空気に当てられておかしな事を言い出した友人2人を半眼で見上げる。
だが、完全に腰が引けている2人が逃げ出すより早く、
「あらぁ。シュリきゅん。来てくれたのねぇ。バーニィ、感激よぉ」
むっきむきの筋肉を、レースをふんだんに使ったメイド服で包んだ漢女が現れた。
「あ、バーニィ。ちょっとごたごたしてて、お店に来るのが遅れてゴメンね? ほんとはオープンしてすぐに来るつもりだったんだけど」
「いやん。気にしないでいいのよぉ。シュリきゅんが忙しかったのは、レッドやブランから聞いてるわぁ」
「あ、あの2人はもう来たんだね?」
「ええ。お仕事の合間に時々顔を出してくれるのよ、2人とも。時々はノワールさんも連れて。ハンサムさんが来てくれると、華やかでいいわよねぇ」
そう言ってバーニィはうふふ、と笑う。
そんな彼女ににこやかに笑い返し、
「そっか。良かった。そう言えば、アグネスは?」
シュリは軽く周囲を見回してから問いかけた。
「お姉さまは、基本、お洋服屋さんの方を担当なの。時々は様子見に寄って下さるけど」
「そっかぁ。それはそうと……」
言いながらシュリは改めてバーニィの姿を眺めた。
少々ゴツくてガタイはいいが、彼女の為にあつらえたのであろうその制服は良く似合っていた。
だから。
「それ、お店の制服? 良く似合ってるね。可愛いよ」
シュリはにっこり笑って、心からそう言った。
とたんにバーニィの顔がぼふぉっと赤くなり、彼女は熱い頬に両手を当てて、いゃんいゃんと身をよじる。
「もうっ。シュリきゅんったら、相変わらず女ゴロしなんだからぁ。好きになっちゃうわよぉ?」
「あ、それはごめんなさい」
「くぅん、つれないんだからぁ。でも、そんなところも、イイ、のよねぇ」
バーニィはうふうふ笑ってシュリに投げキッスをしたあと、今度はシュリの後ろで固まっている2人に目を向けた。
「あらぁ。今日はお友達と来てくれたのねぇ」
「うん。最近、僕達、体を鍛えるのに筋トレしててさ」
「まあぁ、それは素敵ねぇ。健全な精神は健全な肉体に宿るものだものねぇ。でも……」
えへんと胸を張るシュリの、胸板(?)や腕やほっぺたを、バーニィは指先でつつき、
「いやぁん、ぷにぷに」
うふんと笑う。
そんな彼女にシュリはむっと唇を尖らせ、
「これから筋肉を鍛えてガッチガチになるの!!」
ムキになって言い返した。
「ええぇぇ~。ガッチガチにしちゃうのぉ? それはちょっぴり残念な気もするけど、でも男の子、だものねぇ。そう思う気持ちもわかるわぁ。じゃあ、今日はそっちのメニューをお求めなのねぇ?」
「うん、筋トレのアドバイスも。僕、筋肉がつきにくいみたいなんだ」
「あらぁ、それは大変ねぇ。じゃあ、このバーニィちゃんが、筋肉が1番喜ぶ目玉メニューをお持ちするわ。そっちのお友達にも、ね」
そう言って、バーニィはシルバとアズランにもバチコンっと熱烈なウィンクをかまし、筋肉の間をぬうようにして、シュリ達を席へと案内してくれた。
シュリは飛び乗るようにイスに座り、シルバとアズランは所在なさそうに小さくなってイスに座る。
そんな3人に、
「じゃあオトメ☆カフェ目玉メニューを用意してくるわぁ。それまでゆっくりくつろいでてちょうだい」
再びバチコンっとウィンクをし、バーニィはカウンターの方へ戻っていった。
その後ろ姿を見送り、それから改めて周囲を見回したシュリは、周囲の席にちんまり座っている筋肉マッチョさん達をうっとり眺める。
「僕も早くああいう筋肉マッチョになりたいなぁ」
シュリの言葉を聞いてぎょっとしたのはシルバだ。
共に筋肉を鍛える約束はしたが、シュリにマッチョな肉体が似合うとは全く思えない彼は、あわててシュリに声をかけた。
「いや、いきなりアレを目指すのはどうかと思うぞ、シュリ。アレほどの筋肉は、そう簡単に手に入るものじゃないからな」
「そうだよ。それに、シュリの顔にあのムキムキな体は似合わないんじゃないか? 違和感がハンパない」
「いいんだよ。体がムキムキになる頃には、顔だってちゃんとゴツくなってるはずなんだから」
「シュリの顔がゴツく……それはイヤだな」
「うん。ゴツいのはダメだよね。何で止めなかったんだって、ファランに絶対怒られる。ああ見えてファランは、シュリの顔が好きなんだから」
「俺だって母上に怒られる。王位継承権を剥奪される恐れだってあり得るぞ」
「ええぇぇ~? 2人とも、大げさだよ。僕は男の子なんだし、ゴツくなって当然だと思うけどなぁ。僕、胸板の厚い男らしい男になるのが夢なんだ」
きらきらの目で語るシュリを、シルバとアズランは何とも言えない表情で見る。
それは絶対無理だと思う、と2人の目が語っていた。
「はぁ~い。お待たせぇ。これが噂のスペシャルドリンクよ」
何とも微妙な空気になったテーブルに、タイミング良くバーニィがやってきた。
彼女が持ってきて3人の前に置いたのは、ちょっとどろっとした飲み物の入ったグラス。
シュリは目を輝かせ、シルバとアズランは胡散臭そうにそのドリンクを見つめた。
「これこそ、アタシとアグネスお姉さまの血のにじむような努力の結晶、プロンティーンよ!!」
「プロンティーン……」
バーニィの言葉を聞いてシュリは思う。
やっぱりなんか聞いたことのある名前だ、と。
「プロンティーン。初めて聞くな。どういう効果がある飲み物なんだ?」
小首を傾げ、シルバが問いかける。
(それはきっと、筋肉を効率よく鍛える補助、っていう効果だよ)
シュリが心の中で答えるのと同時に、
「うふふん。よく聞いてくれたわね! これはね、これを飲んでから運動する、あるいは運動の直後に飲むことで、良質な筋肉を育てるのを助けてくれる、奇跡の飲み物なのよぅ!!」
ばばぁぁん、と得意そうに鼻息荒くバーニィが答えてくれた。
「アグネスお姉さまと研究に研究を重ね、試行錯誤を繰り返し、想像を絶する努力で生み出されたのがこのプロンティーンよぉ。さ、召し上がれ? 飲んだ後の運動ブースはあっちに用意してあるわぁ」
「へぇ? 飲んだ後に運動するスペースまで併設されているのか。それはいいね」
アズランは頷き、バーニィの示す運動ブースが、カフェスペースと同様、ピンクで埋め尽くされている事に若干ひいた顔をしたが口には出さず、黙ってグラスを傾けた。
シルバとシュリも、彼に続いてグラスに口をつける。
なんだかどろっとしてるし、味はどうなんだろう、と少し不安だったが、予想に反してそのドリンクは甘みもちょうど良く美味しかった。
「これ、美味しい。飲みやすいね」
「そうだな。うまいな」
「ああ、これなら毎日でも飲めそうだ」
「でしょうおぉぉ」
シュリ達の感想に、バーニィがまたまた厚い胸板……いや胸を張った。
「素材にも味にもお姉さまとこだわって作ったの。これは、南の方から取り寄せたバナーヌって果物と特濃ミルクを使ったバナーヌプロンティーンドリンク。でも他にもお貴族様に人気の黒くて甘ぁいお菓子、ショコラッテをちょっぴり入れたショコラッテプロンティーンドリンクもあるわ」
(バナナ味とチョコ味か。王道だな~)
シュリはうんうん頷き、
「バナーヌか。俺も食べた事はあるが、アレはうまいな」
「ショコラッテね。確か、ファランが好きなんだよなぁ」
シルバとアズランもそれぞれ、そんな事を話しながら、ドリンクを味わった。
その後は、バーニィや、筋肉有段者(?)のお兄さま方にご教授いただきながら筋トレをし。
頑張った子達に特別サービスよ、とウィンクと共に渡されたさっきとは違う、ショコラッテ味のドリンクを味わい、3人は充実した気分でオトメ☆カフェを後にした。
共に再訪する事を約束して。
◆◇◆
その日から。
シュリとシルバ、ときどきアズランの筋トレは、オトメ☆カフェに場を移した。
その結果……。
「見てくれ。俺の大胸筋と上腕二頭筋。だいぶ仕上がってきたと思わないか」
「確かにいい感じだな。でもシルバは元々それなりに筋肉があったから当然の仕上がりかも。それより見てよ、僕の腹筋!! 線すら無かったのに、うっすら6つに割れてきたんだ。すごくないか!?」
大興奮で互いの筋肉を見せ合いたたえ合う友人達の横で、シュリは切なく己の肉体を見下ろす。
彼らと変わらず……いや、彼ら以上の負荷で鍛えたはずなのに、以前と全く変わらぬクオリティのぷにぷにぷりんな肉体を。
「な、なんで……?」
今にも泣きだしそうな目で、アグネスとバーニィを見る。
アグネスは、余りにトレーニング効果の出ないシュリに白旗を掲げたバーニィによって呼び出されたのだが。
「うーーーーーーーーーん」
そのアグネスをもってしても、解決が難しいのか、彼女は長々とうなりながら、シュリの体のあちこちを触る。
「シュリはそっちの子達と一緒にトレーニングしてたのよね?」
「はい、お姉様。むしろ2人より苛烈なトレーニングをしていましたわぁ」
「なのにこの仕上がり。筋肉の欠片も見あたらないわ……」
シュリ、恐ろしい子、とアグネスが驚愕の眼差しを向けてくる。
シュリは泣きたい気持ちでその視線を受け止め、ぷにっと音がしそうなくらいもち肌な自分の腕をつついて。
「なんでぇぇ?」
「きっと筋肉がつきにくい体質なのねぇ」
「そんな体質、いらないよぉぉ」
アグネスの同情的な眼差しを受けながら、心からの叫びと共に天をあおぐのだった。
◆◇◆
そんなシュリの様子をこっそり見ていた女神様達は顔を見合わせる。
そして、
「……どんなに頑張っても、シュリが望むような筋肉は付かない、と教えてやった方がいいんじゃないか?」
「そうよぅ。運命の女神のスキルの効能で、シュリの筋肉は筋肉になる代わりにパワー値に変換されてるんだって、教えて上げた方がいいと思うわよぅ?」
「いやだよ。そんなの話したら、ボクがシュリに嫌われちゃうじゃないか! それに、筋肉熱が高まったシュリの要望に応えてスキルメーカーが作ろうとしてる、[筋肉増量+]とか[筋肉男]とか、そんな無粋きわまりないスキルをつぶすのに忙しくてそれどころじゃないんだよ!?」
「うむ、しかしなぁ? さすがに、実らぬ努力をしているシュリがあわれでな」
「うん。ちょっとかわいそうよねぇ」
「じゃあ、なにかい? 2人はボクらのシュリが、筋肉ムキムキの男臭い男になっちゃっても構わないと?」
「そっ、それは……困るな」
「うん。絶対いやぁ!」
「だろぉ!?」
シュリには、シュリに知られないようにひっそり隠されたスキルがあった。
女神様によってシュリには見えないように隠された、常にパッシブなそのスキルの名前は、[(女神様の)理想の肉体美]。
そのスキルの設定の数百を越える選択項目を、3人の女神が吟味し、話し合い、調整した結果、シュリの肉体に無駄な筋肉は不要という調整結果に。
ちょっとはあってもいいが、皮膚の下にうっすら筋肉が感じられる程度がちょうどいい、と。
シュリの求める、シックスパックの腹筋や、筋肉太りした胸板など、もっての他である。
故に、シュリの肉体はこのまま順調に身長が伸びて成長したとしても、シュリの望む方向には決して行かないのは確定事項だ。
だが、今回のように、出来るはずだった筋肉はどこへいっちゃっているのか。
答えは簡単。
筋肉はそのまま、シュリの内面のパワーに変換され、ステータスにもそのまま反映されている。
その事実にシュリが気づき、がっくり肩を落とすのは、多分、そう先の事では無いだろう。
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