上 下
49 / 545
第一部 幼年期

第四十九話 シュリの好みとジュディスの選定

しおりを挟む
 シュリとミフィーがルバーノ一家と暮らしはじめて数日が過ぎた。
 初日こそ無駄な混乱があったが、その後は比較的平穏に日々は過ぎている。
 ミフィーも随分とルバーノの女達(大小含め)と打ち解けたようだった。

 今日も、ミフィーとシュリはルバーノのお嬢様方に囲まれて、彼女たちの遊びに巻き込まれていた。
 なんというか、ミフィーはすっかり子供達の子守の様な立ち位置になってしまっているが、それも仕方の無いことだ。

 手が掛からないのは一番年上のフィリアくらいで、後3人のちびっ子はまだ十分に幼い。
 まあ、2番目のリュミスは本さえ与えておけば大人しいから比較的楽なのだろうが。

 どうやらルバーノ家はそれほど裕福な貴族ではないらしく、家人も最低限に抑えている様だった。
 基本的に子供の世話は、母親であるエミーユが担っているらしい。
 故に、数少ないメイド達の仕事に子供の世話は含まれておらず、エミーユが忙しい時などは、妹の世話を年長のフィリアが引き受けていた様だった。

 更に今はそこへミフィーが加わり、フィリアやエミーユは大分助かっている様子だ。
 まあ、もともとミフィーは子供好きなので、ちびっ子達の相手をする事に、不満は無いようだったが。

 今も非常に楽しそうに、ミフィーは子供達とのおままごとに興じている。
 3女のアリスは少々不満そうだが、多数決で決まってしまったのだから仕方がない。
 ちょっぴりつまらなそうな顔をしつつ、それでも1人で遊ぶよりはいいのか、おままごとの輪にちゃんと加わっていた。

 おままごとを一番楽しんでいるのは末っ子のミリシアだ。
 可愛い顔を上気させ、生き生きと采配を振るっている。
 何ともほほえましい光景に、ミフィーもフィリアも優しい笑みを浮かべながら、彼女の遊びにつきあっていた。

 シュリは特に参加するわけでもなく、また参加を強制させられたところで大したことなど出来るわけでもない関係上、女達が楽しそうに騒いでいるのを何となく眺めていた。
 頭の中に声が聞こえてきたのはそんな時だった。


 『シュリ様、シュリ様。聞こえますか?』


 それは少し前に思いがけず自分のものとしてしまった女性のものだった。
 そういえば、ジュディスとは念話が通じるんだったっけなぁと思いながら、


 『ジュディス?どうしたの?』


 彼女の声に、心の中で応じる。
 すると、すぐにジュディスの嬉しそうな様子が伝わってきて、シュリの心はほんわりと暖かくなった。
 今の今までその存在をすっかり忘れていたくせに、そんな愛情を見せられれば当然愛おしく、ジュディスは可愛いなぁと思いつつ、彼女の次の言葉を待つ。


 『シュリ様、突然ですが、胸は大きい方がいいですか?小さい方がいいですか?』

 『は?』


 思わず聞き返してしまう。本当に突然で、脈絡のない質問だ。
 一瞬頭が真っ白になったものの、シュリはすぐに自分を立て直す。それから、どう答えたものかと考えた。

 質問の意図が良くわからない。
 ジュディスはシュリの女の好みが知りたいのだろうか?ーそんなことを思いつつ、ジュディスの体を思い浮かべた。
 特にその一部分を。

 彼女が持つ2つのボールは中々に立派なものだった。
 ここで小さいのが良いなどと答えたら、ジュディスの心を傷つけてしまうかもしれない。
 そんなよけいなことに気を回したシュリは、一つ頷くと答えた。


 『えーと、どちらかと言えば大きい方が好きかな』


 と。
 正直言えばどちらでも良いとは思う。
 生前の自分は結構控えめな胸だったし、母親であるミフィーも小さめだ。
 女性の魅力はそこだけではないと言うのが、シュリの持論であった。
 大きいのは大きいなりに良いし、小さいのもまた小さいなりの魅力があるのだ。

 まあ、今回はジュディスの顔を立てて、大きい方に1票投じておいた。
 この答えなら、万が一にもジュディスの気持ちを傷つける心配は無いだろう。
 下手に傷つけて、状態異常を起こされたら大変だ。

 なんと言っても、ジュディスはシュリのとんでもスキルの生み出した[愛の奴隷]第一号なのだ。
 その生態は、まだ良く分かってないし、注意深く接するに限るだろう。
 なにしろ、[愛の奴隷]の状態異常は命に関わる事もあるらしいから。

 シュリがそんな心配をして気を使ってるなどとはいざ知らず、シュリの答えを聞いたジュディスから、すぐに満足そうな声が返ってきた。


 『大きい方、ですね。確かに、その方が機能的です。了解しました。んーと、条件に合うのは、2番と、4番と、12番それから15番くらいですね。後はちょっとボリュームにかけるので×、と』


 そんな意味不明の言葉に、シュリは首を傾げる。
 ジュディスはなにをしているんだろう、と。だが、その疑問を彼女にぶつける前に、再びジュディスが問いかけてきた。


 『ん~、大分一気に絞られましたねぇ。じゃあ、次の質問です。シュリ様、一緒に仲良く育つ幼なじみが出来るとしたら、女の子と男の子、どっちが良いですか?』

 『幼なじみ?』


 さっき胸のサイズの質問をしたと思えば今度の質問は幼なじみの性別について。
 訳が分からないと思いつつ、それでもシュリはまじめに考えた。

 同性の幼なじみも悪くは無いが、やはり幼馴染という響きには異性が似合う。
 男に生まれ変わったからには、可愛い幼なじみの1人くらいはいても良いんじゃないかとも思うし。

 まあ、お姉さまが4人もいるのだから必要ないだろうとも思うのだが、お姉さまと幼なじみはまた別だ。
 昔読んだマンガなどでも、幼なじみのヒロインは結構な王道だった。
 うん。幼なじみならやっぱり可愛い女の子に限る。だって自分は立派な男の子なのだから。


 『女の子の方が、いいかな』

 『ふうん。やっぱり若い女の方がいいんですね……』


 ぽろりと答えたら、ジュディスの声がちょっぴり暗くなった。
 やばいと思い、慌ててフォロー。


 『や、そうじゃなくて。若いとかそうじゃないとかは別にして、ジュディスは大好きだよ!それじゃ、ダメ?ぼくが子供過ぎて、もうイヤになっちゃった?』


 ちょっと甘えるようにささやく。
 ジュディスは可愛く甘えられるのが結構好きだと、少し分かってきていたから。


 『はう……』


 ジュディスの、小さくうめくような声。
 もう一息だと、シュリは更に甘えた声を彼女へ届ける。


 『大好きだよ、ジュディス』

 『ああ、シュリ様……ジュディスもお慕いしておりますぅ』

 『もう怒ってない?』

 『怒るなんてとんでもないっ!ちょっと若さに嫉妬しただけですよ。分かりました、幼なじみは女がいい、と。……となると、残るのは2番と15番ですか。じゃあ、シュリ様、最後の質問です。たれ目で優しそうな黒髪美人と、ちょっときつめで凛々しい感じの金髪美人、長い時間一緒に過ごすならどっちが良いですか?』


 ジュディスの機嫌が直ったことにほっとしつつ、シュリは最後の質問を吟味した。
 比較的簡単な質問だと思う。
 やはり、長く一緒に過ごすなら優しそうな人の方がいい。
 まあ、人の性格は見た目では判断出来ないことだとは思うが、判断基準が見た目しかないなら、そこから判断するほか無いだろう。


 『うーんと、長く一緒にいるなら優しそうな方がいいなぁ』

 『うんうん。ですよね。じゃあ、そっちにしときますね』

 『そっちにしとくって、なにを?』

 『ふふふ。それはお楽しみと言うことで。明日にはそっちに連れて行きますので』


 意味ありげな笑いとともに、交信は終わってしまった。
 その後、何度か呼びかけてみたものの、ジュディスからの答えはなく、明日来るならまぁいいかと、シュリは簡単に諦め、再び目の前で繰り広げられるちょっと滑稽なおままごとという名の家族劇を見るとはなしに眺めた。

 ちょっと目を離していた間に、アリスはお父さんの地位からペットの飼い犬の地位まで落ちてしまったようだ。
 ミリーはご満悦だが、アリスの頭からは湯気が出ている。
 ミフィーとフィリアは困り顔だ。
 リュミスは相変わらず本を読んでいる。
 おままごとの終わりも近いだろう。

 シュリはふ~っと赤ん坊らしからぬ吐息を漏らし、明日ジュディスはなにをするつもりなんだろうなぁと、目の前で始まった大喧嘩から現実逃避するようにそんな事を考えるのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

俺、貞操逆転世界へイケメン転生

やまいし
ファンタジー
俺はモテなかった…。 勉強や運動は人並み以上に出来るのに…。じゃあ何故かって?――――顔が悪かったからだ。 ――そんなのどうしようも無いだろう。そう思ってた。 ――しかし俺は、男女比1:30の貞操が逆転した世界にイケメンとなって転生した。 これは、そんな俺が今度こそモテるために頑張る。そんな話。 ######## この作品は「小説家になろう様 カクヨム様」にも掲載しています。

処理中です...