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第三部 学校へ行こう

第百八十五話 入学式侵入阻止作戦!!③

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 その頃、カイゼルの部屋には、今日のシュリの入学式にどうにか紛れ込みたいダメな大人達が集まっていた。
 彼らは小さく車座になって、ぼしょぼしょと最終的な相談をしているようだ。
 そんな中、一人だけちょっぴり険しい顔をしている人物がいた。

 カイゼルではない。
 カイゼルは、シュリの晴れ姿を直に見られる瞬間を想像して、にやけたヒゲと化している。
 エミーユでもなかった。
 彼女もまた、夫と同様、凛々しいシュリの晴れ姿を妄想して、くねくねしているのみだ。
 ならば、エルジャバーノだろうか?
 いや違う。
 彼も、いきなり入学式に乱入して、シュリから「おじー様、僕のために来てくれたの?」とうっとり見上げられるあり得ない妄想で忙しい。
 じゃあ、ミフィーかと思えばそれも違う。
 なら誰か。

 にやけきったメンバーの中で、唯一まじめな顔をしている人物、それは驚くべき事に、一番脳天気な顔をしていてもおかしくはないと誰もが思う人物、ヴィオラその人であった。
 ヴィオラは難しい顔をしてうーんと腕を組み、脳天気な顔をしている面々を見回した。
 彼らは今回の作戦に非常に楽観的だ。
 だが、ヴィオラにはそう簡単に事が運ぶとは思えなかった。
 なんだかイヤな予感がするのだ。
 もの凄い邪魔が入るような、そんな予感が。
 特に根拠は無いが、そう感じる。
 それは長年の冒険者としての経験によって培われた野生の勘のようなものだった。

 それに、よく思い返してみれば、シュリの周りには非常に抜け目のない、ちょっと変わり者だが優秀な人物がそろっているのだ。
 すべて女性、しかもみんなタイプの違う美人である。
 まあ、美人なのは特に関係ないが、今回の件に彼女達が感づいていたなら、確実に手を打つ……のではないだろうかという予感がした。
 ただの勘に過ぎないのだが、こういう時のヴィオラの勘はとにかく当たるのである。


 (ん~~……全員を連れて学校に乗り込むのは、もしかしたら難しいかもしれないわねぇ)


 そんなことを思いながらヴィオラはお気楽な顔をしているメンバーを見比べる。
 自分一人なら、何とかなる。
 シュリの周囲の女性陣は戦闘力も優秀そうだが、それでもまだ遅れをとるつもりはない。
 自分にプラスしてもう一人くらいなら、まあ、多分上手く抜け道を探れるだろう。
 だが、それ以上お荷物が増えると、ちょっと難しい。

 そんなことを考えて、ヴィオラは同行者を吟味する。
 まずは元夫に目を向ける。
 端正な顔をみっともないくらいに緩ませていて、正直不気味である。


 (……エルジャは、まあ、自分で頑張ってもらおうかなぁ)


 一つうなずき目をそらし、今度はその隣にいるルバーノ家の当主に目を向けた。
 彼にはいつも、この屋敷に滞在を許してもらっている。
 ここは一つ彼に恩を売っておくべきか?
 だが、目に映ったカイゼルのにやけきった髭面は、少々……いやかなり気持ち悪かった。
 元々の顔はそんなに悪くないのに残念である。


 (うん、あれと二人で行動するのはないわよね~……)


 うん、ないない、と口の中でもごもごとつぶやいて、次の人物へと目を向ける。
 カイゼルの妻、エミーユである。
 彼女はなにを妄想しているのか、しきりに内ももをすりあわせて、頬を赤らめている。
 普段からエミーユがシュリに熱いまなざしをこれでもかと注いでいることを知っているヴィオラは、彼女の妄想の中身が何となく分かる気がした。


 (……ちょっと色ぼけしすぎよね~。ん~、正直、脳内が桃色過ぎる同行者は連れ歩きたくないわ、うん……)


 あれも却下っと、と再び口の中でつぶやいて、ヴィオラは最後に自分の娘に目を向けた。
 ミフィーは満面でニコニコしていた。
 全力全開で息子の晴れの姿を純粋に楽しみにしている顔である。
 そんな常識の範囲内の母親らしさに、ヴィオラの心はきっぱり決まる。


 (ま~、どうせ連れてくなら、ミフィーかなぁ)


 そんな風に思い、一つ頷いたヴィオラは、ミフィーを同行者に選び、他を切り捨てる決断をあっさりと下したのだった。


 「じゃあ、相談も出来たし、出発まで私とミフィーは部屋で休んでるわね。出発の時間になったら馬車の前で合流しましょ?」


 にっこり微笑み、娘の手を取る。


 「じゃあ、私も最後に身だしなみを確認してから合流することにしましょうか」


 ヴィオラの言葉にエルジャも乗っかって、イスから立ち上がる。
 カイゼルとエミーユも心ここにあらずといった状態で了承し、ヴィオラはそれを確認してからそそくさとミフィーの手を引いて己の部屋へと戻っていった。


 「えっと、私も自分の部屋に戻るわよ??お母さん」


 ミフィーがそんな事をいっているが、分断されると面倒だから、有無を言わせずに手を引いて歩く。


 (さぁて、まずは相手がどう出てくるか、それによって手段を考えようかしらね~)


 ヴィオラはそんなことを考えながら、安全なお屋敷の中にいるとは思えないほど、物騒な笑みを浮かべるのだった。
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