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第四部 王都の新たな日々
第448話 顔合わせと作戦会議
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「そんな訳で、この人がこの国の宰相……つまり今捕まっていない中では1番えらい人です!」
「……」
どうせ難しく紹介しても、イルルあたりには上手に伝わらないだろう、とかみ砕いて簡単に説明したら、隣に立つローヴォから何ともいえないまなざしを向けられた。
まあ、気持ちは分かるけど。
フードの下からため息が聞こえ、ローヴォは色々諦めたように、己の顔を隠すフードをとると、部屋にいる面々を見回した。
「ローヴォルドだ。この国の宰相をやっている。まあ、捕まっていない中で1番えらい者、という表現は間違いではない。女王を支持する私以外の大物は、ほぼ捕らえられてしまったからな。あなた方には我が国を悪漢の手から取り戻す手助けをしていただきたい。よろしくお願いする。私のことはローヴォ、と呼んでくれればいい」
「うむっ。任せよ!! 妾がおるからなにも心配いらんぞ? しかし、豹頭とは珍しい獣人なのじゃ。うむ! 気に入った!! 妾の事はイルルと呼ぶがよい!!」
適当な紹介への不満を隠したまま真面目に腰を折って礼をつくしたローヴォの頭のてっぺんを、イルルの手がぺちぺち叩く。
イルルに悪気がないのはわかっている。
わかってはいるが、ローヴォの好感度と信頼度が確実に下がったのを、シュリは感じた。
「え、えーと。他のみんなも自己紹介を……」
シュリはちょっぴり冷や汗をかきつつ、他の面々に話を向ける。
なるべく常識的で大人な対応を期待しつつ。
最初に進み出たのはジャズだ。
「ナーザの娘で冒険者のジャズと申します。まだ若輩者ですが、この国の窮状を救いたい気持ちは本当です。他の国に住んでいても、獣人族の王への敬意は常に胸に抱いていますから。それに、王子様も女王様もシュリの知り合いですし、シュリが助けたいと思う方を、私も全力で助けたいと思っています」
彼女はそう言うと、己の胸に手を当てて、深々と腰を折った。ローヴォがつくした礼に応えるように。
さすがはジャズだ、とシュリはほっと胸をなで下ろし、ローヴォも彼女の礼儀正しい様子に感心したように目を細めた。
「ふむ。さすがSランクの冒険者を母に持つ娘と言うべきか。礼儀を心得ているな。腕も立つに違いない」
「えっと、あの、まだ冒険者としては駆け出しなので、母には遠く及びませんが、出来うる限りの力を尽くします」
ローヴォの賞賛にジャズはあわてたようにそう付け加え、ほんのり頬を染めた。
それはただ単に、誉められた事による条件反射のようなものだったが、シュリはローヴォに対するジャズの好感度の上昇と受け取った。
その上で、シュリはローヴォを改めて観察する。
大国と呼べるレベルの国の宰相だし、地位も財産も申し分ない。
しかも独身だ。
見た目もまあ、ちょっと変わっているが悪くない。
受け取る人によってだが、豹頭は視覚に訴えるかっこよさがある。
少なくともシュリには効果的な要素だ。
性格も、まあ、悪くなさそうだ。
ちょっと固いけど、真面目ととるならそれも悪くない。
ちゃんと己の信念を貫く強さもあるし、信頼できる。
(信頼は出来そうだけどなぁ)
シュリはジャズと言葉を交わすローヴォの豹頭を見上げた。
「ローヴォって年齢不詳だよね? いくつくらいなの??」
「ん? 私か? 今年で42歳になるが」
「そっか。ありがと」
「私の年がどうかしたか?」
「ん~。ちょっと気になっただけ」
(……ローヴォはいい人だけど、ジャズとはちょっと年が離れ過ぎかもね。残念だけど、なしかなぁ)
ジャズが聞いていたら、私はシュリ一筋だよ!? 、と怒られそうな事を考えつつ、シュリはあいまいに微笑んだ。
その後、ローヴォはポチとタマとも言葉を交わし。
ポチもタマもそれなりに無難な印象を彼に与えられたようだ。
「うむ。女性ばかりと聞いた時は少々不安を感じたが、なかなかの実力者が揃っているようで安心したぞ」
ローヴォは彼女達を歴戦の冒険者と信じ、ほっとした様子でそう言った。
「とはいえ、多勢に無勢の現状だ。対抗戦力を集めようとあちこちに連絡をとってみたが、日和見を決める領主達がほとんどだ。まあ、陛下も王子もあちらの手にある状況では仕方が無いのかもしれないが。確実にこちらの味方といえる者達は捕らえられているしな。唯一頼みとなる私の領地は広いが辺境で、戦力をまとめてこちらに合流するには時間がかかる。よって、ひとまず今の戦力でやれることを始めようと思うのだが」
「今の戦力でやれること?」
「城へ潜入し、地下の牢獄に幽閉されているであろう陛下と王子を救い出す。反乱軍を制するには、やはりちゃんとした旗印が必要だからな。陛下と王子を救い出せれば、この戦、勝ったも同然だ。シュリ達が現れなければ、冒険者を雇って行おうと思っていたが、腕の立つ冒険者の知り合いもいなかったから少々不安があった。しかし、君がちょうどよく現れてくれたおかげで、信頼できるメンバーで救出作戦が行える。本当に助かった」
「なるほど。ローヴォには2人のいる場所の予想がついてるんだね?」
「それはな。あの城で人を捕らえておくとしたら地下牢だろう。しとやかな貴婦人であれば、普通の部屋に幽閉するだけで事足りるんだろうが、なんといってもあの陛下だから普通のご婦人と同様にという訳にはいかんだろう。王子殿下もやんちゃなお年頃だしな。牢の数も限られている以上、捕らえられた他の重臣達は個室で幽閉されているかもしれないが、陛下と王子だけは十中八九地下だな」
「そっか。でも場所が分かってるなら手っ取り早いね。日が落ちるのを待って早速助けに行こう」
「日が落ちるのを……ってちょっと待て。それは今晩助けに行く、といっているのか?」
「そうだけど、何か問題?」
「さすがに準備時間が少なすぎる。私は私で準備は進めてはいるが、それでも後数日は欲しいところだ」
「大丈夫だよ」
渋い顔をするローヴォに、シュリは微笑みかける。
「僕達には侵入の為の秘密兵器があるんだ」
「秘密兵器だと? それはいったい……」
「いま紹介するよ。オーギュスト?」
「呼んだか? シュリ」
シュリの声に応えるように、その背後に漆黒のもやもやが現れ、次いでその中から黒い髪に赤い瞳の美丈夫が現れた。
驚きにあんぐり口を開けたローヴォの目の前で、彼はその瞳を甘やかに細めてシュリを軽々と抱き上げる。
そのまま流れるようにシュリの頬に口づけようとしたのだが、シュリからNOを突きつけられ、しゅんとしたのも束の間、彼は一瞬で目の覚めるような美女にその姿を変えた。
そして有無をいわせずにシュリの唇を奪うと、子供相手には少々不適切な長いキスをいたした。
そして存分にシュリを堪能した後、開けた口が更に大きく開いたローヴォに目を向け、
「シュリの秘密兵器のオーギュストだ」
非常に簡潔に自己紹介した。
「……ローヴォだ」
「シュリから先払いでご褒美を貰ったからな。救出作戦は成功したと思ってくれていいぞ。シュリに感謝するんだな」
「そう言われても、にわかには信じられんな。感謝なら、陛下と王子を無事に救出できた後、いくらでも捧げよう」
「その言葉、忘れることの無いようにな。シュリは優しく寛容だが、俺はこう見えて厳しい男……いや、女だ。城の見取り図はあるか?」
「ない。だが、頭の中には入っている」
「よし。なら書き出して説明してくれ。侵入する場所の様子を頭に入れておきたい」
「了解した。シュリ、作業する場所はあるか?」
「あ、あっちにテーブルが。紙か布はオーギュストが準備できるよね?」
「ああ。任せろ。行くぞ、男」
「ローヴォだといっているだろう」
「ローヴォ、だな。急げ。のんびりしていたら日が落ちる」
そう言うと、オーギュストはシュリを優しく床へ下ろし、ローヴォを促すとテーブルの方へと向かった。
文句を言う間もない展開に、シュリは若干釈然としないものを感じつつも、2人の背中を黙って見送った。
「……まあ、ご褒美の先払いなら仕方ないか」
小さな嘆息とともにそうこぼす。
そして、
「みんなも先払いでいいならいいけど、そうじゃないなら我慢しようね?」
シュリの唇を狙う野獣と化した面々ににっこり笑いかけ、くぎを差すようにそう言った。
「……」
どうせ難しく紹介しても、イルルあたりには上手に伝わらないだろう、とかみ砕いて簡単に説明したら、隣に立つローヴォから何ともいえないまなざしを向けられた。
まあ、気持ちは分かるけど。
フードの下からため息が聞こえ、ローヴォは色々諦めたように、己の顔を隠すフードをとると、部屋にいる面々を見回した。
「ローヴォルドだ。この国の宰相をやっている。まあ、捕まっていない中で1番えらい者、という表現は間違いではない。女王を支持する私以外の大物は、ほぼ捕らえられてしまったからな。あなた方には我が国を悪漢の手から取り戻す手助けをしていただきたい。よろしくお願いする。私のことはローヴォ、と呼んでくれればいい」
「うむっ。任せよ!! 妾がおるからなにも心配いらんぞ? しかし、豹頭とは珍しい獣人なのじゃ。うむ! 気に入った!! 妾の事はイルルと呼ぶがよい!!」
適当な紹介への不満を隠したまま真面目に腰を折って礼をつくしたローヴォの頭のてっぺんを、イルルの手がぺちぺち叩く。
イルルに悪気がないのはわかっている。
わかってはいるが、ローヴォの好感度と信頼度が確実に下がったのを、シュリは感じた。
「え、えーと。他のみんなも自己紹介を……」
シュリはちょっぴり冷や汗をかきつつ、他の面々に話を向ける。
なるべく常識的で大人な対応を期待しつつ。
最初に進み出たのはジャズだ。
「ナーザの娘で冒険者のジャズと申します。まだ若輩者ですが、この国の窮状を救いたい気持ちは本当です。他の国に住んでいても、獣人族の王への敬意は常に胸に抱いていますから。それに、王子様も女王様もシュリの知り合いですし、シュリが助けたいと思う方を、私も全力で助けたいと思っています」
彼女はそう言うと、己の胸に手を当てて、深々と腰を折った。ローヴォがつくした礼に応えるように。
さすがはジャズだ、とシュリはほっと胸をなで下ろし、ローヴォも彼女の礼儀正しい様子に感心したように目を細めた。
「ふむ。さすがSランクの冒険者を母に持つ娘と言うべきか。礼儀を心得ているな。腕も立つに違いない」
「えっと、あの、まだ冒険者としては駆け出しなので、母には遠く及びませんが、出来うる限りの力を尽くします」
ローヴォの賞賛にジャズはあわてたようにそう付け加え、ほんのり頬を染めた。
それはただ単に、誉められた事による条件反射のようなものだったが、シュリはローヴォに対するジャズの好感度の上昇と受け取った。
その上で、シュリはローヴォを改めて観察する。
大国と呼べるレベルの国の宰相だし、地位も財産も申し分ない。
しかも独身だ。
見た目もまあ、ちょっと変わっているが悪くない。
受け取る人によってだが、豹頭は視覚に訴えるかっこよさがある。
少なくともシュリには効果的な要素だ。
性格も、まあ、悪くなさそうだ。
ちょっと固いけど、真面目ととるならそれも悪くない。
ちゃんと己の信念を貫く強さもあるし、信頼できる。
(信頼は出来そうだけどなぁ)
シュリはジャズと言葉を交わすローヴォの豹頭を見上げた。
「ローヴォって年齢不詳だよね? いくつくらいなの??」
「ん? 私か? 今年で42歳になるが」
「そっか。ありがと」
「私の年がどうかしたか?」
「ん~。ちょっと気になっただけ」
(……ローヴォはいい人だけど、ジャズとはちょっと年が離れ過ぎかもね。残念だけど、なしかなぁ)
ジャズが聞いていたら、私はシュリ一筋だよ!? 、と怒られそうな事を考えつつ、シュリはあいまいに微笑んだ。
その後、ローヴォはポチとタマとも言葉を交わし。
ポチもタマもそれなりに無難な印象を彼に与えられたようだ。
「うむ。女性ばかりと聞いた時は少々不安を感じたが、なかなかの実力者が揃っているようで安心したぞ」
ローヴォは彼女達を歴戦の冒険者と信じ、ほっとした様子でそう言った。
「とはいえ、多勢に無勢の現状だ。対抗戦力を集めようとあちこちに連絡をとってみたが、日和見を決める領主達がほとんどだ。まあ、陛下も王子もあちらの手にある状況では仕方が無いのかもしれないが。確実にこちらの味方といえる者達は捕らえられているしな。唯一頼みとなる私の領地は広いが辺境で、戦力をまとめてこちらに合流するには時間がかかる。よって、ひとまず今の戦力でやれることを始めようと思うのだが」
「今の戦力でやれること?」
「城へ潜入し、地下の牢獄に幽閉されているであろう陛下と王子を救い出す。反乱軍を制するには、やはりちゃんとした旗印が必要だからな。陛下と王子を救い出せれば、この戦、勝ったも同然だ。シュリ達が現れなければ、冒険者を雇って行おうと思っていたが、腕の立つ冒険者の知り合いもいなかったから少々不安があった。しかし、君がちょうどよく現れてくれたおかげで、信頼できるメンバーで救出作戦が行える。本当に助かった」
「なるほど。ローヴォには2人のいる場所の予想がついてるんだね?」
「それはな。あの城で人を捕らえておくとしたら地下牢だろう。しとやかな貴婦人であれば、普通の部屋に幽閉するだけで事足りるんだろうが、なんといってもあの陛下だから普通のご婦人と同様にという訳にはいかんだろう。王子殿下もやんちゃなお年頃だしな。牢の数も限られている以上、捕らえられた他の重臣達は個室で幽閉されているかもしれないが、陛下と王子だけは十中八九地下だな」
「そっか。でも場所が分かってるなら手っ取り早いね。日が落ちるのを待って早速助けに行こう」
「日が落ちるのを……ってちょっと待て。それは今晩助けに行く、といっているのか?」
「そうだけど、何か問題?」
「さすがに準備時間が少なすぎる。私は私で準備は進めてはいるが、それでも後数日は欲しいところだ」
「大丈夫だよ」
渋い顔をするローヴォに、シュリは微笑みかける。
「僕達には侵入の為の秘密兵器があるんだ」
「秘密兵器だと? それはいったい……」
「いま紹介するよ。オーギュスト?」
「呼んだか? シュリ」
シュリの声に応えるように、その背後に漆黒のもやもやが現れ、次いでその中から黒い髪に赤い瞳の美丈夫が現れた。
驚きにあんぐり口を開けたローヴォの目の前で、彼はその瞳を甘やかに細めてシュリを軽々と抱き上げる。
そのまま流れるようにシュリの頬に口づけようとしたのだが、シュリからNOを突きつけられ、しゅんとしたのも束の間、彼は一瞬で目の覚めるような美女にその姿を変えた。
そして有無をいわせずにシュリの唇を奪うと、子供相手には少々不適切な長いキスをいたした。
そして存分にシュリを堪能した後、開けた口が更に大きく開いたローヴォに目を向け、
「シュリの秘密兵器のオーギュストだ」
非常に簡潔に自己紹介した。
「……ローヴォだ」
「シュリから先払いでご褒美を貰ったからな。救出作戦は成功したと思ってくれていいぞ。シュリに感謝するんだな」
「そう言われても、にわかには信じられんな。感謝なら、陛下と王子を無事に救出できた後、いくらでも捧げよう」
「その言葉、忘れることの無いようにな。シュリは優しく寛容だが、俺はこう見えて厳しい男……いや、女だ。城の見取り図はあるか?」
「ない。だが、頭の中には入っている」
「よし。なら書き出して説明してくれ。侵入する場所の様子を頭に入れておきたい」
「了解した。シュリ、作業する場所はあるか?」
「あ、あっちにテーブルが。紙か布はオーギュストが準備できるよね?」
「ああ。任せろ。行くぞ、男」
「ローヴォだといっているだろう」
「ローヴォ、だな。急げ。のんびりしていたら日が落ちる」
そう言うと、オーギュストはシュリを優しく床へ下ろし、ローヴォを促すとテーブルの方へと向かった。
文句を言う間もない展開に、シュリは若干釈然としないものを感じつつも、2人の背中を黙って見送った。
「……まあ、ご褒美の先払いなら仕方ないか」
小さな嘆息とともにそうこぼす。
そして、
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