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第三部 学校へ行こう
第百八十一話 入学の朝①
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学校に入る準備をしたり、入学の為の学力試験を受けたり、そんなことをしているうちに、あっという間に入学式の朝がやってきた。
今回、シュリが入学するのは、初等学校という初歩的な事を教えてくれる学校であり、基本的に年齢が六歳を越えていれば入学が出来るらしい。
なので、入学前にシュリが受けた学力試験は、それぞれの学力差をはかるためのもので、この成績が悪くても入学に問題はない。
更に、学費は大部分を国が負担しているため、貧しい国民でも入ることは可能だが、貧困層になると子供も十分な働き手でもあり、そう言った層の子供が学校に通えることはやはり稀なようだ。
こういった学校は国内の主要な街に点在していて、ルバーノ家が納めるアズベルグの街にもその内の一つがある。
学校は各街にあるわけではなく、生徒は周辺地域からやって来るため、寮も完備されているようだった。
まあ、アズベルグに住む生徒は、普通に自宅から通いのことが多く、もちろん、シュリも自宅から通学する予定だ。
王都に行っているフィリアを除く三姉妹もシュリと同様、自宅通学である。
さて、今日からシュリが通うことになる初等学校が、六歳から通える学校だという事は前述した通りだが、この学校へ通うのは基本的には六年間……つまり六年生までのクラスがある。
ただし、学校に在籍出来る年齢は十三歳まで。
これは、様々な事情で入学の年齢がずれる生徒への救済措置でもあるらしい。
まあ、成績が振るわなくて留年をしても、十三歳までは置いてくれると言うことでもあるようだが。
因みに、留年するような生徒とは反対に、優秀な生徒には飛び級制度も設けられている。
優秀な生徒はどんどん育てて、国に役立つ人材を作るというのが、この国の方針のようだ。
その為、初等学校より上の学校は、特に何歳からでなければ入れないと言う年齢の制限は設けられていない。
初等学校より専門的な事を学ぶ中等学校は、入学試験で合格するか、初等学校の推薦さえあれば、十六歳まで学ぶことが出来る。
ここには三年生までのクラスがあり、魔法科、戦士科、商業科といった専門的な科に分かれて学んでいく。
初等科よりも数は少ないが、こちらも王国内に広く分布しており、ここアズベルグにも初等科に併設されていた。
それよりも更に上の学校になると、完全に年齢制限は排除されるが、入学試験もかなり難しくなり、その狭き門をくぐり抜けた者だけが入学できる専門機関となってくる。
こういった学校は王都にのみ存在し、結果として各地方から優秀な人材が王都に集まってくるといったシステムのようだ。
上手い具合に出来ているものである。
フィリアが通っている高等魔術学院はこのランクの学校だ。魔法関係では最高ランクの学校と言ってもいい。
そんな学校に入れたフィリアはそれだけ優秀だということなのだろう。
因みにこの学校からは、ルバーノ家次女で、今年で十四歳になるリュミスにもお誘いが来ているようだが、リュミスはまだのらりくらりとその誘いをかわしているらしい。
断っている訳ではなく、どうやら先延ばしにしているだけのようではあるが。
とりあえず、中等学校の魔法科で、ぎりぎりまで粘ってシュリの側に居るつもりのようだ。
その後は、とりあえず王都に行くつもりはあるらしいけれど。
彼女は、才能はあるのにそれを滅多に表には出さず、初等学校でもぎりぎりまで留年を繰り返し、中等学校の魔法科でも同じ事を繰り返すつもりのようである。
とにかく、ぎりぎりまでシュリの近くを離れる気は無いらしく、なんというか、リュミスらしい。
その点、下の二人は順当に初等学校を満喫している。
アリスは今年で十一歳だから初等学校の最高学年、ミリシアは八歳で初等学校の三年生だ。
ただ、こちらの二人も留年を繰り返さないという保証はどこにもないのだが。
おねー様方のシュリ好きにも、困ったものである。
シュリは入学式のため、マチルダからこの日のためにあつらえた礼服を着させて貰いながら、そんなちょっと小難しいことをツラツラと考えていた。
前世のファンタジー小説とかでは、学校がきちんとされていない世界も多かったのに、この国は中々やるなぁ、なんて思いながら。
特に小学校に当たる初等学校の費用を国が大部分負担しているということは素直にすごいと思った。
(あのお姫様のお父さんって、結構立派な王様なんだなぁ)
思いながら、頭に浮かぶのは鮮やかなピンクの髪をした可愛らしいお姫様の顔だ。
シュリの人生で一番というくらい、なぜか嫌われてしまっている相手だが、シュリは結構あのお姫様が好きだった。
なにより、必要以上の人々の好意に囲まれているシュリにとって、あのお姫様の反応はなんとも新鮮に感じられた。
だが、どうしてこのタイミングであのお姫様のことを思いだしていたか。
その理由は簡単だ。
シュリがついさっきまで、そのお姫様から送られてきた手紙を読んでいたからである。
シュリの事を嫌っているはずのお姫様なのだが、あの謁見の日以降、なぜか定期的にシュリに手紙を送ってきていた。
内容は、まあ、他愛のないものだ。
アンジェとなにをしたとか、アンジェはすごく優しいとか、アンジェは私のことが大好きみたいとか、アンジェ関連の話がメインで、その他には自分がどんな勉強をしているとか、教師にこんな風に誉められたとか、勉強関連の内容も多かった。
今回の手紙も、一足先に学校生活を始めるシュリに対抗しているのか、勉強関連の話題が羅列されていて、なんだか妙に微笑ましかった。
くすくすと、思い出し笑いをしていると、
「シュリ様、出来ました。もう動いても良いですよ?」
身支度が整ったようで、マチルダからそんな風に声をかけられた。
「ん。ありがとう、マチルダ」
マチルダを見上げてお礼を言うと、マチルダは嬉しそうに頬を染めて、
「とっても素敵ですよ?鏡、見てみます??」
彼女が言ったのはそんな提案。
ちょっと考えた後、一応見ておこうかと頷いて、シュリはマチルダに手を引かれ鏡の前に立った。
前世で普通に使っていた鏡より若干写りは悪い装飾過多なその鏡に映ったのは、ある意味想像していた通りの姿。
五歳の時より少しだけ身長が伸びて、髪の毛もずいぶん伸びている。
一度、男らしく一回くらい丸刈りにしてみたいなぁと、冗談混じりに呟いたらその後滅多な事では髪を切らせて貰えなくなった。
その結果、ちょっと髪が伸びすぎちゃったかなぁと思わないでもない。
流石に前髪くらいは定期的に切ってるが、後ろの方は肩を軽く越えるくらいには伸びていた。
貴族の少年がよく身につける伝統的なジャケットに、ジュディスが是非にと勧めた半ズボンをあわせ、ちゃんと少年らしい服装をしているにも関わらず、鏡に映ってるのはどう見ても女の子に見えるから恐ろしい。
貴族らしいレースがふんだんに使われた高価なシャツも、それを助長していた。
「や、やっぱり髪を切った方が……」
「そうですか?髪が長いと、なんだかシュリ様の顔立ちの綺麗さが更に際だって、私はいいと思いますけど??」
「う、う~ん。そ、そう??でもさ、なんだか女の子に見えない??」
「そんなこと無いですよ??とっても凛々しくて素敵です」
言いながらマチルダはうっとりとシュリを見つめ、それからもじっと太股をすりあわせるような仕草をした。
着飾ったいつもと違うシュリを見ていたら、なんだか色々と感じてしまったらしい。
ちらっとトイレに視線を逃がすマチルダに苦笑しつつ、シュリはもう大丈夫だからリアを見てあげてと逃げ道を示してあげる。
僕は、母様達のところに行くから、と。
「そ、そうですか?じゃあ……」
と、マチルダは申し訳なさそうな表情をしつつ、いそいそと部屋を出ていった。
色々と済ませたら、リアのところへ急ぐのだろう。
今日は、シュリの入学式でもあるように、同い年で幼なじみのマチルダの娘のリアの入学式でもあるのだから。
今日からリアとは、同じ学校の同級生と言うことになる。
幼なじみで同級生……その響きだけ聞けばなんだか甘酸っぱい感じなのだが、現実はそう甘くないことを、シュリは痛いくらいに知っていた。
そう、実際問題、リアと居ると色々痛いのだ。心も、身体も両方とも。
リアは見た目は黒髪の大人しそうな美少女に育ちつつあるのに、毒舌家で手も早い。
シュリ以外にはそうでもないから、対象はシュリにほぼ絞られているようだけど。
嫌われてはいないとは思うのだが、彼女の言葉はいちいちシュリの心に突き刺さり、愛情ある (と思いたい) 暴力は、シュリの身体能力的には大して痛くはないものの、なんだか痛く感じるから困る。
重ねて言うが、決して嫌われてはいないはずなのだが。うん。たぶん、きっと。
(少なくとも僕はリアのこと、好きなんだけどなぁ……)
ふぅ、と憂いのこもった吐息をこぼしつつ、シュリは母親の元へと向かうのだった。
今回、シュリが入学するのは、初等学校という初歩的な事を教えてくれる学校であり、基本的に年齢が六歳を越えていれば入学が出来るらしい。
なので、入学前にシュリが受けた学力試験は、それぞれの学力差をはかるためのもので、この成績が悪くても入学に問題はない。
更に、学費は大部分を国が負担しているため、貧しい国民でも入ることは可能だが、貧困層になると子供も十分な働き手でもあり、そう言った層の子供が学校に通えることはやはり稀なようだ。
こういった学校は国内の主要な街に点在していて、ルバーノ家が納めるアズベルグの街にもその内の一つがある。
学校は各街にあるわけではなく、生徒は周辺地域からやって来るため、寮も完備されているようだった。
まあ、アズベルグに住む生徒は、普通に自宅から通いのことが多く、もちろん、シュリも自宅から通学する予定だ。
王都に行っているフィリアを除く三姉妹もシュリと同様、自宅通学である。
さて、今日からシュリが通うことになる初等学校が、六歳から通える学校だという事は前述した通りだが、この学校へ通うのは基本的には六年間……つまり六年生までのクラスがある。
ただし、学校に在籍出来る年齢は十三歳まで。
これは、様々な事情で入学の年齢がずれる生徒への救済措置でもあるらしい。
まあ、成績が振るわなくて留年をしても、十三歳までは置いてくれると言うことでもあるようだが。
因みに、留年するような生徒とは反対に、優秀な生徒には飛び級制度も設けられている。
優秀な生徒はどんどん育てて、国に役立つ人材を作るというのが、この国の方針のようだ。
その為、初等学校より上の学校は、特に何歳からでなければ入れないと言う年齢の制限は設けられていない。
初等学校より専門的な事を学ぶ中等学校は、入学試験で合格するか、初等学校の推薦さえあれば、十六歳まで学ぶことが出来る。
ここには三年生までのクラスがあり、魔法科、戦士科、商業科といった専門的な科に分かれて学んでいく。
初等科よりも数は少ないが、こちらも王国内に広く分布しており、ここアズベルグにも初等科に併設されていた。
それよりも更に上の学校になると、完全に年齢制限は排除されるが、入学試験もかなり難しくなり、その狭き門をくぐり抜けた者だけが入学できる専門機関となってくる。
こういった学校は王都にのみ存在し、結果として各地方から優秀な人材が王都に集まってくるといったシステムのようだ。
上手い具合に出来ているものである。
フィリアが通っている高等魔術学院はこのランクの学校だ。魔法関係では最高ランクの学校と言ってもいい。
そんな学校に入れたフィリアはそれだけ優秀だということなのだろう。
因みにこの学校からは、ルバーノ家次女で、今年で十四歳になるリュミスにもお誘いが来ているようだが、リュミスはまだのらりくらりとその誘いをかわしているらしい。
断っている訳ではなく、どうやら先延ばしにしているだけのようではあるが。
とりあえず、中等学校の魔法科で、ぎりぎりまで粘ってシュリの側に居るつもりのようだ。
その後は、とりあえず王都に行くつもりはあるらしいけれど。
彼女は、才能はあるのにそれを滅多に表には出さず、初等学校でもぎりぎりまで留年を繰り返し、中等学校の魔法科でも同じ事を繰り返すつもりのようである。
とにかく、ぎりぎりまでシュリの近くを離れる気は無いらしく、なんというか、リュミスらしい。
その点、下の二人は順当に初等学校を満喫している。
アリスは今年で十一歳だから初等学校の最高学年、ミリシアは八歳で初等学校の三年生だ。
ただ、こちらの二人も留年を繰り返さないという保証はどこにもないのだが。
おねー様方のシュリ好きにも、困ったものである。
シュリは入学式のため、マチルダからこの日のためにあつらえた礼服を着させて貰いながら、そんなちょっと小難しいことをツラツラと考えていた。
前世のファンタジー小説とかでは、学校がきちんとされていない世界も多かったのに、この国は中々やるなぁ、なんて思いながら。
特に小学校に当たる初等学校の費用を国が大部分負担しているということは素直にすごいと思った。
(あのお姫様のお父さんって、結構立派な王様なんだなぁ)
思いながら、頭に浮かぶのは鮮やかなピンクの髪をした可愛らしいお姫様の顔だ。
シュリの人生で一番というくらい、なぜか嫌われてしまっている相手だが、シュリは結構あのお姫様が好きだった。
なにより、必要以上の人々の好意に囲まれているシュリにとって、あのお姫様の反応はなんとも新鮮に感じられた。
だが、どうしてこのタイミングであのお姫様のことを思いだしていたか。
その理由は簡単だ。
シュリがついさっきまで、そのお姫様から送られてきた手紙を読んでいたからである。
シュリの事を嫌っているはずのお姫様なのだが、あの謁見の日以降、なぜか定期的にシュリに手紙を送ってきていた。
内容は、まあ、他愛のないものだ。
アンジェとなにをしたとか、アンジェはすごく優しいとか、アンジェは私のことが大好きみたいとか、アンジェ関連の話がメインで、その他には自分がどんな勉強をしているとか、教師にこんな風に誉められたとか、勉強関連の内容も多かった。
今回の手紙も、一足先に学校生活を始めるシュリに対抗しているのか、勉強関連の話題が羅列されていて、なんだか妙に微笑ましかった。
くすくすと、思い出し笑いをしていると、
「シュリ様、出来ました。もう動いても良いですよ?」
身支度が整ったようで、マチルダからそんな風に声をかけられた。
「ん。ありがとう、マチルダ」
マチルダを見上げてお礼を言うと、マチルダは嬉しそうに頬を染めて、
「とっても素敵ですよ?鏡、見てみます??」
彼女が言ったのはそんな提案。
ちょっと考えた後、一応見ておこうかと頷いて、シュリはマチルダに手を引かれ鏡の前に立った。
前世で普通に使っていた鏡より若干写りは悪い装飾過多なその鏡に映ったのは、ある意味想像していた通りの姿。
五歳の時より少しだけ身長が伸びて、髪の毛もずいぶん伸びている。
一度、男らしく一回くらい丸刈りにしてみたいなぁと、冗談混じりに呟いたらその後滅多な事では髪を切らせて貰えなくなった。
その結果、ちょっと髪が伸びすぎちゃったかなぁと思わないでもない。
流石に前髪くらいは定期的に切ってるが、後ろの方は肩を軽く越えるくらいには伸びていた。
貴族の少年がよく身につける伝統的なジャケットに、ジュディスが是非にと勧めた半ズボンをあわせ、ちゃんと少年らしい服装をしているにも関わらず、鏡に映ってるのはどう見ても女の子に見えるから恐ろしい。
貴族らしいレースがふんだんに使われた高価なシャツも、それを助長していた。
「や、やっぱり髪を切った方が……」
「そうですか?髪が長いと、なんだかシュリ様の顔立ちの綺麗さが更に際だって、私はいいと思いますけど??」
「う、う~ん。そ、そう??でもさ、なんだか女の子に見えない??」
「そんなこと無いですよ??とっても凛々しくて素敵です」
言いながらマチルダはうっとりとシュリを見つめ、それからもじっと太股をすりあわせるような仕草をした。
着飾ったいつもと違うシュリを見ていたら、なんだか色々と感じてしまったらしい。
ちらっとトイレに視線を逃がすマチルダに苦笑しつつ、シュリはもう大丈夫だからリアを見てあげてと逃げ道を示してあげる。
僕は、母様達のところに行くから、と。
「そ、そうですか?じゃあ……」
と、マチルダは申し訳なさそうな表情をしつつ、いそいそと部屋を出ていった。
色々と済ませたら、リアのところへ急ぐのだろう。
今日は、シュリの入学式でもあるように、同い年で幼なじみのマチルダの娘のリアの入学式でもあるのだから。
今日からリアとは、同じ学校の同級生と言うことになる。
幼なじみで同級生……その響きだけ聞けばなんだか甘酸っぱい感じなのだが、現実はそう甘くないことを、シュリは痛いくらいに知っていた。
そう、実際問題、リアと居ると色々痛いのだ。心も、身体も両方とも。
リアは見た目は黒髪の大人しそうな美少女に育ちつつあるのに、毒舌家で手も早い。
シュリ以外にはそうでもないから、対象はシュリにほぼ絞られているようだけど。
嫌われてはいないとは思うのだが、彼女の言葉はいちいちシュリの心に突き刺さり、愛情ある (と思いたい) 暴力は、シュリの身体能力的には大して痛くはないものの、なんだか痛く感じるから困る。
重ねて言うが、決して嫌われてはいないはずなのだが。うん。たぶん、きっと。
(少なくとも僕はリアのこと、好きなんだけどなぁ……)
ふぅ、と憂いのこもった吐息をこぼしつつ、シュリは母親の元へと向かうのだった。
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