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第二部 少年期のはじまり

SS 注文の多い○○……?①

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 長い長い一日がやっと終わろうとしていた。可愛らしい寝息をたてるミフィーとヴィオラに挟まれたシュリは、ほっと息をつく。
 だが、シュリは忘れてはいない。
 今日の最後の締めくくりのご奉仕が、まだ終わっていないことを。

 左右で眠る二人の美人さんの寝息を確かめつつ、シュリはそろ~っと起きあがる。
 そして、ベッドを極力揺らさないようにのそのそと足下の方へ移動して、それからもう一度、眠る母と祖母の様子を伺った。
 二人が起きる気配が無いことを確かめベッドから降りると、今度は足音を立てないようにドアの方へと向かう。
 そして、音を立てないようにドアを開け素早く外へ出てドアを閉めた後、即座に[猫耳]を発動し、部屋の中の音を拾って、二人の寝息に変化がないことをチェックした。
 そして再び[猫耳]を解除すると、静かに、だが素早い動きで、目的地へと移動を開始するのだった。
 目的地、それはすなわち愛の奴隷三人との待ち合わせの場所である。
 幸い、見回りの者とはち合わせることもなく、無事に待ち合わせのお風呂場にたどり着く。

 何でお風呂場で待ち合わせなのか?
 それはもちろん、三人がそう望んだからである。受ける側のシュリに拒否権は無いのだ。
 もう三人とも来てるかな~、と思いつつ、そっと扉を開けて中へ入り込む。
 きょろきょろと、そこそこ広い脱衣所を見回すが、三人の姿は見当たらない。
 あれ~?僕が一番乗りかな??と思っていると、風呂場へ続く扉のところに、なにやら張り紙がしてあるのが見えた。
 なんだろ、あれ??と近づいていくと、そこには几帳面な字で、こう書いてあった。

 
・まず最初に、お洋服を全部ぬいで、すっぽんぽんになってください。恥ずかしがらず、パンツまでしっかり脱ぐように。終わったら①の箱を開けて、その指示の通りに。


 (うん?何の遊びだ??これ???……まあ、お風呂に入るんだから言われなくても脱ぐけどさ?)


 シュリは首を傾げて、もう一度最初から熟読する。
 が、書いてある以上の意味は読みとれず、なんだろな~、と首をひねりつつも指示に従って服を脱いで丁寧に畳むと、傍らに置いてあったかごへきちんと入れた。
 もちろん、パンツも脱いで一番下にしまっておく。
 うっかり一番上に置いておいて、万が一誰かに持ち帰られてしまわないようにするためである。
 まあ、一番下に隠しておいたところで、無くなる時は容赦なく無くなってしまうのだが。

 そうしてきちんと生まれたままの姿になったシュリは、張り紙の指示通り、すぐ横に置いてあった箱をパカリと開けた。
 そこには何か怪しげな液体が入った小さな瓶と、半分に折られた紙が入っていた。
 シュリはまず紙を手に取り、中に書かれた文章を読む。


・瓶の中の液体を、体中にまんべんなく塗り込むように。塗り残しのないように気をつけて。シュリ様の大事な部分は特によーく塗ると吉。塗り終わったら②の箱を開けて、その指示の通りに。


 (だから、なにがしたいんだ??吉って、なにがどう良いことがあるっていうんだろう??)


 内心突っ込みつつ、紙を元に戻して小さな瓶を手に取る。
 どこかで購入してきたのであろうその瓶にはラベルが貼られたままで、そこにはこう書かれていた。
 エッチな体になる薬……と。
 それを見て、シュリは思わずため息をもらす。そしてそのまま首を傾げた。

 かつて自分は[状態異常耐性]を手に入れた。
 そして、それはいつの間にか[耐性の極み]に統合されて今現在にいたるわけである。
 シュリが首を傾げた理由、それは、そんな極まった耐性を持つ自分に、果たしてこの薬の効果は発揮されるのだろうか、とそんな疑問が頭に思い浮かんだからだった。


 (……まあ、エッチな体になろうとならなかろうと、どっちでもいいか)


 シュリの大事な三人が準備したこのゲームは、とにかく手紙の指示に従うことが重要なのだろうから。
 シュリはきゅぽんっとコルクの蓋を引き抜いて、中の液体を手のひらに出してみた。
 その液体は何だかとろっとしていて、薄らピンクで、そこにあるだけでなんだか卑猥な液体だった。
 だが、シュリはそんなことに動じる事なく、平常運転のままとろとろの液体を体に塗っていく。
 付け心地は、真夏の海で問答無用に桜に塗り込まれたサンオイルに似ているように思えた。
 手紙の指示通り、ちゃんと大事な部分にもべっとりつけて、お尻から足の先までしっかり塗った。
 そして、最後は……と液体をべっとり付けた両手で背中に塗ろうとして、シュリは驚愕の事実にぶち当たる。
 背中の端っこは何とか塗った。だが、背中の真ん中にどうしても手が届かないのだ。
 ふぬ~~っ!!と唸りながらしばらく奮闘して、だが結局脱衣所の床へがっくりと崩れ落ちる。

 (……僕って体が固いのかな……それとも、腕がみじか……うん。明日から、柔軟体操しよ……)


 そうしてしばし落ち込んでから、シュリは気を取り直したように立ち上がった。
 次はなんだろうなぁと思いつつ、②の箱を開けてみる。
 今度は特に、妙なアイテムは入ってない。ただ、紙が入っているだけである。
 手に取り、ささっと目を通す。


・猫耳と猫しっぽのシュリ様になって下さい♪なったら③の箱へGO!!


 (これ書いたの、きっとシャイナだなぁ……)


 その前の二つはきっとジュディスかカレンだろう。
 シュリはがっくり肩を落としながら、あきらめの混じったため息をつく。
 この指令に、きっと拒否権はないのだ。
 それにどうせ、シャイナとジュディスには見られているしな~、と思いつつ、シュリはさくっとスキルを発動した。
 スキルを発動してからしばらく待ち、自分の状態を確認するように体に触れてみた。
 [猫耳]スキル発動時に一緒に使えないのは身体強化系のスキルだけのはずだから、耐性系のスキルには影響はないはずだが、一応年の為、である。
 そのまま少し待ってみたが、体に塗りたくった液体の影響でエッチな体になった感じもないので、[猫耳]スキルを発動してても大丈夫そうだなとほっとしつつ、シュリはさくっと③の箱を開けた。

 そこに入っていたのは、折り畳まれた衣類と指示の書いてあるのであろう紙が一枚。
 ここにきて何で服なんだろう?と疑問に思って折り畳まれた布地に手を伸ばし広げてみる。それは、水に濡れても大丈夫そうな素材の短パンだった。前側には白い布が縫いつけられていて、そこに「しゅりなすか・るばーの」とシュリの名前が書かれている。


 (へえ~。こっちの世界にも水着なんてあるんだ??って、これって水着だよね??)


 シュリは感心しつつ、その男の子用の水着をひっくり返してみた。
 すると、ご丁寧にお尻のところにしっぽを出すための穴まで開けてある。
 思わず苦笑しながら、シュリは片手で指示書を器用に開いた。


・濡れても平気な半ズボンを着用して下さい。しっぽはちゃんと穴から出して下さいね?準備が整ったら、最後の箱へGOですよ~。


 思った通りの指示だった。
 反抗しても仕方ないので、シュリはおとなしく指示に従いながら思う。これってあれみたいだなぁ、と。
 昔、読んだお話。有名な作家さんが書いた話で、題名は確か……注文の多い○○店。
 その話は確か、色々な指示に従っているうちに、自分が料理されて食べられそうになっちゃう話だったような。まあ、あまりはっきりとは覚えてないのだが。


 (僕ももしかして、料理されて食べられちゃうのかなぁ……なぁんて)


 心の中で呟いて、それが洒落にならないことに気づいてシュリはたらりと冷や汗を流す。
 彼女達はきっと、別の意味でシュリを食べてやろうと待ちかまえているに違いない。
 本来ならシュリの方が彼女達を食べてあげなければいけないのだろうが、経験値も年齢もまだ足りてないシュリにはどうにも出来ないのが現状だ。
 ならば、とシュリは拳をきゅっと握る。


 (せめてみんなが欲求不満にならないように、精一杯がんばろう……)


 自分が狙われているこの状況に文句を言うでもなく、シュリはうんうんと真面目に頷きつつ、最後の箱を開けて中の紙を取り出した。
 そこには、彼女達の隠された欲望が赤裸々につづられていたのだった。






 愛の奴隷達の指示に従い、装備をばっちり調えたシュリは、覚悟を決めてお風呂場へと足を踏み入れた。
 湯気がけぶる洗い場に、三人の愛の奴隷が待ちかまえていて、その姿をみたシュリは目をまあるく見開く。


 「ささ、シュリ様。私のことは先生、と呼んで下さいね?私も、今からシュリ君、とお呼びしますので」


 そう言ったのはジュディス。
 メガネをかけて、髪はお団子に結んでいる。
 後れ毛のうなじが色っぽいのだが、湯気でメガネが白く曇っていた。果たしてそれで正解なのだろうか……?


 「シュリ様。私のことは、おねーちゃん、で。私も、今日だけはシュリって呼び捨てにさせて頂きますので」


 次はシャイナ。
 彼女はいつもはポニーテールの蒼い髪を、わざわざツインテールに結い直している。
 シャイナの中の、おねーちゃんのイメージってツインテールなのかなぁ、と思いつつ、シュリは最後の一人に目を移した。


 「シュリ君。今日は、私のことをママって呼んで下さいね?私も、今日はシュリ君のこと、シュリちゃん、ってママらしく呼びますから、思う存分甘えていいんですよ~?」


 カレンはどうやら、母親というものにあこがれがあるらしい。
 これはあれだろうか?出会ったばかりの頃、授乳のまねごとをした名残なのだろうか……。

 そんな事を思いながら、シュリはついさっきの出来事を思い出していた。
 お風呂場に突入する前の事。
 最後の箱に入っていた紙には、こんな文章が書かれていた。


・さあ、最後の指令ですよ~。おふろ場に入ったら、ジュディスさんの事は「先生」、シャイナさんの事は「おねーちゃん」、私ことカレンの事は「ママ」って呼んで下さいね?理解できましたか?理解できたら、この紙と一緒に入ってる袋を持ってお風呂場へどうぞ!みんなで待ってますね♪


 だから分かっていた。お風呂場の中は、こんな事になっていると。
 しかし、半ば予想していた状況ではあるが、思っていたより強烈だった。
 呼び方はまあいい。曇ったメガネも、いつもと違う髪型も、妙に高いテンションもまあいいだろう。
 だがあの格好は何だろうか?妙に見覚えのあるあの格好は。


 (え~っと、何で三人とも、スクール水着を着てるんだろう……?)


 しかも、競泳用のではなく、古いタイプのスク水である。
 シュリ自身、というか前世の瑞希自身、中学生の頃まではあのタイプの水着だった。さすがに高校生からは競泳用の水着だったが。
 何とも言えないなま暖かい眼差しで三人のスク水姿を眺めつつ、


 (やっぱり、僕以外にもいるんだろうなぁ、日本からの転生者……)


 だってあんなの、思いつくの日本人としか思えないし、などと思いつつ、じろじろと三人を見つめる。
 三人ともご丁寧に胸のところに白い布を縫いつけて、名前がしっかり書き込まれていた。
 「じゅでぃす」「しゃいな」「かれん」となぜか日本のひらがなで。


 (僕の水着の名前がひらがなだった時点で、ちょっとおかしいとは思ったんだよなぁ……)


 でも、何であえて日本語のひらがな??と思いつつ、シュリは一番理路整然と説明してくれそうなジュディスの顔を見上げた。


 「ジュディス、僕のもみんなのも、変わった服だね??書いてある字みたいのも変わってるし。これ、どうしたの??」

 「お気づきになりましたか?シュリ様。流石です。これは、巷で評判の大人なアイテムが売っている店にわざわざ出向いて求めて来たものなのです。これらの服は最初は買うつもりはなかったのですが、店主に是非にと勧められて。男性を悩殺するなら絶対にこれだ、と。私は、ただ、ちょっと変わった半ズボンが欲しかっただけなんですが……。それで、サービスだからと、魔法の文字でそれぞれの名前を記入してくれたんです。どうも、好きな相手を夢中にさせるおまじないだとか」

 「そ、そう」

 「夢中になりましたか?」

 「う、うん。ある意味、そうかも」

 (元日本人の男性になら、それなりに突き刺さるかも知れないけど、僕にとってスク水って、ただの水着だしなぁ。まあ、懐かしいし、みんなにも似合ってると言えば似合ってるから、まあ、いいか……)


 深く考えるのはやめることにした。
 そして思った。もし、日本人に会いたいと思っても、その大人のアイテム屋にだけは行くまい、と。

 シュリは、なんとも微妙な表情であいまいに微笑んで、それから三人の顔を見上げる。それで、僕はなにをすればいいのかな、と問いかけるように。
 シュリの問いかけるような眼差しを受けた三人は顔を見合わせ、それからまずはジュディスが前に進み出た。
 どうやらまずは一対一で何かをやることになるようだ。
 さぁて、なにをやることになるんだろうなぁ、と三人の顔を順に見つめながら、シュリは健気に思う。まあ、三人の為に、出来るだけのことはやってあげよう、と。
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