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第四部 王都の新たな日々
第431話 ただいまの翌日④
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調理場は今日もいい匂いが充満している。
ここはいつ来ても幸せな空間だなぁ、とシャイナの身につけた抱っこひもに拘束されたまま、シュリは思った。
今ももちろん恥ずかしいことは恥ずかしいが、ジュディスの時のように屋敷中を歩き回られるよりはましだ、と己に言い聞かせる。
調理の手が足りない時には料理の得意なメイドさん達が食事作りの手伝いに来るが、調理場の常勤は料理長1人。
なので、今のシュリの恥ずかしい姿を見ているのも料理長だけだから、シュリはジュディスに連れ回された時よりもずっと落ち着いた心持ちでいられた。
「あらあら、まあまあ。なんて可愛らしい」
両手を握り合わせ、心の底までほっこりするような声でそう言ったのは、この調理場の主、ファンファンさん。
長年この屋敷の料理長を勤めてきた熟年のレディである。
お孫さんもいる年齢のこのレディのご主人もこの屋敷に勤めていて、今も現役の庭師さんだ。
庭師のご主人の名前はトントンさんといって、彼はファンファンさんとお似合いの穏やかな老紳士。
2人とも、おじい様の代から働いてくれている人達で、夫婦で屋敷に住み込んでおり、シュリを主と敬いつつも自分達の孫に向けるような愛情を注いでくれていた。
だから、どうしても、シュリはこの老婦人には弱かった。
赤ちゃん扱いされて過剰に可愛がられても文句が言えないのは、そのせいでもある。
「なんだかいつもより可愛らしくて幸せそうにみえるわよぉ? シャイナちゃんに抱っこされてるせいかしら? あら? ほっぺもいつもよりふくふくかもしれないわね?」
シュリのほっぺをもにもにしながらそんなことを言うファンファンに苦笑を返し、
「僕のほっぺはいつもと同じだし、幸せそうに見えるのはこの場所がすごくいい匂いだからだよ」
頬を包む老婦人の温かな手の上に自分の手を重ねたシュリは、年相応にしわ深く少しカサカサした感触に、ちょっぴり心配そうな顔をして、
(……今度、ハンドクリームを試作してみよう)
心のメモ帳にそうメモを残す。
「ふふふ。シュリ様は食いしん坊さんね。バステス様と一緒」
「おじい様も食いしん坊だったの?」
「そうよぉ? バステス様はいつだってお腹を空かせていて、よくつまみ食いにいらしたものよ? そんなバステス様の為に、ハルシャ様とお腹にたまるお菓子をせっせと作ったのも、今はいい思い出だわ」
「そうだったんだぁ。だからおばあ様の作るお菓子は美味しかったんだね」
食いしん坊なおじい様と、そんなおじい様の為にお菓子作りに邁進するおばあ様の姿を思い浮かべ、シュリは微笑みを浮かべる。
そんなシュリを慈愛の表情で見つめ、その鼻をちょいっとつまみ。
「可愛い孫に食べさせるお菓子だもの。ハルシャ様の張り切りようが目に浮かぶようね。たっぷりの愛情入りのお菓子が美味しくないはずないわ」
「そっか。だからファンファンの作るご飯はいつも美味しいんだね」
「あらあら、よく分かってるじゃないの。私の作る料理は、シュリ様や食べる人達への愛情がたぁ~っぷり入ってますからね。美味しくないはずないのよ。ねえ、シャイナちゃん」
「はい。師匠の作る料理は神の域です。込められた愛情も技術も、天下一品ですから」
「シャイナちゃんも素晴らしいわよ? お菓子作りだけをさせておくのがもったいないくらい。シャイナちゃんにならこの調理場を任せられると思うのに残念だわぁ」
「お褒めの言葉はありがたいですが、私はシュリ様の為だけに生きている身ですので。お菓子を作るのも、シュリ様においしいおやつをお出ししたい一心なのです。そんな私に、シュリ様以外の為の料理も作る料理長が勤まるとは思えません」
「ほんと、シャイナちゃんはシュリ様一筋ねぇ。これだけ想われるシュリ様は、男冥利につきるわね。私の旦那様と同じくらい幸せ者よ? 大切にしてあげなさいな」
「うん。分かってるよ。ちゃんと大切にするよ」
ファンファンはシャイナのつれない返事にため息をつき、シュリに一言。
シュリはその言葉に、真摯な表情で頷いた。
「わかっているならいいのよ。シュリ様は本当にいい子だわ」
ファンファンは微笑み、シュリの頭を撫で。
それから食材の在庫確認の為、食料庫へと入っていってしまった。
調理場にはシャイナとシュリだけが残され。
しばらくのあいだ言葉もなく、シャイナがお菓子を作る作業の音だけが響いた。
「……大切に、して下さるんですか?」
「もちろん。大切にするよ。っていうか、大切にしてるでしょ?」
ぽつり、とこぼれたシャイナの問いに、シュリはまじめに答える。
が、その後しばし落ちた沈黙に、
「え!? 大切に出来てない? 大切にしてるよね? してる、つもりだったけど、えっと、出来てなかった?」
シュリは慌てたような声をあげる。
その愛らしい様子に、シャイナは身体が熱くなるのを感じた。
もちろん、シュリの言葉が自分にだけ向けられたものじゃない事は分かっていた。
自分がシュリの唯一じゃない、ということは。
でも、いま、この言葉を耳にすることが出来たのは自分だけだ。
その幸運を噛みしめて、シャイナはシュリの頭をきゅうっと抱きしめる。
「そう、ですね。シャイナは大切にして頂いています。だからいつも幸せです。あ……」
自分は幸せだと、そう口にした瞬間、胸の辺りがジワリとなま暖かく濡れた。
「そっか。ならよかっ……えっと、どうしたの?」
ほっとしたように微笑むシュリの頭の後ろに手を回してがっちり支えながら、もう片方の手で手早く服のボタンを良きところまで外して。
先端から母乳のこぼれたおっぱいをシュリの口元に突きつけた。
「シュリ様のお優しい言葉に感動して母乳が出てきてしまいました。もったいないので、遠慮なくどうぞ」
「は? ええ!?」
「さ、お早く。師匠が戻ってきてしまいます」
「ふぁ、ふぁんふぁんが!?」
「このままでは母乳垂れ流しの恥ずかしい姿で師匠を迎える事になってしまいそうです」
どうしましょう、と問われ、シュリは判断を迫られた。
目の前のおっぱいに吸いついて、ファンファンが戻る前に高速で吸い尽くすか、たらたら垂れる程に溢れている液体を無視してファンファンがそれに気づかないように祈るか。
迷わず後者を選びそうになったが、ファンファンの職業を考えてはっとした。
ファンファンは腕のいい料理人だから、舌も鼻もいいものを持っているに違いない。
彼女の性能のいい鼻が、シャイナの母乳のにおいを察知する可能性は高いかもしれない、その可能性に気がついて。
(飲む、しかないのか)
別に飲むのがいやだとは言わない。
ただ、出来ることならこんな真っ昼間の調理場で飲みたくない、と思っているだけだ。
でも、背に腹はかえられない。
シュリは諦めの心境で目の前のおっぱいに勢いよく吸いついた。
シャイナが痛くないように気をつけながらも、早く吸い尽くさなければ、と吸っては飲み、吸っては飲みを繰り返す。
頭上から、押し殺した甘い声が降ってくるが、それはあえて無視しながら。
(考えるんじゃない。聞いちゃダメだ。無だ。無になるんだ、シュリ!)
心の中で己を叱咤しつつ、ただ吸う。
そんな中、シャイナがシュリに布をかぶせた。
この抱っこ袋(仮)に装備されている、授乳の様子を隠せるというアレである。
誰か来たかな、と思う間もなく、声が聞こえた。
「シャイナちゃん、お菓子作りは順調かしら……あら? シュリ様は??」
どうやら、席を外していたファンファンが戻ってきたらしい。
「師匠。シュリ様は少し眠そうにされていたので、布で明かりを遮って休んでもらっています」
「あら、そうなのね。まだ小さいのに忙しくしてるものねぇ。そりゃ、疲れも溜まるわよね……あらぁ? なにかしら。ミルクの匂いが」
やはりファンファンの鼻は敏感だ。
漏れた母乳の匂いに気づいたらしい。
その瞬間、シュリの口元に反対側のおっぱいが突きつけられた。
こっちも吸え、とそう言うことなのだろう。
促されるまま、白い液体がこぼれる乳首を口に含むと、シャイナの身体がぴくんと震えた。
が、声はどうにか我慢して、吸い終わった方のおっぱいを器用に服に収納していく。
「……っ。み、みるくの匂い、ですか? 先ほど調理用のものを少しこぼしてしまいましたから、その匂いかもしれません」
「ん~。そうなのかしら? いつも使うミルクと少し違う匂いのような気がしたんだけど……私の気のせいかしらね。それはそうとシャイナちゃん?」
「な、なんでしょうか?」
「顔が赤いわよ?」
「そ、そんなことは」
「息も荒いわ」
「ですから、そんなことは」
「体調でも悪いのかしら。少し休んだ方がいいんじゃない」
「いえ。んっ。そんな、ことは」
「そんなことあるわよ。調子悪そうよ? あ、シュリ様、私が預かりましょうか?」
「大丈夫です。シュリ様は温かいですし、こうしているほうが私も元気が出ますので、お気遣い無く」
シャイナがさっと身を引くのが分かった。
と同時に、溢れていた母乳の流れもようやく止まってきて。
ほっとして口を離すと、フリーになったおっぱいはシャイナの手によって再び器用に服の中にしまわれた。
「そおぉ? ならいいんだけど。お菓子作り終わったら、少しお休みするのよ?」
「はい、必ず。シュリ様と一緒に少し仮眠でもとることにします。暗くて狭くて人が絶対に来ない部屋で」
「そうね。それがいいわね」
ファンファンはシャイナの返事に安心したようだが、シュリはちょっぴり不安になった。
絶対に人が来ない部屋で、シャイナは一体なにをいたす気なんだろうか、と。
そんなシュリの不安は的中し。
その後のお菓子作りを高速で終わらせたシャイナに小部屋に連れ込まれたシュリは、制限時間いっぱいまでキスをおねだりされることになるのだった。
ここはいつ来ても幸せな空間だなぁ、とシャイナの身につけた抱っこひもに拘束されたまま、シュリは思った。
今ももちろん恥ずかしいことは恥ずかしいが、ジュディスの時のように屋敷中を歩き回られるよりはましだ、と己に言い聞かせる。
調理の手が足りない時には料理の得意なメイドさん達が食事作りの手伝いに来るが、調理場の常勤は料理長1人。
なので、今のシュリの恥ずかしい姿を見ているのも料理長だけだから、シュリはジュディスに連れ回された時よりもずっと落ち着いた心持ちでいられた。
「あらあら、まあまあ。なんて可愛らしい」
両手を握り合わせ、心の底までほっこりするような声でそう言ったのは、この調理場の主、ファンファンさん。
長年この屋敷の料理長を勤めてきた熟年のレディである。
お孫さんもいる年齢のこのレディのご主人もこの屋敷に勤めていて、今も現役の庭師さんだ。
庭師のご主人の名前はトントンさんといって、彼はファンファンさんとお似合いの穏やかな老紳士。
2人とも、おじい様の代から働いてくれている人達で、夫婦で屋敷に住み込んでおり、シュリを主と敬いつつも自分達の孫に向けるような愛情を注いでくれていた。
だから、どうしても、シュリはこの老婦人には弱かった。
赤ちゃん扱いされて過剰に可愛がられても文句が言えないのは、そのせいでもある。
「なんだかいつもより可愛らしくて幸せそうにみえるわよぉ? シャイナちゃんに抱っこされてるせいかしら? あら? ほっぺもいつもよりふくふくかもしれないわね?」
シュリのほっぺをもにもにしながらそんなことを言うファンファンに苦笑を返し、
「僕のほっぺはいつもと同じだし、幸せそうに見えるのはこの場所がすごくいい匂いだからだよ」
頬を包む老婦人の温かな手の上に自分の手を重ねたシュリは、年相応にしわ深く少しカサカサした感触に、ちょっぴり心配そうな顔をして、
(……今度、ハンドクリームを試作してみよう)
心のメモ帳にそうメモを残す。
「ふふふ。シュリ様は食いしん坊さんね。バステス様と一緒」
「おじい様も食いしん坊だったの?」
「そうよぉ? バステス様はいつだってお腹を空かせていて、よくつまみ食いにいらしたものよ? そんなバステス様の為に、ハルシャ様とお腹にたまるお菓子をせっせと作ったのも、今はいい思い出だわ」
「そうだったんだぁ。だからおばあ様の作るお菓子は美味しかったんだね」
食いしん坊なおじい様と、そんなおじい様の為にお菓子作りに邁進するおばあ様の姿を思い浮かべ、シュリは微笑みを浮かべる。
そんなシュリを慈愛の表情で見つめ、その鼻をちょいっとつまみ。
「可愛い孫に食べさせるお菓子だもの。ハルシャ様の張り切りようが目に浮かぶようね。たっぷりの愛情入りのお菓子が美味しくないはずないわ」
「そっか。だからファンファンの作るご飯はいつも美味しいんだね」
「あらあら、よく分かってるじゃないの。私の作る料理は、シュリ様や食べる人達への愛情がたぁ~っぷり入ってますからね。美味しくないはずないのよ。ねえ、シャイナちゃん」
「はい。師匠の作る料理は神の域です。込められた愛情も技術も、天下一品ですから」
「シャイナちゃんも素晴らしいわよ? お菓子作りだけをさせておくのがもったいないくらい。シャイナちゃんにならこの調理場を任せられると思うのに残念だわぁ」
「お褒めの言葉はありがたいですが、私はシュリ様の為だけに生きている身ですので。お菓子を作るのも、シュリ様においしいおやつをお出ししたい一心なのです。そんな私に、シュリ様以外の為の料理も作る料理長が勤まるとは思えません」
「ほんと、シャイナちゃんはシュリ様一筋ねぇ。これだけ想われるシュリ様は、男冥利につきるわね。私の旦那様と同じくらい幸せ者よ? 大切にしてあげなさいな」
「うん。分かってるよ。ちゃんと大切にするよ」
ファンファンはシャイナのつれない返事にため息をつき、シュリに一言。
シュリはその言葉に、真摯な表情で頷いた。
「わかっているならいいのよ。シュリ様は本当にいい子だわ」
ファンファンは微笑み、シュリの頭を撫で。
それから食材の在庫確認の為、食料庫へと入っていってしまった。
調理場にはシャイナとシュリだけが残され。
しばらくのあいだ言葉もなく、シャイナがお菓子を作る作業の音だけが響いた。
「……大切に、して下さるんですか?」
「もちろん。大切にするよ。っていうか、大切にしてるでしょ?」
ぽつり、とこぼれたシャイナの問いに、シュリはまじめに答える。
が、その後しばし落ちた沈黙に、
「え!? 大切に出来てない? 大切にしてるよね? してる、つもりだったけど、えっと、出来てなかった?」
シュリは慌てたような声をあげる。
その愛らしい様子に、シャイナは身体が熱くなるのを感じた。
もちろん、シュリの言葉が自分にだけ向けられたものじゃない事は分かっていた。
自分がシュリの唯一じゃない、ということは。
でも、いま、この言葉を耳にすることが出来たのは自分だけだ。
その幸運を噛みしめて、シャイナはシュリの頭をきゅうっと抱きしめる。
「そう、ですね。シャイナは大切にして頂いています。だからいつも幸せです。あ……」
自分は幸せだと、そう口にした瞬間、胸の辺りがジワリとなま暖かく濡れた。
「そっか。ならよかっ……えっと、どうしたの?」
ほっとしたように微笑むシュリの頭の後ろに手を回してがっちり支えながら、もう片方の手で手早く服のボタンを良きところまで外して。
先端から母乳のこぼれたおっぱいをシュリの口元に突きつけた。
「シュリ様のお優しい言葉に感動して母乳が出てきてしまいました。もったいないので、遠慮なくどうぞ」
「は? ええ!?」
「さ、お早く。師匠が戻ってきてしまいます」
「ふぁ、ふぁんふぁんが!?」
「このままでは母乳垂れ流しの恥ずかしい姿で師匠を迎える事になってしまいそうです」
どうしましょう、と問われ、シュリは判断を迫られた。
目の前のおっぱいに吸いついて、ファンファンが戻る前に高速で吸い尽くすか、たらたら垂れる程に溢れている液体を無視してファンファンがそれに気づかないように祈るか。
迷わず後者を選びそうになったが、ファンファンの職業を考えてはっとした。
ファンファンは腕のいい料理人だから、舌も鼻もいいものを持っているに違いない。
彼女の性能のいい鼻が、シャイナの母乳のにおいを察知する可能性は高いかもしれない、その可能性に気がついて。
(飲む、しかないのか)
別に飲むのがいやだとは言わない。
ただ、出来ることならこんな真っ昼間の調理場で飲みたくない、と思っているだけだ。
でも、背に腹はかえられない。
シュリは諦めの心境で目の前のおっぱいに勢いよく吸いついた。
シャイナが痛くないように気をつけながらも、早く吸い尽くさなければ、と吸っては飲み、吸っては飲みを繰り返す。
頭上から、押し殺した甘い声が降ってくるが、それはあえて無視しながら。
(考えるんじゃない。聞いちゃダメだ。無だ。無になるんだ、シュリ!)
心の中で己を叱咤しつつ、ただ吸う。
そんな中、シャイナがシュリに布をかぶせた。
この抱っこ袋(仮)に装備されている、授乳の様子を隠せるというアレである。
誰か来たかな、と思う間もなく、声が聞こえた。
「シャイナちゃん、お菓子作りは順調かしら……あら? シュリ様は??」
どうやら、席を外していたファンファンが戻ってきたらしい。
「師匠。シュリ様は少し眠そうにされていたので、布で明かりを遮って休んでもらっています」
「あら、そうなのね。まだ小さいのに忙しくしてるものねぇ。そりゃ、疲れも溜まるわよね……あらぁ? なにかしら。ミルクの匂いが」
やはりファンファンの鼻は敏感だ。
漏れた母乳の匂いに気づいたらしい。
その瞬間、シュリの口元に反対側のおっぱいが突きつけられた。
こっちも吸え、とそう言うことなのだろう。
促されるまま、白い液体がこぼれる乳首を口に含むと、シャイナの身体がぴくんと震えた。
が、声はどうにか我慢して、吸い終わった方のおっぱいを器用に服に収納していく。
「……っ。み、みるくの匂い、ですか? 先ほど調理用のものを少しこぼしてしまいましたから、その匂いかもしれません」
「ん~。そうなのかしら? いつも使うミルクと少し違う匂いのような気がしたんだけど……私の気のせいかしらね。それはそうとシャイナちゃん?」
「な、なんでしょうか?」
「顔が赤いわよ?」
「そ、そんなことは」
「息も荒いわ」
「ですから、そんなことは」
「体調でも悪いのかしら。少し休んだ方がいいんじゃない」
「いえ。んっ。そんな、ことは」
「そんなことあるわよ。調子悪そうよ? あ、シュリ様、私が預かりましょうか?」
「大丈夫です。シュリ様は温かいですし、こうしているほうが私も元気が出ますので、お気遣い無く」
シャイナがさっと身を引くのが分かった。
と同時に、溢れていた母乳の流れもようやく止まってきて。
ほっとして口を離すと、フリーになったおっぱいはシャイナの手によって再び器用に服の中にしまわれた。
「そおぉ? ならいいんだけど。お菓子作り終わったら、少しお休みするのよ?」
「はい、必ず。シュリ様と一緒に少し仮眠でもとることにします。暗くて狭くて人が絶対に来ない部屋で」
「そうね。それがいいわね」
ファンファンはシャイナの返事に安心したようだが、シュリはちょっぴり不安になった。
絶対に人が来ない部屋で、シャイナは一体なにをいたす気なんだろうか、と。
そんなシュリの不安は的中し。
その後のお菓子作りを高速で終わらせたシャイナに小部屋に連れ込まれたシュリは、制限時間いっぱいまでキスをおねだりされることになるのだった。
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