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第二部 少年期のはじまり

SS ただいまの翌日は大忙し!?②

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・11:00am

 朝食の後は、留守にしている間受けることの出来なかった、領主としての領地経営のイロハなる授業を、久しぶりにジュディスから受けた。
 この授業で学ぶことは、主にルバーノ家が治める領地の特産や地域の特色、収入や支出、中央や地方の貴族達との関係性……などと言った、まあ、学校では習わないような、ルバーノ家に特化した内容の、いわばいずれ領主を継ぐための英才教育の様な内容となっている。
 ジュディスがシュリにも分かりやすいように自作したテキストを使って、いつもなら彼女が隣に付きっきりでの勉強となるのだが、今日は少々いつもと違っていた。
 今日の彼女は、シュリの隣ではなく、シュリの下にいた。
 ……というか、シュリが彼女の膝の上にいるというのが正しい表現かもしれない。
 つまり、イスの上に彼女が座り、その上にシュリが座っているのが今の状況である。
 ジュディスがどうしてもそうしたいと言うので、しばらく彼女を放っときぱなしだった負い目のあるシュリは、その要望に頷かざるをえなかったのだ。
 シュリを膝の上に乗せて密着したジュディスは満足そうだが、逆にシュリはちょっと落ち着かなくてついついもぞもぞとお尻を動かしてしまう。
 その動きが与える微妙な刺激がなんとも切ないようで、


 「シュ、シュリ様ぁ。あ、あんまり、その、動かれますと、わ、私も我慢の限界が……」


 甘い吐息と共に、彼女が訴えてくる。


 「あ、うん。ごめんね?でもさ、なんだか落ち着かなくて」


 そんな彼女の訴えに、シュリも困ったように返した。
 座り心地も落ち着かないのだが、更に言ってしまえば背中も落ち着かない。
 なぜなら、彼女の大きな胸の先端が、シュリの背中をつんつんとつついてくるからだ。
 シュリと二人きりの勉強と言うことに張り切って(?)彼女は下着を付けずにいるらしい。
 そんな訳で、彼女の大変に敏感な胸の蕾はいまやしっかりとおっきして、シュリの背中を刺激してくれるわけだが、それがなんともこそばゆい。
 更に更に、徐々に発情してきたジュディスが腿を擦りあわせながら、胸をシュリの背中に擦り付けてくるので、体はぐらぐら揺れるし、勉強どころではなくなってきた。
 シュリは苦笑し、テキストを持ったままふるふると震える彼女の手を、ぽんぽんと叩く。


 「ジュディス?夜にはちゃんと時間を作るから、今は頑張って勉強しよう?」

 「ふぁ、ふぁい」


 なだめるように声をかければ、軽く絶頂を迎えたのか、ちょっととろけた声で彼女が答える。
 そして、そこから先は比較的まじめにスムーズに授業をすすめ、アズベルグを離れていた間の遅れを少しは取り戻せたのだった。




・12:00pm

 用事があるからお昼はいらないと断って、シュリはカレンと共に街に出ていた。
 目的はもちろん、未だ屋敷に姿を見せないイルル達を探して連れ帰る為である。
 とはいえ、場所はもう[レーダー]で確認済みなので、そこまで行って連れ帰るだけなのだが。
 本当は昨日のうちに行きたかったが、わざわざパーティーを開いてくれた家族をほっぽって出かけるわけにも行かず、このタイミングになってしまったのだ。


 (三人とも、大丈夫かなぁ?)


 ちょっぴり心配はしつつ、シュリはカレンに抱っこされたまま、途中の出店で食べ物を買い込みながら進んでいく。
 もちろん、眷属達が腹をすかせているだろうという配慮もあるが、自分やカレンの昼食でもあったため、


 「カレン、ほら、串焼きの肉、おいしいよ~」


 そんな風にいいながら、自分を抱っこしていて手の放せないカレンの口へと食べ物を運んでやる。


 「あ、本当。おいしいですねぇ~」


 にこにこと美味しそうに肉をほおばるカレンを見ながら、自らも肉を食べた。
 自分で食いちぎってむしゃむしゃと咀嚼して、飲み込んで。


 (ん~。人から口移しでもらうのも別にイヤじゃないけど、やっぱり自分でこうして食べるのが一番美味しいなぁ~)


 当たり前の事をしながら、当たり前の事を考える。
 そんなシュリの口元を、カレンが目元を赤く染めてぽ~っと見つめていた。
 その視線に気づいたシュリが、小首を傾げる。


 「ん?どうしたの??カレン??」


 問われたカレンはびっくりしたような顔をした。
 そんな彼女に、シュリは優しく微笑みかける。いいよ、いってごらん、と促すように。
 シュリの思いが明確に伝わったのか、カレンは嬉しそうに目元を染めて、それから周囲の目線を気にするようにきょろきょろと周りを見回した。
 幸いにも、というか、眷属達の隠れている場所へ向かうため、人気のない方へない方へ向かっていた為、それほど広くない路地裏に、人の気配は無かった。
 それを確認したカレンは、再びシュリの顔へ視線を戻して、それから、


 「それじゃあ、し、失礼します」


 そんな風に言いながら、シュリの顔へ己の顔を近づけた。
 そして、おずおずと舌先を伸ばすと、最初は控えめに、やがて大胆にシュリの唇に舌を這わせた。
 その行為で、シュリはやっと気づく。


 (あ、串焼き肉のソースで、口の周りが汚れてたのか)


 と。
 だが、明らかにソースは舐めとれたであろうに、カレンのその行為はなかなか終わらなかった。
 はあはあと、甘ったるい吐息をこぼしつつ、彼女はシュリの唇を求めるようにその口元を舐め続けた。
 人目もないし、このままキスくらい、と思わないでも無かったが、一人だけ贔屓するのは良くないだろうと、シュリは手を伸ばしてそっとカレンの頬を撫でる。
 己の頬を撫でるその感触に、カレンははっと我に返って顔を離した。


 「あ、その、あの……」


 真っ赤になったその顔を見上げながら、


 「夜にはちゃんと時間を作るからね?それまで、もうちょっとの我慢、だよ」


 シュリは他の二人にも告げた言葉を告げる。


 「はい、シュリ君」


 その言葉に納得したように、カレンは素直に頷いた。
 そんな彼女のほっぺたを、もう一度撫で、


 「じゃあ、先を急ごうか?」


 そう言って、彼女を促す。
 シュリの言葉に、カレンはもう一度頷き、シュリをしっかり抱っこしたまま再び歩き出した。


 (もうそろそろ、外出の度に抱っこしてくれなくてもいいんだけどなぁ?)


 カレンの腕に大切に抱っこされたままそう思いはするものの、シュリを抱っこすることが嬉しくて仕方がないといったカレンの横顔を見て、まあ、学校に入るまではいいか、とシュリは大人しく抱っこされている事にするのだった。




・13:00pm

 細い路地を何度も曲がって、だいぶ進んだ奥の奥。
 道がどん詰まりになった辺りの少し開けた所で、シュリはカレンの腕の中から地面へと降ろしてもらった。


 「みんな~、いる?ぽち~、たま~、いるる~??僕だよ~」


 しゃがみ込んで、そう声をかける。
 すると、どん詰まりのその奥の、人が入れないような小さな隙間から、がさがさと何かが這い出てくる音がした。
 シュリは黙って大人しく待つ。


 「シュリ様~!会いたかったでありますぅ~」


 最初に飛び出してきたのは、白銀の毛皮がややすすけてしまった感のある、小さなフェンリル姿のポチだ。
 ポチは勢いよくシュリに飛びついて、あえたことが嬉しくて仕方がないとばかりに、尻尾をぶんぶん振りながら、シュリの顔中をなめ回した。


 「シュリ様……久しぶり。寂しかった」


 次に寄ってきたのは、金色の毛皮がポチ同様ややすすけてしまった、子狐姿のタマ。
 タマは、猫のようにシュリの足下へ体を何度も何度もすり寄せる。
 そんな二人の頭を撫でながら、シュリは最後の一人の姿を探す。
 だが、イルルの姿はどこにも見えなくて、シュリはあれぇっっと首を傾げた。


 「ポチ、タマ。イルルは??」


 シュリの問いに、二人は顔を見合わせて、


 「イルル様は、怯えているのであります」

 「そう。でも、シュリ様がもっと近くに行けば出てくるかも……」


 口々にそう言った。


 「う~ん。わかった。でも、怯えてるって、なにかあったの??」


 頷きながら問うと、二人はまた互いの顔を伺うように見つめ合い、


 「繊細な問題なので、ポチ達の口からはちょっと……」

 「イルル様から、直接聞くのがいいと思う……」


 そんな言葉。良くは分からないが、なにやらひどい目に遭ってしまったようだ。
 シュリは頷き、


 「わかった。じゃあ、ちょっと行ってくる。ポチとタマは、カレンと一緒にいて?カレンは僕の従者だから、怖くないからね??」


 カレンを二人に紹介してから、そろそろと二人が出てきた隙間の方へと歩を進めた。
 壁に亀裂が入った様な、その小さな隙間の前でしゃがみ込み、


 「イルル?僕だよ。シュリだよ??怖くないから、出ておいで?」


 優しい声で、隙間の中に向かって話しかけた。
 すると、


 「シュリ~~~~~!!!!」


 隙間から赤い何かがものすごい勢いで飛び出してきて、シュリのお腹にどーんと激突した。
 そのすさまじい衝撃を何とか受け止めて、シュリは逆流しそうになった何かを、涙目でごくんと飲み込んだ。


 (あ、危うく色々な何かが口から噴出する所だった……)


 内心そんなことを思いながらも、それをイルルに気づかれないように優しく腕の中の小さな龍を抱きしめる。


 「大丈夫?イルル??もう、安心していいからね?僕がちゃんと、イルルを守ってあげるから」


 言いながら、ぷるぷる震える背中を撫でてあげた。


 「しゅり~、しゅりぃぃ~。怖かったのじゃ~~~!!」

 「大変だったね?なにが、あったの??誰かに変なこと、された??」


 えぐえぐと泣くイルルをなだめるように抱っこしながら問いかける。
 言いたくなければ言わなくてもいいんだけど、と言うシュリの言葉に、イルルは首を横に振って、言った方が気が楽になるのじゃ、とそう答え、それからぽつぽつと話し出した。

 亜竜達の調教を終えて、三人でアズベルグへ向かったこと。
 門をくぐろうとしたが、身分証の様なものを持っていない事に気がついて、小さな姿でこっそり街に入ったこと。
 ポチとタマが、人間達に可愛がられたこと。
 不人気のイルルに目を付けた、エルフの男がいたこと。
 そして。


 「そいつは、見目の良いエルフの男じゃったが、どこか変態的だったのじゃ。妾を見つめる視線が、妙に熱っぽくての。逃げようとしたんじゃが掴まって、そやつは妾を観察し始めたのじゃ。それで、それで……あろうことか……」

 「あろうことか??」

 「妾をひっくり返して、腹の方を観察し始めたのじゃ~~~!!!」

 「お腹の方を??」


 龍、というかトカゲにしか見えない生物のお腹を観察して、なにがいけないんだろうか、といまいちピンとこないシュリは首を傾げる。
 幸いにもそんなシュリに気づくことなく、イルルの嘆きは続いた。


 「よりにもよって、妾の尻尾をひっつかんで、妾の、妾の……」

 「うん?」

 「まだ誰にも見せたことのない妾の大事なところを、まじまじと見やがったのじゃ!あやつは!!」


 そこまで言われて、シュリはやっと合点がいった。
 それはそうだ。獣っ娘の姿の時とは違い、今の姿のイルルはパンツなど履いていない。そんな状態でお腹側を見られたら、そりゃ、大事な部分も丸出し状態だろう。
 それは可哀想だったなぁと、シュリはより熱心にイルルを撫でてあげる。
 イルルはその心地よさに身を任せながら、シュリにますますしがみついた。


 「変態エルフに大事なところを見られて、妾、もう、お嫁にいけんのじゃ……」


 よよよ、とシュリの胸で泣き崩れるイルル。
 それを聞きながらシュリは思わず首を傾げた。


 「あれ?イルル、お嫁に行っちゃうの??」

 「んむ??」

 「そっかぁ。ずっと僕のそばにはいてくれないのか……」


 そりゃそうだよねぇ。いくら眷属といえども、イルルも女の子だもんね、とついついしょんぼりしてしまうシュリ。
 そんなシュリを、イルルが不思議そうに見上げる。
 その視線を受けて、シュリがちょっと慌てたように、


 「あ、いや、そのね?いくら眷属にしたと言っても、みんなが望むならちゃんとお嫁に出す気はあるんだよ??イルルも、ポチも、タマも。出来るだけ長く、僕のそばにいてほしいとは思うけど、縛るつもりはないし……」


 でも、やっぱり、ちょっと寂しいなぁ……ぽつんと呟くシュリを、イルルがじいっと見つめた。
 そして、おもむろにその姿を獣っ娘へと変える。
 シュリがびっくりした顔で、さっきよりも大きくなったイルルの体を変わらず抱きしめたまま見つめると、イルルはにまぁっとなんだか嬉しそうに笑って、ぎゅうっとシュリに抱きついた。


 「嫁には行かぬ!!」

 「え?でも、さっき……」

 「行かぬといったら行かぬのじゃ。妾は、ずうっと、ずうぅぅ~~~っと、シュリのそばにおるぞ?」


 そう言って、イルルはシュリの顔を上目遣いで見上げた。


 「じゃから、そんな寂しそうな顔をせんでもいいのじゃぞ??妾はもう、身も心もお主のものじゃからの!」


 イルルが、にま~っと笑う。
 その笑顔がなんだか愛おしく思えて、シュリはぎゅうっとイルルを抱きしめた。あ~、うちの眷属ペット、可愛いなぁと思いながら。


 「シュリ様~~~!!!ポチもお嫁なんか行きません!!!ポチはずーっとシュリ様の犬でいたいのです」

 「タマも、シュリ様のそばで昼寝ざんまい、上げ膳据え膳で生きていく覚悟は出来ている……だから、なんの心配もいらない」


 いつの間にか獣っ娘の姿に戻ったポチとタマが、背後から突撃してきて、シュリはイルルを抱っこしたまま、おっぱいの海に飲み込まれる。
 だが、それを何とか泳ぎ切って生還し、突然人間形態になったシュリの眷属達に目を丸くするカレンに、[獣っ娘テイム]のスキルを説明をしながら、再び小さな姿になったイルル達を引き連れて、シュリは屋敷へと戻っていくのだった。
 
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