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第二部 少年期のはじまり

第百六十八話 大と特大の攻撃力!?

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 「タ、タ、タマ~~~!?なんでなのじゃ~~~!!!!」


 そんな悲痛な叫びが響く。
 流石に可哀想だったかなぁと良心が疼いたが、


 (いやいや、あのまま放っておいたら、ポチとタマが可哀想だったし)


 同情の余地は無いと、ポチとタマ、二人のおっぱいにに挟まれながら心を鬼にする。
 シュリ様~、シュリ様~と甘えてくるポチとタマの暴力的なおっぱいに揉みくちゃにされて、気持ちいいやら、苦しいやら。
 正直、おっぱいで窒息することも出来ちゃいそうな勢いだ。


 「ポ、ポチもタマも、ちょ、ちょっと、落ち着いて……」


 じゃないと、新しい飼い主がさっそく窒息死しちゃうから、とシュリは何とかおっぱい地獄からぬけだそうとするのだが、押しのけようとする度に、あん、とか、んんっ、とか何だか悩ましい声が左右から降ってきて思うように抜け出せない。
 二人のおっぱ……体に比べて、シュリの体が小さいせいもあるのだろう。
 思うようにならない状況に、シュリは遠い目をした。
 ああ、早く大きくなりたい……そんなことを思いつつも、だんだんと意識が遠のいてくる。


 (やば……息が。も……ダメ……かも?)


 そう思い、くたっとしてきたシュリに、流石に気がついたのだろう。
 シュリを抱きしめる腕を緩めて、タマがシュリの顔をのぞき込んできた。
 そして、表情には出さないものの、少し慌てたようにポチをぐいぐい押して、シュリから引き離そうとする。


 「ポチ、離れて。待て。ステイ」

 「むうぅぅぅ~。ポチだけ仲間はずれですかぁ?や、ですぅぅ」

 「ちがう。シュリ様が死にそうだから」

 「はえっ!?シュ、シュリ様が死にそう!?」


 そこではじめて、ポチはタマと自分の間に挟まれている愛しのご主人様に目を落とした。
 そこには確かにくてりとしたシュリがいて、どうしてこんな事にっ!?と驚愕の表情を浮かべるポチ。


 「しゅっ、しゅっ、しゅり様ぁぁぁ!!??だ、誰がシュリ様をこんな目に!?」


 しっかりして下さいと揺さぶられ、遠くなりかけていた意識が戻ってくる。
 シュリは、涙目でこっちを見ているポチを見て苦笑を浮かべ、手を伸ばしてぽんぽんとポチの頭を優しく叩いた。
 そして無事に生きたまま地面に降り立つと、まだ足りない酸素を補うように大きく深呼吸をした。


 「誰が……って言うのはまあ、置いておくとして、とりあえず、僕は大丈夫だから。ね?」


 シュリの言葉にポチがほっと表情を緩める。
 だがタマは、厳しい表情で自分の胸とポチの胸を見ていた。
 何気なくその目線を追ったポチは、タマの思うところを察してはっとする。


 「はっ!!ま、まさか、犯人はポチとタマの……」

 「恐らく。それしか考えられない」

 「くっ……動物形態いつものすがたの時はこんなに出っ張って無かったから、うっかりしてました」

 「うん。地味に邪魔。もぐ?」

 「その方が、シュリ様の為になるなら、それもいいのかもしれません」


 二人は妙にシリアスにそんなことを話し合い、二人そろってぐりんとシュリを見た。


 「シュリ様、どうしましょう??」

 「もいだほうがいいなら、すぐにでも……」


 そして、そんな猟奇的なことを尋ねてくる。
 放って置いたら今にもお互いのおっぱいをもぎあいっこしそうな二人の勢いに、シュリは慌てて制止をかけた。


 「いやいやいや!!それ、そう簡単にもいだり出来ないものだから!!そのままにしておこうよ!?ね??」


 だが、そんなシュリの言葉を受けても、二人の表情は晴れない。


 「でも、シュリ様を窒息させるようなものを付けて置くわけには……」

 「うん。ちょっと痛くても、我慢する。三食昼寝付き……いや、シュリ様の為……」


 そんな風に思い詰める二人を見上げて困った顔をするシュリ。
 二人を思い止めるには、おっぱいという一見無駄に見える代物がどれだけ有用なのかを伝えなくてはダメな気がする。
 しかも、世間一般的な有用性ではなく、シュリにとっての有用性を説くしかないだろう。
 さて、なんて言ったらいいかと、シュリは真剣に考える。


 (うーん……こういうのは、ぐだぐだ理屈を説明するよりシンプルな方がいいかもしれないなぁ。……よし)


 なにを言うべきか決め、シュリはくわっと目を見開いた。


 「ポチ」

 「は、はい?」

 「タマ」

 「……ん」

 「その胸の膨らみは、一見無駄に見えるかもしれないけどすっごく大事なものなんだ!」

 「「大事な、もの??」」


 シュリの主張に、二人はそろって首を傾げる。
 具体的にどう大事なんだと問う様に見つめられ、シュリはこほんと小さく咳払いをして、二人をちらりと見上げた。


 「す、少なくとも、僕はそれがなくなると悲しいなぁ……なんて」

 言いながら、僕はなにを言ってるんだろうと、恥ずかしくなってきて、シュリの声はだんだん尻すぼみになる。
 だが、聞かせるべき相手にはきちんと届いていたようだった。


 「シュリ様は、これがなくなると悲しい、ですか?」

 「てことは、シュリ様はこれが好き?」


 二人はぽそりと呟き、自分にとっては無駄にしか思えない胸の出っ張りをまじまじと見つめた。


 「うん……まあ、好き……かな」


 シュリは恥ずかしそうに返事を返す。


 「でも、ちょっと好きくらいなら、無くても……」

 「ん。安全第一……」


 ほの暗い光を宿した瞳で自分達の胸を見下ろしている可愛い眷属《ペット》達の様子を見て、シュリは覚悟を決めた。


 「いや!大好き!!大好きだから!!!ほんっとに、死ぬほど大好きだから!!!」


 だからもぐのは止めて、とシュリは恥ずかしさをかなぐり捨てて叫ぶ。
 二人はシュリの剣幕にきょとんとして顔を見合わせ、それから自分の胸とシュリの顔を交互に見た。
 へ~、そうなんだぁ。シュリ様はこれが、そんなに好きなんだぁ、と言うように。
 そして、ちらちらとシュリの顔を見つめながら、揃って同じ様な行動を起こした。
 ポチは、スポーティーな体にぴたっとしたTシャツに似た感じの上着を大胆にまくり上げ、タマはただでさえこぼれそうな胸元をぐいとくつろげて、丸出し状態になったおっぱいをシュリの前にさらけ出す。


 「シュリ様?どうぞ??」


 にっこり笑ったポチにそう言われても、シュリは固まったまま二人のおっぱいを見つめるばかり。
 別に、生のおっぱいを見たからと言って動揺する程ウブではないのだが、展開がちょっといきなりすぎた。
 どうしてこうなった??と頭の上にはてなマークをとばすシュリの顔をのぞき込んで、


 「大好きなら、触りたいはず。だから、我慢しないで?シュリ様」


 そんな追い打ちをかけてきた。
 それを聞いたシュリは納得する。ああ、そう言う流れになったわけね、と。


 (まあ、胸をもぐ気が無くなったのはいいことだけど、もぐ代わりに揉まなきゃダメって事なんだろーか……ダメなんだろうなぁ)


 心の中でひっそり自問自答して、シュリは覚悟を決める。
 これ以上色々説明するのも面倒くさいし、まあ、いっか、と。


 (こういうのは、外で堂々とする事でも無いと思うんだけど、ここは仕方ない。揉もう!!)


 そう決意したシュリが二人に向かって手を伸ばそうとした時、


 「だからぁっ!!妾を無視して桃色空間を展開するでな~~~~い!!!」


 そんな叫びが響いてはっとする。
 あ、いけない。また龍の人の存在を忘れてた、と。
 伸ばした手の目標を素早く変更して、二人の服を手早く整えたシュリは、忘れていたなどとはおくびにも出さずに、イルルの方へ向き直る。


 「え~と……別に無視してた訳じゃ……」


 ないよ?といいかけたシュリの言葉を皆まで言わせずに、イルルは涙目でシュリ達を睨む。


 「無視しておったじゃろうに!これ以上ないほど見事に!!妾を放ったままいちゃこらいちゃこら……いつか妾の存在を思い出すと我慢しておったが、流石に堪忍袋の尾がきれたわ!!!お主、フルボッコに決定じゃからの!!今更、謝っても許してやらんから、覚悟するのじゃっ!!!」


 むきぃっと地団駄を踏むイルルの巨体を見つめ、シュリは若干遠い目をする。
 ああ、言葉を交わせば交わすほど、僕の中の龍のイメージがダウンしていくなぁ、と。


 「ねぇねぇ。あの人、本当に上位古龍ハイ・エンシェント・ドラゴンなの?上位古龍ハイ・エンシェント・ドラゴンって、賢くなくてもなれるもの??」


 一応、イルルに聞こえないように気を使って小さな声でポチとタマに問いかける。


 「えーっと、イルル様はああ見えてかなり賢いのです。魔力も力も歴代の上位古龍ハイ・エンシェント・ドラゴンの中でも上位に入る程だと、聞いたことがあるのです」

 「そう。知能も能力も魔力もトップクラス。ただ、この上なく残念なだけ」


 「そっか……残念なんだ……しかも、この上なく」


 小声でそんなやりとりをして、なら仕方ないねぇとシュリが頷く。


 「ばっかもーん!!ちっちゃい声でも聞こえておるのじゃっ!!残念とはなんじゃ、残念とは!!妾はちょっぴり要領が悪いだけじゃもん。それだけなんじゃもん!」


 じゃもんってなんだよ、じゃもんって……つっこみたい気持ちは満々だが、シュリはそこをぐっと我慢して、じとっとイルルを見上げる。
 その、自分を小馬鹿にしたようなシュリの表情を見て、イルルはぐぬぬっと悔しそうに唸った。
 そして、


 「おのれ~!!羽虫の分際で妾をこけにしおってからに!!もう許さんぞ。お主の未来は、死、あるのみなのじゃ!!」


 そう叫ぶと、それなりの威力のブレスを放ってきた。
 だが、溜めて放つブレスと比べると、スピードも威力もやや劣る。
 シュリは慌てずに、ポチとタマに順に足払いをかけて抱き留めると安全圏であるさくらの元へと立て続けに放り投げた。
 更に自身もイルルの攻撃の進路から飛び退き、危なげなくブレスをかわす。
 そしてただ一人、臆することなく龍の巨体と対峙し、真剣な眼差しでイルルを見上げた。
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