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第二部 少年期のはじまり

第百六十五話 昔から動物には好かれるほうでした~ポチの場合~

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・さくらの攻略度が50%を越え、恋愛状態となりました!


 突如、頭の中に響いたアナウンスにシュリは戦いの出鼻を挫かれた思いだった。
 あ~、と思いながら、指先で頬をかく。


 (まあ、ね。女神様だって対象外じゃ無かったんだから、そう考えたら精霊だって対象に含まれる、よねぇ)


 あはは、と乾いた笑い声をこぼすシュリ。


 (それにさくらは僕の中にずっといたし、仕方ないかもしれないなぁ。ま、後の四人の好感度上げ過ぎだけ気をつければいいか)


 のんきにそんな事を考えるシュリは知らない。
 残りの四人の精霊の攻略度も、もはや恋愛状態になる寸前まで来ていると言うことを。
 後に、四人分一気にアナウンスが流れ、がっくりと肩を落とすことになるのだが、それはまだ先の話。
 今は兎に角、目の前の二匹の魔獣を、更にはその後ろにドヤ顔で控えている妙に人間くさい龍を何とかしないとならない。


 (まずは、フェンリルと九尾の狐から何とかするか。……でも、どっちがポチでどっちがタマなんだろう……)


 戦う決意は固めたものの、ふとそんな疑問がわいてきた。
 シュリは油断無く二匹を見つめ、そして、


 「ポチ?」


 何となくそう、呼びかけてみた。反応が返ってくるとは、全く期待しないままに。
 しかし、シュリがその名前を口にしたとたん、フェンリルの耳がぴんっと立って、じっとシュリを見つめてきた。
 そのふさふさのしっぽを、わっさわっさと振りながら。
 それを見て、シュリは思う。
 あ、あの子がポチか、と。
 だが、そんな様子をみて面白くないのは飼い主であるはずの龍である。


 「こっ、こらぁっ、ポチ!!敵に向かってなにシッポを振っておるのじゃっ!!!さっさと食い殺せ、さっさと!!!」


 慌てたように、ポチを叱る上位古龍ハイ・エンシェント・ドラゴン
 ポチはきゅうぅぅぅん、と情けなく鳴き、だが、主の言葉には逆らえないようで渋々シュリに向かって歩き出した。
 が、どう見ても襲いかかるという感じではない。せいぜい歩み寄る、といったところか。

 シュリが戸惑いながら見つめていると、そのすぐ近くまできたポチがなんともわざとらしく、シュリに向かって前肢を振り上げた。
 本来なら、もの凄く攻撃力がある攻撃なんだと思う。
 だが、相手に明らかにやる気が無く、その攻撃スピードは一般人でも易々と避けられそうなものでしかなかった。

 あえて受けるのもバカバカしいので、シュリは危なげなくそれを避け、そして、ポチの懐に入り込むとカウンター気味に手加減したパンチを叩き込んだ。
 それを受けたポチはいとも簡単に地面に転がって、なぜか腹を上にしてシュリをじっと見つめてきた。
 フェンリルの輝かしい毛並みのもふもふが、シュリを強烈に誘う。降参だよ、撫でて?……と。

 罠かもしれない、と思った。
 だが、罠でも構わないと、シュリはふらふらとポチのお腹に突撃する。
 そして、両手を使ってポチのお腹をわふわふとなで回した。それを気持ちよさそうな顔で受け入れるポチ。
 シュリは調子に乗ってもっともふもふした。
 柔らかな毛皮の下に、ぽつぽつと小さな突起の感触を感じて、ああ、この子、女の子かぁと思う。
 その瞬間、何かが頭の片隅に引っかかった気がした。
 だが、それを何か突き止める暇も無く、事態はもう動き始めていた。

 ポチはどうやらシュリの撫で撫でが気に入ったらしい。
 恍惚とした表情でシュリを見つめるその表情が言っていた。
 アタイ、あんたの女になるわ、と。まあ、ただ、そう見えたと言うだけの事なのだが。

 そんなバカなことを考えながら、ポチをもふり倒していると、ぴろりろりんという頭の悪そうな音と共に、目の前に小さなウィンドウが現れる。
 なんだろ、これ??と首を傾げながらよーく見てみると、そこにはこんな文字が書かれていた。


・フェンリルが仲間になりたそうにこっちを見ています。仲間にしますか?YES/NO


 (んん??)


 シュリはポチをもふる手を止めて、両手でごしごしと目をこすった。何かの見間違いじゃなかろうか、と。
 だが、目をこすってみても、目の前にあるウィンドウは消えることなくそこにある。
 どうやら、選択をするまで消えないもののようだ。

 シュリは考え込むように腕を組む。
 ここに記されたフェンリルというのは、おそらくポチの事だろうと予測できた。
 シュリは、はっはっと舌をだして、つぶらな瞳でこちらを見上げる愛らしい犬……否、フェンリルをじっと見つめる。
 仲間に出来るならしたい。そして出来れば自分のペットとして末永く可愛がってあげたい。
 だが、何か落とし穴がある気がするのだ。うっかりすっかり見落としている何かが。
 しかし、シュリの手は操られるようにふらふらとウィンドウに伸びていた。正確には、ウィンドウに記された、YESの選択肢に。

 そこに触れる寸前で手を止めて、最後に自分に問いかける。本当に、ポチを仲間にするのか、と。
 そんなシュリの迷いを見通しているかのようにタイミング良く、きゅーんとポチが甘えたように鳴いた。
 その声を聞いた瞬間、心は決まっていた。シュリの指先が、YESを押す。
 すると、最初のウィンドウが消え、


・新たな眷属・フェンリルを手に入れました。名前はポチです。名前を変えますか?YES/NO


 新たなウィンドウがシュリの目の前に現れた。
 その内容をしっかり読み、名前はやっぱり慣れ親しんだものがいいよね、とシュリは迷わずNOを選択した。
 選択が終わるとそのウィンドウもあっさり消え、また次のウィンドウが現れる。
 今度はなんだろう、とその内容を呼んだシュリは思わず目をむいた。
 そこには、こんな事が書かれていた。


・ポチの獣っ娘メイキングを開始します。それぞれの選択肢の中から一つずつ選択して、最後に完了のボタンを押して下さい。

 身長→特大・大・中・小・極小

 おっぱい→特大・大・中・小・極小


 (し、身長とおっぱいの大きさを選べ、だと!?)


 なんの冗談だよ、これ……と思いつつも、選択しなければ次へは進めない。
 シュリは適当に、普通より大きい方がいいだろうと、身長もおっぱいも大を選択して完了を押した。
 すると、次に出てきたウィンドウはさっきまでと違い、人の全身像が載っていて、


・先ほどの条件を組み込み、おすすめの容姿で作成しました。細かい調整をしたい場合はそれぞれのパーツをタップして、好みのものを選んで下さい。最後に終了ボタンを押せば出来上がりです。


 そんな説明書きが書かれていた。
 シュリは、そこに描き出されたおすすめの容姿で別にいいかと思ったのだが、試しに目をタップしてみた。
 すると、つり目やたれ目、黒目がちな目や細目、三白眼に至るまで、様々な目の種類が別ウィンドウでずらりと表示される。
 正直面倒くさかったので、シュリは元の目のまま選択肢のウィンドウを閉じ、後は余計な所をさわることなく終了ボタンを押した。
 最後のウィンドウが即座に閉じられる。

 そして、消えたウィンドウの向こうに見えたもの。
 それは、シュリが愛して止まないもふもふわんこのポチではなく、さっきウィンドウの中に見た姿にすっかり変わってしまったポチだった。

 フェンリルの時と同じ、青みがかった白銀の髪。
 獣っ娘というのは伊達ではなく、きちんとフェンリルの時と同じ形の耳とシッポがついている。
 ぺたんと地面に座り込んでいるものの、背はまあ高そうで、胸も、うん、大きい。
 長いまつげに縁取られた大きいけれど甘すぎない、りりしさも感じさせる瞳はルビーの輝き。
 顔立ちは、美人と言うより可愛いという要素の方がやや強く、なんというか、文句なしの美少女だった。

 その美少女が、潤んだ瞳でシュリを見つめている。
 シュリもその美少女を、若干の哀惜が混じった瞳で見つめた。
 美少女なポチも可愛い。だが、やはりもふもふなままの方がよかったのに、と思わずにはいられなかった。
 しかし、そんなシュリの心も知らず、美少女なポチはにこぉっと無邪気に笑う。


 「シュリ様、ポチです。仲間にしてくれてありがとーございます。ポチは一生懸命頑張ります。だから可愛がって下さいね?」


 まっすぐで素直な言葉を一生懸命に告げてくれたポチの頭にシュリはそっと手を伸ばす。
 そして、もふもふの名残のある耳を、そっと撫でた。


 「うん……」


 もふっもふっと耳を触りながら、シュリは力なく頷く。ああ、普通のテイムスキルなら、こんな事にはならなかったのに、と。
 ポチはそんなシュリを見て、首を傾げる。


 「シュリ様?シュリ様はポチの耳がお好きなんですか??」

 「今のポチも可愛いけど、わんこなポチも可愛かったなぁって、わんこなポチを惜しんでるんだよ……」


 シュリはふっと笑って、あんにゅいにそう告げる。
 するとポチは、なぁんだ、そんなことですかぁ、とにっこり笑顔を浮かべた。


 「わんこなポチもお好きなら、わんこにもなれますよ?」


 ほら、そう言って女の子なポチが子犬サイズのフェンリルに変わる。
 とたんにシュリの顔が輝いた。
 小さくなったポチをいそいそと抱き上げてぎゅう~っと抱きしめ、もふもふと頬をすり寄せる。
 そうして、夢中でもふもふしていたシュリは、ふと何かに気づいたように顔を上げた。


 「も、もしかして、元の様におっきな姿にもなれる??」

 「もちろんですよ。いつでも、シュリ様のお好きな姿になりますよ。だって、ポチのすべてはシュリ様のモノですから」


 ポチの答えにシュリは歓喜する。
 ぽふん、と大きな姿に戻ったポチの首に抱きついて、


 「ポチ~~~!!可愛いなぁ!!!絶対絶対、可愛がって大事にするからね!!!」


 心の底からそう宣言した。
 今までずっと残念なスキルだと諦めていた[獣っ娘テイム]。
 それがこんなに使い勝手のいいスキルだった事を今更ながらに思い知らされ、シュリはどんな残念に見えるスキルでも、使わないで決めつけるのは良くないんだなぁと、心の底から思ったのだった。

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