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第四部 王都の新たな日々
第405話 はぐれ風龍の身の上話①
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カイザル帝国第三皇子・レセルファンの騎竜のアマルファは、実は飛竜ではなく、飛竜のふりをしている風龍だった。
その事実を突然知らされたシュリは若干混乱したが、これ以上突っ込んだ話は人のいない場所で落ち着いて行った方が良さそうだ、と判断するくらいの機能は残されており。
少し疲れたから部屋で休みたい、と双子に伝えて、イルルと2人、与えられた自室に戻った。
ちなみにポチとタマはジェスと一緒に彼女の部屋で待機中。
こちらにいる間は、万が一の時に備えて、ペット達にはジェスと一緒にいてもらっている。
ないとは思うが、何か不測の事態が起こったときのジェスの守りの為だ。
シュリの守りに関しては、体の中に5人の戦力が隠れているので十分すぎるほどだし、自身のステータスもものすごいことになっているから、正直心配はかけらも必要ない。
そんなわけで、ポチとタマを守りとしてジェスの部屋に放り込み、自室にイルルと2人でこもったシュリは、ドアを閉めると早速口を開いた。
で、どういうこと? と。
「んむ?」
部屋に入った途端、歓迎の意味で用意されていたのであろう果物にかぶりついたイルルは、なんのことじゃ? と言わんばかりに首を傾げた。
その様子に仕方ないなぁ、と苦笑しつつ、
「ほら。アマルファの事だよ。アマルファが飛竜じゃなくて風龍って、どういうこと?」
そう問いかける。
その問いかけに、ようやくさっきのシュリとのやりとりを思い出したイルルは、手に持っていた果物をぎゅむっと口に詰め込んで、ぽむっと手を叩いた。
「んほぉ、ぐむ、んぐ。そうじゃった。言われてみれば、そんな話をしたのぉ。うむ。そうなのじゃ。まだ幼くはあるがあやつは風龍よ。どうして飛竜などと己を偽っているのかは分からぬが、風の龍の見た目は飛龍に似ているから、どうにか誤魔化せたんじゃろ。じゃが、それもあとわずかな間のことじゃ」
「あとわずか? どうして??」
「我ら龍種は、生まれ落ちて100年を越えたあたりで最初の脱皮をする。それが済むと、大人の一員と認められ、その体もぐんと大きくなるのじゃ。今日見た、アマルファとか言う奴の体格はまだ大人とは言えぬ」
「普通の飛龍よりもずっと大きいけど、あれでもまだ大人じゃないんだ?」
「うむ。といっても、大人まであとわずか、といったところじゃろうがの。脱皮の兆候が出ておったわ」
「そっか。じゃあ、もうすぐ脱皮して大人になるんだね?」
「まあ、もうすぐと言っても、脱皮にかかる時間は個人差があるがの」
「へえ。どのくらい差があるものなの?」
「そうじゃの。数日で脱皮を終える者もおれば、脱皮に1年以上かける者もおる。因みに妾は一晩で脱皮を終えて、アダルトな妾に大変身じゃったがの」
えへん、と胸を張るイルルの頭をよしよしと撫でつつ、
「それで、イルルはアマルファのことを知ってたの? 何か話しかけてたでしょ?」
話の先を促した。
「まあ、知らぬ訳ではないという程度じゃが、知っておるといえば知っておる。我ら龍種は多産とは言えぬ種族。生まれる子供は少なく、子供が産まれれば全ての龍で祝うのじゃ。じゃから、妾は奴を覚えておる。奴の生誕の宴には、妾も他の上位古龍と共に招かれたからの。新たな龍の子が産まれると、その代の上位古龍が祝福を与えるのがしきたりなのじゃ」
「じゃあ、アマルファにも祝福を与えたんだね」
「そうじゃ。当時の奴は、アマルファとかいう名前じゃなかったがの。奴の両親が与えた、別な名前があった。まあ、妾はよく覚えておらんが、風の一族の新たな息吹じゃから、風にちなんだ名が与えられていたはずじゃ」
「そうなんだね。でも、その大事に育てられているはずの龍の子供がどうしてここに?」
「う~む。その辺りは妾にもよく分からんのじゃ。じゃが、まだ妾が里におったころ、風龍の里から探し人……いや、探し龍の問い合わせがあったことはうっすらと覚えておる。1人で遊びに出た子供が戻らん、とな。それは大変じゃ、と各里から人手を出して探したんじゃが、結局みつからんかったはずじゃ。アマルファは、恐らくその時の子供じゃろう」
「そっかぁ。でもアマルファはどうして里に帰らなかったんだろうね?」
「わからぬ。じゃが、今もあ奴の事を思う家族が里にはおるからの。このまま放置という訳にはいくまい。じゃから、奴には事情を説明しに来い、と言ってある」
「事情を説明??」
「んむ。今晩、人目を忍んでやってくるはずじゃ。その時は、シュリも立ち会い、よろしく頼むのじゃ」
シュリが首を傾げ、イルルがにっかり笑い。
(龍……風龍かぁ。ちょっと前にイルルを訪ねてきたっていう氷の上位古龍さんといい、最近はなんだか龍に縁があるみたいだ)
シュリは思い、ふと氷の龍の人に思いを馳せる。
そう言えば、あの人はどうしているんだろう、と。
そして思った。
こうして王都を留守にしている間にも、2度目の訪問があるかもしれないな、そんな風に。
ちょうど今まさに、2度目のルバーノ家訪問を終えた氷の上位古龍が薄闇迫る王都の道を歩いているなどとは、夢にも思わずに。
◆◇◆
「っくちゅん」
王都の片隅で、なんだか妙に可愛らしいくしゃみが響く。
くしゃみをしたのは蒼で彩られたスレンダーな美女。
彼女は怪訝そうな顔で己の鼻をこすり、
「おかしいですね。特に体調は悪くないはずなんですが」
小さな声でつぶやいた。
「しかし、イルルヤンルージュ……いえ、イルルという名前の少女がまたも不在とは。前回が商都で今回が帝国の別荘地。彼女の主はかなり忙しい人物のようですね。本当ならば帝国まで追いかけて行って確かめたいところです。が」
シャナクサフィラ……イルルの昔なじみの氷の上位古龍は憂いを含んだ吐息をもらす。
「バイトを勝手に休むとナーザに怒られます。人手不足ですし、お願いしても長期の休みはもらえないでしょうね。1日、2日ならなんとか休ませてもらえるかもしれませんが、そんな短い期間で帝国の別荘地のどこかにいるシュリナスカ・ルバーノを探しだして話をするのは難しいでしょう。とはいえ給金を頂いている身であまりわがままも言えませんし。仕方ありません。イルルとその主が帰るのを気長に待ちましょう。1月ほどで帰る、と対応してくれた家人も言っていましたし」
実際は1週間程度で帰ってくる予定なのだが、対応に出たジュディスは機転を効かせてそれより長めの期日を伝えた。
しかし、そんな事実を知る由もなく。蒼い髪の美女はジュディスの言葉を素直に信じ、帰途を急ぐ。
午後は半休をもらって出てきたから別に急ぐ必要もないのだが、時刻は夕刻。もうすぐ夕食が出来上がる時間だ。
(サギリの作る食事はおいしいですからね。さめてもおいしいですが、出来ることならあたたかい内に味わいたい。その為には、急いで帰らないといけません)
クールな表情の下でそんなことを考えながら、シャナクサフィラは足を早める。
なんだかんだ言って、もうすっかり胃袋を掴まれてしまった氷の上位古龍様は、今日のメニューはなんでしょう、とうきうきしながら職場&仮宿のキャット・テイルへ帰って行くのだった。
その事実を突然知らされたシュリは若干混乱したが、これ以上突っ込んだ話は人のいない場所で落ち着いて行った方が良さそうだ、と判断するくらいの機能は残されており。
少し疲れたから部屋で休みたい、と双子に伝えて、イルルと2人、与えられた自室に戻った。
ちなみにポチとタマはジェスと一緒に彼女の部屋で待機中。
こちらにいる間は、万が一の時に備えて、ペット達にはジェスと一緒にいてもらっている。
ないとは思うが、何か不測の事態が起こったときのジェスの守りの為だ。
シュリの守りに関しては、体の中に5人の戦力が隠れているので十分すぎるほどだし、自身のステータスもものすごいことになっているから、正直心配はかけらも必要ない。
そんなわけで、ポチとタマを守りとしてジェスの部屋に放り込み、自室にイルルと2人でこもったシュリは、ドアを閉めると早速口を開いた。
で、どういうこと? と。
「んむ?」
部屋に入った途端、歓迎の意味で用意されていたのであろう果物にかぶりついたイルルは、なんのことじゃ? と言わんばかりに首を傾げた。
その様子に仕方ないなぁ、と苦笑しつつ、
「ほら。アマルファの事だよ。アマルファが飛竜じゃなくて風龍って、どういうこと?」
そう問いかける。
その問いかけに、ようやくさっきのシュリとのやりとりを思い出したイルルは、手に持っていた果物をぎゅむっと口に詰め込んで、ぽむっと手を叩いた。
「んほぉ、ぐむ、んぐ。そうじゃった。言われてみれば、そんな話をしたのぉ。うむ。そうなのじゃ。まだ幼くはあるがあやつは風龍よ。どうして飛竜などと己を偽っているのかは分からぬが、風の龍の見た目は飛龍に似ているから、どうにか誤魔化せたんじゃろ。じゃが、それもあとわずかな間のことじゃ」
「あとわずか? どうして??」
「我ら龍種は、生まれ落ちて100年を越えたあたりで最初の脱皮をする。それが済むと、大人の一員と認められ、その体もぐんと大きくなるのじゃ。今日見た、アマルファとか言う奴の体格はまだ大人とは言えぬ」
「普通の飛龍よりもずっと大きいけど、あれでもまだ大人じゃないんだ?」
「うむ。といっても、大人まであとわずか、といったところじゃろうがの。脱皮の兆候が出ておったわ」
「そっか。じゃあ、もうすぐ脱皮して大人になるんだね?」
「まあ、もうすぐと言っても、脱皮にかかる時間は個人差があるがの」
「へえ。どのくらい差があるものなの?」
「そうじゃの。数日で脱皮を終える者もおれば、脱皮に1年以上かける者もおる。因みに妾は一晩で脱皮を終えて、アダルトな妾に大変身じゃったがの」
えへん、と胸を張るイルルの頭をよしよしと撫でつつ、
「それで、イルルはアマルファのことを知ってたの? 何か話しかけてたでしょ?」
話の先を促した。
「まあ、知らぬ訳ではないという程度じゃが、知っておるといえば知っておる。我ら龍種は多産とは言えぬ種族。生まれる子供は少なく、子供が産まれれば全ての龍で祝うのじゃ。じゃから、妾は奴を覚えておる。奴の生誕の宴には、妾も他の上位古龍と共に招かれたからの。新たな龍の子が産まれると、その代の上位古龍が祝福を与えるのがしきたりなのじゃ」
「じゃあ、アマルファにも祝福を与えたんだね」
「そうじゃ。当時の奴は、アマルファとかいう名前じゃなかったがの。奴の両親が与えた、別な名前があった。まあ、妾はよく覚えておらんが、風の一族の新たな息吹じゃから、風にちなんだ名が与えられていたはずじゃ」
「そうなんだね。でも、その大事に育てられているはずの龍の子供がどうしてここに?」
「う~む。その辺りは妾にもよく分からんのじゃ。じゃが、まだ妾が里におったころ、風龍の里から探し人……いや、探し龍の問い合わせがあったことはうっすらと覚えておる。1人で遊びに出た子供が戻らん、とな。それは大変じゃ、と各里から人手を出して探したんじゃが、結局みつからんかったはずじゃ。アマルファは、恐らくその時の子供じゃろう」
「そっかぁ。でもアマルファはどうして里に帰らなかったんだろうね?」
「わからぬ。じゃが、今もあ奴の事を思う家族が里にはおるからの。このまま放置という訳にはいくまい。じゃから、奴には事情を説明しに来い、と言ってある」
「事情を説明??」
「んむ。今晩、人目を忍んでやってくるはずじゃ。その時は、シュリも立ち会い、よろしく頼むのじゃ」
シュリが首を傾げ、イルルがにっかり笑い。
(龍……風龍かぁ。ちょっと前にイルルを訪ねてきたっていう氷の上位古龍さんといい、最近はなんだか龍に縁があるみたいだ)
シュリは思い、ふと氷の龍の人に思いを馳せる。
そう言えば、あの人はどうしているんだろう、と。
そして思った。
こうして王都を留守にしている間にも、2度目の訪問があるかもしれないな、そんな風に。
ちょうど今まさに、2度目のルバーノ家訪問を終えた氷の上位古龍が薄闇迫る王都の道を歩いているなどとは、夢にも思わずに。
◆◇◆
「っくちゅん」
王都の片隅で、なんだか妙に可愛らしいくしゃみが響く。
くしゃみをしたのは蒼で彩られたスレンダーな美女。
彼女は怪訝そうな顔で己の鼻をこすり、
「おかしいですね。特に体調は悪くないはずなんですが」
小さな声でつぶやいた。
「しかし、イルルヤンルージュ……いえ、イルルという名前の少女がまたも不在とは。前回が商都で今回が帝国の別荘地。彼女の主はかなり忙しい人物のようですね。本当ならば帝国まで追いかけて行って確かめたいところです。が」
シャナクサフィラ……イルルの昔なじみの氷の上位古龍は憂いを含んだ吐息をもらす。
「バイトを勝手に休むとナーザに怒られます。人手不足ですし、お願いしても長期の休みはもらえないでしょうね。1日、2日ならなんとか休ませてもらえるかもしれませんが、そんな短い期間で帝国の別荘地のどこかにいるシュリナスカ・ルバーノを探しだして話をするのは難しいでしょう。とはいえ給金を頂いている身であまりわがままも言えませんし。仕方ありません。イルルとその主が帰るのを気長に待ちましょう。1月ほどで帰る、と対応してくれた家人も言っていましたし」
実際は1週間程度で帰ってくる予定なのだが、対応に出たジュディスは機転を効かせてそれより長めの期日を伝えた。
しかし、そんな事実を知る由もなく。蒼い髪の美女はジュディスの言葉を素直に信じ、帰途を急ぐ。
午後は半休をもらって出てきたから別に急ぐ必要もないのだが、時刻は夕刻。もうすぐ夕食が出来上がる時間だ。
(サギリの作る食事はおいしいですからね。さめてもおいしいですが、出来ることならあたたかい内に味わいたい。その為には、急いで帰らないといけません)
クールな表情の下でそんなことを考えながら、シャナクサフィラは足を早める。
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