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第二部 少年期のはじまり
間話 エルフの隠れ里~三人娘の珍道中~①
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シュリと連絡を取り、愛する主の居場所を突き止めた三人は、十二分に休ませて贅沢な食事をしっかり取らせておいた馬に跨がり、正に昼夜問わずにかけ続けた。
シュリに会いたい、その一心で。馬の迷惑など、知ったことでは無いとばかりに。
いつもなら、馬の肩を持つ優しいカレンも、シュリに会いたくて会いたくて、馬を気遣う余裕すら無くしていた。
疲れ果てた馬をあの手この手で何とか走らせ続け、もう限界かと思われた頃、やっとシュリが言っていた目印の場所までたどり着いた。
そこから先は森に入るし、細かな目印を追っていかなければならないので馬に乗っては行けない。
三人は馬を降りて、さすがに疲れた体にむち打って歩き出す。
もうすぐシュリに会える、その事だけが、今の三人にとっての支えだった。
目印に沿ってしばらく進むと、
「ここから先はエルフの隠れ里。誰の客人か?」
そんな問いかけが木々の上から降ってきた。
「私達は、エルフの隠れ里の住人、エルジャバーノ様に招かれし者です。お通し願えないでしょうか?」
そんな突然の問いかけにも慌てることなく前に出て、ジュディスはシュリから教えられた情報のままに返事を返す。
「エルジャバーノの?確認する。しばし待たれよ」
すぐに木の上から、そんな返答が返ってきて、大人しく待つことしばらく。
木々をかき分けるようにして一人の男性が三人の元へとやってきた。
笹の葉のような耳に抜けるように白い肌、淡い金色の髪に青い宝石をはめ込んだような瞳の美丈夫は、三人をまじまじと見つめ、心底驚いたような顔をした。
「シュリから話は聞いていましたけど、まさかこんなに早く到着するとは思っていませんでした。えーと、みなさん?失礼ですが、本当に人間、なんでしょうか?精霊とか、そういう類の、超常的な存在とかでは……?」
会って早々、そんな事を言い出した男を見上げ、口には出さないものの、なにを言ってやがるんだ、この男と言わんばかりの表情を浮かべるジュディスとシャイナ。
カレンも、何ともいえない顔で苦笑をしている。
「いえ。私達はれっきとした人間です。決して化け物の類ではございません」
冷ややかな眼差しでジュディスが答える。
一般的な女性から見れば、エルジャバーノはまさしく夢の王子様といえるほどの美男子なのだが、シュリ一筋でシュリしか眼中にないという状態のジュディスに、エルジャの美貌もまるで効果なしであった。
今まで、同じエルフは別として、ほかの種族の女性からは熱い眼差しを受けることの多かったエルジャは、ジュディスのそっけなさというか冷たさに、ほんの少し表情をひきつらせて、
「いえ、別に、化け物、とまでは言ってませんけど……えーと、あなた達がシュリの従者さん達で間違いないでしょうか?」
そんな風に尋ねた。
「はい。私達はシュリ様の特別で忠実な従者です。以後、お見知り置きを。そう言うあなたはシュリ様のおじい様のエルジャバーノ様でお間違えないでしょうか?」
エルジャのきらきらしい美貌にも眉一つ動かさずに、クールに答えるのは隠密メイドのシャイナ。
彼女は、一応シュリの祖父なのだからどこかシュリを偲べるポイントがエルジャの顔に無かろうかと、じ~~~っとエルジャを見つめた。
「え、ええ。私がシュリの祖父、エルジャバーノです。そうですか。あなた達がシュリの従者さんなんですね。こんなに美しい女性ばかりが従者とは、シュリも幸せものですねぇ」
無表情に見つめてくるシャイナにちょっと怯みつつ、お世辞と共にそう答えるエルジャ。
そんなエルジャを見ながら、シャイナは期待はずれだとばかりに、隠すことなく失望のため息を漏らす。
エルジャは確かに色男であった。
だが、残念なことにシュリを偲ばせるような部分がまるでなかった。
まあ、元々、シュリは母親似の顔立ちをしているし、その母親であるミフィーの顔立ちは、どちらかというとシュリの祖母であるヴィオラに似ていた。
唯一、ミフィーの瞳の色は父親であるエルジャバーノ譲りだったが、その瞳の色は残念なことにシュリには受け継がれていない。
結果、シュリとエルジャバーノの間に類似点はほぼ存在していないと言えた。
ちっ、無駄な期待をさせやがってこの野郎、とばかりに、静かな怨念のこもった眼差しをエルジャに注ぐシャイナ。
とはいってもエルジャはなにも悪くはなく、勝手に期待して勝手に失望したシャイナの一人相撲なのであるが。
「失礼ですが、私達はただの従者ではありません」
ほめたのに、何で私はこんなに睨まれているんでしょうと、内心だらだらと冷や汗を流していたエルジャに、シャイナがぼそりと言葉を投げつける。
「えっと、でも、シュリの従者、なんですよね??」
「私達は、シュリ様の、特別で、忠実な、従者です」
「は?」
「特別で、忠実な、従者、です」
「と、特別で、忠実な、従者さん……ですか?」
「はい。そこのところを、お間違えなきようにお願いいたします」
「わ、わかりました……肝に刻んでおきます、ね」
シャイナの気迫に負けたように、エルジャバーノは愛想笑いを浮かべてかくかくと頷いた。
それをみたシャイナは、少しだけ満足そうな顔をした。
(な、なんなんでしょう?この、妙に心臓に悪い従者達は。シュリも、苦労してるんですね……)
彼女達が、シュリに対してどれだけ甘々なのかを知らないエルジャは、内心シュリに同情しつつ、まだ言葉を交わしていない最後の従者に目を向けた。
今度はなにを言われるのかと、内心戦々恐々しながら。
だが、最後に目を合わせた女性は、エルジャと目が合うと感じよくにっこりと微笑んだ。
「初めまして。シュリ君のおじい様。私はシュリ君の従者のカレンと言います」
「これはこれはご丁寧にありがとうございます。シュリの祖父のエルジャバーノです」
やっとまともな反応が返ってきたと、内心喜びつつ、エルジャバーノもにこにことカレンに言葉を返す。
そんなエルジャに、カレンは間を空けずに次の質問を放ってきた。
「それで、シュリ君はどこにいるんでしょう?」
予想していたその質問に、エルジャは鷹揚に頷くと、
「ああ、実はですね。シュリは急な用事で、ヴィオラと一緒に一足早く旅立ってしまいました。みなさんにはくれぐれもよろしく、と。次の場所に落ち着いたら連絡をするから、それまでのんびりしていて欲しいと……」
シュリに頼まれていた伝言を伝えようとした。
だが、それを皆まで言うことは叶わず、
「えええええええええ!!!!!!しゅっ、しゅっ、しゅり君、もういないんですかあぁぁぁぁぁぁ!!!???」
さっきまでの好印象はどこへ行ったやら、豹変したカレンに胸ぐらを捕まれてがっくんがっくんと激しく揺さぶられる。
その傍らで、
「シュリ様……ここまできたのにお会いできないなんて……なんていう悲劇っ」
ジュディスはよよよと泣き崩れ、
「運命を、呪う……シュリ様、シャイナはぼちぼち限界が来そうな予感が……ま、まずい。脳内イメージで己を保たないと!シュリ様を抱っこ。シュリ様とちゅー。シュリ様とほっぺすりすり。シュリ様をぺろぺろ。シュリ様を……」
シャイナは己を保つために、シュリとのめくるめく時間を妄想している。
エルジャは脳をものすごい勢いでシェイクされつつ、そんな従者達の様子を見ながら思う。
(シュリ……こんな変わり者の従者達を従えているあなたを、おじー様は尊敬します……ええ。尊敬しますとも!ですから、どうか……)
どうか、今すぐ帰ってきて下さい、と。
私にはこのカオスをどうにかするだけの力はありません、そう思ったのを最後に、エルジャバーノは意識を失った。
その後、エルジャがぐったりしたことに気づいたカレンが、はじめに正気に戻り、シュリのおじい様に何かあったら大変だと慌てて介抱した結果、エルジャの意識はなんら問題なく覚醒した。
エルジャが気を失っている間に、一応シュリの祖父である訳だし、それなりの敬意をはらう必要はあるだろうと、認識を改めた三人は目を覚ましたエルジャにきちんと頭を下げた。
そこのところは、暴走さえしなければ、出来過ぎるほどに出来る三人である。
しっかりとエルジャの機嫌を取り結び、シュリから連絡が来るまでエルジャの家に滞在する許可もしっかりともぎ取った。
内心は、シュリに会えないことで胸の中に大型台風が荒れ狂っている三人だが、表面上はいたって平静を保ち、エルジャと共に彼の家へと向かう。
本当なら、今すぐにシュリを追って旅立ちたいところだが、主がどこへ向かったかまだ分からず、足となる馬達も疲労困憊していてこれ以上走らせるのは流石に躊躇われた。
エルジャの後ろについて歩きながら、三人は小声で今後の相談をする。
「とりあえず、エルジャバーノ様のお宅に滞在させてもらって、シュリ様の連絡を待つしかないわね」
「確かに。どこに向かうか分からなければ動きようがないですからね」
「ですねぇ。それに、馬達にしっかり休息をとらせておかないと。いざという時に役に立たないと困りますしね」
三人は顔を見合わせてこっくりと頷いた。
「こっちから、シュリ君に連絡を取ってみます??どこにいるの、って」
カレンの提案に、ジュディスはしばし思案してから首を横に振る。
「いえ。やめておきましょ。シュリ様が今、どういう状態にいるか分からないし、こちらから連絡を入れて煩わせるのは申し訳ないわ。正直、ものすごく苦しいけど、今は我慢して待ちましょう」
「かなり、厳しいけど、シュリ様の迷惑にはなれない……くっ。が、我慢、です……くうぅっ」
ジュディスの主張にシャイナも苦渋の表情で頷く。
「そうですねぇ。正直本当に辛いけど、なんとか協力して乗り切りましょう。大丈夫!私達なら頑張れます」
「「……」」
「が、頑張れば、きっとシュリ君がほめてくれますよ!」
「「シュリ様が、ほめて……?」」
「も、もしかしたら、ご褒美もくれるかもしれませんよ??」
だ、だから頑張りましょ?との励ましの言葉に、ジュディスとシャイナはやっと顔を上げて頷いた。
「シュリ様が下さる、めくるめくご褒美の為なら、このジュディス、どんな苦難にも耐えてみせましょう!!とっておきの半ズボンがありますから、半ズボンをはいたシュリ様と、お姉ちゃんと弟ゴッコを……くふっ」
「シュリ様のご褒美……何個までいいんだろう?色々考えておかなきゃ……えっと、一緒にお風呂で体の流しっこ。んーと、シュリ様の恥ずかしいところをぺろぺろ。それから……」
「えーと……本当にご褒美があるかは未定ですからねぇ~??」
ちょっと話を盛りすぎたかも、と冷や汗を流すカレンの言葉は、どうやらジュディスとシャイナの耳には入っていないようだった。
カレンは困りましたね、と小さくため息を漏らしつつ、
(でも、もし本当にご褒美がもらえる場合に備えて私も一応考えておこう……)
さーて、どんなご褒美がいいかなぁと、うきうきしながら、お願いしたいご褒美を指折り数えるのだった。
シュリに会いたい、その一心で。馬の迷惑など、知ったことでは無いとばかりに。
いつもなら、馬の肩を持つ優しいカレンも、シュリに会いたくて会いたくて、馬を気遣う余裕すら無くしていた。
疲れ果てた馬をあの手この手で何とか走らせ続け、もう限界かと思われた頃、やっとシュリが言っていた目印の場所までたどり着いた。
そこから先は森に入るし、細かな目印を追っていかなければならないので馬に乗っては行けない。
三人は馬を降りて、さすがに疲れた体にむち打って歩き出す。
もうすぐシュリに会える、その事だけが、今の三人にとっての支えだった。
目印に沿ってしばらく進むと、
「ここから先はエルフの隠れ里。誰の客人か?」
そんな問いかけが木々の上から降ってきた。
「私達は、エルフの隠れ里の住人、エルジャバーノ様に招かれし者です。お通し願えないでしょうか?」
そんな突然の問いかけにも慌てることなく前に出て、ジュディスはシュリから教えられた情報のままに返事を返す。
「エルジャバーノの?確認する。しばし待たれよ」
すぐに木の上から、そんな返答が返ってきて、大人しく待つことしばらく。
木々をかき分けるようにして一人の男性が三人の元へとやってきた。
笹の葉のような耳に抜けるように白い肌、淡い金色の髪に青い宝石をはめ込んだような瞳の美丈夫は、三人をまじまじと見つめ、心底驚いたような顔をした。
「シュリから話は聞いていましたけど、まさかこんなに早く到着するとは思っていませんでした。えーと、みなさん?失礼ですが、本当に人間、なんでしょうか?精霊とか、そういう類の、超常的な存在とかでは……?」
会って早々、そんな事を言い出した男を見上げ、口には出さないものの、なにを言ってやがるんだ、この男と言わんばかりの表情を浮かべるジュディスとシャイナ。
カレンも、何ともいえない顔で苦笑をしている。
「いえ。私達はれっきとした人間です。決して化け物の類ではございません」
冷ややかな眼差しでジュディスが答える。
一般的な女性から見れば、エルジャバーノはまさしく夢の王子様といえるほどの美男子なのだが、シュリ一筋でシュリしか眼中にないという状態のジュディスに、エルジャの美貌もまるで効果なしであった。
今まで、同じエルフは別として、ほかの種族の女性からは熱い眼差しを受けることの多かったエルジャは、ジュディスのそっけなさというか冷たさに、ほんの少し表情をひきつらせて、
「いえ、別に、化け物、とまでは言ってませんけど……えーと、あなた達がシュリの従者さん達で間違いないでしょうか?」
そんな風に尋ねた。
「はい。私達はシュリ様の特別で忠実な従者です。以後、お見知り置きを。そう言うあなたはシュリ様のおじい様のエルジャバーノ様でお間違えないでしょうか?」
エルジャのきらきらしい美貌にも眉一つ動かさずに、クールに答えるのは隠密メイドのシャイナ。
彼女は、一応シュリの祖父なのだからどこかシュリを偲べるポイントがエルジャの顔に無かろうかと、じ~~~っとエルジャを見つめた。
「え、ええ。私がシュリの祖父、エルジャバーノです。そうですか。あなた達がシュリの従者さんなんですね。こんなに美しい女性ばかりが従者とは、シュリも幸せものですねぇ」
無表情に見つめてくるシャイナにちょっと怯みつつ、お世辞と共にそう答えるエルジャ。
そんなエルジャを見ながら、シャイナは期待はずれだとばかりに、隠すことなく失望のため息を漏らす。
エルジャは確かに色男であった。
だが、残念なことにシュリを偲ばせるような部分がまるでなかった。
まあ、元々、シュリは母親似の顔立ちをしているし、その母親であるミフィーの顔立ちは、どちらかというとシュリの祖母であるヴィオラに似ていた。
唯一、ミフィーの瞳の色は父親であるエルジャバーノ譲りだったが、その瞳の色は残念なことにシュリには受け継がれていない。
結果、シュリとエルジャバーノの間に類似点はほぼ存在していないと言えた。
ちっ、無駄な期待をさせやがってこの野郎、とばかりに、静かな怨念のこもった眼差しをエルジャに注ぐシャイナ。
とはいってもエルジャはなにも悪くはなく、勝手に期待して勝手に失望したシャイナの一人相撲なのであるが。
「失礼ですが、私達はただの従者ではありません」
ほめたのに、何で私はこんなに睨まれているんでしょうと、内心だらだらと冷や汗を流していたエルジャに、シャイナがぼそりと言葉を投げつける。
「えっと、でも、シュリの従者、なんですよね??」
「私達は、シュリ様の、特別で、忠実な、従者です」
「は?」
「特別で、忠実な、従者、です」
「と、特別で、忠実な、従者さん……ですか?」
「はい。そこのところを、お間違えなきようにお願いいたします」
「わ、わかりました……肝に刻んでおきます、ね」
シャイナの気迫に負けたように、エルジャバーノは愛想笑いを浮かべてかくかくと頷いた。
それをみたシャイナは、少しだけ満足そうな顔をした。
(な、なんなんでしょう?この、妙に心臓に悪い従者達は。シュリも、苦労してるんですね……)
彼女達が、シュリに対してどれだけ甘々なのかを知らないエルジャは、内心シュリに同情しつつ、まだ言葉を交わしていない最後の従者に目を向けた。
今度はなにを言われるのかと、内心戦々恐々しながら。
だが、最後に目を合わせた女性は、エルジャと目が合うと感じよくにっこりと微笑んだ。
「初めまして。シュリ君のおじい様。私はシュリ君の従者のカレンと言います」
「これはこれはご丁寧にありがとうございます。シュリの祖父のエルジャバーノです」
やっとまともな反応が返ってきたと、内心喜びつつ、エルジャバーノもにこにことカレンに言葉を返す。
そんなエルジャに、カレンは間を空けずに次の質問を放ってきた。
「それで、シュリ君はどこにいるんでしょう?」
予想していたその質問に、エルジャは鷹揚に頷くと、
「ああ、実はですね。シュリは急な用事で、ヴィオラと一緒に一足早く旅立ってしまいました。みなさんにはくれぐれもよろしく、と。次の場所に落ち着いたら連絡をするから、それまでのんびりしていて欲しいと……」
シュリに頼まれていた伝言を伝えようとした。
だが、それを皆まで言うことは叶わず、
「えええええええええ!!!!!!しゅっ、しゅっ、しゅり君、もういないんですかあぁぁぁぁぁぁ!!!???」
さっきまでの好印象はどこへ行ったやら、豹変したカレンに胸ぐらを捕まれてがっくんがっくんと激しく揺さぶられる。
その傍らで、
「シュリ様……ここまできたのにお会いできないなんて……なんていう悲劇っ」
ジュディスはよよよと泣き崩れ、
「運命を、呪う……シュリ様、シャイナはぼちぼち限界が来そうな予感が……ま、まずい。脳内イメージで己を保たないと!シュリ様を抱っこ。シュリ様とちゅー。シュリ様とほっぺすりすり。シュリ様をぺろぺろ。シュリ様を……」
シャイナは己を保つために、シュリとのめくるめく時間を妄想している。
エルジャは脳をものすごい勢いでシェイクされつつ、そんな従者達の様子を見ながら思う。
(シュリ……こんな変わり者の従者達を従えているあなたを、おじー様は尊敬します……ええ。尊敬しますとも!ですから、どうか……)
どうか、今すぐ帰ってきて下さい、と。
私にはこのカオスをどうにかするだけの力はありません、そう思ったのを最後に、エルジャバーノは意識を失った。
その後、エルジャがぐったりしたことに気づいたカレンが、はじめに正気に戻り、シュリのおじい様に何かあったら大変だと慌てて介抱した結果、エルジャの意識はなんら問題なく覚醒した。
エルジャが気を失っている間に、一応シュリの祖父である訳だし、それなりの敬意をはらう必要はあるだろうと、認識を改めた三人は目を覚ましたエルジャにきちんと頭を下げた。
そこのところは、暴走さえしなければ、出来過ぎるほどに出来る三人である。
しっかりとエルジャの機嫌を取り結び、シュリから連絡が来るまでエルジャの家に滞在する許可もしっかりともぎ取った。
内心は、シュリに会えないことで胸の中に大型台風が荒れ狂っている三人だが、表面上はいたって平静を保ち、エルジャと共に彼の家へと向かう。
本当なら、今すぐにシュリを追って旅立ちたいところだが、主がどこへ向かったかまだ分からず、足となる馬達も疲労困憊していてこれ以上走らせるのは流石に躊躇われた。
エルジャの後ろについて歩きながら、三人は小声で今後の相談をする。
「とりあえず、エルジャバーノ様のお宅に滞在させてもらって、シュリ様の連絡を待つしかないわね」
「確かに。どこに向かうか分からなければ動きようがないですからね」
「ですねぇ。それに、馬達にしっかり休息をとらせておかないと。いざという時に役に立たないと困りますしね」
三人は顔を見合わせてこっくりと頷いた。
「こっちから、シュリ君に連絡を取ってみます??どこにいるの、って」
カレンの提案に、ジュディスはしばし思案してから首を横に振る。
「いえ。やめておきましょ。シュリ様が今、どういう状態にいるか分からないし、こちらから連絡を入れて煩わせるのは申し訳ないわ。正直、ものすごく苦しいけど、今は我慢して待ちましょう」
「かなり、厳しいけど、シュリ様の迷惑にはなれない……くっ。が、我慢、です……くうぅっ」
ジュディスの主張にシャイナも苦渋の表情で頷く。
「そうですねぇ。正直本当に辛いけど、なんとか協力して乗り切りましょう。大丈夫!私達なら頑張れます」
「「……」」
「が、頑張れば、きっとシュリ君がほめてくれますよ!」
「「シュリ様が、ほめて……?」」
「も、もしかしたら、ご褒美もくれるかもしれませんよ??」
だ、だから頑張りましょ?との励ましの言葉に、ジュディスとシャイナはやっと顔を上げて頷いた。
「シュリ様が下さる、めくるめくご褒美の為なら、このジュディス、どんな苦難にも耐えてみせましょう!!とっておきの半ズボンがありますから、半ズボンをはいたシュリ様と、お姉ちゃんと弟ゴッコを……くふっ」
「シュリ様のご褒美……何個までいいんだろう?色々考えておかなきゃ……えっと、一緒にお風呂で体の流しっこ。んーと、シュリ様の恥ずかしいところをぺろぺろ。それから……」
「えーと……本当にご褒美があるかは未定ですからねぇ~??」
ちょっと話を盛りすぎたかも、と冷や汗を流すカレンの言葉は、どうやらジュディスとシャイナの耳には入っていないようだった。
カレンは困りましたね、と小さくため息を漏らしつつ、
(でも、もし本当にご褒美がもらえる場合に備えて私も一応考えておこう……)
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