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第四部 王都の新たな日々

EX‐3 高遠瑞希の華麗なる日常~年末年始は温泉宿で~

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新年用にせっせと書きましたが、お正月休み中のアップが出来ず……
お待たせしました。
ほぼ前世の話ですがお楽しみ頂けたら嬉しいです。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 「うわぁ。すごくいい宿だね~」


 大晦日。
 友人に誘われて年末年始を温泉宿で過ごすことにした高遠瑞希は、宿泊予定の宿を見上げてそんな声をあげた。


 「予約取るの大変だったでしょ? ありがとう~、桜」

 「別に。大したことなかったわよ。それより、ほら。早くチェックインしちゃいましょ」

 「そうだね。今日は雪が降って寒かったし、早く温泉に入ろっか」

 「温、泉……」


 にこにこ笑う瑞希の、その攻撃力満載の一言に、桜は思わず頬を染めて押し黙る。
 一緒に温泉に行くということはそういうことだと覚悟はしていたし、女の裸に動揺するほど初心うぶじゃない、そう思っていた。
 でも、やっぱり。
 桜にとっての瑞希は他の女と違うのだ。
 今までつき合ってきた誰とも違う。
 その瑞希と一緒に温泉に入る。一緒の湯船に、一糸まとわぬ姿で。


 (なんていうか……覚悟してたとはいえ、いろいろくるものがあるわね。私の理性、ちゃんともつかしら)


 まだ温泉につかってもいないのに、すでに理性がグラグラだ。
 だが、瑞希と友人でいると決めている以上、手を出すことは出来ない。
 理性を強固に保ち、あえて飛び込んだこの試練をどうにか乗り切るしかないだろう。
 そんなことを考えていたら、視界いっぱいに誰よりも愛しい相手の顔が広がって、桜は思わず1歩後ろに退いていた。


 「さくら?」


 不思議そうにこちらをのぞき込む瑞希の顔に目が奪われる。


 「え? な、なに?」

 「チェックイン」

 「え?」

 「チェックイン、しないの?」

 「チェックイン? ああ、チェックインね。するわよ、もちろん」

 「じゃあ、行こう? ほら」

 「え!? あっ!!」


 有無をいわせずに手を握られ、桜はさらに頬が赤くなるのを感じた。
 瑞希への恋心を封印しているつもりでいても。
 それでもやっぱり好きなものは好きなのだ。
 そんな桜の手を引いて歩きながら、瑞希がまた不思議そうな顔で桜を見た。


 「桜?」

 「……なに?」

 「ほっぺ、真っ赤だよ? そんなに寒かった」

 「っ!! そっ、そうね。ちょっと寒かった、かも」

 「そっか。じゃあ、早く温泉につかってあったまろう」


 にこにこ笑う瑞希の笑顔がまぶしすぎる。


 (……私の理性、ほんとにもつ?)


 もうすでに陥落寸前の理性を必死に補強しつつ、桜は瑞希に手を引かれるまま、宿の受付へと向かった。

◆◇◆

 「あ~……いいお湯だねぇ」


 宿の露天風呂で。
 瑞希が風呂の縁にもたれて溶けている。
 その姿を横目で見ながら、桜は顎の下まできっちり湯に浸かって膝を抱えた。
 斜め後ろに位置しているので、桜から見えるのは瑞希の背中や首筋くらい。
 しかし、これがまたやばいのだ。
 温泉の効果かうっすら色づいた首筋や背中が妙に色っぽくて。


 (背中まで色っぽいってどうなってんのよ)


 心の中で文句を言いながら、小さく唇を尖らせる。
 ダイレクトに前を見なければセーフだと思っていたのだが、そう言うものでもないらしい。


 (脱衣所と身体を洗う場面を乗り切ったからもう大丈夫だと思ってたのに)


 ふぅ~っと大きく息をつき、空をあおぐ。
 脱衣所は、瑞希より早く脱いで浴室に向かってしまうのが勝利ポイントだと判断し、とにかく急いで全ての服を脱ぎ去った。
 隣で瑞希がびっくりしたような顔をしていた事には気付いていたが、そんなことを気にしている場合ではなく。
 さっさと全裸になった桜は、宿から支給される薄いタオルをひっつかんで浴室に飛び込んだ。

 そして、瑞希が来る前にとにかく身体を洗ってしまわねば、と大急ぎで全身を洗い、ようやく瑞希が追いついた頃には頭を洗い始めていたので、歩いてくる瑞希を見るという失態は防ぐことができた。
 そのことにほっとしながら泡だらけの髪を洗い流し、遅ればせながら身体を洗い始めた瑞希をこっそり眺めたい気持ちを押し殺しつつ、湯船に向かった。
 その時点で、風呂場での危機は過ぎ去ったと思っていたのだが。


 (瑞希の首筋から背中のラインがこんなに心を乱すなんて、思ってもみなかったわ……)


 盲点だった、とひっそり反省をしていると、なにやら熱のこもった視線が突き刺さるのを感じた。
 なんだろう、と視線の発生源に目を向ければ、肩までしっかり湯に浸かった瑞希が、じっとこちらを見ていた。


 「……なによ?」

 「え? いやぁ。おっきいなぁ、って思って」

 「……大きくてもいいことなんてないわよ。普通が1番よ、普通が」

 「普通かぁ。私は普通って言える程もないからなぁ」


 言いながら己の胸を手の平で覆う瑞希の仕草から思わず目を逸らす。
 心の声が、


 (私は別に、小さい胸も嫌いじゃないけど)


 なんて勝手に呟くのを無視しながら。
 そんな風に、必死に己の煩悩と戦う桜の耳に、


 「ねえ、桜。桜はドラクエ、やったことある?」


 今度はそんな言葉が届いた。
 会話の急な方向転換についていけず、思わず、


 「は?」


 と聞き返す。
 なにゆえ今その質問がきた? と若干混乱しながら。
 そんな桜に気付くことなく、瑞希はさらに言葉を続ける。


 「ほら、ドラクエだよ。ゲームのさ。勇者を操作して魔王を倒すとかそういう系の」

 「私だってさすがにドラクエは知ってるし、プレイしたことくらいあるわよ」


 丁寧に説明してくれる瑞希に苦笑を返しつつ、桜は答える。
 子供の頃からゲームをするのも本を読むのもかなり好きだった。
 そう話すと、大抵の人からイメージに合わないと驚かれたものだが。

 そんな桜の答えを聞いた瑞希が、よかったぁ、と微笑む。
 無邪気で透明感のある、そんな瑞希の笑顔が桜は大好きだった。
 大好きだったが、今、この状況でその笑顔をぶち込まれるのは正直困る。
 ただでさえ、色々こらえて頑張っているというのに。

 まぶしすぎる最愛の女 しんゆうの笑顔から、ちょっぴり目線をそらせて、桜はちょっとのぼせた風を装って手の平をうちわ代わりに顔へ風を送る。
 赤くなった頬を、少しでもごまかせればと思いながら。


 「そっか。ならよかった。桜がドラクエ知らないなら、話してもちんぷんかんぷんな内容だろうし。私はさ、あんまりゲームとか知らなかったんだけど、最近になって後輩から古いゲーム機とソフトを貰ってやり始めたんだけど、結構面白いよねぇ」

 「んで? なによ? 攻略情報とか知りたいわけ? 私もそこまでやりこんでる訳じゃないけど、ちょっとならアドバイス出来るかもしれないわよ? ってか、いま、ドラクエいくつやってんの?」

 「シリーズものだし、1からやった方がいいかなぁって思って順番にクリアして、今は4をやってるんだけど、人気のあるゲームだけあって面白いね! つい夢中でやっちゃって、最近は毎日寝不足なんだ」

 「4かぁ。確かに夢中になる気持ちも分かるわね。私もドラクエは全部やってるけど、いまだに4が1番好きだし。で? なにが疑問な訳??」

 「疑問、っていうか。単なる知的好奇心なんだけどさ」

 「うん。なに?」

 「ぱふぱふ、ってどんな感じなんだろうなぁ、って」

 「ぱ、ぱふぱふ??」


 すっかりゲーム脳になっていたところにぶち込まれた単語に、一瞬脳がフリーズした。
 まあ、別に全くゲームに関係のない話題ではないのだが、まさかその単語が出てくるとは夢にも思っていなかったから。


 「ほら、主人公が大きな街とかに行くとさ、きれいなお姉さんが声をかけてくるでしょ? 『ぼうや、ぱふぱふしない?』って。私さぁ、いつもついついお金払っちゃうんだよね。それでいつも思うんだ。これって実際にやってもらったらどんな感じなんだろう、って」

 「じ、実際、に」

 「あ、私も大人だし、ぱふぱふがどういうものかは何となく察してるよ? まあ、それが正解かどうか分からないけど」

 「あ、うん。そうよね」

 「でもさあ、実際に挟んで貰う感じってどんなだろうね」

 「挟む!?」

 「しかもさ、ただ挟まれるだけじゃなくてぱふぱふされてる訳だから、きっと気持ちがいいものなんだろうな~って、いつも思うんだよね」


 うっとりとした顔で瑞希が語る。
 そんな瑞希の顔から目をそらし、桜は己の胸の装備品を見下ろした。
 正直、ものすごく大きいって程ではない。
 普通より若干大きいかな、という程度だ。
 だが。

 己の装備を確認し、それから温泉のぬくもりにほんのり頬を染めた最愛の女しんゆうの顔を見る。
 彼女は芸能人でもないくせに、驚異の顔の小ささだから、普通プラスアルファ程度の己の装備でも挟めなくはないか、と思いながら。

 だが、出来る出来ないは問題ではない。
 本当の問題はそういう肉体的接触による精神攻撃の方なのだ。
 自分でいうのもなんだが、理性はそれなりにある方だと思う。
 しかし、今日は朝からかなりの精神攻撃を浴び続けている。
 そんな状態で、はたして己の装備で瑞希の顔をぱふぱふする、という最大級の精神攻撃に耐えられるのだろうか。
 精神攻撃耐性の許容量を越え、制御不能な狂戦士になってしまいはしないだろうか。
 己の内でそんな葛藤をしていた桜は、だがしかし、


 「そんなに興味があるならしてあげようか?」


 気がつけばそんな言葉を口にしていた。


 「え! いいの!?」


 驚いたようにこちらを見る瑞希を見ながら、桜はそれ以上に驚いていた。
 一体なに言っちゃってんの、私! 、と。
 しかし出てしまった言葉はもうどうにも出来ない。
 だが、どうにか冗談だったという着地点に持って行こうと口を開こうとした瞬間、それを制するように瑞希が口を開いた。


 「よかったぁ。せっかく一緒に温泉に来たし、お願いするだけしてみようかなぁって思ってはいたけど、桜の方からそう言ってくれるなんて。女同士でぱふぱふなんておかしいかなぁって思ってたけど、逆に考えれば女同士だからこそ出来るのかもね。ちょっと考えすぎだったかもなぁ、私。よく考えたら、高校時代とかも友達同士で触りっこなんてよくあったし、それと似たようなものだよね」


 そういって晴れ晴れと笑う瑞希を前に、もう冗談だったとは言い出せなくなった。
 バカバカ、私のバカ、と心の中で己を責めるが、もう後の祭りである。
 こうなったら、心を無にしてささっと瑞希の顔を挟むしかない、そう決意して顔を上げた瞬間、


 「でもなぁ。桜にぱふぱふして貰っても、お返しするだけの胸がないんだよなぁ、私。桜と違って、ほら、エアパフパフすらままならないんだよ?」


 どうしようかなぁ、と困り顔の瑞希が、緩やかな曲線を描く己の胸を両脇から手の平でむぎゅむぎゅ寄せようとしている夢の光景に出会ってしまった。
 小さいながらも手の動きにあわせて形を変える様子は、その柔らかさを想像させる。
 一瞬で、己の手の中で形を変える彼女の小さな膨らみを脳裏に描いてしまった桜は、鼻の奥がツンとして、次いで目の前が真っ白に染まり、自分の身体が傾くのを感じた。


 「どうしよう。お返しするにしても、こんなぺったんこなぱふぱふじゃ気持ちよくないよね……って、桜!? 桜、大丈夫!? さくらっ!!」


 遠くに瑞希の声を聞きながら。
 桜は急速に意識を手放したのだった。

◆◇◆

 目を覚ますと、鼻にティッシュを突っ込まれたまま、布団に寝かされてた。
 身につけているのは浴衣だけ。
 下着を身につけていない現状に、もしかしてと心を弾ませたのも束の間。桜が目を覚ましたことに気付いた瑞希がやってきて、


 「良かった。目が覚めたんだね。ほら、お水飲んで? 桜ってば、お風呂場でのぼせて倒れちゃったんだよ。急に倒れるから私も慌てちゃって。急いでお風呂から連れ出して、身体を拭いて浴衣を着させて部屋に連れて帰ったんだよ?」


 そう説明してくれた。
 下着は着せるのが面倒だったし、布団に寝かせるからいいか、と省略したらしい。
 そうだったのか、とほっとしたような、ちょっとがっかりしたような気持ちで起きあがり、鼻のティッシュをぽんっと引き抜いて、新しいティッシュにくるんでゴミ箱へ。

 のぼせて鼻血をだしたんだか、極度の興奮で鼻血を吹き出したのか、真相は定かではないが、己の精神衛生の為に、のぼせて鼻血が出たことにしておこう。
 そんな風に思いながら。

 介抱される時に、生まれたままの姿をばっちり瑞希に見られてしまった訳だが、まあ、一緒にお風呂に入るわけだし、見られることも想定してきちんとお手入れしてきたからそこまでのダメージはなかった。
 瑞希のを見るよりも、自分が見られる方がまだましなので、湯上りの着替えを一緒にせずにすんでむしろ良かったのかもしれない。
 そんなことを思いつつ、桜は新しい下着を上下しっかりと身につけた。

 その後は、豪華な宿の食事を存分に楽しみ、そのついでにお酒もちょっと楽しんで。
 連日のゲーム夜更かしのせいか、お酒のせいか。
 会話をしながら、ぱふぱふをする約束をしたことなんてころっと忘れて舟をこぎ始めた瑞希を布団の中に突っ込んで寝かせてあげた。

 残された桜は、眠る瑞希の顔を肴にしばらく酒を飲み。
 日付が変わって新しい年を迎えてしばらくたつと流石に眠くなってきたので、瑞希の布団の横に並べられた自分の布団にごろん、と横になった。
 そしてそのまま、瑞希の顔を眺めていたが、酔いの勢いに任せて瑞希の布団へそっと潜り込む。
 そしてその勢いのまま、浴衣の前をはだけて、眠る最愛の女しんゆうの顔を胸で挟んでみようとした。

 だが、横向きだと相手が寝ていることもあって中々うまくいかず、むぅ、と唇を尖らせた桜は、えいやっと瑞希を仰向けに転がして、その顔を己の胸で挟んでむぎゅむぎゅしてやった。
 瑞希が望んでいたように、ぱふぱふ、ぱふぱふ、とするように。


 「どうだ、瑞希。参ったか」


 なにが参ったか、なのか正直自分でもよくわからない。
 瑞希の寝顔の肴が素晴らしくてついつい飲み過ぎてしまったのかもしれない。自分は大分酔っている。
 頭のどこかでそんなことを考えつつも、しばらくそうして満足した酔っぱらい桜は、そのまま瑞希の浴衣を、胸の先端が見えない程度にはだけさせ、そして。
 その胸の谷間の辺りにそっと頬を寄せた。

 ただでさえ薄い胸が、上向きに寝ているせいで更に平らになっており。
 だが、そのどこまでも平坦な感触を、桜はうっとりとした表情で楽しむ。
 そしてそのまま寝落ちしてしまい、次の日の朝を迎え。
 早寝した分早く目を覚ました瑞希を激しく混乱させることになるのだった。

◆◇◆

 懐かしい、夢を見た。
 もう何年も前の出来事。
 今とは全く姿の違う自分と親友の桜と、仲良く温泉旅行に行ったときの夢だった。

 新年の朝、目を覚ましたシュリはどこにいるのか分からずに瞬きをし、それから自分の胸の上に桜の顔がないことを妙に寂しく感じた。

 実際のところ、酔って眠ってしまった後のことは、朝起きて、はだけた胸の上に桜の顔を見つけて一気に目を覚ますまで全く覚えていないのだが、眠った後の一連の出来事は本当にあったのか、それとも最近徐々に性欲を増してきた思春期の少年の欲望のたまものなのか。

 正直、どっちなのかははっきりしないが、いい夢だったのは確かだ。
 楽しくて、幸せで、懐かしくて。
 戻れないことがちょっとだけ寂しくて切ない。
 そんな気持ちでぼんやりしていたら、新年の挨拶に来た愛の奴隷5人が一斉になだれ込んできて。


 「あけましておめでとーございます、シュリ様。さ、まずはこのジュディスとキス始めをしましょう!!」

 「くっ。先をこされました。では、このシャイナとはおっぱい始めでどうでしょう」

 「唇もおっぱいもとられた……。じゃあじゃあ、私はなでなで始めって事でお互いの頭を撫であいっこしましょう!!」

 「流石、先輩達。抜け目がないわねぇ。ん~、私達はどうしよっか、アビスちゃん」

 「そうですね、お姉様。口、おっぱい、頭、と良さげな場所はもうとられてしまいましたし……そうだ! シュリ様のぷっくりおいしそうな指をなめなめするというのはどうでしょう。手なら左右ありますし、私達にぴったりでは?」

 「それ、いーね!! はいはーい。じゃあ、わたしルビスとアビスちゃんは、指なめなめ始めにしまーす」


 何年か前、お正月に初めてキスしたとき、キス始めだね、なぁんて冗談混じりに言っちゃったのが運の尽き。
 ~始めの説明を求められ、適当に、『し、新年で最初になにかを行う時に使うんだよ』と答えたら、愛の奴隷達の間でこんな習慣が始まってしまった。


 (なんにでも始めをつければいいって事じゃないと思うんだよ……)


 と思いはするが、きっかけを作ってしまった張本人なので、言い出せないまま年月は流れ、今に至る。
 因みに、姫始め、という言葉は断固として教えていない。
 そんな言葉が伝わったら最後、心安らかに新年を迎えられる気がしないから、今後も教える事はないだろう。

 仕方ないなぁ、と苦笑しつつも、ジュディスとキスをし、シャイナのおっぱいと戯れ、カレンと頭の撫でっこをし、ルビスとアビスに両手の指を丁寧になめなめされ。
 なにやってるんだろうと可笑しくなって、思わず笑ったら、


 「おや、初笑いですね。シュリ様」


 そう言ってジュディスがまぶしそうに目を細め、優しく微笑んだ。
 シャイナとカレンもなんだか嬉しそうに笑みを浮かている。
 ルビスとアビスに至っては、なにかありがたいものを見たかのように拝んでいるが、まあ、特殊な2人のことはちょっと置いておいて。

 目覚めた瞬間は少しだけ切ない気持ちだったのに、それが今や欠片も見あたらない事に気付いて、シュリは更に笑みを深めた。
 そして、


 (桜、僕は今、元気で幸せに過ごしてるよ。共に笑いあえる、大好きな人達と一緒に)


 心の中で今も変わらず大切に思っている親友に話しかける。
 その瞬間。
 同じ空の下、同じ大地の上で。


 「くしゅっ」


 と可愛らしいくしゃみが響いたことを、シュリが知るのはまだ先のお話。
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